洋画の邦題問題はどこに帰着すればいいのか
洋画沼を中心に絶対炎上しそうな記事を見つけてしまった。というかTLに怒りを伴って流れてきた。
筆者は英国沼を攻めていったらいわゆる「単館系のマイナー作品の洋画」ばっかり見続ける有様となってしまった人間なので、ちょっと胸が痛い話である。『女王陛下のお気に入り』に歓喜したばかりなので尚更なのだが、今回はちょっとここを掘り進めてみたいと思う。
- どうせ炎上目当ての記事だろうけど
- マーケティング上の目標は間違ってない、だけど……
- 作品への愛は無くてもいい、最低限敬意を持ってほしい
- ものを伝えることの難しさは確かにある
- 映画ファンの力はそんなに小さいのか?
- 単館系?マイナー映画でしょ? - とんでもない!
- 他にも色々ありますが
- 投稿後追記
どうせ炎上目当ての記事だろうけど
もう炎上させることを目的として書いてる気がするので反応するのも癪なのだが、この中で映画プロデューサーだというA氏は次のように語っている。
「映画ファンがTwitterなどで邦題に文句をつけているのは私もよく見かけますが、洋画の原題まで気にしている人なんて、おそらく数千人程度です」
かくいう筆者もそういう「原題まで気にするクチ」で、こんな田舎町にひとりいるんだから数千人ってこたないだろう……とか思うがその辺はさておいて。いや、広報する側がこんなに諦めきってたらダメじゃん? 映画ファンも舐められきったものである。
当然ながらぼんやり眺めていたTwitterのTLにも沢山お怒りの声が流れていた。
なるほど! もう日本の映画興行衰退して消滅してもかまわねえよ!/「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な映画ファンが“無視”される事情(ビジネス+IT) https://t.co/iZTNLQ6J6y
— samurai_kung_fu (@samurai_kung_fu) January 17, 2019
「願わくば映画ファン、特に洋画好きは、配給会社を過剰に攻撃しないでほしい」←冗談じゃない。ファンの言うことなんか全然気にしないと言ってるくせに攻撃はするなって、虫が良すぎるでしょ。 / “「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な…” https://t.co/IHMKVXl4t2
— saebou (@Cristoforou) January 18, 2019
マーケティング上の目標は間違ってない、だけど……
でも正直映画ファンって邦題がどんなんであろうともどうせ見に行くでしょ??邦題うんぬんは結局一般層獲得の路線で決めてるわけだし。だからどうせ映画見る映画ファンが文句言ったところでどうなる?
— マッドなコーダイⅡ (@Gorilla_Island2) January 18, 2019
——それはそうだけど
配給会社として、放っておいても映画館に来るようなコアなシネフィルより、「何か面白そうな作品らしいから観に行こう?」という感じの、ライトな浮動層を獲得したいというのは正解だ。そりゃ何のマーケティングだって当たり前のことだし、浮動層をどれだけ取り込めるかが興収の伸びを決める。
でもこの記事の舐め腐った考え方は絶対アウトだ。根性論は嫌いだが、伝える側が作品にどれだけの思いを持っているかというのは薄々伝わってくるもの。ものへの愛があればフォロワーは増えるし、逆に舐め腐った態度で作品を粗末に扱っていたら、付いてくるものも付いてこない。そしてその作品の"真価"を知るもの、つまりシネフィルのみが悲しい思いをするのである。
これを筆者は勝手に「庭理論」と考えている。周りをぐるりと塀に囲まれた古い屋敷だが、門から垣間見える玄関までの小路は、やる気の無い執事と庭師のせいで荒れ放題だ。実はこの家には素晴らしい盆栽があるのだが、執事と庭師が手入れをさぼっているせいで真価が損なわれている。当然ながら入口が汚らしいので一般客は寄りつかないし、そういった惨状を、盆栽に詳しい玄人は嘆いている……というわけ。
庭理論に大成功しているのが、我らが杜の都のオーケストラ、仙フィルさんである。1月19日現在でツイート31K越え、フォロワー13,000人越えを誇るこのアカウントだが、この成功のきっかけにはオーケストラという「もの」を愛した姿勢が大きいと思う。気軽に足を運んでもらうため、「オーケストラでそこまでやっていいの?(笑)」といったような広報を展開しているが、それでもオケに対する愛が伝わってくるので丸く収まってしまうのである*1。
何と言うかなあ、立派なお屋敷の前ですごくキャッチーな宣伝部隊がいて、「えっこんなんでいいの?」と思ってちょっと立ち寄ってみたら、素晴らしいお庭とあったかく解説してくれるいい人がいた気分なんだよね。宣伝部隊が裏方さんで、豊かな音色がお庭、残りはお見送り🎻 #仙台フィル
— ふぁじっこあなみ (@mice_fuz_anami) October 28, 2017
「庭理論」でわたしが説明したのと同じようなことを別の方も指摘していた。そう、「映画ファン」は「ダサい邦題」「タレントPR」に怒っているわけではない。それが成功する例だって絶対あると思う。どっちかというと舐め腐った態度の方に憤っている。
実際に映画ファンが怒ってるの「ダサい邦題」「タレントPR」みたいなことではなくて、本筋を捉えてると到底思えないプロモーションの数々から透けて見える「作品に不誠実な姿勢」だと思うな〜
— よしこ (@ysky___) January 18, 2019
作品への愛は無くてもいい、最低限敬意を持ってほしい
しつこくツイートするけど、映画ってただの商品ってだけじゃなくて、文化・芸術でもあるわけやん。文化や芸術的側面を持つ映画っていう商品を取り扱えるのは配給会社や劇場だけなのに、頓珍漢な邦題、ダサポスター、トンデモPRがそういった側面をガシガシ削ってるって意識もないのな
— 手芸センターポリス (@porisu_pori) January 18, 2019
ロードショー映画は確かに1,800円で手に入る手軽な娯楽だけれど、元を正せば芸術作品のひとつである。高尚な芸術は時に一般人に理解の出来ないもので、だからこそそれを適切に紹介する人が必要だ。その役目は配給会社、宣伝会社ではないのだろうか? そして、人間、誠意の無さを薄々感じ取ることは前の節にも書いた通りである。
邦題問題はかっこよくてもカッコ悪くても元のタイトルにできるだけ忠実であることをゴールにするべきだと思うよ…一応人の作品なんだから
— Carl (@carltheyesman) January 18, 2019
——大好きなブログ "CARL THE POLICE!!"のCarlさん
そして忘れてならないのは、彼らが扱っているのは、飽くまで「他人の作品」であるということだ。自分の作品なのだとしたら、「どうせお前らには理解出来ないだろうけどなw」みたいな態度だって自由だ。でも、人の作品を預かって宣伝している以上、真摯な姿勢で取り組むのは当然のことだと思う。
最近の映画では、エンドロールに「この作品は◯◯人のスタッフが結集し、◯◯時間の労力をかけて制作されました」と表示されるものが増えてきた。勿論海賊版防止の抑止力として表示されているのだが、映画はそれだけの労力をかけて作られているのだと毎回考えてしまう。宣伝サイドにも、そういうものだと考えて仕事に当たってほしい。大体、そうやって血道を上げて作ったものが、海の向こうで「どうせ売れないと思いますけどwww」みたいなテンションで売られていたら悲しいと思う。冒頭の記事で言われているような態度は、本当の映画ファンに対する侮辱だけでなく、クリエイティヴ側に対する多大な侮辱でもあるだろう。
見出しにも書いたが、その作品に対する愛まではなくてもいい。「これちょっと自分には合わないなー」という作品を宣伝することだってあるだろう。でも、最低限敬意は持ってほしい。本国から作品が届くまでには、多大な人の多大な苦労があるのだ。それを宣伝ひとつで握りつぶさないでほしいと思う。
ものを伝えることの難しさは確かにある
広報官の端くれのような仕事をかじっているので、人にものを伝えることの難しさは痛い程分かっているつもりである。こちらがどれだけ熱量をかけて説明しても、伝わらない時は伝わらない。多くの人に伝えたいと思っても、池に波が広がるどころかさざ波も立たずに終わることだって多々ある。頑張っても頑張っても報われない辛さというのは確かにある。
でも、それを伝える側が口に出してはならない。そして、そういう態度で仕事に臨んでもいけない。先述の通り根性論は嫌いだけれど、真面目に仕事をやっていて、誰も振り向かないなんてことは絶対無いと思う。真摯な気持ちはその内誰かの心を打つ。
それを何じゃあこの舐め腐った態度は、というのがわたしの感想だ。お前さんたちの配給した作品に客が入らないのは「マイナーな作品のせい」か。そもそも「公開してやってるんだから感謝しろ」みたいなマウンティングをされたくない。映画への敬意だったら、そうやって邦題に文句を言っているファンの方がよほど持っているだろう。
反知性主義
何より、そういう態度でやっている宣伝が伝わらないのを、おバカな邦題にしないと寄りつかないから、と言いつつ、しれっと客のリテラシーのせいにしてるのが1番問題だと思う。相手にものが伝わらない時、「こっちがこれだけ言ってるのに通じないの、こいつがアホだからなんちゃう?」と考えてしまうのは、伝える側として絶対アウトだ。
このブログの『スリー・ビルボード』考第1回でも書いたが、優れた作品というのは、(それが正解か不正解かはさておき)、観た側に「もっと知りたい」「もっと観たい」と思わせ、その先を考えさせる余地や原動力があるものだと考えている。
これはわたしの座右の銘(的なもの)なのだが、優れた作品は、観た側をその先に進ませようとする力があるものだと思う
——正体はただの暴力映画では無かった - 映画『スリー・ビルボード』ネタバレ考察1 - ちいさなねずみが映画を語る
この記事でも言われている態度はその正反対だ。作品に含まれたアイロニーや比喩、様々な作品背景をそぎ落とす作業は、「ライト層に観てもらうため」と言えば聞こえがいいが、実際の所「バカでも分かるようにする」ということだろう。逆に言えば、それだけリテラシーの無い人間、知的探究心の無い人間がターゲットだと思われているということであり、だからこそこれだけ舐められ切ったマウンティング記事になる。
この“1%の映画ファン”問題の抱える問題って、興行打つ側から「馬鹿でもわかるプロモーションが打てないとダメ」ってそれをやり続けた結果どんどん一般のリテラシーも知的水準も下降していくという、映画に限らず出版でも音楽業界でも起こっている問題なんだよ…。どんどん街中猿だらけになっていく。
— 有馬(Apparent Death) (@DC_villainman) January 18, 2019
そういう話を目にして思うのが、いわゆる「反知性主義」である。元々は既存の知識体系、すなわち科学の世界で立証されたことを否定し、ある種原理的な宗教観に戻っていくことだが*2、宗教的背景の無い日本ではもう少し違った意味で捉えられているように思う。反ワクチン、麻疹パーティ、脱ステロイド、癌治療の代替療法……そういった新種の「宗教」が出てくることの根っこにはメディア側のこういう姿勢があるのかもしれないなと考えさせられた。
映画ファンの力はそんなに小さいのか?
よしなはなしはさておき、ここで冒頭の引用文に立ち戻る。映画ファンの力は、そうやって配給(の一部)に見下されるほど、取るに足らないものなんだろうか?
内容にそぐわない邦題や宣伝のせいで観客からスルーされそうになってる作品を「本当はこういう作品なんです!みんな観て!」って一銭も貰ってない映画ファンの人が頑張って宣伝してる光景いっぱい見てきたよ
— A5 (@letterbomb2020) January 18, 2019
そうやって考える時に思い出すのが、ここまで延々記事を書いてきた映画『ボヘミアン・ラプソディ』である。 そう言えば先日コードブルーを抜いて昨年の興収第1位に躍り出たらしい。100億円も間近に迫っているというから恐ろしい映画だ*3。その影には、多くの人に聴き馴染みがあるクイーンの曲だけでなく、SNSでの感想戦があったことは既に指摘されている。
邦題はカタカナに変えただけ、タレント宣伝なし、泣けましたCMなしのボヘミアンラプソディが年間1位取って、追加邦題あり、タレント宣伝あり、泣けましたCMありのアリーは日本興行収入ボラプの半分も行ってないっぽいんだけど
— 雨宮夏樹@黒鯖 (@q_j2222) January 18, 2019
https://t.co/hRpZqTkh0q
ここでツイートを引用した雨宮夏樹さんは、Twitterで「#もっとクイーンが好きになるトリビア」タグを作った張本人でもある。勿論この話は、映画ファンによる宣伝というより、クイーンファンによる宣伝だったので多少趣旨はずれているが、それでもファンの力がけして小さいものではないという証明にはなると思う。
ところで『アリー/スター誕生』の宣伝についてはこちらの記事をどうぞ☞
mice-cinemanami.hatenablog.com - 「女性」をターゲットにした宣伝は果たして正解だったのだろうか
そもそも「ダサい邦題」は本当に成功しているの?
こうやって色々考えてきて思うのはこれ。本当に、そうやって作った「ダサい邦題」って成功してるの? そうやって考えてたらこういうツイートを見かけた。
それからな、わかりやすい邦題にぷんすかしているんじゃなくて、訳がワカランからぷんすかしているんだからな!「名もなき野良犬の輪舞」ってなんだよ!意味がサッパリわからん!だったらいっそサイクロンZとか全然意味がわからないけどなんかかっこいいとかにしやがれ!わかったか!
— Bruce Wayne (@Dark_Knight_TH) January 18, 2019
ある程度のローカライズは必要だ。日本人には分かりにくい海外の慣習とか事情とかも絶対あるし、その辺を上手くローカライズするのは配給・宣伝会社の腕の見せ所だと思う。邦題を付けることは悪ではないし、特に昔のハリウッド映画の邦題では、秀逸だなあと思わされるものも沢山ある。例えば ビリー・ワイルダーの "The Apartment" の邦題は『アパートの鍵貸します』だし(これはよく名訳の例にされる気がする)、"The Notebook" という原題に『きみに読む物語』という邦題を付けたのもなかなかに良い仕事だと思う*4。
あんだけマウンティングしたインタビューになるくらいだから、さぞかし洋画はご成功してらっしゃるのだろうと思うが、現実はそうではない。冒頭の記事と同じA氏だという人物が答えたとかいう別記事だが、「稼げるのは邦画」と言い切ってしまっている。
www.sbbit.jp - これも日本の配給会社色々舐め腐り過ぎだろという気分にさせられた
日本映画制作者連盟が発表している2017年の興収結果を見てみたが(締め日の関係で2018年版はまだ出ていない)、興収10億円以上を達成した作品は、邦画38本に対し洋画24本。洋画で邦画トップの『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』(68.9億円)の上に行く作品は3作品あるものの、『美女と野獣』(ディズニー)、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(ハリポタ新シリーズ)、『怪盗グルーのミニオン大脱走』(ミニオンズシリーズ)と、いずれもブランドがしっかりした作品だった。そのすぐ下に来た『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海』だってシリーズ作品だし、他にもマーベルやDCなどのアメコミシリーズ、ファミリー向けのアニメ作品など、既にシリーズが進んでいて固定層がしっかりしている作品ばかりが並んでいる(ただしこの傾向は邦画でも同じだが)。
そうやって考えてみると、単発の洋画作品でまともにヒットしている作品は、『ラ・ラ・ランド』(洋画8位)、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(洋画12位)、『キングコング:髑髏島の巨神』(洋画13位だがキングコングのブランド力があるので微妙だ)、『ダンケルク』(洋画17位)など、限られた作品になってしまう。やはり洋画を巡る状況はなかなかに厳しいのである。
でもよく見てほしい。ここで10億以上を叩き出した作品には共通点がある。
- "La La Land"☞『ラ・ラ・ランド』(洋画8位)
- "IT"☞『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(洋画12位) - これだけ少し例外
- "Kong: Skull Island"☞『キングコング:髑髏島の巨神』(洋画13位)
- "Dunkirk"☞『ダンケルク』(洋画17位)
- "Miss Peregrine's Home for Peculiar Children"☞『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(洋画20位) - ティム・バートン映画
- "Blade Runner 2049"☞『ブレードランナー 2049』(洋画22位) - 『ブレードランナー』のリブート作品
なんだかんだ言ってほとんど原題をいじっていないのである。だから最初の記事で言われているようなとんちき論は全く当てはまらない。
もうこうなったら何とでも言い放題だ。どうせ影響力は無い(笑)らしいし、原題そのまんまの方がよっぽど流行ってるんだから、映画ファンはいいぞもっとやれ状態だ(このツイートの通り)。
事情はどうあれ、ファンは別に配給会社や劇場のためを思って黙る必要なんかどこにもないんだよな だって映画ファンの影響力なんてほぼ無いんでしょ
— 手芸センターポリス (@porisu_pori) January 18, 2019
単館系?マイナー映画でしょ? - とんでもない!
冒頭の記事では、洋画はTOHOが取るかで決まるみたいなことを書いているB氏が登場する。さっきから延々話題になっている「洋画」とは、どうやら大手シネコンで上映される作品を指しているらしい。そもそも単館系ばっか観てる筆者とはちょっと認識の違いがあったようだ。
でも単館系と言われる映画、最近は頑張っている配給会社が結構増えてきているように思う。このツイートで指摘されているCMBYN(拙記事)の邦題は『君の名前で僕を呼んで』。直訳ながら日本語としてもとても綺麗だと思う。ファントム・フィルムはシャラメの次回作 "Beautiful Boy"の配給権も取得しているが、こちらも『ビューティフル・ボーイ』という直球ドストライクの邦題だ。
「Call me by your name」を直訳で「君の名前で僕を呼んで」にして上映を決める
— NODOKA (@RTAR_non_) January 18, 2019
本国とほぼ変わらないポスター
キャッチフレーズには超シンプルに「何ひとつ、忘れない」
観客の希望に答え、徐々に上映館数を増やす
吹替はちゃんとした声優を使う
ファントム・フィルムさんには一生頭が上がらない pic.twitter.com/5dizlrCiPV
natalie.mu - ツイートされたNODOKAさんご指摘の通り、CMBYNは連日満員興行を出し、遂にはシネマカリテの興収記録を塗り替えた
2017年の洋画興収ランキング8位に『ラ・ラ・ランド』を送り込んだギャガも、独立系配給の代表格である。最近唸ったのは『スターリンの葬送狂騒曲』。映画の原題は "The Death of Stalin" だが、モロトフ役を演じたマイケル・ペイリンを意識してか、モンティ・パイソンの映画第4作『人生狂騒曲』にオマージュをかけた邦題になっている*5。しかもこの話、スターリン死後のソ連で起きた権力闘争を、ドタバタコメディとして描いているので、話の内容も分かって一石二鳥だ。
そして最近の筆者のイチオシとも言えるのが、フォックス・サーチライトである。既に『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』のレビュー記事でも触れたが、『gifted/ギフテッド』、『シェイプ・オブ・ウォーター』、『犬ヶ島』など、結構優秀な邦題が揃っていると思う。そして来月公開の "The Favourite"の邦題は『女王陛下のお気に入り』。アン女王の寵愛をふたりの女性が取りあう話だから、大正解としか言いようが無い。ほとんど無駄の無い素晴らしい邦題で、筆者も歓喜した記憶がある(1、2)。是非是非冒頭の記事のプロデューサーの鼻を明かすためにも大ヒットしてほしい。
【タイトルに高い教養やリテラシーがなければ意味が汲(く)めない比喩やアナロジー、(中略)公開前から客を絞ってしまうことになり、劇場は実入りが減る】『女王陛下のお気に入り』はポスターで不穏な空気を読み取れなければ誤解する客もいそうな秀逸な邦題だけど、こんな事情聞くとヒットしてほしい pic.twitter.com/duAGMBIhyi
— 丙ウマ・サーマン (@hinoeumathurman) January 18, 2019
単館系と言うとマイナー映画みたいな扱いをされがちだが、実はこういうところにこそ、映画を愛する人々が多く残っている気がする。地方になると地元劇場での上映が無いこともあったりするが、こういう作品こそ頑張っているので、もしお近くで上映されていたら貴重な機会だと思って是非足を運んでほしい。
他にも色々ありますが
洋画のダサい邦題やPRイベントへの理解を求める映画プロデューサーでさえ「あれは本当にやめてほしい」と言っているのに一向になくならない日本版主題歌とタレント吹き替えの闇の深さが印象に残った。 https://t.co/SXXwrcvVLv
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) January 18, 2019
これはわかる。ファミリー層を当て込んでなのだろうが、大手シネコンだと上映回数が字幕版<<<吹替版なのも結構辛い。そうやって『パディントン2』と『プーと大人になった僕』を見損ねた人間なのでかなり泣いている*6。
こんだけぐちぐちと文句を書いてきたのだが、最終的にこのツイートでくすっと笑ってしまった。サメ映画、沼っぽいから手を出さないできたけど、今度チャレンジしてみようかな(笑)
邦題がダサければダサいほど魅力が増すジャンルがあるんですよ。『サメ映画』って言うんですけど。だから映画ファンはサメ映画も観て下さいお願いします。https://t.co/cwiHNHFu8F
— サメ映画ルーキー (@Munenori20) January 18, 2019
投稿後追記
アップリンクの浅井社長のツイートを見つけた。ここから繋がる数ツイートがとても興味深かったのでシェア。そうですよねえ、ミニシアター作品はまだまだ映画愛に溢れてる邦題がしっかり残ってますよねえ。
- 浅井隆 ASAI Takashi on Twitter: "アベマTVから電話取材。ツイッターのトレンドなので生番組で紹介したいという。こっちの名前出すのと聞くと匿名でという>>「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な映画ファンが“無視”される事情 稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」|ビジネス+IT https://t.co/Qymj8Pf3dK #sbbit"
- 浅井隆 ASAI Takashi on Twitter: "匿名で業界の裏話、ちゃんと知りもしない他社作品のことは言う気は無いのでアップリンク代表として自社作品のことなら喋ると言うことで電話は続く。一般論として劇場がタイトルを決める事は無い。なぜなら金銭のリスクを背負って配給して売り上げを上げるのが配給会社なので。ミニシアター作品の場合、"
- 浅井隆 ASAI Takashi on Twitter: "劇場スタッフも交えて宣伝会議をして意見は聞くが、決めるのは配給だと答える。最近の例では原題は『BEUYS』だがカタカナでボイスとしても伝わらないので『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』とした例を挙げる。売り上げを落とそうと邦題を決める配給会社はないと言う。"
- 浅井隆 ASAI Takashi on Twitter: "もっと業界裏話を聞きたいのはわかるが続けて『ICE KING』の例をこちらは直訳プラス人名を加えた。『氷上の王、ジョン・カリー』。その他『CITY OF GHOST』を『ラッカは静かに虐殺されている』とした例など20分くらい喋っただろうか、最後に匿名でいいでしょうかとまだ言うので"
- 浅井隆 ASAI Takashi on Twitter: "アップリンク配給作なので誰が言ってるかわかるでしょ。「そうですね」で最後に「生番組なのでいま伺ったことは使わないかもしれないことをご了承ください」
意味不明な無駄な時間、最初に言えよな。放送はどうだったんだろう。"
そしてすなおさんのツイートでガン監督のこの話を思い出した。Vol.1ではクィルが新しいテープに手を伸ばすまでの道のりを描いたのに(だから「Vol.2」は全く新しいテープなのだ)、「リミックス」となってファンが猛抗議した記憶があるが、次回作「Vol.3」*7はどんな邦題になるのだろうか。そう言えばウォルト・ディズニーさんと言えば、『ドクター・ストレンジ』で「女性にはラブ♡」みたいなことを公言して炎上した過去があったけど……?*8
変な邦題の話題を見かけてから、(原題)Guardians of the Galaxy Vol.2→『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』のタイトル変更を承認したものの「日本のファンの声を尊重して、間に合えばタイトルをVol.2に戻せるよう出来る限りの事はしてみる」と言ってくれたガン監督の事を思い出してる pic.twitter.com/0N1Mddm7ED
— すなお (@Svnao) January 19, 2019
関連:洋画 / 邦題 / 映画配給
*1:そんな仙フィルさんと神奈川フィル(かなフィル)さんの中の人対談がこちら☞
magcul.net - 素敵な記事なので是非読んでね!
*2:これがアメリカで広まった理由には、アカデミアやIT関係、そして富裕層の枠組みに入れなかった白人たちの存在が大きいはずなのだが、それについてはこちらの記事でさらっと触れている☞
mice-cinemanami.hatenablog.com
*3:そう言えばコナンの映画版(『名探偵コナン ゼロの執行人』)で「安室さんを100億の男に!」とか言っていたのに、フレディはこれをも抜いて国内だけで100億の男になりそうで恐ろしい話だ。なお、既に『ゼロの執行人』は上映終了しているので、国内興収100億超えは幻になってしまった(歴代ランキング - CINEMAランキング通信 参照)。
nijimen.net - これは海外興収も合わせた場合のお話
*4:作品そのものに興味が湧いた人向けです
*5:音楽用語は「狂想曲」だから、これは明らかにわざと付けた邦題だ
*6:あのね、わたし、斎藤工も堺雅人も嫌いじゃないんですよ。むしろ大好きなんですよ。でもさあ、それがおヒュー様とかユアン・マクレガーの吹替となると話が別なんですね
*7:ジェームズ・ガンからスクリプトを書き上げた旨が報告されており、その際の写真から原題は「Vol.3」で確定☞
*8:詳しいことはこちら☞
togetter.com - 個人的には『キングスマン:ゴールデン・サークル』の広報も結構うるさかったけど、重大ネタバレまでは無かったような……?
business.nikkei.com - マントちゃんは確かにうざかわいいけどさー!