第91回アカデミー賞ノミネート発表その2 - 作曲賞以降の後編
今回は第91回アカデミー賞ノミネート作品紹介の後編。前回は全24部門のうち、部門のアルファベット順に13番目のメイクアップ・ヘアデザイン賞まで行ったので、今回は作曲賞以降の11部門と総括を行う予定だ。そして前編はこちら☞
mice-cinemanami.hatenablog.com
参考データ
- アカデミー賞公式から出されたプリンタブルリスト
- Oscar Nominations 2019: See Full List of Nominees
- 参考) 事前発表されたショートリスト(THR)
- 『ROMA/ローマ』『女王陛下のお気に入り』がアカデミー賞最多10ノミネート!ノミネーション全リスト:第91回アカデミー賞 - シネマトゥデイ
- Erik Anderson via Twitter - 作品別簡易内訳
前哨戦結果
- GG賞結果:ほれ見ろ!『ボヘミアン・ラプソディ』が受賞だぞ……?! - 大混戦ゴールデン・グローブ賞2019 - ちいさなねずみが映画を語る
- BAFTAノミネート(主要部門):BAFTAノミネート発表!その1 - 比較的順当な印象のある英国アカデミー賞2019 - ちいさなねずみが映画を語る
- BAFTAノミネート(技術系):BAFTAノミネート発表!その2 - 技術系部門を中心に+総括 - ちいさなねずみが映画を語る
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毎年お馴染みシネマトゥデイ(かなり見やすい!):2019年 第91回アカデミー賞特集 前哨戦星取表:第91回アカデミー賞 - シネマトゥデイ
部門別
以下はプリンタブルリストの順に沿って紹介する。作品名リンクは基本的に日本語版公式サイト、また存在しない場合は海外版トレイラーだ。
作曲賞
- ルートヴィッヒ・ヨーランソン(ルドウィグ・ゴランソン)、『ブラックパンサー』:BLACK PANTHER, Ludwig Goransson
- テレンス・ブランチャード、『ブラッククランズマン』(海外公式トレイラー):BLACKkKLANSMAN, Terence Blanchard
- ニコラス・ブリテル、『ビール・ストリートの恋人たち』:IF BEALE STREET COULD TALK, Nicholas Britell
- アレクサンドル・デスプラ、『犬ヶ島』:ISLE OF DOGS, Alexandre Desplat
- マーク・シャイマン、『メリー・ポピンズ リターンズ』:MARY POPPINS RETURNS, Marc Shaiman
『アリー/スター誕生』チームが『ブラックパンサー』のヨーランソンと入れ替わった以外はBAFTAと同じ顔ぶれ。GG賞獲得ながら『ファースト・マン』のジャスティン・ハーウィッツはBAFTAに続いて落選しており、ちょっと残念な気がする。音楽映画なので『アリー/スター誕生』チームも強いと思っていたが、ショートリストを見る限り候補にも入っていないので、ちょっとシビアだなと思う(恐らく映画音楽ではなく、アリーとジャックの「曲」だったことが嫌われたのだと思うが)。
注目は昨年『シェイプ・オブ・ウォーター』でオスカーを手にしたアレクサンドル・デスプラが連覇するか。BAFTAの記事でも書いたが、個人的には『ムーンライト』で筆者の心を狂わせたニコラス・ブリテルが、2回目のバリー・ジェンキンス作品担当でオスカーに輝くかどうかが気になっている。
そう言えばこないだの記事でも書いたけれど、ディズニーとフォックス・サーチライトの賞レースサイトはまだ動いているはずなので、今ならヨーランソンとシャイマン、デスプラの音楽を試聴できるぞ……!
mice-cinemanami.hatenablog.com - 急げー!
主題歌賞
- 『ブラックパンサー』オール・ザ・スターズ:"All The Stars" from BLACK PANTHER
- Music by Mark Spears, Kendrick Lamar Duckworth and Anthony Tiffith
- Lyric by Kendrick Lamar Duckworth, Anthony Tiffith and Solana Rowe
- 『RBG』(原題):"I'll Fight" from RBG (※日本公開未定、海外トレイラー)
- Music and Lyric by Diane Warren
- 『メリー・ポピンズ リターンズ』幸せのありか:"The Place Where Lost Things Go" from MARY POPPINS RETURNS
- Music by Marc Shaiman
- Lyric by Scott Wittman and Marc Shaiman
- 『アリー/スター誕生』シャロウ:"Shallow" from A STAR IS BORN
- Music and Lyric by Lady Gaga, Mark Ronson, Anthony Rossomando and Andrew Wyatt
- 『バスターのバラード』"When A Cowboy Trades His Spurs For Wings" from THE BALLAD OF BUSTER SCRUGGS
- Music and Lyric by David Rawlings and Gillian Welch
最有力は言わずもがな『アリー/スター誕生』の「シャロウ」。その他の部門では映画賞によって波乱があったりするものの、主題歌賞のみは堅実に押さえている印象があるので、筆頭候補だろうと思う。
それを猛追するのが、ケンドリック・ラマーが手掛けた『ブラックパンサー』の主題歌"All The Stars"。ラマーは主題歌の提供のみならず、作品の名前を冠したアーティストアルバムのプロデュースも行い、このアルバムでグラミー賞8部門ノミネートを獲得した。MCUで初めて黒人主人公を据え、全世界で社会現象となったこの作品において、ラマーの曲がしっかり評価されているのは嬉しくもある。
一方ジュリー・アンドリュース主演の前作を54年ぶりにリブートした『メリー・ポピンズ リターンズ』からは、新生メリー・ポピンズことエミリー・ブラントの歌う1曲がノミネート。前作は『スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス』、『チム・チム・チェリー』、『タペンスを鳩に』など様々な名曲を産み、『チム・チム・チェリー』で歌曲賞を受賞しているが、リブート作で前作に続けるかどうかが注目だ。ちなみに筆者は『タペンスを鳩に』を聴くと例外無く泣く(何の話や)。
『RBG』の"I'll Fight"は、オスカーノミネート6回のソングライター、ダイアン・ウォーレンが書き下ろした曲をジェニファー・ハドソンが歌い上げた作品。MVを観る限りウォーレンも歌唱に参加しているようだが、果たして7度目の正直となるのだろうか。
またコーエン兄弟が西部劇を描いた『バスターのバラード』から"When A Cowboy Trades His Spurs For Wings" もノミネート。6部構成になった作品のうち、邦題になった第1部の「バスターのバラード」で歌われる曲のようだ。折角Netflixに入ったんだから後でチェックしようと思う。ゾーイ・カザンも出てるみたいだし!
主題歌賞のノミニーは、数曲が選ばれて会場で生演奏されることが多いが、今年はどれが選ばれるだろうか。他部門のノミネートなどを考えると「シャロウ」と「オール・ザ・スターズ」が堅そうだが、果たしてどれが聴けるのか少し楽しみだ!
作品賞
今年は8作品がノミネート。『ブラックパンサー』と『ボヘミアン・ラプソディ』がノミネートの快挙で、もうこれだけで割と胸アツである。
- 『ブラックパンサー』BLACK PANTHER
- Kevin Feige, Producer
- 『ブラッククランズマン』BLACKkKLANSMAN
- Sean McKittrick, Jason Blum, Raymond Mansfield, Jordan Peele and Spike Lee, Producers
- 『ボヘミアン・ラプソディ』BOHEMIAN RHAPSODY
- Graham King, Producer*1
- 『女王陛下のお気に入り』THE FAVOURITE
- Ceci Dempsey, Ed Guiney, Lee Magiday and Yorgos Lanthimos, Producers
- 『グリーンブック』GREEN BOOK
- Jim Burke, Charles B. Wessler, Brian Currie, Peter Farrelly and Nick Vallelonga, Producers
- 『ROMA/ローマ』ROMA
- Gabriela Rodríguez and Alfonso Cuarón, Producers
- 『アリー/スター誕生』A STAR IS BORN
- Bill Gerber, Bradley Cooper and Lynette Howell Taylor, Producers
- 『バイス』VICE
- Dede Gardner, Jeremy Kleiner, Adam McKay and Kevin Messick, Producers
冷静に考えたら、最有力候補はキュアロンの『ROMA/ローマ』、ランティモスの『女王陛下のお気に入り』、GG賞/PGA賞受賞の『グリーンブック』などであろう。しかしながら、『ブラックパンサー』がMCU10年の歴史で初めて作品賞ノミネートを掴んだこと、そして『ボヘミアン・ラプソディ』がここにいるということ、どちらも素晴らしい快挙だと思う。
『ボヘミアン・ラプソディ』はよくぞここまで辿り着いた。制作開始まで何度も暗礁に乗り上げ、制作し始めてからも監督の降板問題があったし、完成してからも批評家の大不評を買ったなど、つくづくここまでヒットしているのが不思議なくらいの作品である。しかしながら、マレックをはじめとしたキャスト陣は、世界中で愛されているクイーンのメンバーの名誉を汚すまいと、真摯に演技に向き合っていたように思い、そういった姿勢が評価に繋がったのだとしたら素晴らしいことだ。*2
そして特筆すべきは『ブラックパンサー』のノミネートだ。アメコミ映画はどんなに人気が高くても映画賞からシャットアウトされてきていたのに、遂にここまでやってきただけでなく、何と全7部門ノミネートという輝かしい結果を出すこととなった。惜しむらくはスタン・リーがこの結果を見られなかったことだが、きっと「エクセルシオール!」と叫んでいるに違いない。
2009年のアカデミー賞で司会のヒュー・ジャックマンが歌う動画を見た。ここから10年後ついに『ブラックパンサー』が作品賞にノミネートしたと考えると感慨深い。 https://t.co/QQNK76FQq2 pic.twitter.com/lXTAM0v6UE
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) January 22, 2019
——ここで言われてるのはクリストファー・ノーランが手掛けた『ダークナイト』('08)の話。ヒース・レジャーに助演男優賞が追贈されたが、高い評価にもかかわらず作品賞には見向きもされなかった
『ブラックパンサー』と言えば、オスカーが「人気映画部門」を作ると発表した際、その筆頭候補にも挙げられた作品である。勿論今回のノミネートは、批判の末新設が見送られた分何とやら、という結果なのかもしれないが(邪推であることを願っている)、もし新設されていたとしたら、『ブラックパンサー』も、そしてノミネートされていたであろう『ボヘミアン・ラプソディ』も、作品の真価を誤って捉えられていたに違いないと思う。つくづく新設されなくて良かったなあと思うばかりだ。
theriver.jp - あってもいいと思うけど、特定の作品が筆頭候補と言われてる状態で作ると、何かバイアスかかるじゃありませんか
因みに公開日はこんな感じ。授賞式は2月25日の予定なので、5/8作品が授賞式前に観られることになるが、例年よりかなり頑張った結果じゃないかと思う。
第91回アカデミー賞作品賞ノミネート作の日本公開日一覧📽️
— シネマトゥデイ (@cinematoday) January 22, 2019
ブラックパンサー→DVD発売済
ブラック・クランズマン→3/22
ボヘミアン・ラプソディ→上映中
女王陛下のお気に入り→2/15
グリーンブック→3/1
ROMA→Netflix独占配信中
アリー/スター誕生→上映中
バイス→4/5https://t.co/nXEydWKs2U
個人的にはボラプのヒットぶりが、作品賞ノミネート作品にしては異例な感じがするが、それくらい例年の興行が遅いってことなんだよなあ。☞ふぁじっこあなみ on Twitter: "ボラプ、オスカー前に日本でメジャースタジオが大規模興行しかけて大ヒットしまくってるっての珍しくないか、普通「オスカー受賞!」とか「オスカーノミネート!」とか「オスカー最有力!」ってCMめっちゃ観るじゃん… "
#Roma producer Gabriela Rodriguez is the first Hispanic woman to ever receive a Best Picture #Oscar nomination https://t.co/2MNB9XN5pd pic.twitter.com/wspg3qDth0
— Hollywood Reporter (@THR) January 22, 2019
投稿後追記)『ROMA/ローマ』のガブリエラ・ロドリゲスはヒスパニック女性として初の快挙らしい!
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美術賞(プロダクション・デザイン賞)
- 『ブラックパンサー』BLACK PANTHER
- Production Design: Hannah Beachler
- Set Decoration: Jay Hart
- 『女王陛下のお気に入り』THE FAVOURITE
- Production Design: Fiona Crombie
- Set Decoration: Alice Felton
- 『ファースト・マン』FIRST MAN
- Production Design: Nathan Crowley
- Set Decoration: Kathy Lucas
- 『メリー・ポピンズ リターンズ』MARY POPPINS RETURNS
- Production Design: John Myhre
- Set Decoration: Gordon Sim
- 『ROMA/ローマ』ROMA
- Production Design: Eugenio Caballero
- Set Decoration: Bárbara Enríquez
優れた画面構成・設計に送られる美術賞(プロダクション・デザイン賞)。世界観がきっちりとした作品が数多くノミネートされるが、非現実を描いた『ブラックパンサー』と『メリー・ポピンズ』、コスチュームプレイの『女王陛下のお気に入り』、月面探査を描いた『ファースト・マン』、ある種歴史物の『ROMA/ローマ』と、納得のラインナップだ。
クレア・フォイの落選で技術系部門のみのノミネートとなった『ファースト・マン』。しつこいようだが、あの作品の技術部門は評価されるべきだと思っているので是非獲得してほしい。ここでもそびえるのは『ROMA/ローマ』と『女王陛下のお気に入り』という今回の2大巨頭である。
BAFTAの結果と比較すると、ファンタビ2がOUTでブラックパンサーがIN。BAFTAはイギリスびいきの選考をするので単純比較はできないが、『ブラックパンサー』が7部門ノミネートの偉業を達成した一方、ファンタビ2は衣装デザイン賞も含めノミネートゼロだから、明暗がきぱっと分かれた形になった。
短編アニメーション賞
- "ANIMAL BEHAVIOUR", Alison Snowden and David Fine (トロント国際映画祭トレイラー)
- 『BAO』, Domee Shi and Becky Neiman-Cobb - 『インクレディブル・ファミリー』と同時上映
- "LATE AFTERNOON", Louise Bagnall and Nuria González Blanco (トレイラー、Vimeo本編(?))
- "ONE SMALL STEP", Andrew Chesworth and Bobby Pontillas (トレイラー、本編@YouTube)
- "WEEKENDS", Trevor Jimenez (トレイラー、アヌシー映画祭でのPRビデオ)
短編映画賞
- "DETAINMENT", Vincent Lambe and Darren Mahon (トレイラー)
- "FAUVE", Jeremy Comte and Maria Gracia Turgeon (本編@Vimeo)
- "MARGUERITE", Marianne Farley and Marie-Hélène Panisset (Facebook、SSFF(ということはブリリアで配信の可能性あり?)、SSFF公式トレイラー)
- "MOTHER", Rodrigo Sorogoyen and María del Puy Alvarado (トレイラー)*3
- "SKIN", Guy Nattiv and Jaime Ray Newman (トレイラー)
"Detainment"は10歳児2人が起こした実際の誘拐事件を描いているようだ。また"Skin"は長編映画に作り直されてトロント国際映画祭に出品され(enwiki)、その後A24などが配給権を獲得したというからこれも期待である。
www.cinematoday.jp - これは長編映画へのリメイク版。2018年のトロント国際映画祭に出品済だ
短編アニメ・映画2賞をクロールして気付いたが、こういう短編作品は比較的Vimeoにアップされていることが多いなと思う。クリエイティヴ面で何かメリットがあるのだろうが面白いなと思った。
音響編集賞
- 『ブラックパンサー』BLACK PANTHER, Benjamin A. Burtt and Steve Boeddeker
- 『ボヘミアン・ラプソディ』BOHEMIAN RHAPSODY, John Warhurst and Nina Hartstone
- 『ファースト・マン』FIRST MAN, Ai-Ling Lee and Mildred Iatrou Morgan
- 『クワイエット・プレイス』A QUIET PLACE, Ethan Van der Ryn and Erik Aadahl
- 『ROMA/ローマ』ROMA, Sergio Díaz and Skip Lievsay
「音を立てたら、即死。」の『クワイエット・プレイス』がBAFTAに続いてノミネートを達成。『ROMA/ローマ』のレビュー記事では、生活音がこの作品の歩みを進めていることを指摘したが、この作品も順当にランクインした。技術系に強みを見せた形の『ファースト・マン』がここにもノミネート。『ブラックパンサー』はケンドリック・ラマーがプロデュースした曲の数々が注目されたが、アクション映画/スーパーヒーロー映画らしくかっこいいSEもふんだんに使われていたし(筆者なんかちょっと引きずったくらいだ😊)、ワカンダの高等技術を示すシーンも沢山あったので、納得のノミネートである。『ボヘミアン・ラプソディ』は編集賞と並んでこの部門にもノミネート。クイーンの楽曲をふんだんに使った以上、作曲賞へのノミネートが叶わないのは当然だが*4、その分音響系の賞を獲らせようという動きが広まるかも……?
録音賞 (ミキシング賞)
筆者も書いてて若干混乱したが、さっきが「音響編集賞」(sound editing)だったのに対し、こちらは"sound mixing"。去年はそう言えば、編集賞も含め『ダンケルク』と『ベイビードライバー』の対決となり、3賞すべて『ダンケルク』がかっさらっていったが今年はどうなるだろうか。
音響編集賞ノミネートの4作に加え、ガガとクーパーの歌唱が高く評価された『アリー/スター誕生』がノミネート。流石に技術系部門では『ROMA/ローマ』一強というわけではないので、賞の行方は全く分からないというのが正直なところだ。
- 『ブラックパンサー』BLACK PANTHER, Steve Boeddeker, Brandon Proctor and Peter Devlin
- 『ボヘミアン・ラプソディ』BOHEMIAN RHAPSODY, Paul Massey, Tim Cavagin and John Casali
- 『ファースト・マン』FIRST MAN, Jon Taylor, Frank A. Montaño, Ai-Ling Lee and Mary H. Ellis
- 『ROMA/ローマ』ROMA, Skip Lievsay, Craig Henighan and José Antonio García
- 『アリー/スター誕生』A STAR IS BORN, Tom Ozanich, Dean Zupancic, Jason Ruder and Steve Morrow
視覚効果賞 (VFX)
- 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』AVENGERS: INFINITY WAR
- Dan DeLeeuw, Kelly Port, Russell Earl and Dan Sudick
- 『プーと大人になった僕』CHRISTOPHER ROBIN
- Christopher Lawrence, Michael Eames, Theo Jones and Chris Corbould
- 『ファースト・マン』FIRST MAN
- Paul Lambert, Ian Hunter, Tristan Myles and J.D. Schwalm
- 『レディ・プレイヤー1』READY PLAYER ONE
- Roger Guyett, Grady Cofer, Matthew E. Butler and David Shirk
- 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』SOLO: A STAR WARS STORY
- Rob Bredow, Patrick Tubach, Neal Scanlan and Dominic Tuohy
昨年GotG2(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー2)がノミネートを果たした視覚効果賞に、今年もMCUからIWがノミネート。ディズニーは他にも『プーと〜』、『ハン・ソロ』の2作品を送り込んできた。ここに割って入るのはニール・アームストロングの葛藤を描いた『ファースト・マン』と、スティーヴン・スピルバーグが満を持して発表した最新作『レディ・プレイヤー1』。スピルバーグ陣営が彼のキャリアと資金と人望で何とかした権利交渉の末、様々なポップカルチャーが見事にマッシュアップされた世界が作り出された。VR世界が舞台の今作なので、当然この部門へのノミネートも納得できるものだ。
脚色賞
最後は大本命脚本2賞である。
- 『バスターのバラード』THE BALLAD OF BUSTER SCRUGGS
- Written by Joel Coen & Ethan Coen
- 『ブラッククランズマン』BLACKkKLANSMAN
- Written by Charlie Wachtel & David Rabinowitz and Kevin Willmott & Spike Lee
- CAN YOU EVER FORGIVE ME? ※日本公開未定、公式トレイラー
- Screenplay by Nicole Holofcener and Jeff Whitty
- 『ビール・ストリートの恋人たち』IF BEALE STREET COULD TALK
- Written for the screen by Barry Jenkins
- 『アリー/スター誕生』A STAR IS BORN
- Screenplay by Eric Roth and Bradley Cooper & Will Fetters
原作ものが入るお約束の脚色賞には以上5作品がノミネート。『バスターのバラード』が脚色賞に入っているのが意外な感じだが、どうやら25年位前にコーエン兄弟自身が書いた短編が元になっていることが理由らしい(それを脚色というかはさておき……)。『ブラッククランズマン』(KKKに黒人刑事が潜入した話)、"CAN YOU EVER FORGIVE ME?"(生活のため偽造手紙を作り続けた作家の話)はどちらも実話を基にした作品。『ビール・ストリートの恋人たち』は同名の小説『ビール・ストリートに口あらば』の映画化作品だが、そう言えば原作の新訳刊行が決まったらしい。そして『アリー/スター誕生』は言わずと知れた『スタア誕生』の3度目のリメイクである。どの作品も高く評価されており、どれが受賞するか全く読めない展開となった。
——何か上手く貼れないけど『ビール・ストリートの恋人たち』新訳版([asin:4152098295:title] )のリンク(後で訂正すると思います)※190211修正しました
——上がバーブラ・ストライサンド版(2度目のリメイク)、下がジュディ・ガーランド版(最初のリメイク)
(オリジナル)脚本賞
- 『女王陛下のお気に入り』THE FAVOURITE
- Written by Deborah Davis and Tony McNamara
- 『魂のゆくえ』FIRST REFORMED - A24公式トレイラー、4月12日公開決定
- Written by Paul Schrader
- 『グリーンブック』GREEN BOOK
- Written by Nick Vallelonga, Brian Currie, Peter Farrelly
- 『ROMA/ローマ』ROMA
- Written by Alfonso Cuarón
- 『バイス』VICE
- Written by Adam McKay
イーサン・ホークの演技が絶賛されながらも、主演男優賞からノミネート漏れした "First Reformed" が最後の最後でランクイン。『魂のゆくえ』との邦題で公開も決定した様子だ。『グリーンブック』は脚本賞でのノミネートとなったが、これも確か実話ものだったような……? 基にした書籍があるかないかの違いだと思うが、何かちょっと釈然としない感じのジャンル分けである。この部門も、『ROMA/ローマ』と『女王陛下のお気に入り』一騎討ちの様相が強いが、それともチェイニーの暗躍を描いたコメディ『バイス』が割って入るのかも含めて注目である。
総括
作品別ノミネート内訳はこんな感じ。『バスターのバラード』のノミネート数が間違っているが(実際は3部門)、その他は概ね正しいはず。他にも "CAN YOU EVER FORGIVE ME?" と『COLD WAR あの歌、2つの心』が3部門ノミネートを勝ち取っている。
Oscar nomination totals:
— Erik Anderson (@awards_watch) January 22, 2019
The Favourite - 10
ROMA - 10
A Star Is Born - 8
Vice - 8
Black Panther - 7
BlacKkKlansman - 6
Bohemian Rhapsody - 5
Green Book - 5
Ballad of Buster Scruggs - 4
First Man - 4
Mary Poppins Returns - 4#OscarNoms
『ROMA/ローマ』はNetflix配信のスペイン語映画ながら最多10部門ノミネートの栄誉。キュアロンが地力を見せつける形となった。これに続くのは、助演女優賞ダブルノミニーを含む『女王陛下のお気に入り』。やはり今年はキュアロンとランティモスの一騎討ちとなりそうだ。
これに続くのは『アリー/スター誕生』。3度目のリメイクだし、ブラッドリー・クーパーの初監督・脚本作品ながら、堂々8部門ノミネートを勝ち取った。クーパーの監督賞選出漏れは意外な感じがするが、『シャロウ』の主題歌賞は割と堅そうな印象があるし、複数受賞も夢ではない。またチェイニーの暗躍を描いた『バイス』も8部門ノミネートだ。どちらの作品も、演技部門と脚本、さらに技術系とかなり満遍なくノミネートを勝ち取っている。
何とこの次に来るのは『ブラックパンサー』!「人気映画賞」新設が噂された時、その筆頭としてあげられた作品でもあるが、ただの娯楽映画、人気映画ではなく、しっかりと作り込まれた作品であったことを示した形となった。MCUにとっても、またアメコミ映画にとっても初の快挙なので素直に讃えたいと思う。
日本からは『万引き家族』(外国語映画賞)と『未来のミライ』(長編アニメーション部門)がノミネート。どちらも獲得すれば日本発の作品として久々の快挙になるので、先行きを期待したいと思う。
そう言えばこのツイートにもあったが、A24気鋭の新作 "Eighth Grade"は見事に選出されていない……☞ Carl on Twitter: "オスカーノミネーション、アナイアレーションやYou Were Never Really HereとかThe Eighth Gradeも良かったんだけど完全に漏れてるよね… "
関連:アカデミー賞 / 映画賞
*1:クイーンのふたりやジム・"マイアミ"・ビーチ氏はノミネートされなかったようだ
*2:正直な感想は……むにゃむにゃむにゃ。嬉しいは嬉しいんだけどなんか複雑というのも正直なところである。
*3:トレイラーの緊迫する電話のやりとりに鳥肌が立ってしまって、是非観たいと思った……!
*4:スレッドの後ろの方で『マンマ・ミーア!』を引き合いに出しているが、あれはABBAのベニーとビヨルンが主体的に映画音楽制作に関わったからこそのノミネートである。今回はテイラーもメイも「音楽監修」に留まっているので、作曲賞は多分絶対無い☞ふぁじっこあなみ on Twitter: "あっでも『マンマ・ミーア』の場合はベニーとビヨルンが実際に音楽を担当したからこそのノミネートか。さすがに『ボヘミアン・ラプソディ』で音楽賞とか歌曲賞は無いと思うなあ。飽くまでジョン・オットマンが対象でしょうし、印象に残るかというとクイーンの曲に負けてるしね(しょうがない"