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BAFTAノミネート発表!その2 - 技術系部門を中心に+総括

  今回はBAFTAノミネート紹介の後編。技術系部門を中心に紹介するほか、ノミネート内訳など総括を行いたい。因みに前編はこちら。合わせて読んでほしい。

mice-cinemanami.hatenablog.com

 

 

部門別

以下のデータは、BAFTA公式発表に邦題を付け加えたものである。ソースはここ。また作品名のリンク先は、基本的に日本語版公式ページに飛ぶようにした。

www.bafta.org

作曲賞

既にあちこちで作曲賞を獲得し、『ラ・ラ・ランド』以来2年ぶりのGG賞獲得を果たした『ファースト・マン』のジャスティン・ハーウィッツが落選。『ファースト・マン』はBAFTAでは善戦していただけに意外な結果である。一方で、作曲賞ではあまりノミネートされてこなかった様子の『アリー/スター誕生』がランクイン。監督も脚本も作曲も初めてだったというクーパーがここにもノミネートされているのは驚きの結果だ。

1964年のジュリー・アンドリュース版から54年ぶりのリブートとなる『メリー・ポピンズ リターンズ』からはマーク・シャイマンがノミネート。実は『アダムス・ファミリー』や『天使にラブ・ソングを…』を手掛けた人物でもある。サウンドトラックを試聴してみたが、これぞディズニー映画!というようなきらめきに溢れた作品が詰まっていた。

 

『ブラッククランズマン』を手掛けたテレンス・ブランチャードはジャズ・トランペッターにしてスパイク・リー作品の常連。『ビール・ストリートの恋人たち』を手掛けたニコラス・ブリテルは、『ムーンライト』に続いてバリー・ジェンキンス作品を手掛けている。『ムーンライト』の予告編で彼の音楽に胸をかき乱された人間としては、今作でも是非受賞してほしいという思いがある。

Little’s Theme

Little’s Theme

  • provided courtesy of iTunes

 

アレクサンドル・デスプラは、昨年の『シェイプ・オブ・ウォーター』以来のノミネート。今年も受賞して連覇なるかどうかが見どころだ。

 

撮影賞

今年の3強(前記事参照、✩印)が揃い踏み。『コールド・ウォー』(原題)は予告編を観る限り、モノクロの美しい世界が広がっており、この結果にも納得である。『ROMA/ローマ』も同じように白黒で撮り下ろされた作品。キュアロンのノミネートにびっくりして調べてみたところ、今回は長年の共作者エマニュエル・ルベツキと離れ、自身が撮影監督も兼任したようだ。

割って入る形になったのが『ボヘミアン・ラプソディ』と『ファースト・マン』。前者はクイーンの駆け抜けた時代を色鮮やかに撮影したところが評価されたのだろうと思う。サイジェルは途中降板となったブライアン・シンガーの監督作品を多く手掛けている。後者は、『ラ・ラ・ランド』で撮影賞に輝いたリヌス・サンドグレンの担当作品。チャゼル初のIMAX撮影に挑んだ作品でもあり、IMAXの映画館で予告編を観ただけでも大迫力(の鬱度)*1だったので、かなり期待できると思う。

 

編集賞

ボヘミアン・ラプソディ』からは、クイーンの音楽の穴を映画音楽で埋めたジョン・オットマンがノミネート。クイーンの音楽をふんだんに使ったという映画の特性上、作曲賞でのノミネートはならなかったが、編集賞を獲得するかどうかは見物。個人的には、技術系部門に強そうな印象があった映画だったので、こちらの方はきちんと評価されてほしい。

ファースト・マン』のトム・クロスはチャゼルと3度目のタッグ。『セッション』('14)ではアカデミー編集賞とBAFTAの2冠を達成している。

というかキュアロン、ひとりで何役もこなし過ぎでは……

 

プロダクション・デザイン賞

優れた画面構成・設計に与えられるプロダクション・デザイン賞。かつて『ハリー・ポッター』シリーズが大活躍してきた部門でもあるが、『ファンタスティック・ビースト』として新シリーズが始まってからもその威力は健在だった。

www.tjapan.jp

その他の作品も、世界観がきっちりとしており、撮影まで含めて美しい作品が並んでいる気がする。コスチューム・プレイ(往時のドレスを着用するイギリスの時代もの)である『女王陛下のお気に入り』だけでなく、衣装が特徴的な作品が多い印象もあるが、衣装にこだわるということはセットにこだわるということでもあるので然もありなん。

 

衣装デザイン賞

ここにもコスチューム・プレイとして『女王陛下のお気に入り』と『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の2本がノミネート。流石はBAFTAという気すらする(笑)。

Netflix配信だった『バスターのバラード』はコーエン兄弟の新作にして、西部劇に登場する荒野が舞台の一作。『ボヘミアン・ラプソディ』はクイーンのステージ衣装を細かく再現したことで評価が高いし、『メリー・ポピンズ』もアンドリュース版でお馴染みのあの衣装が帰ってきたことがよく分かる。こうやってみて分かるのは、衣装デザイン賞には作品の世界観にマッチした独特の衣装がある映画がノミネートされやすいということだ。

この枠組みに入りそうながら惜しくも選外となったのが、「ファンタビ2」を手掛けたコリーン・アトウッド。バートン映画を数多く手掛け、オスカー4回受賞の実力者だが、今回はノミネートされなかった。これに対し、オスカー3度受賞のサンディ・パウエルは2作でノミネート。新生メリー・ポピンズことエミリー・ブラントが主演した『ヴィクトリア女王 世紀の愛』('09)ではオスカーとBAFTAの両方を押さえたようだが、10年後の今回はどちらで栄冠をつかみ取るか注目だ。

 

メイクアップ&ヘア賞

衣装デザイン賞同様、時代物が強い印象。ノミネート作は全て実際の人物をモデルにしており、その再現度がキィになった様子だ。

個人的な注目作は『バイス』。ノミニーは確認中とのことだが、クリスチャン・ベールサム・ロックウェルを「これ誰?」状態にしてチェイニー・子ブッシュそっくりにしたスタッフは、是非評価されるべきだとおもう。昨年はゲイリー・オールドマンの大化けが話題となった『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』"Darkest Hour"が受賞しているので、今年はどうなるだろうか。(でもやっぱりイギリス舞台だから『女王陛下のお気に入り』が強いのかな?)

www.youtube.com

 

音響賞

やはり強いのは『ボヘミアン・ラプソディ』と『ファースト・マン』。更に技術系では少し苦戦した様子の『アリー/スター誕生』が入った。音楽映画2本のノミネートはかなり順当で、『ファースト・マン』も含め、オスカーノミニーの有力候補だ。

これに「音を出したら即死」の『クワイエット・プレイス』が割って入ったのが面白い。静寂が重要な映画だからこそ、音響効果が際立つというわけで、ノミネートも納得だ。因みにこの作品、新生メリー・ポピンズエミリー・ブラントが主演、また彼女の夫ジョン・クラシンスキーが主演と監督の2役を務めている。

加えてMIシリーズ最新作の『フォールアウト』がノミネートとなった。アクション映画なのでノミニーになったことに疑問は無いだろうと思う。

 

特殊視覚効果賞 - SPECIAL VISUAL EFFECTS

他の部門とノミニーが大きく異なるこの分野だが、マーベルから2作品がノミネート、そしてSFXをふんだんにつかって夢のバーチャル空間を再現したスピルバーグの『レディ・プレイヤー・ワン』がノミネートされた。魔法動物をVFXで再現したファンタビ2、アームストロングの月への旅路を再現した『ファースト・マン』もノミネート。話題作ばかりでどれが受賞するのか分からない展開となった。

 

英国の短編映画

英国短編アニメーション映画賞
英国短編映画賞

 

ライジングスター賞(新人賞) - EE RISING STAR AWARD

 

 

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個人的にアツい作品 - ノミネーション内訳

最多ノミネート『女王陛下のお気に入り

ブランデー・ナンのお膝元イギリスということもあり、最多ノミネートは助演女優賞のダブルノミネートを含め、12件を獲得した『女王陛下のお気に入り』。コスチュームプレイだったことから、衣装、メイクアップ、プロダクション・デザインの各部門にも強かった。これに加え、撮影・編集という技術系の王道部門を押さえたことが理由だと思う。BAFTAの選出は多少イギリスびいきになるが、対抗馬には『ROMA/ローマ』が控える部門も多く、賞の行方はどうなるか。またコールマンが主演女優賞でオスカーへ弾みを付けるか、またダブルノミニーとなったエマ・ストーンレイチェル・ワイズ助演女優賞を受賞するかも見どころだ。

www.bbc.com - BBCの記事にはノミネート内訳も掲載

 

7部門ノミネート:意外にも大不評・大苦戦の2作がランクイン

7部門ノミネートは以下の4作。

公開直前に批評家から大不評にあった『ボヘミアン・ラプソディ』がノミニー数第2位の大健闘。英国映画賞へのノミネートで、クイーンの楽曲が少なからず英国人のアンセムになっていることを証明した形だ。

また『ファースト・マン』は、アカデミー賞監督賞の最年少受賞記録を持つデイミアン・チャゼルの新作ながら、賞レースでは大苦戦していた。ヴェネツィアでのプレミアでは大絶賛だったが、興行収入は低迷。個人的にかなり期待していた作品だけに賞レースの苦戦には心配していたが、月面探査を題材にしたことで技術系で躍進し、7部門ノミネートとなった。

『ROMA/ローマ』は外国語映画賞ノミネート作ながら、監督賞・作品賞・脚本賞など主要部門ノミニーとなった異色作。キュアロンの力量が高く評価されていることを証明した結果となり、『女王陛下のお気に入り』を猛追してオスカーへの弾みにしたいところだろう。

『アリー/スター誕生』はリメイク作品ながら、様々な「初」を盛り込み、その上で主要部門へのノミネートを勝ち取った作品。言わば優等生といった感じだが、今年のじゃじゃ馬『ボヘミアン・ラプソディ』と競合している部門は意外に少ない。一方で、ノミネートされた部門には『ROMA/ローマ』や『女王陛下のお気に入り』など強豪がひしめいており、割を食ってしまう可能性も否めないと思う。

 

 

6部門ノミネートの『バイス』 と5部門ノミネートの『ブラッククランズマン』

GG賞最多ノミネートながら1部門獲得に留まった『バイス』と、無冠となった『ブラッククランズマン』がランクイン。前者はGG賞ミュージカルコメディ部門主演男優賞受賞ながら、自国びいきでクリスチャン・ベールへの追い風が吹く可能性がある(但し、ドラマ部門のラミ・マレックだって、イギリスはクイーンのお膝元なので有利に働くかもしれない)。

『ブラッククランズマン』は高評価を受けているものの、ノミネートされた部門部門に強敵がおり、BAFTAでも受賞に至るかどうかは色々と厳しいものがある。脚本では、オリジナル脚本と翻案脚色に部門が分かれるのでここが狙い目か。作曲賞にもノミネートされているが、実力者揃いなので予想すら難しい。個人的には1部門くらい獲得してほしい作品である。

 

4部門ノミネート:伏兵"Cold War"と『グリーンブック』

GG賞最多受賞となった『グリーンブック』は主要4部門を押さえていって3位にランクイン。BAFTAでは作品賞が一本化されるほか、英語作品縛りが取れるので、なかなか難しいだろうか。一方で男優賞2部門のノミネートは、アリ、モーテンセン共に高い評価を受けており、充分可能性がある。

 

今回のノミネートで伏兵となったのはポーランド発の"Cold War"。外国語映画賞ノミネート作ながら、監督賞など主要部門を押さえ、『ROMA/ローマ』や『女王陛下のお気に入り』と並ぶ3強の一角を成した。

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3部門ノミネート『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』

『ブルックリン』『レディ・バード』の出演で若手実力派の名を不動にしたサーシャ・ローナンの新作が3部門にノミネート。ローナン自身はノミネートされなかったが、彼女が演じるメアリー・ステュアートを弾圧するエリザベス1世としてそびえ立ったマーゴット・ロビー助演女優賞にノミネートされた。彼女は昨年の『アイ,トーニャ』でトーニャ・ハーディングを演じて絶賛されており、ローナンと並んで2年連続の素晴らしい仕事に讃辞を送りたい。

 

 

www.independent.co.uk

 

関連:映画賞 / BAFTA / 英国アカデミー賞

*1:チャゼルの作品なので当然鬱映画です

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