ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

ドラマ版『透明なゆりかご』一気観レビュー③ - シーズン後半を深掘り

2018年のNHKドラマ『透明なゆりかご』深掘りネタバレ記事後半。今回は第6話から。第2弾はこちら。

mice-cinemanami.hatenablog.com

www.nhk.jp

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

※この先は各話の主題に触れるため大ネタバレ記事です。※

 

 

第6話「いつか望んだとき」:闇医者KAと不妊症治療

望まない妊娠と望んでも得られない妊娠を対比させてくる1話。アオイはひょんなことから、格安でKA*1を受けさせてくれる闇医者のところへ連れて行かれる。闇医者がイッセー尾形というのが如何にも胡散臭くてよい(笑)。ドラマは小田原でメインロケが行われているが、本当に小田原の坂はきっついのでそこもまたリアルだ。一方、由比産婦人科では不妊症治療の末にぎくしゃくしてしまった夫婦(演:西原亜希/村上新悟)と、望月(演:水川あさみ)の両方が、密かに思い悩んでいた。

 

倉田夫婦に横たわるのは男性不妊無精子症)で(さらっと描く割には重い)、妻は悪くないにもかかわらず姑からの圧は最悪、おまけに折角妊娠したと思ったのに、児は初期流産となってしまう。初期流産は受精時の染色体異常が大半なので、運が悪かったに過ぎないのだが、いやでも本人たちは本当に凹む。不妊症治療を何年も続けていた仲睦まじい夫婦ならば尚更だ。おまけに、進行流産ではなく稽留流産というのが余計に辛い*2

同じ頃、望月も「今回もダメだったかー」という顔をしているが、この妊娠を望んでいるが上手く行かない、という状況も、女性の側には結構辛い。望月のようにキャリアを積み重ねている場合は尚更だろう。

 

対するハルミ(演:モトーラ世理奈)は望まない妊娠でKAのために山を登る。空気の読めないアオイはずけずけと「子ども作って堕ろせばいいやなんて無責任だ」と騒ぎ立てるが、ハルミもハルミで苦しんでいた。最初の妊娠はレイプの末であり、家庭環境のせいもあってグレた上に、また妊娠したというのが真実だったからだ。あっけらかんとしているように見せかけて、密かに傷付く女子を描く辺り、安達脚本は本当に細かい。

 

同じ流産手術でも*3KAとSA(自然流産)では医療者側の心構えがちょっと異なるのは事実だが、アオイに「いつか望んだときに、望んだ妊娠ができるため」と言わせるのは大変大きい。KAなんて簡単にできるんでしょとは思ってほしくないが(そんなこと考えるならちゃんと避妊してくれ……)*4、望まない妊娠をする人は今の世でもゼロではないし、思い悩んで自殺を選ぶ女性もいるのだろう。望んだ人のところにいい時に来なくて、望まない人のところに困った時に来る、それが妊娠なのだということは、第8話でも繰り返される。

 

この話は望まない妊娠と不妊症を対比させているが、望まない妊娠を終わらせる側に角替和枝、望んでも得られない妊娠の側に、望月の夫として柄本時生*5を配しているのはよくできた演出だ。かあちゃんと子の対比が本当に上手いし、このドラマの直後に角替が亡くなったことを考えると、よい親子共演だったのではないかと思う。

 

>>続きます>>

 

第7話「小さな手帳」:児童虐待と、アオイの発達特性の開示

アオイがなりふり構わずやかんを磨く、即ち過集中のエピソードを出してきて発達特性をばばーんと提示した1話。折しも小学校の同級生が由比産婦人科に入院してきて、アオイは昔を急に思い出す。

 

アオイの同級生だったミカ(演:片山友希)は17-18歳のはずなので、その年で妊娠中毒症、現在の妊娠高血圧症ないし妊娠高血圧腎症ということは、助産院の管理はとんでもなく悪い*6。しかしながらミカは児童養護施設で育っており、経済的にも制限がある中で、通常の産科には行けなかったということなのだろう。自治体の妊婦健診助成券、また出産一時金で補助されるとはいえ、何か検査でも処置でもすれば万単位で必要になるというのが産科健診だ。

 

ミカが児童養護施設に入ったのは、再婚した母がネグレクトをしており、その挙げ句勘違いの事故から身体的虐待に至ったからだった。因みに世間の印象とは異なり、児童虐待の主体は義父ではなく実母が圧倒的に多い(第9話で関連した話が出てくるが)。ミカが肌身離さず持ち歩いた母子手帳は、そんな彼女にとって、母の愛情が自分に向いていた唯一の証拠だった。だからこそ、彼女は自分のこどもへの思いを母子手帳に熱く綴っていく(2冊目が必要なんじゃない?と言われるほどに)。ミカのような目に遭ったときに母へ対してどういう想いになるかは人それぞれだと思うが、彼女のエピソードが示すように、血の繋がった親子関係は、どんなに断ち切りたいと願っても容易には断ち切れない。そういうことを思って密かに泣いた。アオイの発達特性をまざまざと見せつけられてしんどかったのもあるかもしれない。

 

第8話「妊婦たちの不安」:キャリアパスと妊娠の両立

個人的にアツいし重いエピソード。25年前より女性の社会進出が進んでいるからこそ、現代を生きる女性たちの大きな問題でもある。

 

ヒトひとりお腹の中で育てるということは多分妊娠前とか本人の想像以上に体力を使っていて物凄く大変なことなのだと思う。でもキャリアも諦めたくない、そういう頑張り屋は結果として「わたしはまだ行ける」と思って仕事も妊娠生活もどっちも頑張ろうと考える(実際には妊娠で制約も増えてくるのだが)。周囲の優しさは有り難いのだが、頑張りたい時分にはちょっともどかしい気持ちが大きい。まだやりたい、まだやれると思っている、優しさは分かるが複雑、でもいざ受け入れてみるととても楽。そういった葛藤を、気の強そうな女を演じさせたらピカイチの水川あさみに当てるのは上手い。

 

そんな折、つわりに苦しんで泣き言を吐くキャリアウーマンと、経済的理由で妊娠を諦めてKAした主婦とのトラブルが医院の前で発生する(この話もなかなか重いエピソードだ)。処置が必要になった時、休みを取ることになったはずの望月が、診察室の中できびきびと働くのがとてもよい。やっぱり彼女はこの医院に必要なのだと思わせてくれるからだ。

 

第9話「透明な子」:性虐待

児童虐待はどれもクソなのだが、1番酷いのは代理ミュンヒハウゼン症候群*7、2番目に酷いのは性虐待だと思う。性虐待の問題は、当初は意味が分からないが、時間が経ってから何をされたかに気付き、段々と子の心を蝕むところにあると思う。そしてこの話でも明示されたように、その主体は顔見知りであることが多い(だからこそ言い出せず、明るみに出るケースが少ない)。

 

虐待診療はうっかりすると児の心を傷付けてしまうことがあり、由比の取った行動は大変慎重で好感が持てた。同じシーンを見ながら、やりたくない仕事だけれど、誰かがやらなくてはいけないのが虐待診療であり、その初期対応については、全ての医師が学ばなくてはいけないのだなと思わされた。そう言えばこの本本当にほしいのだけれど、専門家が少なすぎて稀覯本扱いなので、誰か恵んでください(?)*8

 

第10話「7日間の命」:生存が難しいほどの重度合併症児

最終話に持って来られたのは重度合併症児の出産。辻村夫妻(演:鈴木杏/金井勇太)が授かったのは、NICUで治療したとしても数日の生存しか望めないほどの先天奇形を持つ児だった。発覚したのは既に中期中絶のタイムリミットが迫る20週(母体保護法で人工妊娠中絶が認められているのは妊娠22週まで)。思い悩む夫婦を妊娠継続へ駆り立てたのが胎動というのが何とも憎い。

 

①児の胃泡は右側にある②肝臓に異常がある③心臓が単心房単心室(心ループ形成の異常だろう)、との台詞を考えるに、児は無脾症候群であったのだと思われる。1997年という時代背景も相まって、児の生存はかなり難しいと言わざるを得ない。途中、胎児心エコーでも弁逆流が強まっていて……という描写もあったので、母体内から心不全徴候を見せる重症例だ*9

 

こういう時、NICUにて保育器に入れて、一生懸命治療をするというのと、治療をせずに家族での時間を大事にする、というのと、どっちがみんなのためだろう、と思わされる。作中辻村夫妻も、由比産婦人科の人々も思い悩んでいた通りに。灯里の言う通り、どんな選択をしても、結局は親のエゴなのだと思う。そういうエゴに寄り添ってでもあたたかい診療をしたいというのが、由比先生の選んだ道なのだと示す最終回でもあった。

 

安達脚本は原作改変しているが

丁度『セクシー田中さん』の事件があったところで(何とも胸の痛い話だ)、大分ホットな話題だが、安達奈緒子の脚本は『透明なゆりかご』原作の描写をかなり変えている。原作は沖田のぱたぱたとした発達特性が色濃く、妊婦たちの心情に寄り添うというよりかは、様々な妊婦が入れ替わり立ち替わり現れる中で沖田が感じたことを綴るという印象が強かった。それを静謐なドラマに置き換え、丁寧に妊婦の心情を描く良作に作り替えたという点、安達脚本の妙であると思う。

smart-flash.jp

この作品を原作通りに映像化したとしたらドラマはもっと違ったものになっていただろう。何より、原作には沖田本人が発達特性で困っていたというシーンはあまりない。しかしながら、安達脚本は丁寧に丁寧にひとつひとつのエピソードを描きつつ、縦糸としてアオイもとい沖田の発達特性を盛り込むことで、ドラマを名作に仕立て上げた。『セクシー田中さん』騒動になくて『透明なゆりかご』にあったのは、作品そのものへの尊重と、丁寧な製作姿勢だったのではないか。この姿勢は、震災を描いて高評価を得た『おかえりモネ』に繋がっているのだと思う*10

mice-cinemanami.hatenablog.com

おしまい

というわけで3本に分けた記事もおしまい。原作もDVDも発売中なので是非手に取ってみてください。

関連:透明なゆりかご / 沖田×華 / 安達奈緒子 / 清原果耶

*1:人工妊娠中絶、ドイツ語でKünstlicher Abortなので

*2:進行流産→胎児娩出が始まっている状況。稽留流産→児は死亡しているが娩出が始まらず、母には自覚症状がない段階。自分の中から出て来ないので、児が生きているという一縷の望みに懸けたくなる気持ちも分かる

*3:やる手技はKAだろうがSAだろうがおんなじ。母体保護法で認められている妊娠22週ぎりぎりになると、娩出される児の大きさが違うだけで、経腟分娩と何ら変わりない。普通に母体負荷の大きい手技。

*4:また妊娠したんでKAお願いしまーす(何にも悩んでない)みたいなテンションの人は実際いて、いやヒト、というか胎児ひとりの未来を奪ってるのよ……とあきれ果てることは実際ある

*5:というか何度でも思うけど柄本時生柄本明のDNAが強すぎる顔をしているのよ

*6:まあね、どことは言わないんですけど、合併症妊娠ほっといて、何で今?!?!みたいなタイミングで送ってくる病院も無くはないんですけど……

*7:悲劇のヒロインを演じるために、こどもを病気に仕立て上げて何度も病院受診を繰り返す親のこと。こどもに罪がないのに、親の自己満足のために病気にさせられるのだから本当に可哀想

*8:びっくり定価¥42,000+税金です

*9:の割には生まれてきた赤ちゃんがチアノーゼもないし元気に泣くので変な感じなのですが、まあ演出だからね

*10:ある意味『ちむどんどん』が大コケしたのも、沖縄の文化に対する尊重がなく、脚本がとっちらかっていて丁寧さがなかったからなのだろうと思う>>

mice-cinemanami.hatenablog.com

Live Moon ブログパーツ