ちいさなねずみが映画を語る

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#BAFTA2020 - 英国アカデミー賞2020特集中編

オスカーの行方を占う最大の前哨戦、英国アカデミー賞から一夜。中編では演技主要部門と技術系部門を総括したい。受賞とノミネートの一覧は例によってBAFTA公式サイトから。飽くまでオスカー前哨戦として特集するので、一部の部門は割愛する。

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www.bafta.org

そう言えばラジオ・タイムズのこの記事、受賞者たちのファニーな瞬間がいくつも切り取られていて大変面白いです。

www.radiotimes.com

 

 

 

 

主演女優賞

※オスカー当確:レネー・ゼルウィガー

 

ひゃっほい! GG賞・SAG賞をはじめ各映画賞を総なめにしていたレネーがBAFTAを獲得。これで夢のオスカー主演女優賞へまた一歩近付いたことになった。既に2003年の『コールド マウンテン』で助演女優賞の受賞歴はあるが、主演女優賞は同じくミュージカル映画の『シカゴ』でノミネート止まりだっただけに嬉しい話である。『ブリジット・ジョーンズ』第3作に引き続き、レネーの復活劇が観られて大変嬉しい……! 『シカゴ』の特集記事は近日中に公開する予定です。

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レネーが受賞した後、バックステージで待ち構えていてハグをしたのは『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズで上司ダニエル・クリーヴァーを演じたヒュー・グラント。おヒューさまは直後の部門のプレゼンターでもあったのだが、ステージ上で開口一番言ったのはクリーヴァーを思わせるこんな台詞だった。おヒューさまのあの正統派英語でクリーヴァーっぽい台詞が出てくるのがほんとダメ。歳を重ねても色男っぷりは健在だし、是非第4作が作られるのなら出てほしい……!

"First of all, well done Jones, um...."(最初に、よくやったジョーンズ)[applause]

"——That was a very very silly little dress I saw."(あれは自分が観た中でとってもとってもおバカで小さいドレスだったな)——BAFTA2020-02.02.2020, Hugh Grant

 

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ぼくの大好きなサーシャが今年もインタビューに来てくれていました。グレタとまた共作してね……!

 

主演男優賞

※オスカー当確:ホアキン・フェニックス

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『ジョーカー』で怪演を見せたホアキン・フェニックスが、順当に受賞。既に前哨戦ではGG賞ドラマ部門、放送映画批評家協会賞(Critics Choice)、全米映画俳優組合賞(SAG賞)を受賞しており、オスカー当確を出してもよいと思う。サテライト賞ドラマ部門は『フォード&フェラーリ』のクリスチャン・ベイルに譲っているが、ベイルはオスカーのノミニーには含まれていないし、そういったものを考えてもホアキンのオスカーは間違い無いだろう。

オスカーのノミニーはここに『ペイン・アンド・グローリー』のアントニオ・バンデラスがIN、タロンがOUTなのだが、アントニオ・バンデラスが評価されたことは喜ばしいものの、GG賞ミュージカル・コメディ部門を受賞しておきながらノミネートに至らなかったタロンよ、と思ってしまう。そしてBAFTAとオスカーのノミネートを受けたジョナサン・プライスであるが、『2人のローマ教皇』でこれだけ評価された年に、テリーGのドン・キホーテが公開されているという事実に何か笑ってしまう。

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ところでめでたくBAFTAに輝いたホアキンは、授賞式の場でノミニーが白人ばかりであることを痛烈に批判していた。有色人種たちから席を奪っている、僕ら白人たちが評価されているのは下駄を履かされているから……というフェニックスの発言にはなかなか反論できる者もいないだろう(実際BAFTA会長のウィリアム王子も同じようなスピーチをしていた)。"#OscarsSoWhite"と言われたり、今年のタロンノミネート漏れにも分かるようにLGBTネタには相変わらず保守的な面があったり、というオスカーであるが、何より年5人というノミニー数があまりに少ないのではないかとも思うのだが……

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助演女優賞

※オスカー当確:ローラ・ダーン

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Netflix配信のノア・バームバック作品『マリッジ・ストーリー』に出演していたローラ・ダーンが受賞。彼女もGG賞、SAG賞、放送映画批評家協会賞を受賞しており、オスカーへ当確まっしぐらである。

その他のノミニーは以下の通り。マーゴ・ロビーがダブルノミネートを果たしている。彼女はコンスタントに賞レースに絡んできており、才能は高く評価されているが、どうもその他のノミニーとの巡り合わせが悪いという印象だ。また、スカヨハも『マリッジ・ストーリー』(主演女優賞)、『ジョジョ・ラビット』(助演女優賞)とダブルノミニーを果たしているが、BAFTAでも両方受賞ならずだし、前哨戦の結果を見てもオスカーも厳しいのではないかと思う(勿論ノミネートされるだけで素晴らしいことなのだが)。

 

ところで重要な前哨戦のひとつサテライト賞で助演女優賞を受賞したのは『ハスラーズ』のジェニファー・ロペス。アジア系のコンスタンス・ウーが主演、プエルトリコ系の彼女が助演とあって、オスカーノミネートならずという結果に大変もったいないという声も挙がっていたが……受賞者を流し見したが、今年のサテライト賞の受賞者はその他の前哨戦と大きく異なっている印象である。

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助演男優賞

※オスカー当確:ブラッド・ピット

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遂に俳優としてのブラピにオスカーが渡るかもしれない。演技部門では3度ノミネートされながらいずれも受賞なし。自身で立ち上げたプランBでプロデューサーとしても活躍し(毎年のように良作を送り出しているのがこの会社の凄いところ)、『それでも夜は明ける』で作品賞を受賞しているが、俳優としてのブラピはオスカーと巡り合わせの悪い人生だった。しかしながら、今作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ではGG賞もSAG賞も放送映画批評家協会賞も押さえているし、ここまで来たらオスカーも射程圏内だろう。

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今回のメンバーは奇しくもオスカー当日と同じ顔ぶれ。ベテラン名優揃いの面々だが、さてブラピが初の俳優部門オスカーを掴むのか……?

ところで家族との時間のためにBAFTA授賞式を欠席したピットは、マーゴ・ロビーに授賞スピーチを託していた。初っ端から「やあイギリス、独身になったみたいだけどクラブへようこそ」とジョークを飛ばしたり(イギリスは2月1日にEUを離脱したばかりである)、「BAFTAのトロフィーに"ハリー"という名前を付けようと思う、何故なら自分の国に持って帰ってもらうのを楽しみにしてるみたいだから」と大胆不敵な発言を入れたりしていて(勿論英国王室ハリー王子がメガン妃と共に王室離脱・カナダ移住を明らかにしたことを下敷きにした発言)、なかなかエスプリの効いたものだった。

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作曲賞

※オスカー当確:ヒドゥル・グドナドッティル

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『ジョーカー』の世界観を重厚な音楽で支えたヒドゥル・グドナドッティルが受賞。前哨戦結果ではGG賞、BAFTA、放送映画批評家協会賞、サテライト賞、加えてヴェネツィア映画祭で受賞済なので、オスカーまでまっしぐらと見てよいだろう。映画館で惚れ込んだ彼女の音楽が順当に評価されていて大変嬉しい!

オスカー当日は『ジョジョ・ラビット』のジアッキーノOUTで『マリッジ・ストーリー』のランディ・ニューマンがIN。トーマス・ニューマンとのいとこ対決にもご注目である(もっとも、ニューマン家はしょっちゅう家族内対決していて当たり前になってしまったが)。御年87歳にしてアカデミー賞の最多ノミネート記録を更に伸ばしたジョン・ウィリアムズ御大には、まだまだ長生きしていただきたいものである。

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技術系部門

筆者が個人的に楽しみにしている技術系部門だが、当確が出たり、大混戦だったりと様々なご様子。オスカー当日も華やかな演技部門や作品賞ばかりが注目されがちだが、是非こちらにも目を向けていただきたい。

撮影賞

※オスカー当確:ロジャー・ディーキンス

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映画界が誇る最高の撮影監督として長年君臨しながら、オスカーには2年前の『ブレードランナー2049』まで縁が無かったロジャー・ディーキンス。4度目のBAFTAを獲得すると共に、早くも2度目のオスカーを当確状態としている。これまで筆者が「当確」と出してきた部門も、映画賞によってはノミネート止まりというものが多かったが、『1917』で全編ワンカット撮影を実現したディーキンスの手腕は、文字通り映画賞を総なめしている。ディーキンスが今年獲得した映画賞は、BAFTA、放送映画批評家協会賞、サテライト賞、ナショナル・ボード・オブ・レビューなどなど*1。来週にはオスカーを持ったディーキンスの姿が見られることだろう。

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その他のノミネートは以下の通り。

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編集賞

www.youtube.comクリスチャン・ベイルマット・デイモン共演の『フォードvsフェラーリ』が編集賞を受賞。BAFTAは『フォードvsフェラーリ』、放送映画批評家協会賞は『1917』、アメリカ映画編集者協会賞ではドラマ部門が『パラサイト 半地下の家族』、ミュージカル・コメディ部門が『ジョジョ・ラビット』という大混戦ぶりである。オスカー当日は『フォードvsフェラーリ』、『アイリッシュマン』、『ジョジョ・ラビット』、『ジョーカー』、『パラサイト 半地下の家族』という面々。さてどの作品にオスカーが渡るか……?!

 

美術賞(プロダクション・デザイン賞)

  • 👑『1917』
  • アイリッシュマン』
  • ジョジョ・ラビット』
  • 『ジョーカー』
  • 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 

流石イギリス作品ということもあり、『1917』が獲得。『1917』は今回のBAFTAで最多7部門を獲得した。しかしながら、BAFTAは元々イギリスびいきの賞であることを忘れてはならない。昨年だって最多受賞はイギリス史を下敷きとした『女王陛下のお気に入り』だった。はてさて海を渡ると結果はどうなるものやら……

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衣装デザイン賞

  • アイリッシュマン』
  • ジョジョ・ラビット』
  • 『ジュディ 虹の彼方へ』
  • 👑『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語
  • 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

賞レース常連のサンディ・パウエル(『アイリッシュマン』)、60年代ファッションを見事に再現したことで話題となっていた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などを下し、グレタ・ガーウィグが『若草物語』を現代に蘇らせた『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』が受賞。サーシャ・ローナンやフローレンス・ピューなどを古き良きアメリカに送り込んだ衣装たちが評価された。そう言えばエマ・ワトスンにティモテ・シャラメ、ローラ・ダーンメリル・ストリープまで出てるんだよなあ。つくづく豪華な作品だし、演技や脚本部門で渋い結果になっていたのは勿体ない話である(勿論対抗馬が大有力だったのだが)。

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ところで何度も言ってるけど、この作品サブタイ長過ぎるんだよ……! 原題はただの"Little Women"なのに!

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メイクアップ・ヘア賞

毎年役者たちを如何に化けさせたかが問われるこの部門では、フォックスニュースで起こった実際のセクハラ事件を題材とし、ニコール・キッドマン、シャーリーズ・トゥロン、マーゴ・ロビーの3人を実在のアナウンサーそのものに化けさせた『スキャンダル』組が受賞した。ここ数年のオスカーでは、クリスチャン・ベイルディック・チェイニーに化かした『バイス』、ゲイリー・オールドマンチャーチルに仕立て上げた『ウィンストン・チャーチル』などが受賞しているが、今年もこの流れに続くのだろうか……?

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音響賞

『1917』が後述する視覚効果賞と合わせて獲得。ディーキンスの撮影賞と合わせ、BAFTAでは堅実な強さを見せたが、オスカー当日も技術系部門の躍進が期待される作品である。日本公開は2月14日だが、早く観たいなァ!

 

視覚効果賞

 

先述の通り受賞者は『1917』であるが、スペースオペラである『エンドゲーム』とSW9が強みを見せるのがこの部門。視覚効果賞は特に映画本編の評価とは異なる評価をされるので、賛否両論となっていたSW9にもオスカーでは目があるか。いずれにしろBAFTAの結果だけでは予想できない部門であるので、来週が楽しみである。

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まだまだ続くよ

紙幅が長くなってきたので、レベル・ウィルソンの爆笑スピーチについては次の記事に譲ることにします。続きはまた後で!

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関連:映画賞 / アカデミー賞前哨戦 / 英国アカデミー賞 / BAFTA

*1:GG賞には撮影賞という項目が無い

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