#BAFTA2020 - オスカー最大の前哨戦、英国アカデミー賞2020前編
早いもので今年のオスカー授賞式まで残り1週間。直前にして最大の前哨戦*1、英国アカデミー賞; BAFTAの授賞式が先程終了した。年明け早々にあったゴールデングローブ賞の授賞式はパスしてしまったが、オスカーの受賞者を予想する上で重要な映画賞なので是非振り返ってみたいと思う。結果を流し見したが、どうやらオスカー当確が続々の様子……!
mice-cinemanami.hatenablog.com - まさかの今年はこれしか書いてなかった
受賞とノミネートの一覧はBAFTA公式サイトから。飽くまでオスカー前哨戦として特集するので、一部の部門は割愛する。
司会
ことしの司会者はグレアム・ノートン! 何度書いても"Graham"を「グラハム」と書くやつがいるけど「グレアム・ノートン」!!!!!
グレアム・ノートン司会の「グレアム・ノートン・ショー」はイギリス映画沼に浸かれば避けては通れないBBCの人気バラエティ。いつもジミキン、ジミー・ファロン辺りと並んで大変お世話になっております……!
作品賞・英国作品賞:『1917』
『007 スカイフォール』などを手掛けたサム・メンデスが送るワンカット映画が作品賞を受賞。敵の罠にかかり無駄死にを目前としている友軍を救うため、たったふたり伝令としてひた走ることを命令された兵士を描く。作品名の通り時代は第一次世界大戦中に設定されており、主演ふたりは『パレードへようこそ』のジョージ・マッケイと『ブレス しあわせの呼吸』のディーン=チャールズ・チャップマンが務めた*2。『キングズマン』組のコリン・ファースとマーク・ストロング、『SHERLOCK』組のベネディクト・カンバーバッチとアンドリュー・スコットが脇を固めるなど、イギリス俳優目白押しということでも話題になっていた一作。順当に英国作品賞も獲得していった。
元々BAFTAは「英国アカデミー賞」という名前の通り、選出には少しイギリスびいきなきらいがある(流石はブリカス)。しかしながら『1917』は既にゴールデングローブ賞作品賞を押さえているし(しかも大本命のドラマ部門)、オスカーの有力候補であることは否めない。これを猛追するのがタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、そしてお隣韓国ポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』。カンヌを押さえたポン・ジュノの才能はアメリカ映画賞レースでも高く評価されているが、クアロンの『ROMA/ローマ』が賞レースを席巻しながらオスカーで冷遇されたことを忘れてはならない。GG賞ドラマ部門とBAFTAを押さえた『1917』が頭1つ抜けた形になるが、果たしてオスカーの結果は……?
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そう言えば昨年『ROMA/ローマ』を下して作品賞を獲得したのはトロント国際映画祭観客賞を獲得していた『グリーンブック』だったが、その理屈で行くと今年の受賞作『ジョジョ・ラビット』も意外に有力作品か……?
作品賞の前哨戦結果 / その他のノミネート作品
- 放送映画批評家協会賞 - 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- ゴールデングローブ賞:ドラマ部門 - 『1917』
- ゴールデングローブ賞:ミュージカル・コメディ部門 - 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 全米映画俳優組合賞(SAG賞):『パラサイト 半地下の家族』
作品賞ノミニー
- 👑『1917』
- 『アイリッシュマン』
- 『ジョーカー』
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
- 『パラサイト 半地下の家族』
英国作品賞ノミニー
イギリス製作の作品に送られる賞。ちょっとでもイギリス資本が入っていたりロケ地になっていたりすると対象になるので、作品賞の顔ぶれと同じだったり、明らかなハリウッド映画が入っていたりするのも面白いところ。
- 👑『1917』
- "Bait"(英語版予告編)
- 『娘は戦場で生まれた』"For Sama"(予告編、2月29日公開)※ドキュメンタリー映画賞受賞*3
- 『ロケットマン』
- 『家族を想うとき』"Sorry We Missed You"(英語版予告編):ケン・ローチ監督
- 『2人のローマ教皇』※Netflix配信中
外国語映画賞
※オスカー当確:『パラサイト 半地下の家族』
- 『フェアウェル』(英語版予告編)
- 『娘は戦場で生まれた』
- 『ペイン・アンド・グローリー』(英語版予告編)
- 👑『パラサイト 半地下の家族』
- "Portrait of a Lady on Fire"(英語版予告編)
カンヌでパルム・ドールも獲得したポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』が順当に獲得。各映画賞で作品賞、監督賞、脚本賞などいわゆる主要部門も続々押さえているし、外国語映画賞の獲得はまず間違いないだろう。前哨戦で大活躍しながら、作品賞を逃した『ROMA/ローマ』の影がちらつかないでもないが、今年は主要部門にもそれぞれ有力作品があるので、昨年以上に予想しにくくて単なる「冷遇」みたいなことは無いのではとも思う。
もうひとつ筆者が注目しているのが、オークワフィナ演じる中国系アメリカ人が、ルーツである中国を訪れ、祖母に癌告知をしない親戚たちにカルチャーショックを受けるという内容の『フェアウェル』。医クラとしてどんな仕上がりになっているのか気になっていた一作なので公開が楽しみだ。今をときめくA24作品でもある。そう言えば彼女は先日のGG賞で主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞していて、アジア系初の快挙になったんだった……! ようやくハリウッドでもアジア系に道が開かれつつあって大変嬉しい話。
ドキュメンタリー映画賞
- 『アメリカン・ファクトリー』AMERICAN FACTORY(英語版予告編)
- 『アポロ11完全版』APOLLO 11(予告編)*4
- "Diego Maradona"(英語版予告編)
- 👑『娘は戦場で生まれた』For Sama
- 『グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル』(Netflix配信中)
英国作品賞にもノミネートされていた『娘は戦場で生まれた』が受賞(受賞の瞬間はこちらにて)。辛口映画批評サイトRotten Tomatoesでも100%フレッシュを叩き出す衝撃作である。作品は今も内戦が続くシリア・アレッポを舞台に、街に残り医療提供を続ける男性と、その妻でカメラを回し続けた女性とが、ふたりの間に生まれた子どものために奔走する姿を描き出す。
そう言えば関係無いけれど、ピーター・ジャクソンが第一次世界大戦中の白黒フィルムを着色して編集した『彼らは生きていた』も観たいなあ。これもRottern Tomatoesで100%フレッシュを叩き出している。
アニメ映画賞(長編アニメーション映画賞に相当)
Netflix配信中の『クロース』がディズニー2作品を押さえて受賞。『クロース』はオスカーにもノミネートされているので楽しみである。先日のアニー賞(アニメ界のアカデミー賞)も受賞しており、オスカーに向けて頭1つ抜けた形だ。
ところでここに『ひつじのショーン』が食い込んでくるのがほんとブリテンという感じする(ひつじのショーンはアードマンが作るイギリス作品である)。それと配信も含め、全作品がきちんと日本で観られることにびっくりしてしまった。
監督賞
オスカーと全く同じ顔ぶれでガチンコ対決した監督賞は『1917』のサム・メンデスが獲得。どの監督も高く評価されてはいたが、GG賞とBAFTAという直前2大前哨戦を押さえたメンデスが有利となった。しかしながらBAFTAはイギリスびいきの投票をしがちなので少し差し引く必要があるのも確か。さて結果はどうなるのでしょうか。
- 👑『1917』サム・メンデス
- 『アイリッシュマン』マーティン・スコセッシ
- 『ジョーカー』トッド・フィリップス
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』クエンティン・タランティーノ
- 『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ
ちなみに前哨戦の結果は次の通り。
- 放送映画批評家協会賞 - 『1917』
- ゴールデングローブ賞 - 『1917』
- サテライト賞 - 『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド※オスカー非ノミネート
オスカー、BAFTAともにひどく批判されていたのが、男性陣のみで構成された監督賞のノミニー。アジアからポン・ジュノがノミネートされたことはハリウッドでは考えられないくらいの快挙なのだが、やはりまた女性がいないのだな……という残念感を生んだことは否めない。何なら今年は、『レディ・バード』で一昨年の映画賞を沸かし、久々のオスカー監督賞女性ノミニーとなったグレタ・ガーウィグが『若草物語』を送っていただけに……と思わされた。そんなグレタはパートナーで『マリッジ・ストーリー』の監督でもあるノア・バームバックと会場入り。そう言えば作品はあんだけ評価されてたのにバームバックも監督賞にはノミネートされてませんね。
It's a power-nominee arrival with @LittleWomen writer and director Greta Gerwig and @MarriageStory writer and director Noah Baumbach #EEBAFTAs #BAFTAs pic.twitter.com/5TOmrVJCq4
— BAFTA (@BAFTA) 2020年2月2日
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脚本賞(オリジナル脚本)
- 『ブックスマート』"Booksmart"
- 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』"Knives Out"(予告編)
- 『マリッジ・ストーリー』"MARRIAGE STORY"
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』"ONCE UPON A TIME… IN HOLLYWOOD"
- 👑『パラサイト 半地下の家族』
ポン・ジュノ、まじで強い。『パラサイト』が外国語映画ながら大本命部門のひとつオリジナル脚本賞を受賞。これはまじで凄い。凄すぎる。最早感想に語彙力が無い(脚本賞なのに……!)。ちなみに『パラサイト』はアメリカ映画脚本界で最高の賞・全米脚本家組合賞を既に押さえているので大変強い。オスカーも普通に獲りそう。
話は逸れるけど『ブックスマート』でダブル主演してるの、『レディ・バード』でレディ・バードの大親友を演じたビーニー・フェルドスタインなんですね。あの作品でも炸裂してたから、いい作品に巡り会ってくれたようで嬉しい!
あと『ナイブズ・アウト』でノミネートされていたライアン・ジョンソンはナイフ型のカフスボタンを付けて会場入り。つくづくこの人は何でSW8大コケしたかだよな……
Oh they’re OUT. @BAFTA time! pic.twitter.com/LmqOl9hhMt
— Rian Johnson (@rianjohnson) 2020年2月2日
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そう言えばSW繋がりですが、『マリッジ・ストーリー』の主演はカイロ・レンことアダム・ドライバーですね。5年前にSNLに出た時、カイロ・レンの職場潜入物語をやってたのですが(これはボスが変装して自社に潜り込み、働き手の生の声を聞く人気番組のパロディでした)、こないだのSNLでまさかの続編が出ててクソほど笑った。
theriver.jp - これ、言っとくけど続編なんです(笑)
www.youtube.com - この作品との落差よ
脚色賞
- 『アイリッシュマン』スティーヴン・ザイリアン
- 👑『ジョジョ・ラビット』タイカ・ワイティティ
- 『ジョーカー』トッド・フィリップス、スコット。シルヴァー
- 『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/若草物語』グレタ・ガーウィグ
- 『2人のローマ教皇』アンソニー・マクカーテン
わあい! ぼくの大好きなタイカが脚色賞を獲りました! ぼくもBAFTA獲ってローマンくんとハイタッチしたい!(そこじゃない)
get every single moment from this year's #EEBAFTAs
— GIPHY Pop (@GiphyPop) 2020年2月2日
(including this precious high five from @TaikaWaititi and Roman Griffin Davis)
on the official @BAFTA GIPHY channel!!
➡️ https://t.co/jTJEHFWNlw pic.twitter.com/vdfUsTSMY0
大絶賛されていながら、各部門各部門でノミニーが強すぎて渋い結果となっていた『ジョジョ・ラビット』だが、脚本部門では地味な強さを見せている。ユダヤ系のタイカがナチス・ドイツに切り込み、子どもの視点を使って重くなりすぎずに描いた脚本は全世界で絶賛されていた。この軽妙なタッチはナチス・ドイツを描いた作品では意外に無かったもので、その結果か全米脚本家組合賞脚色賞も受賞している。個人的にもタイカにオスカーを獲ってもらいたい。
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www.youtube.comそんなタイカ、受賞の後「植民地から来ました〜」とジョークを飛ばしていたらしく、実に彼らしい話である(ニュージーランドは現在もイギリス連邦の構成国)。矢島美容室じゃねえんだよな。
Taika Waititi, best adapted screenplay winner for 'Jojo Rabbit':
— Screen International (@Screendaily) 2020年2月2日
"This is very cool, coming from the colonies"
"It’s very nice to take a little bit of your gold back home..."
"...where it belongs."
Follow live here: https://t.co/MqrgO1OOsl #EEBAFTAs
ちなみにこの後は脚本賞を受賞したポン・ジュノと仲良く記念写真を撮っていました。あまりに仲良し過ぎて、『ブラックリスト』のフランクリン・レナードに「ロンドンまでの空路、隣に座ってたんじゃないかなと思ってる」と言われ、タイカから実際にポン・ジュノが座席に座っている写真を投稿するくらい(笑)。
Buddies who won baby humpback whale tails. #WgaAwards @jojorabbitmovie pic.twitter.com/g9UwZrwPve
— Taika Waititi (@TaikaWaititi) 2020年2月2日
そう言えばアンソニー・マクカーテンは『博士と彼女のセオリー』、『ウィンストン・チャーチル』、『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本なんですね。ちょっと豪華すぎる布陣でびっくりしちゃいました。そう言えばこのブログの最初の記事は『ボヘミアン・ラプソディ』擁護記事だけども、そこからオスカーであんだけ大化けするとは思ってもみませんでした。
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一旦ここまで
大体半分くらい紹介してきたので、続きはまた後で。この後は大注目の主演女優賞から……!
※0204追記:受賞動画をいくつか追加しました。続きの記事はこちらから。
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関連:映画賞 / アカデミー賞前哨戦 / 英国アカデミー賞 / BAFTA
*1:筆者はイギリスびいきなのでこんなことを言っているけれど、強ち嘘でもない
*2:『パレードへようこそ』、LGBTもので苦手な人もいるかもしれないけれど、炭鉱ストライキの際に差別を受けていたLGBT団体がウェールズの見知らぬ炭鉱へ手を差し伸べ、支援を通じて温かい交流が生まれたという実話を基にしたいい話なので是非観ていただきたい。この作品にはアンスコさん(=アンドリュー・スコット)も出てるしめちゃめちゃいい役なのでおすすめです。
『ブレス しあわせの呼吸』は見損ねてしまったままなのだけれど、ソニー版スパイダーマンでもあるアンドリュー・ガーフィールドが熱演で高く評価された医療もの。是非こちらも合わせて。
*3:既にカンヌも受賞済、2月29日公開予定