BAFTA; 英国アカデミー賞に限らず、映画賞のお楽しみとも言えるのが、発表の際に軽妙なトークで場を沸かせるプレゼンターの存在である。今回も様々なメンバーがプレゼンターとして登場したが、主演女優賞を獲得したレネー・ゼルウィガーを『ブリジット・ジョーンズの日記』ばりに茶化したヒュー・グラントと並んで、そのトークが大きな話題となったのが『ジョジョ・ラビット』『キャッツ』のレベル・ウィルソンである。そんな彼女のトークを深掘りしたい。ひとつ前の記事はこちらから。
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流石の才能、レベル・ウィルソン
今回監督賞のプレゼンターを務めて会場をどっかんどっかん笑わせていたのがレベル・ウィルソンだ。今年は『ジョジョ・ラビット』のフロイライン・ラームに加え、何故か大コケした『キャッツ』でジェニエニドッツおばさんを演じるなど大活躍だったが、元々才能豊かなコメディアンである。そんな彼女に託されたのは監督賞のプレゼンター。格調高きBAFTAの中でも1番の重要部門なのだが……そんな席で彼女が選んだのはド下ネタと際どいジョークの数々だった。
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怪しげなふりして王室ネタを弄る
初っ端から会場の名前が怪しげなレベル、「今日はこの『ロイヤル・"アンドリュー"』……いや『ロイヤル・"ハリー"』……いや"王宮の土地"でいっか? に立てて嬉しいです……」とひと言。ふたりとも王室離脱がお噂の王族である。後者はブラピにも弄られたハリー王子。前者は未成年売春で訴追され自殺したジェフリー・エプスティーンとの交際が問題となったヨーク公アンドリュー王子のことである。最初からキレッキレだ。ちなみに正解はヴィクトリア女王の夫アルバート王配の名前を冠した「ロイヤル・アルバート・ホール」です(笑)。
そしてガーディアンのこの記事でもツイートが紹介されてたけど、ここですかさずウィリアム王子とキャサリン妃を写すBBCのカメラマンの有能さでしょ。流石イギリス、ブラックジョークの使い時を分かってますね……
たどたどしい理由はまさかの
なぜたどたどしいのかという理由について、「さっき裏で、今日は豪華なギフトバッグが全然貰えないと聞いちゃったから」と話すのだが、「代わりに貰えるのは『ギフティング・ウォレット』なんですって、変ですよねえ、だってわたしのおま○この渾名なんですもん」とか言い出す。「持続可能性」がテーマだった今年のBAFTAでは、確かにギフトカード入り財布が配られたようなのだが、なんちゅうことを……この次のカットでアンスコさんことアンドリュー・スコットが爆笑してて余計笑った。この後「アフターパーティでベスト・オリジナル・スコアを獲得するのはわたしかも」と言っていたが、勿論これは「作曲賞」の本名である "Best Original Score"に引っ掛けたものである。
www.dailymail.co.uk - 実際に財布を作った会社のお話
ドレスのデザインは実のところ……
筆者が1番笑ったのは次の一節だ。彼女のドレスも今回のテーマ「持続可能性」に合わせて作られたものだという。
「さて、グレアム[・ノートン、今年のBAFTAの総合司会を務めた人気司会者]が言ったように、今夜のテーマは『持続可能性』です。というわけで、古いドレスをふたつ縫い合わせてこのドレスを作りました。赤い方はミス・オーストラリアになれなかった時ので、黒い方はさっき行ってきた葬式用……長編映画『キャッツ』の」
ここまでくると会場はやんやの大喝采である。レベル・ウィルソンにここまでネタにされたら『キャッツ』も多分供養されるんじゃないか? ローラ・ダーンすらゲラで笑ってしまう。
というかこの映画も海外では大不評でしたが、日本ではそこそこヒットしているようなのでよかったよかった。(……よかったのか?)
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レベルのスピーチは更に続く。「失言しちゃったわ」みたいに口を押さえといて、言うことは余計エスカレートしていくから流石彼女だ。
「『キャッツ』、不思議なことにあの作品は世の中のどの映画賞にもノミネートされていないんです」
そう、世界のみんなが『レ・ミゼラブル』であんなに絶賛されたトム・フーパーに、ここまでこけるミュージカルが作れるなんて思ってませんでしたよ。
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おちゃらけに見せかけた痛烈批判
ウィルソンのスピーチにはさらに続きがある。「部門」を指す "category" という単語を「キャット」と掛け、映画賞ノミネートを勝ち取れなかった『キャッツ』の無様さを、ノミニーにひとりの女性もいない監督賞と対比させて痛烈に批判する。監督賞のノミニーを紹介した後、彼女は次のように言ってスピーチを締めた。女性監督の素晴らしい作品はいくつもあるはずなのに、ハリウッドの映画賞やBAFTAで取り上げられるまでにはまだまだ高い壁があるようだ。
「[ノミニーは]並外れて素晴らしい才能を持っていて、彼らがやったことを自分も出来るなんて思えません。正直なところ、わたしにはタマがありませんし」
他にもBAFTAの仮面型のトロフィーを顔の前に持ってきて、「コロナウイルス予防になるね〜」とドヤ顔しているなど、時事ネタを程よくブレンドした見事なプレゼンターだった。全文訳がフロントロウさんから出てるのでこちらも合わせてどうぞ。
実は2回目
そんなレベルは2016年のBAFTAにも登場して同じくキレッキレなスピーチをかましているのでこちらも合わせてご覧下さい。「この素晴らしい厳粛なイベントに参加できて嬉しいです、オスカーには招待されたことないし、彼らがレイシストだって自覚するにはどうしたらいいんでしょうねえ」とか出だしからして大変強烈である(ちなみにレベル・ウィルソンはオーストラリア出身)。
www.youtube.comついでだから今年の総合司会グレアム・ノートンの冠番組に出演した時のレベル・ウィルソンも貼っとくね。
「植民地から来ました」タイカ・ワイティティ
見出しの通りニュージーランド出身であることを活かしたジョークをかましていたタイカ・ワイティティ。その滑り出しについては前の記事でも触れていたが、その後にはクリスティン・ルーネンズの原作を薦めてくれた母への感謝の意があった。ワイティティは名前こそマオリだが、幼い頃に両親が離婚し、ロシア系ユダヤ人の母に育てられた経歴を持つ。ユダヤ系のコメディアンとしてナチスを茶化す作品を作ったことも、原作に出会ったことも、全て母の存在に繋がっていたのだということを表す端的で良いスピーチだった。
Some moving words from our Adapted Screenplay winner Taika Waititi #EEBAFTAs pic.twitter.com/KEk7YTHVSU
— BAFTA (@BAFTA) 2020年2月3日
ところでEW誌にて『ジョジョ・ラビット』組のNG集が公開されていたぞ……! キャストたちのお茶目な一面が見えるよい編集でした。
ノミニーたちの舞台裏……?
コメディアンのアシム・チョードリーが自身のキャラクター・チャバディG(Chabuddy G)を演じ、ノミニーたちを直撃する動画を公開。この動画はBAFTAのオープニングで、総合司会グレアム・ノートンの紹介に用いられたものである。ツイートには「#BaftasSoWhite」(#BAFTAが白すぎる)と白人ばかりのノミニーであることを批判するハッシュタグが付けられていた。槍玉に挙げられたのはまず『1917』監督のサム・メンデス。何故かBAFTA開始のジングルを収録するようだが、チャバディGはその出来に大変ご不満で、「あんた演技やったことあんの? 勿論監督業がご専門なのは承知ですけど〜」と詰め寄る始末(笑)。次に出てくるのは『ジョジョ・ラビット』のローマン・グリフィン・デイヴィス。彼も同じようにジングルの文章を喋るが、「ちょっと待てよ(笑)、君の声ちょっとキーキーしてるんだよな、もう数年経ってから来てくれよな」とか言われてしまう。最終的にはチャバディG自らジングルを担当するが、何故か彼の英語は激しいインド訛りである(笑)。
Last night I opened @BAFTA and vent Fox Hunting #BaftasSoWhite pic.twitter.com/t71Xu9YJwz
— Chabuddy G (@CHABUDDYGEEZY) 2020年2月3日
おしまい
というわけでBAFTA振り返り記事はおしまい。早いもので来週月曜日にはオスカー授賞式である。オスカー当日のプレゼンターにも是非ご注目! ハリウッドでも痛烈なジョークが観られるか今から楽しみにしたい。
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あっ、『キャッツ』に食傷気味の皆さんは四季版で傷を癒やしても宜しいんですのよ。
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