ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

【研修医向け】買ってよかった本第3弾 - 小児科・感染症科編

第3弾にして「#今年買ってよかったもの」便乗記事最終編。大移動にかまけて気付けば大晦日! 最後は小児科と感染症科編です。どちらもなんだかんだ色んな科に跨がる分、なかなか教科書も多岐に渡ってしまったので、最後に回しました。筆者の専門がなまじこの辺というのもありますが……第1弾と第2弾はこちらから。

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  • 感染症科編
    • 必携のベーシック本
    • こどもの感染症
    • advanced編
  • 小児科編
    • ベーシック(というより、救急外来)
    • ベーシック(本当の基礎知識)
    • 健診関係
    • 新生児
    • その他ぽろぽろと
      • 内分泌疾患
      • 先天代謝疾患
      • その他
  • おしまい

 

感染症科編

COVID-19の台頭以来何かと注目されている感染症科。意外に分野としては新興であり、いい本が沢山出ては話題になる分野です。COVID-19以来ウイルスがクロースアップされるところですが、臨床的には抗菌薬の使いどころで困ることも多く、やはり成書の1冊は必要だなと思わされます。

 

必携のベーシック本

持ち歩くのはもうプラチナで充分だと思ってます。当院の感染症科が言ってた。抗菌薬ヤクザも言ってた。因みに選ぶのは通常版でもGrandeでもどっちでも大丈夫です、あれは単に版の大きさだけなので(老眼ならばGrande、くらいでいいです)。

感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022

感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022

  • 作者:岡 秀昭
  • メディカルサイエンスインターナショナル
Amazon

カテゴリやら世代やら色々あって覚えるのがなかなか大変な抗菌薬ですが、これはもう実際の症例とにらめっこしながら勉強するしかありません。一世代上だといい成書がなくて大変だったという話ですが、いい本が沢山出てくるようになりました。大抵の本は「抗菌薬ごとにみた使いどころ、dose」というのと、「感染症の種類から見た、薬の選び方」という作りになっているので、診療でもそういった面を意識するとよいとは思います。たまたまプラチナを買ったのでプラチナを推していますが、別に自分に合う本ならば何でもよいとは思います。例えば岩田先生のこの辺とか、有名ですよね。1冊あればよいのです。

 

プラチナは使い込み始めると帯に短したすきに長しという気がしてくるのですが、知識の導入という点では丁度いいのかなと考えています。何より日本語で書かれた、日本にローカライズされた本というのがよいです。抗菌薬の分野は本当に添付文書が当てにならないし(大抵はdoseが少なすぎるというのが定評です)*1、体格も人種も違う海外のdoseはそれはそれで当てになりません。

もうひとつ名著として有名なのがサンフォードですが、これは抗菌薬の使い方とか種類とか少し理解してから手を伸ばした方がよいのかなという気がしています。サンフォードは細かく解説が書いてあるというよりは寧ろ表で淡々とdoseを書いていく感じなので…… 加えて、名著ではありますが、何分訳本なので日本では使えない薬も混じっており、そのdoseや期間も日本でのものと少し異なっているので*2、その辺りは差し引きが必要かとは思います。繰り返しますが名著ではありますわたしも欲しい……!

 

因みに日本のTDMガイドラインは日本化学療法学会に頼むと冊子版を注文できます!

www.chemotherapy.or.jp

こどもの感染症

こどもの感染症はもうトリセツ1冊持っとけばいいんじゃないかな、と思っています。何より小児用量は探すとなかなか見つからないので、体重あたり量が載っているのは本当にありがたい! 1日量で書かれていてちょっとめんどくさいのですが、そこは日本の添付文書がそういう書き方だからしょうがないことにします*3

トリセツのいいのは抗菌薬の使い方だけでなく、ウイルス性疾患も含めて、小児感染症を幅広くカバーしているところです。こどもは沢山風邪を引くけれど、意外に小児の感染症の成書は数少ないのです。そしてワクチンが行き届いた今、こどもの感染症の大半はウイルス性疾患なのです。

 

感染症診療と切っても切り離せないのが、ワクチン診療。国試の時に「おむすびフロマージュ……」と唱えていた記憶がある人も多いことでしょう。たまたま出会って分かりやすいなと思ったのが日本ワクチン産業協会の「予防接種に関するQ&A集」と「ワクチンの基礎」です。ワクチンスケジュールの表やうっかり打ち損ねた時のキャッチアップ、ワクチンの作られ方などなどが詳細に書かれています。冊子版は有料ですが、PDFの電子版ならばネットで無料で読めるので是非。

www.wakutin.or.jp

advanced編

ここからはもうオタクの世界のような気もしますが。

*1:そこら辺の穴を埋めるためにTDMのGLとかあるのですが、とあるコンサル症例でさっぱりVCMがfull doseにならないなと思っていたら、主治医が「添付文書のVCM量はこれだから!!!」と言っていた時は頭を抱えました※添付文書量のVCMはTDM-GLと比較するとまるでdose違う

*2:例えばアメリカだと入院を避けるためにガンガン経口移行するので、そのための本が出ていたりする→

Antibiotic Essentials: 2020

Antibiotic Essentials: 2020

  • Jaypee Brothers Medical Publishers
Amazon

*3:抗菌薬屋さんは"ABPC/SBT 3g q6h"と1回量+投与間隔で書くのが好きなので

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【研修医向け】買ってよかった本第2弾 - 救急編

第1弾はこちらから。年の瀬の「#今年買ってよかったもの」便乗記事です。今回は救急編。第3弾として小児科・感染症科編を予定しております。小児救急は第3弾に回します!

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  • 雑誌:救急医学
  • マイナーエマージェンシー
  • 愛して止まない(けれど)シリーズ
    • ①中毒関連
    • ②法医学
  • AHA BLS/ACLS
  • もう少し続きます

 

雑誌:救急医学

ひょんなことで買って以来(後述)たまーに気になる巻があると買ってしまうへるす出版の「救急医学」(定価¥2,900+税)。こないだもDCS; ダメージコントロール手術の回だったのでうっかり買ってしまいました。中でもお勧めなのが2021年の臨時増刊号「外傷画像診断アトラス」(定価¥4,000+税)。いやこれはほんと持ってた方がよいです。頭から腹部臓器まで、ありとあらゆる外傷の画像が載っていて、それでいてその分類や治療法まで総論的に書かれています。Amazonで探すとたっかい中古本しかありませんが、医学書取扱の実店舗で何とか市場在庫を探してもらうのがよいのかもしれない。

 

マイナーエマージェンシー

もうひとつ必携の1冊が、P・バタラヴォリらによる「マイナーエマージェンシー 原著第3版」です。紙の本も持っていますが、電子版を買い直しました。

 

タモリ倶楽部」で取り上げられて一躍有名になったこの本、本当に、メジャーどころの救急疾患は一切書いてありません。それでも「成書にはなかなか載ってないけれど地味に困るな……」というラインの症例ばかり、おまけに動画付きで載っているという「誰がこんなん作ろうと思ったんだ(褒めてる)」という1冊。電子版だと検索がすいすいなのもとてもよいです。ちなみにど田舎の当直中、朝3時に爪下血腫で叩き起こされた時にも活躍しました(実話)。

www.barks.jp

タモリ倶楽部でこそ面白おかしく取り上げられたものの、実際後述する小児救急の本でも出典として取り上げられているくらい、中身はきちんとした本です。日本語に訳す際に、日本での診療に応用できるようローカライズされた訳註が沢山加わっているのもイチオシポイントです。

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【研修医向け】買ってよかった本第1弾 - 小児科・感染症科・救急以外

年の瀬が近付いて参りました。何がというわけではありませんが、大抵この時期になると「#今年買ってよかったもの 」的なハッシュタグが流行る時期なのでこんな話を書いてみることにしました。かなり分野が偏っていますが(ローテートが自由に組める分興味のないところは取っていないので)、自分で買ってよかったなと思うものを羅列していきたいと思います。なお、筆者の専門分野の関係で、小児科と感染症科はかなり紙幅を取るので、次回に回す予定です。あとは救急もちょっと多めなので、分量を見て別記事にするかもしれません。

  • 研修医一般
    • ①medicina(医学書院)
    • ②レジデントノート(羊土社)
    • ③画像診断
  • メジャー科
  • マイナー科
    • 整形外科
    • 麻酔科/ICU
    • 皮膚科
    • 耳鼻科
  • 続きます

 

研修医一般

①medicina(医学書院)

内科学会員向けに書かれた医学書院の月刊雑誌ですが、定期的に目を引く巻があって、それでいて初学者/非専門家向けに分かりやすく書かれているので結構お気に入りです。2021年の増刊号「救急診療 好手と悪手」は本当によくまとまっていて、初期研修医必携の1冊だと思います。神経、循環器、呼吸器、消化器、内分泌、、、と救急外来で困らされる疾患たちが1冊にまとめられています。普段より2倍くらいの厚さで¥5,500+税ですが、これはその価値がある(普段の定価は¥2,600+税)。

 

その他で言うと、2020年12月号の「プライマリ・ケアにおける神経症候へのアプローチ」は、神経内科を回りながら読んだところとても面白かったです。脳梗塞髄膜炎などの神経救急的な症例を疑うコツから、変性疾患や自己免疫疾患(Guillain-Barré症候群など)といった少しゆっくりした流れの疾患まで収録されています。今は2021年6月号の耳鼻科編をゆるゆる読んでいますが、これは内科だけでなくて小児科も結構読むべきだと思います(耳鼻科疾患は本当によく来るので)。

 

2020年2月号はちょっと難しいところもあるのですが、意外に基礎の授業以来振り返ることのない病態生理を学び直すには丁度いい1冊です。これと2021年の増刊号を行き来して読むとよさそう。耳鼻科編を読んだ後には、2022年8月号の心電図トレーニングを読む気でいます。ACLSでも心電図トレーニングはありますが、やらないといつまでも苦手なままだしね。あとはぱらぱら読みで成人の話だなと思って買うのをやめてしまいましたが、成人科に行く方は「medicina(メディチーナ) 2022年3月号 特集 成人が必要とするワクチン-生涯を通した予防接種の重要性」で今一度ワクチンスケジュールについて学び直すのもよいかもしれません。

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開設4年です

はてなからメール通知が来て、ブログの開設4年であることに気付きました。実生活でも映画館から足が遠のきつつあり、ますます放置が進む当ブログですが、これからも細々とは続けていきたいと思います。今日はこれだけです。

半年間のわじわじー - 朝ドラ『ちむどんどん』

今更だが朝の連続テレビ小説ちむどんどん('22)の話をする。沖縄本土復帰50年の記念作品として作られ、沖縄出身の黒島結菜が主演の比嘉暢子役を演じた。本土復帰の年、すなわち1972年に高校卒業を迎えたヒロインが、料理人になる夢を求めて、鶴見・銀座へと羽ばたいて行く話である。

 

しかしながらこのドラマ、放送途中から脚本の粗が目立ってしょうがなかった。「#ちむどんどん反省会」タグが連日Twitterでトレンド入りするのも然もありなんな展開である。ハッシュタグが今年の流行語大賞に入ったのは流石に沖縄に失礼だと思うが(ドラマではなく)、ドラマ自体もなかなかに沖縄に対して失礼で、正直、半年間見続けるのが本当にしんどかった。キャストやものは揃っているのに、脚本で彼らの評価をここまで貶められるものなのかと思う次第である。

 

  • 沖縄を扱うのはセンシティヴという自覚がない
    • 東京に出て行くのが幸せなのだろうか
  • 失礼が過ぎるシリーズ
    • ①沖縄の人々が適当と言わんばかり、他にも
    • ②登場人物の使い捨てが過ぎる
    • ③今ツボな曲の使い方なら安部礼司に学んでくれ
    • ④使い捨てされる伝統文化
  • おしまい

 

沖縄を扱うのはセンシティヴという自覚がない

しんどいながらも半年間見続けて、1番に思ったのは、この一言である。沖縄の歴史は軽はずみに扱えるものではなく、いつでもセンシティヴだ。それをライトな認識で描いているが故に、話が無茶苦茶になる。脚本・演出陣の頭の中には、観光地・リゾート地としての沖縄しかないのだろうか。戦災で破壊された沖縄の史跡など、そしてやんばるの美しい自然など、ただの一度も回っていないような気がする。

 

今でも異国情緒溢れる街として人気な沖縄だが、歴史的に見れば、沖縄は間違いなく「別の国」だ。15世紀半ばに中山王の尚巴志が三山統一してから、島津の侵攻後も対外的には独立した国であり続けた。何なら中国・日本双方との貿易で成功し、地理的には大変危うい場所ながら、明治の初めまで独立国家として独自の文化を発展させてきた。明治には廃藩置県の流れで正式に日本へ組み込まれるものの(この辺りの騒乱を描いたのが優子役・仲間由紀恵主演の『テンペスト』である)、琉球王国時代の文化は数多の危機を乗り越えながら今に伝えられている。

 

琉球文化を今に伝える上で最大の危機となったのが太平洋戦争末期の沖縄戦である。度重なる空襲はありながらも地上戦に至らなかった内地と異なり、沖縄は唯一地上戦の舞台となって、本島の広い範囲が灰燼に帰した。その中で首里城を含む琉球時代の史跡は大きな被害を受け、住民たちが散り散りに逃げた影響もあって、脈々と受け継がれてきた琉球文化は断絶の危機にも遭った*1。その後日本の敗戦に伴って沖縄はアメリ支配下に置かれ、現在に繋がる基地問題の発端ともなっている。物語冒頭で描かれた本土復帰は、県民たちの熱心な活動によって成し遂げられた、悲願でもあった。

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『ちむどんどん』でどこまで描かれていたかかなり記憶は曖昧なのだが、この沖縄戦から本土復帰までの歴史において、沖縄はいくつもの悲劇に遭っている。

  • 言うまでもなく、①伝統文化廃絶の危機:戦乱において職人も散り散りになり技術継承の難しい時期ができたこと、またその中で貴重な文化財がいくつも焼失・破壊されたこと*2
  • ②言語としての沖縄語の危機:(どこで読んだかど忘れしたが)出稼ぎ労働先で沖縄語を禁じられるケースは多々あったといい、内地の日本語と更に同化した結果が現在の沖縄方言なのではないかと考えられる*3*4
  • ③島全体としての貧困*5:これは現代日本においても横たわる問題である。離島で隔絶されていることもあり、配送費用が嵩めば当然物価は割高になる。内地との行き来のハードルもあり、教育の問題も大きい。基地問題も度々クロースアップされるが、そこに依存する雇用の問題もあり、一朝一夕には解決できない。

確かに沖縄の海はとてもきれいだが、沖縄の抱える歴史は、その海のようには美しくはない。暢子が旅立つ日の本土復帰だって、沖縄の人々が血の滲むような努力をして勝ち得たものだった。復帰のその日、記念式典が行われた那覇市民会館には、雨模様にもかかわらず会場の外まで多くの人が詰めかけた。そういった歴史に、この作品はまるで目を向けようとせず、ヒロインは沖縄には何もないのだと言いながら東京へ出て行くのだ。

www.nhk.jp

東京に出て行くのが幸せなのだろうか

自分の地元・宮城が舞台の『おかえりモネ』を観て、続いて『カムカムエヴリバディ』を観て、今作を観て、ふとこう疑問に思ってしまった。朝ドラの定石として都会に出て行くヒロインが描かれがちだけれど、本当に東京へ出て行くのが幸せなのだろうか、と。実は大ヒットした『ちゅらさん』にも途中東京のシーンが挟まれているのだが。

 

今作の場合、舞台が沖縄、それも本土復帰直後とあって、東京へ出て行くハードルは今の何倍も高い。そんな中で暢子は、沖縄は好きになれない、東京で料理人になりたい、とだけ述べて、住む当てもなく旅立っていく(正確には兄を当てにしていたが当てが外れた)。高校生の暢子に地元が美しく見えないのは多少しょうがないが、にしても、全てが唐突だ(「そうだ京都、行こう。」じゃあるまいし……)。脚本陣は沖縄から東京に行く道を少しでも考えたことがあるのだろうか? 鶴見と銀座を往復する時間を考えたことは?

そうやって一生懸命出て来た中で、暢子は立派な料理人になるのかと思いきや、折角覚えたイタリアンの腕を活かすこともなく、結局は沖縄料理屋を開いて終わる。彼女が沖縄から出て来た意味というのが最後まで潰されて終わるのである。正確には結婚だけはするが、相手とは幼少期に出会っているし、東京に来て再会する意味もあまりない。和彦ならば遅かれ早かれ沖縄にはまた来そうだし、そこで再会してもよかったのにね。

 

地元繋がりで『おかえりモネ』と比較するが、モネが東京へ行く理由は明確で、気象の楽しさを教えてくれた朝岡(演:西島秀俊)の会社へ向かうためだった。(その時だって気仙沼登米で震災のことをひたすらに考え続けるモネだっていいんじゃないかと思っていたのに。何も東京に出て行くことだけが幸せではないのに。) モネは東京で働きながらも震災の闇を抱え続け、最終的には故郷に貢献したいと気仙沼へ戻っていった。暗いテーマを抱えながらも、ある種の地元愛を丁寧に描いた作品だったのである。果たして今作ではどうだろうか。本土復帰50年記念作品と言う割に、沖縄の歴史であるとか、風土に対する愛が微塵も感じられない。暢子がただひたすらにときめきで動いており、その行動の必然性も、特段描かれずに流されてしまう(次の段の①に繋がるが)。

 

失礼が過ぎるシリーズ

各方面に失礼だとは言われていたが、まとめてみたら結構だった。

①沖縄の人々が適当と言わんばかり、他にも

本当にこれに尽きる。身近な地元民が1番無理だと言っていたのはニーニーこと賢秀(演:竜星涼)だったが、彼の思いつきに比嘉家はずっと振り回され続け、その度にお人好しの母・優子(演:仲間由紀恵)はなけなしの金を貢ぎ続ける。最早機能不全家族の極みだ。暢子も例に漏れず結構な思いつきで猪突猛進するし、ふたりとも衝動性の塊でしかない。なんくるないさァ」で済ませようとするな沖縄県民が毎日そう言ってると思ったら大間違いだぞ。

 

また、放送中から言われていたものの、比嘉家の人々は結局どこか自分勝手で、自分たちさえ幸せになれればそれでよい、というような脚本になってしまっている。暢子が東京の親戚に引き取られる話を急にキャンセルして、家族皆で幸せになりますと言われたって親身にはなれない。定期的に借金問題が立ち上がるが優子はいつまでもお人好しである(戦災の過去を描いても納得しきれないほどに)。歌子の話はぞんざいに描きすぎて、最終的に智の前でだだをこねるだけになっている。暢子の結婚に至っては、諸々の描き方が適当なせいで、結局ただの略奪愛になっている。イタリアンの話は前にも書いたが、料理人として育ててもらった恩を感じているシーンはただの1度もない。

 

加えて、距離感が色々とバグっている割に(お金が無い割にみんなよく東京に来る)、当時の沖縄を田舎として描き過ぎという問題が残っている。昔ながらの伝統が残る島ではあるが、良子が嫁ぐ石川家とのすったもんだと、大叔父・賢吉(演:石丸謙二郎)が優子に再婚を迫るシーンは、流石に度が過ぎるのではないかと思わされた。良子を深掘りして結婚しても尚働き続ける女性の姿を描けばよいのにステレオタイプなほどに封建的な石川家と、夫・博夫(演:山田裕貴)のうじうじする様をこすり続ける。肝心な働く女性のモチーフは暢子に取って代わられ、子育ての様子は描かれずに中途半端に飛ばされるのだった。優子の再婚話も、未亡人として必死に働きながら家計を支える優子を描けばよいのに、賢秀の詐欺話やらですったもんださせられた挙げ句、あれである。再婚相手として名前が挙がる善一(演:山路和弘)は暢子の親友・早苗の父親であるのに、早苗はこの話にまるで登場しないどころか、その母は都合良く殺された形になっている。あのなあ、『真田丸』のナレ死はそこまでキャラクターを魅力的に描いてきたからこそ話題になったんだぜ。

*1:後述する今村治華氏のジーファーに関する本にも、戦乱当時伝統文化の職人たちが逃げ惑い、その中で細々と技術を守っていたことに触れられている

*2:内地の大本営判断のせいで、唯一地上戦に巻き込まれて独自の文化が壊滅の危機に瀕した側面もあり、「なぜ内地のせいで琉球文化がここまで被害を受けるのか」という言説を読んだこともある(例によって典拠を忘れたが)。

*3:ちなみに『プロジェクトX』で取り上げられた平成の首里城復元プロジェクトの話を読んでいて、沖縄戦直前の首里の人々がここまでごりごりの沖縄語を喋っていたのかとびっくりさせられた(冒頭に当時首里中生だった人物の回想がある)。同年代の沖縄人も全く読めないでいた。

*4:因みに島国・沖縄は本当に島単位で言葉が違うのだが(本島と八重山は最早別言語の域である)、本島でも南北で言葉が異なっていて、やんばるの割にやんばるぽい言葉を喋っていない、という指摘はなされていた☞文春オンラインReal SoundHUB沖縄。方言指導もしたあまゆ店主役の藤木勇人は、黒島結菜の話し方に糸満らしさがあったことを認めつつ、「当時やんばる地域で使われていた方言を忠実に話すと、おそらく私でも意味がわからない言葉が多いと思います。なので沖縄北部のみなさまにはご理解いただき、私流の「ウチナーヤマトグチ」ということばを駆使させていただいてます。「ウチナーヤマトグチ」は沖縄の方言と標準語が混ざった話し方なので、聞き取りやすいんです」と話している(NHKウェブサイトインタビューより)。/筆者のついった反応はこちら

*5:ここに関しては父・賢三(演:大森南朋)が出稼ぎに行っていたシーン、夫を亡くした優子(演:仲間由紀恵)が必死に働くシーンで描かれてはいたが、、、

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これでドリフもふたりだけか

仲本工事が交通事故で亡くなった。重症頭部外傷で緊急手術をしたとあれば急性硬膜外血腫か急性硬膜下血腫のどちらかであって、どちらも大変予後が悪いので、正直ニュースの時点で「ああこれは……」と思っていた。人の生き様より死に様の方がよく分かる職業になってしまったのはちょっと辛いところである。

 

COVID-19の最中に最年少メンバーだった志村けんが亡くなったのも大分ショッキングではあったが、志村の死に際してこんなコメントを寄せていた仲本がその次というのも悲しいものだ。よもやあのメンバーの中で、1番長生きなのが肥満体のブーちゃんなんて……

仲本工事「ドリフも順番に逝く歳になったとは思ったけど、一番若い志村が⻑さんの次になるとは、、、。
非常に悔しいです。 」——IZAWA OFFICE -イザワオフィス-

 

仲本工事はドリフの歴史において、良くも悪くも「最も普通の人」だった。強権的なリーダー兼シナリオライターいかりや長介。強烈なキャラクターを互いに放ち続けた年少コンビ、加藤茶志村けん。いるだけで存在感の大きい(?)高木ブー。そして、「最も普通の人」のように見えて、実は細かい運動神経プレイをさらっとこなしている仲本工事。そう、造作なくさらりとこなしてしまうから、そこが仲本の良さでもあり、割を食った一面でもあったのだ。

www.youtube.com

ドリフターズと言えばやっぱりいかりや母さんとこどもたちのコントだと思うけれど、個人的には、あのコントで軽やかなスタントを決めていた仲本が1番好きだった。いかりやが振り回すほうきを飛び越して見せたりだとか。すいかを持ってきたのにすてんとひっくり返ってしまうアクションだとか。元体操選手という運動神経を活かしているのに、それを決してひけらかさないところが好きだったように思う。

仲本の言う通り「ドリフも順番に逝く歳になった」のだが、あれだけ運動神経のよかった彼が不注意の事故死というのは何とも悲しいものがある。折角なので盟友ブーちゃんにはもうちょっと長生きしてもらいたいなと思う限りである。

 

関連:仲本工事 / ザ・ドリフターズ

チャーミングな永遠の名優、アラン・リックマン

オブザーバー(The Observer、「ガーディアン」The Guardianの日曜版)に載ったというアラン・リックマンの日記がウェブ公開されていたのでじっくり読んでしまった。代表作となったハリー・ポッターシリーズを中心に、彼が書き溜めていた日記の一部を紹介した記事である。

www.theguardian.com

 

スネイプ先生役があまりに有名なアラン・リックマンだが、素顔はとてもチャーミングで、HPシリーズの子役たちをまめに気に掛けるよき先輩であった。スネイプ先生のような水に濡れたワカメみたいな(こんなことジェームズ・ポッターに言われてなかったか?)陰湿な悪役から、冴えない中年男とかはたまた歯の妖精さんとか("Dust" - Vimeo)演技の幅は実に多彩であって、死して尚名優であり続ける存在である。イギリス人らしく私生活はあまり明かさない人物だったが*1、ひっそりと闘病し2016年に膵癌で亡くなった。この度、そんな彼が長年にわたって付けていた日記が出版されることになり、一部がウェブ公開されたという運びである。 

オブザーバーの記事はハリー・ポッターシリーズに主眼を当てていて、2000年から2011年までの日記を抜粋した形になっている。ハリー・ポッターシリーズのオファーを受けた時から、最終作が公開されるまで。オファーを受けた直後に知り合いの子どもから「スネイプなの?」(“Are you Snape?”)と聞かれた辺りとか本当に可愛らしい記述だった。ずっとリックマンはJKRから何か鍵を聞かされていたと言われていたが、その中身は「スネイプはリリーを愛してい」(※投稿後修正)という事実だった(オファー直後の2000年10月に会談したと記載がある)。

27 July [2007]
… I have finished reading the last Harry Potter book. Snape dies heroically, Potter describes him to his children as one of the bravest men he ever knew and calls his son Albus Severus. This was a genuine rite of passage. One small piece of information from Jo Rowling seven years ago – Snape loved Lily – gave me a cliff edge to hang on to.

——The Observer, 24 Sep 2022

 

最終巻を買おうと本屋に並んでいたら、「映画観た? 俺あのうちの1本に出てるんだぜ」と話しかけられた話も面白い(今のようなマスク社会じゃないのに)*2。個人的にはヘドウィグがニンバス2000を落っことすシーンでふくろうの調教師さんが上手く行くかめちゃめちゃ心配してた話が好きだった。あれはハリーにとっては世界が変わったことを示す1番のシーンなので。

 

ハリー・ポッターシリーズ以外では、丁度『ラブ・アクチュアリー』や『スウィーニー・トッド』の撮影時期と重なっているのだが、後者がBAFTAに無視されて憤慨しているのはちょっとした驚きだった。勿論名作なのだけど、彼がそこまで語気荒く日記に記すというのが不思議な感じがして。

mice-cinemanami.hatenablog.com - 合わせて読んで下さい

日記には時事問題もいくつか書かれていて、例えば2001年の911とか(リンジー・ダンカンとやっていた舞台の稽古中にニュースが流れてきて、全員が衝撃を受けたために稽古がお流れになったと書かれている)、2005年のロンドンテロの話が綴られている。ロンドン市長選でボリス・ジョンソンが当選したのに露骨に憤慨していたのはリックマンらしいなあと思った。妻のリマ・ホートンは労働党の地方議員だったので無理もない話だが、まあ、ボリスは保守党ということを差し置いても批判が多い人物なので……

 

リックマンの日記である"Madly, Deeply"は10月頭にハードカバー版が出るらしい。他のページも読みたくてうっかり注文してしまった。ハリー・ポッターシリーズの裏話が知りたい方は、HBOで放送された同窓会がディスクになったようなのでこちらもどうぞ。つくづくこの同窓会にいないのが惜しい名優である。

※投稿後追記:そう言えば世間的には評価の厳しい第3作『アズカバンの囚人』だが、リックマンはクアロンの監督作品であることを高く評価していてそうなのかと思った。その後クアロンは『ROMA/ローマ』でオスカー監督賞に輝くわけだが(2020年)、その栄光を彼は知らずに世を去ったのである。

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関連:アラン・リックマン / ハリー・ポッターシリーズ

*1:今回公開の日記でもドラコ・マルフォイ役のトム・フェルトンにパパラッチがひっついていて辟易する様が記録されていた。

2008

7 February
8.15am pick-up Car park. Paparazzi. Freezing cloister of Gloucester Cathedral. A whole new working relationship, this time with Tom Felton [playing Draco Malfoy]. The story of this so-far-six-part epic is one minute there were all these little kids … now? Found Maggie in her trailer vulnerable and fuck-it – all at once.

*2:ま、スネイプ先生は濡れたワカメみたいな黒髪だけど、素顔のリックマンは短髪のブロンドだからしょうがないか

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