2018年のNHKドラマ『透明なゆりかご』深掘りネタバレ記事後半。今回は第6話から。第2弾はこちら。
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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先は各話の主題に触れるため大ネタバレ記事です。※
- 第6話「いつか望んだとき」:闇医者KAと不妊症治療
- 第7話「小さな手帳」:児童虐待と、アオイの発達特性の開示
- 第8話「妊婦たちの不安」:キャリアパスと妊娠の両立
- 第9話「透明な子」:性虐待
- 第10話「7日間の命」:生存が難しいほどの重度合併症児
- 安達脚本は原作改変しているが
- おしまい
第6話「いつか望んだとき」:闇医者KAと不妊症治療
望まない妊娠と望んでも得られない妊娠を対比させてくる1話。アオイはひょんなことから、格安でKA*1を受けさせてくれる闇医者のところへ連れて行かれる。闇医者がイッセー尾形というのが如何にも胡散臭くてよい(笑)。ドラマは小田原でメインロケが行われているが、本当に小田原の坂はきっついのでそこもまたリアルだ。一方、由比産婦人科では不妊症治療の末にぎくしゃくしてしまった夫婦(演:西原亜希/村上新悟)と、望月(演:水川あさみ)の両方が、密かに思い悩んでいた。
倉田夫婦に横たわるのは男性不妊(無精子症)で(さらっと描く割には重い)、妻は悪くないにもかかわらず姑からの圧は最悪、おまけに折角妊娠したと思ったのに、児は初期流産となってしまう。初期流産は受精時の染色体異常が大半なので、運が悪かったに過ぎないのだが、いやでも本人たちは本当に凹む。不妊症治療を何年も続けていた仲睦まじい夫婦ならば尚更だ。おまけに、進行流産ではなく稽留流産というのが余計に辛い*2。
同じ頃、望月も「今回もダメだったかー」という顔をしているが、この妊娠を望んでいるが上手く行かない、という状況も、女性の側には結構辛い。望月のようにキャリアを積み重ねている場合は尚更だろう。
対するハルミ(演:モトーラ世理奈)は望まない妊娠でKAのために山を登る。空気の読めないアオイはずけずけと「子ども作って堕ろせばいいやなんて無責任だ」と騒ぎ立てるが、ハルミもハルミで苦しんでいた。最初の妊娠はレイプの末であり、家庭環境のせいもあってグレた上に、また妊娠したというのが真実だったからだ。あっけらかんとしているように見せかけて、密かに傷付く女子を描く辺り、安達脚本は本当に細かい。
同じ流産手術でも*3KAとSA(自然流産)では医療者側の心構えがちょっと異なるのは事実だが、アオイに「いつか望んだときに、望んだ妊娠ができるため」と言わせるのは大変大きい。KAなんて簡単にできるんでしょとは思ってほしくないが(そんなこと考えるならちゃんと避妊してくれ……)*4、望まない妊娠をする人は今の世でもゼロではないし、思い悩んで自殺を選ぶ女性もいるのだろう。望んだ人のところにいい時に来なくて、望まない人のところに困った時に来る、それが妊娠なのだということは、第8話でも繰り返される。
この話は望まない妊娠と不妊症を対比させているが、望まない妊娠を終わらせる側に角替和枝、望んでも得られない妊娠の側に、望月の夫として柄本時生*5を配しているのはよくできた演出だ。かあちゃんと子の対比が本当に上手いし、このドラマの直後に角替が亡くなったことを考えると、よい親子共演だったのではないかと思う。
>>続きます>>
第7話「小さな手帳」:児童虐待と、アオイの発達特性の開示
アオイがなりふり構わずやかんを磨く、即ち過集中のエピソードを出してきて発達特性をばばーんと提示した1話。折しも小学校の同級生が由比産婦人科に入院してきて、アオイは昔を急に思い出す。
*1:人工妊娠中絶、ドイツ語でKünstlicher Abortなので
*2:進行流産→胎児娩出が始まっている状況。稽留流産→児は死亡しているが娩出が始まらず、母には自覚症状がない段階。自分の中から出て来ないので、児が生きているという一縷の望みに懸けたくなる気持ちも分かる
*3:やる手技はKAだろうがSAだろうがおんなじ。母体保護法で認められている妊娠22週ぎりぎりになると、娩出される児の大きさが違うだけで、経腟分娩と何ら変わりない。普通に母体負荷の大きい手技。
*4:また妊娠したんでKAお願いしまーす(何にも悩んでない)みたいなテンションの人は実際いて、いやヒト、というか胎児ひとりの未来を奪ってるのよ……とあきれ果てることは実際ある