ちいさなねずみが映画を語る

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人間ニール・アームストロングの苦悩に焦点を当てた静かな作品 - 映画『ファースト・マン』

1969年7月20日20時17分 (UTC)。NASAによる月面探査・アポロ計画において、ニール・アームストロングとバズ・オルドリンの2名を乗せたアポロ11号の着陸船「イーグル」が月面に着陸した時間である。今年はつまり、この歴史的なミッションから50年という節目の年だ。

 

そんな今年、このミッションの裏側に迫るひとつの作品が日本で劇場公開された。作品の名は『ファースト・マン』"First Man"。『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリングが再タッグを組んだことでも話題となり、ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映されたときにはアーリー・レビュー*1で数多の絶賛を叩き出した。ところが、アポロ11号の偉業を讃える内容を期待していた一部のアメリカ国民からは不興を買い、北米興収は多少の伸び悩みを見せることになる*2昨年が強者揃いの映画賞シーズンであったこともあるが、その後の映画賞の結果も芳しいものではなく、チャゼルは長編映画の監督3作品目にしてちょっとした躓きを残してしまうことになった。

 

しかしながら、この作品を制作情報の段階から心待ちにしており、公開直後に劇場へ足を運んだ筆者にしてみれば、「作品の焦点はチャゼル作品として当然のものであり、その描き方も決して批判されるべきものではない」というのが主な感想だ。確かにアポロ11号へ至る数多のNASAによる計画をはしょって描いたきらいはあるが、この作品の主眼はアームストロングの苦悩にあるのだから、切り捨ててしまってもよい視点なのかもしれないとは思う。というわけで、今回はアポロ11号打ち上げ50周年の節目として、『ファースト・マン』を取り上げてみたい。

www.youtube.com - ディスクは7月3日に発売されたようで何ともタイムリ

 
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※本記事では、マーキュリー・ジェミニアポロ計画の内容として歴史的に広く知られていることのみに触れるようなるべく配慮しますが、新鮮な気持ちで映画を観劇したい方はご注意ください。またラストのアームストロングの行動について触れる部分があります※

 

 

ラ・ラ・ランド』コンビ再タッグに至った制作の道のり

長らく放置されていた計画を『ラ・ラ・ランド』コンビが再始動させた

この映画の原作となったのは、ジェームズ・R・ハンセンが2005年に書いたニール・アームストロングの伝記書である。映画の製作が噂されたのはこの本の出版前の2003年で、監督には名伯楽クリント・イーストウッドの名前が挙げられていた(ロサンゼルス・タイムズ)。その後暫くは音沙汰が無く、結局2012年にアームストロング本人が亡くなっても、制作情報は全く聞こえてこなかったのだった。

ファースト・マン 上: 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫)

ファースト・マン 上: 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫)

 

 

この話が再び動き出したのはそれから10年以上経ってからのことで、監督には『セッション』"Whiplash"・『ラ・ラ・ランド』"La La Land"を相次いでヒットさせたばかりのデイミアン・チャゼルが雇われる。『ラ・ラ・ランド』でコラボレーションしたばかりのゴズリングがアームストロング役に決まったと報じられたのは、全米での『ラ・ラ・ランド』封切り直後のことだった。元々チャゼルは同じ役者を繰り返し使いたいタイプの人間であり(詳しいことは拙記事で)、ゴズリングもニコラス・ウィンディング・レフンデレク・シアンフランスなどと蜜月を築いており*3、双方の思惑が一致した形だったのだと思う。

www.empireonline.com - 記事は2016年12月30日付け、『ラ・ラ・ランド』の全米公開は2016年12月9日

 

オルトライトに徹底的に嫌われるという不運

この作品の興行収入が北米で大きく伸び悩んだ原因は、作風や筋書きがアメリカのオルトライトに徹底的に嫌われたことだろうと思う。ヴェネツィア世界初演を迎えた時、プレス・カンファレンスでアームストロングの偉業について尋ねられたゴズリングは、彼の偉業はひとりのアメリカ人としてではなく全人類のものとして讃えられるべきだと述べた(ハリウッド・レポーター)。オルトライトはこの発言に噛みつき(ご存じの通りゴズリングはカナダ人である)、作品に瑕疵が無いかとあら探しする勢いで、一見すらしていないままこの言説を大拡散したのである*4。日本語のTwitterも政治関係では随分荒れているが、おんなじようなことは海の向こうでも起こっているのだなあと思わされた次第だ。

eiga.com

元々ゴズリングのこの発言が引き出されたのは、ある記者から月面に星条旗を立てるという有名シーンが描かれなかった理由が問われたことにあった。その部分だけを切り取って「非愛国主義だ」とか「アメリカの偉業を何だと思ってる」と騒いでいるのは、筆者もネット上でいくらでも見た言説である。おまけにゴズリングの述べた「全人類の偉業としての捉え直し」という視点は、トランプが大統領に当選するような今のアメリカで求められているものとは正反対だった*5。そういうわけで、アーリー・レビューでは大絶賛されていたにもかかわらず、北米市場は期待していたほど伸びなかったという印象になった。ところが、星条旗を立てる瞬間のシーンこそ存在しないものの、月面にはためく星条旗自体はしっかりと本編に収録されている(てっきり星条旗のシーンは1mmも無いのだろうと思っていたが……)。先述の映画.comの記事でも指摘されるよう、「観てないやつの戯言(たわごと)ほどクソなものは無いな」という気分でいっぱいだ。(しかしながら、こういう話もあってなのか、映画賞シーズンではあまり芳しくない結果になってしまったことは大変残念な話である)

www.youtube.com - 噂の星条旗を立てるシーン

静謐な作風は、ふたりの好みが一致した結果だろう

オルトライトに嫌われた遠因でもある、作品が「諸手を挙げてアメリカの偉業を讃える作品でない」というのは、本作の作風にもよく現れている。作品で描かれたのは、アポロ11号を月に送り込むことに成功したNASAの技術力・アメリカの国力ではなく、様々な偶然が重なって人類初の月面着陸を任されたアームストロングという人間の、内なる葛藤であった。この内容、確かに愛国主義者は大嫌いかもしれないが*6、チャゼルとゴズリングの好みを考えれば、着地点としては当然のものである。

 

 

 

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※『セッション』『ラ・ラ・ランド』を未見の方はご注意ください※

 

 

mice-cinemanami.hatenablog.com - 詳しいことはこちらの記事でも登場人物を極限まで追い詰め、その苦悩を描くというのは、チャゼルの映画制作において一貫したテーマである。『セッション』では主人公であるジャズドラマーの大学生を不必要なまでに追い詰める鬼教官の姿を描き、『ラ・ラ・ランド』ではキャリアか愛かという究極の二択に追い込まれるカップルを描き抜いた。『ラ・ラ・ランド』の解説記事では「チャゼルは鬱エンドがお好き」と書いたが、彼は明らかに「華やかな世界で生きる人間の影なる苦悩」というのを大きなテーマとしている。だからこそ、『ファースト・マン』の焦点も、人類史上初めて月面を歩いた男の成功談ではなく、自らの適性をどこまでも問い続けるひとりの男と、家族の安全すら保証されないまま取り残される妻の苦悩というところに着地した。「非現実的な夢物語の世界」という意味すらある『ラ・ラ・ランド』に、ああいう形のラストを運んでくるチャゼルなのだから、今作の視点は当然のものである。

 

そして、アームストロングを演じるゴズリングの側も、今作のような寡黙で内省的な役柄を演じることに生きがいを見出している人物である。先程ゴズリングはレフン、シアンフランスと蜜月を築いていると述べたが、2010年の『ブルーバレンタイン』(シアンフランス監督作品)では、恋人と過ごした過去の幸せな日々を思い返しつつ、機能不全に陥った家族の中でもがく父親を演じた。翌年出演したレフン監督の『ドライヴ』では、隣家の女性を守るため、ひょんなことから抗争に巻き込まれていく寡黙な「逃がし屋」の運転手を演じている。『ブルーバレンタイン』の現実世界のやるせなさにもがく父親、『ドライヴ』の寡黙ながら爆発的な行動力を秘めている男という役柄は、今作で彼が見せたアームストロング像に繋がっている気がする。思えばこの前作『ブレードランナー2049』で演じたK役でも、感情が読めないような寡黙な「レプリカント」でありながら、終盤ある事実を知って激しく慟哭するという素晴らしい演技を見せていた。

『ドライヴ』Blu-ray【日本語吹替収録版】

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そういうわけで、人類初の月面探査という任務を与えられながら、自らに迫る命の危険や家族を遺す可能性について深く思い悩むアームストロング像が描かれたのは、監督と主演俳優の目指す所が一致した結果だったのである。本記事では割愛するが、そういった静謐なトーンと、月面に辿り着く瞬間の高揚感とを見事に表現したジャスティン・ハーウィッツの音楽は賞賛されるべきものだし、ゴールデン・グローブ賞受賞も当然の結果だと思う。

wired.jp

計画が進むにつれ見える「危うさ」と、妻たちの怒り

アポロ11号の成功に至る道筋は意図的に大分はしょられているが、コンピュータの性能ですら現在汎用されているものに遠く及ばない50年前において、宇宙計画の一員になるということは死と隣り合わせということを示していた。

アポロ13(字幕版)

アポロ13(字幕版)

 

——1995年公開、トム・ハンクス主演でアポロ13号の「栄光ある失敗」を描いた名作

 

冒頭アームストロングが操縦しているのは、超音速機として知られるX-15であり、実際にアームストロングはこの機体のテストパイロットを務めていた。しかしながら、X-15は3機が作られたが、1967年には3号機が空中分解を起こし、アメリカの宇宙計画史上初の死者が出ている。

アポロ計画の前哨戦として行われたジェミニ計画では、全飛行で死者こそ出なかったものの、アームストロングが搭乗した8号で機体が異常回転するという事故が起こっている(この内容は作中でも描かれている)。また、この直前には訓練中だったふたりの飛行士(シーとバセット)が事故死するという悲劇が起きているが、今作では遠慮無く葬儀の様子や遺族が引っ越していく様子を描き、栄光の影には多大な犠牲があったことに焦点を当てる。

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今作の中で最も大きく取り上げられているのは、1967年1月27日に起きたアポロ1号の火災事故と、その後のホワイト家を巡る深い悲しみである。火災が起きたのは打ち上げ前の予行訓練の最中で、この事故により、ガス・グリソム、エド・ホワイト、ロジャー・チャフィーの3名が死亡した。中でもホワイトはアームストロングの友人であっただけでなく、アメリカ人として初めて宇宙遊泳を行った人物でもあった。本作ではアームストロングがホワイトハウスでこの事故を知り、ホワイトの妻パトリシアが悲しみに暮れながらNASAの団地を去る様子が描かれている。書籍版の「アポロ13」でこの悲劇について既知だった筆者にとって、この辺りのシーンは胸が詰まってしまって観ているのすら辛かった。(ところでパトリシアが何故こんなに描かれたかって、実は彼女を演じるオリヴィア・ハミルトンがチャゼルの妻だという裏話があるのだが、その辺はまた別の話)*7

 

相次ぐ宇宙計画での死、そしてNASAが宇宙船を完璧には制御しきれていないという事実に、ニールは静かに思いを巡らせ、身の処し方についてひとり思い悩む。一方の妻ジャネットは、夫ニールよりもずっと熱い人物で、必要とあればNASAの指令室にまで怒鳴り込みに行くような人物として描かれている。寡黙でどこか頼りなくも見える夫に代わり、妻たちの代弁者としてジャネットが乗り込むシーンは、作品全体の静謐なトーンから明らかに浮き上がった場面だ。そして、死と隣り合わせの宇宙計画において、宇宙飛行士たちだけでなく、妻たちも密かに戦っていたことを実感させるのだ。

そんなジャネットを演じたのはクレア・フォイ。エリザベス2世を演じたNetflixの『ザ・クラウン』でも既に高く評価されているが、本作での演技も大絶賛され、主要部門でやや躓いていた印象のある本作の賞レースにおいて、しっかりと助演女優賞のノミネートをいくつも勝ち取っていた。時に青筋すら浮かせ、何を考えているのかよく分からない夫を叱咤しつつも、彼を失うかもしれないという恐ろしさに震えるひとりの人間を熱演しているので、是非ご注目いただきたいと思う。

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【ネタバレ注意】月面で機長はひとりの父親に戻った

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※結末に触れる部分があります※
 
 
 

「人間ニール・アームストロング」を描く本作において、アポロ11号での月面探査への道と並んで主軸となっているのが、アームストロング夫妻第2子、カレンの闘病と死である。カレンが脳幹腫瘍を発症して夭逝したというのは実話なのだが、実は作中でアームストロングが月に行くまでの流れも、カレンの闘病生活をなぞっているという指摘もある。

saebou.hatenablog.com

本作中でカレンの死は、アームストロングが命の儚さを実感する出来事のひとつとして描かれている。テストパイロット中の事故にも動じないアームストロングだが、娘の死には思わず深い衝撃を受けてしまう。軽口を叩くオルドリンの脇でアームストロングは黙々と訓練に取り組むが、その姿には「遅かれ早かれ人は死ぬのだ」という諦めすら見え隠れする。しかしながら彼の複雑な心の内は、寡黙であるがゆえに周囲には全く読み取ることができない。そのため妻ジャネットは夫の心の読めなさに怒りをぶつけることになる。

 

作中のアームストロングは、個人の感情を切り離し、公人として宇宙飛行に臨む人物として描かれている。同士である宇宙飛行士たちの訓練死でも彼は動じないし、高潔な性格ゆえに初めて月に降り立つ人類という称号を勝ち取ったのだとされているのだ(実際の選定理由も彼の性格を勘案したものであった)。出発前の記者会見シーンでも、「妻のジュエリーを持って行く」とジョークを発するオルドリンに対し、ミッションのことを考え続け、「充分な燃料を望む」と答える実直さが描かれている。

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しかしながら、本作のラストにおいて月面に到達したアームストロングは、ある個人的な行動に出る。夭逝したカレンが残したブレスレットを、月面のクレーターへと投げ入れるのだ。この瞬間、全編を通じて理性的で感情の読めない人物として描かれてきたアームストロングの、人間らしさが一気に表出する。会見では燃料を求めていた彼も*8、密かに娘の形見を持ち込んでいたことが分かり、これまで描かれてきた人物像ががらりと変化するのだ。同時にこのシーンは、ジャネットに苛立ちをぶつけられながらも黙っていたニールにも、父親としての娘への想いがあったことを端的に示す良シーンだ。自身もふたりの娘を持つゴズリングだから、きっとニールからカレンへの想いを、自分から娘たちへの想いに重ねていたに違いない。

 

本作の筋書きは概ね史実に沿った形で描かれているが、実はこのブレスレットに関するくだりは、「作者たちの希望」にすぎない(THE RIVER下記事)。アームストロングもいくつか私物を持ち込んでいたことは記録に残っているが、その中に子どもたちに関するものがあったかどうかは不明なままなのである。THE RIVERの記事によれば、彼はイースト・クレーターに歩いて行き、ひとりで10分間そこに留まっていたという。その瞬間に何をしていたのかは誰にも分からないが、それを英雄がひとりの人間に戻る時間として描いたこの脚本は素晴らしいなと思った。

theriver.jp

 

最後に

紙幅も段々長くなってきて1万字に迫っているので、今日のところはここまで。『ファースト・マン』のディスクは7月3日に発売されたばかり。日本語版字幕は宇宙飛行士でもあった毛利衛氏が監修している。是非お手元に。

 

原作となったハンセンによる伝記は映画の公開に合わせて河出文庫から再版された。記事中でも触れたが、アポロ計画の歴史に関しては、実際にアポロ13号の船長として登場したジム・ラヴェルによる回顧伝『アポロ13』が面白いので、合わせてご一読いただきたい。

ファースト・マン 上: 初めて月に降り立った男、ニール・アームストロングの人生 (河出文庫)

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アポロ13 (新潮文庫)

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  • 作者: ジムラベル,ジェフリークルーガー,Jim Lovell,Jeffrey Kluger,河合裕
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関連:アポロ11号 / ニール・アームストロング / バズ・オルドリン / マイケル・コリンズ / ライアン・ゴズリング / クレア・フォイ / ジェイソン・クラーク / カイル・チャンドラー / コリー・ストール / ルーカス・ハース / デイミアン・チャゼル / リヌス・サンドグレン / トム・クロス / ジャスティン・ハーウィッツ

*1:Early Review。一般の上映に先立って観劇した批評家が出す映画評のこと

*2:因みに現在のところ、Rotten Tomatoesの評価は批評家87%支持・一般観衆67%支持(2019年7月13日現在)。Metacriticでは批評家スコア84点/100点の必見映画、一般観衆スコア7.4点/10点(2019年7月13日現在)。

*3:レフンとは2011年の『ドライヴ』で初タッグを組み、その後『オンリー・ゴッド』('13)でも主演を務めている。ゴズリングの監督デビュー作である『ロスト・リバー』は作風がレフンと酷似していると批判されたが、当のレフンは「僕らは双子だから同じような映画を作るんだ」というニュアンスの発言をするほどだった。シアンフランスの監督デビュー作『ブルーバレンタイン』('10)では髪を抜いて禿げ上がった額を作るという役作りまで見せたゴズリングだが、タッグ第2作『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』の撮影で出会ったのが妻のエヴァ・メンデスである。

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*4:元々チャゼルはハーバード卒のインテリで、白人低所得者のオルトライトに嫌われる素地は充分あるのだが、この一件で油を注いだ形になった

*5:トランプが大統領選で用いた "Make America Great Again"(アメリカを再び偉大に)というスローガンの通り、オルトライトの中では非常に愛国的、つまり諸手を挙げてアメリカを礼賛するものこそが好まれている。ところが映画産業が盛んなハリウッドは、元々移民俳優も多く民主党支持者もそこそこいるので、オルトライトとはどうしても温度差がある。そんな中で起こったのがオルトライトによるジェームズ・ガン引きずり下ろし騒動だった(現在はGotG3の監督に復帰)。ガンは確かにかなり強い口調でトランプ政権を批判していたし、ペドフィリアを題材にした過去のジョークは明らかに容認されるべきものではなかったが、だからといってオルトライトの活動が正しいとは到底思えない。ガンの降板騒動と『ファースト・マン』の興収を巡る不運に関しては、アメリカの中に横たわる深い政治的対立を感じずにはいられない。

coulson.hateblo.jp

*6:筆者は陰鬱な天気の中うじうじ考え悩むイギリス映画が大好きなのでこういう作品も好きでよく観に行くが、やはり「ハリウッド的」とみんなが思う作品はちょっと大味だし、イギリスが誇るクリスマス映画の名作『ラブ・アクチュアリー』を「神経症患者ばっかりだ」(ヴィレッジ・ヴォイス)とぶった切ってしまうのがアメリカ人なので、その辺は然もありなんと思う

*7:チャゼルは元々ハーバードの同級生だったジャスミン・マクグレイドと結婚しており、『ラ・ラ・ランド』の制作にもマクグレイドが奔走していたが、2014年に離婚している。一方のハミルトンは、前作『ラ・ラ・ランド』でも「グルテンフリーガール」(IMDb)としてカメオ出演しており、この頃から交際していたことが分かっている。チャゼルはこの作品で最年少のアカデミー監督賞受賞者となったが、 オスカーを手にした後ハミルトンにのみ感謝を述べ、マクグレイドにはひと言も言及しなかった時には、ちょっとした批判が巻き起こったものだった(実際の授賞式映像@YouTube)。

www.cinematoday.jp - この辺の事情はざっくりこの記事で

*8:実際燃料が不足していたのは随分な皮肉だが

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