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ほれ見ろ!ゴールデン・グローブノミネートだぞ - 映画『ボヘミアン・ラプソディ』

昨日ゴールデン・グローブ賞のノミネートが発表された。

www.hollywoodreporter.com

賞レースを賑わせていた『アリー スター誕生』"A Star Is Born"、『女王陛下のお気に入り』"The Favourite"が順当にランクインしたほか、エミリー・ブラントでリブートする『メリー・ポピンズ リターンズ』"Mary Poppins Returns"に、バリー・ジェンキンス(『ムーンライト』"Moonlight"監督)の新作『ビール・ストリートの恋人たち』"If Beale Street Could Talk"など、個人的に追っていた作品も入っていてなかなかに面白かった。でも、1番驚いたのは、この映画のノミネートだと思う。

 

 

 

映画『ボヘミアン・ラプソディ』"Bohemian Rhapsody"。言わずと知れたクイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーに焦点を当てた作品だ。今回のゴールデン・グローブ賞では「作品賞 - 長編映画ドラマ部門」と「主演男優賞」(ラミ・マレック)にノミネートされた。

www.foxmovies-jp.com

metro.co.uk - アイキャッチはフレディ役のラミ・マレックと婚約者メアリー・オースティン役のルーシー・ボイントン

 

ところでゴールデン・グローブというのは面白い賞だ。普通の映画賞は長編映画賞と短編映画賞、そしてそれぞれにアニメ部門があるのがせいぜいなのだが、この賞は長編映画賞が「ドラマ部門」と「ミュージカル・コメディ部門」のふたつに分かれている。記事を見るまで完全にノーマークだったので(理由は後述)、ノミネートに驚き、更に「ドラマ部門」のノミネートだったことにもっと驚いた。

だってあの『ラ・ラ・ランド』"La La Land"('16)がノミネート部門を総なめした時だって、ノミネートは「ミュージカル・コメディ部門」の方だったのである(この時ドラマ部門を射止めたのは、後にオスカーを獲ったジェンキンスの『ムーンライト』)。そしてこの時のノミニーには、マーベルが誇る問題児映画こと(失言)『デッドプール』"Deadpool"もいた*1。何となくドラマ部門の方がオスカーに有利で、ミュージカル・コメディ部門は多少の色物も含まれている印象なので、今回のノミネートは意外や意外である。そう言えば『アリー スター誕生』もそうだったが。

 

そもそも、公開当初、まさかこの映画が天下のゴールデン・グローブ賞*2にノミネートされるなんて思ってもいなかった。その理由はあちこちで叩かれていた「歴史改竄」の問題である。詳しいことを言うとあちこちネタバレになるので観た人は記事を読んでほしい。

www.thedailybeast.com

映画評論家はこぞってこの点を叩いていたように思うし、実際映画評蓄積サイトを見ると評価はぼろぼろだった。辛口で知られるmetacriticは12月7日現在で49点/レビュー45件(Bohemian Rhapsody Reviews - Metacritic )。もうひとつのRottenTomatoesも今日現在で支持率62%/レビュー323件だ(Bohemian Rhapsody (2018) - Rotten Tomatoes )。ところが蓋を開けてみれば観客評価と批評家の言は大きく乖離していて、メタクリでは8.3点、RottenTomatoesでは91%を獲得しているし、米国では記録を塗り替えてしまったし(Rockin'on com)、日本に至っては公開4週目にもかかわらず興収を伸ばしている有様である(THE RIVER)。

 

こういう状況を見ると思い出されるのは、昨年の『グレイテスト・ショーマン』"The Greatest Showman"である。『ラ・ラ・ランド』で作詞を手掛けたパセク&ポールの曲で、レミゼなどミュージカルに定評のあったヒュー・ジャックマンを据え、鳴り物入りで公開した。ところが批評家から大不評に遭い、オスカーのノミネートも主題歌賞のみ……ところが観客評価は割に高く、ふたつがスプリットした形になった(Rotten Tomatoes)。確かここで叩かれていたのも、随所で見られた歴史改変だったように思う。

 

実話の映画化は難しい。特にクイーンのような世界的知名度を持ったバンドだと余計に難しい。熱狂的なファンはイギリスに留まらず世界中にいるし、ライヴ映像の一挙手一投足を覚えているファンだって多いのだ。だからこそ、映像化すれば本人との違いがあちこち探されるし、あら探しだってされる。

また、メイとテイラーが音楽監修として映画に関与していたことも、期待値を大きく上げる一因になっていたのだろうと思う。よもやその状況でああなるとは……と嘆いた人もいるのではないか。

 

でも、映画というのは所詮作り物であって、その全てを再現できるとは限らない。

画角やキャスティングの問題で、登場人物を減らしてしまうことだってある。いくらVFXが発達したといっても、予算の関係で描ききれないシーンだってあるはずだ。だから自分の中では、その改変が物語にとって必要なのか、また侮辱ではないのか考えることで、何とか折り合いを付けるようにしている。

 

この映画はそもそも、制作の最初から炎上映画だった。フレディ役がラミ・マレックに決まる前には、サシャ・バロン=コーエンで話が進んでいたが、クイーン側(特にメイと言われている)と折り合いが悪く結局降板した。また、一応ブライアン・シンガー映画ということになっているが、彼は彼でマレックと反りが合わず(何となく理由は察しているので別記事で書きたい)、「感謝祭の後に帰ってこない」というトンデモ降板をした。そして公開されたらされたでこれである。つくづくよくヒットしていると思うくらいだ。

eiga.com

確かにこの映画には突っ込みどころが多い(ここも詳しくネタバレ記事で語りたい)。映画本編は、様々な話をつまみ取りして、割とさらっと描いている印象だ。ゲイ・コミュニティの描き方だって酷い。メアリーの扱いも酷い。それでも、ライヴ・エイドのシーンで、クイーンの曲に心揺り動かされたことは否定できないと思う。

 

やはりこの映画は、映画としての評価と、伝記映画としての質、そして肝心なクイーンの音楽に分けて討論されるべきなのだと思う。そして、これがひとつのギグなのだとしたら、終盤のライヴ・エイドの高揚感にまで持って行く流れは、大正解なのだとしか言えないだろう。そのために「歴史改変」したと言うのなら、しょうがない、とまでは言えなくても、まあ分からないでもない、くらいには落とし込める気がする。何より、フレディの人生は濃密過ぎて、さらっとふわっと描くのでない限り、とてもじゃないが1本の映画の尺には収まりきらない。BBCのテレビ映画3本くらいが丁度いい。はっきり言ってこの映画でも収まりきってない(笑)。

 

またこの映画は、フレディのセクシュアリティを中心にしている訳ではない。確かにそれは大きな意味を持つが、ジム・ハットンの存在すらかなりぼかされているし*3、中心にあるのはやはり、時代を駆け抜けたフレディ・マーキュリーという男の疾走感だろう。そして本編中でも何度か触れられるように、 これは「家族」への回帰という話でもある(だから『ボヘミアン・ラプソディ』なのだ)。だからこの映画はファミリー映画になって当然だし、娯楽映画として消費され大ヒットするのも当然だし、映画的にあんまり評価されないのも納得なのであって、何も駄作みたいにけちょんけちょんに言われる必要まではないのである(勿論描き方の拙さとかはあちこちあるのだが)。

 

そもそも映画評論家だって人間である。作品の好き嫌いがあるのは当然だ。有名人を取り上げた分、反動で「実物と違う!」とお叱りが来るのだって当たり前である。

もし映画評を見て足を運ぶのを躊躇している人がいるのだとしたら、自分の目で確かめてほしい、そう伝えたい。批評家たちとあなたの感性が同じとは限らない。彼らがめためたに叩いたところこそ、あなたの心に響く場所かもしれない。

 

そしてこれが1番大事なのだが、あなたの心に響く映画こそ、真の意味での名作である。批評家に言わせ放題していてそういう作品に出会い損ねるのは勿体ない。このブログではそんなことを綴っていきたいと思う。

 

 

グレイテスト・ヒッツ

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ジュエルズ

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関連:クイーン / ラミ・マレック / グウィリム・リー / ジョー・マッゼロ / ベン・ハーディ / ルーシー・ボイントン / 音楽映画

*1:こんなこと言ってるけれど、筆者はGotG大好きっ子なので、当然デップーも大好きである

*2:ゴールデン・グローブ賞はオスカーやBAFTAと並ぶ映画賞最高峰の一角である。発表はオスカーの前になるので、ここで受賞するとオスカー大本命になる。ひょっとすると録音賞や編集賞など技術系でオスカーノミネートもあるのかもしれない……?

*3:ジム・ハットンは元婚約者だったオースティンよりもっともっと影が薄い。おんなじ髭を生やしているのでポール・プレンターと見間違った人も多いようだし、プレンターが「悪いやつ」ハットンが「良いやつ」みたいな扱いをしてるのも見た。かくいう筆者も最初はちょっと混乱した。

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