ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

パイソンズに石を投げた者だけがラーメンズに石を投げなさい

ブログを書こうとしていたら小林賢太郎東京五輪開閉会式のショーディレクターから解任されていた。リハーサルも済んでいるのに、前日に解任してどうなるのかという気はするが(演出総取っ替えなどできないし)、首を切っておかねばということなのだろう。サイモン・ウィーゼンタール・センター;SWCから厳重な抗議も来ていたようだし、しょうがないと言えばしょうがない。因みにSWCはこういう話にとても敏感な団体だ*1

 

この件について口を噤んでいる気だったが、どうしてもこれだけは呟かずにいられなかった。パイソンズに石を投げた者だけがラーメンズに石を投げなさい。

 

 

ロンドンの感動を東京で

東京でオリンピックが開かれると決まった時、2012年のロンドン五輪開閉会式に感動したブリッツマニアとして、あの感動が東京でも観られるのかとわくわくしたものだった。東京五輪も当初はショーディレクターに野村萬斎の名前が挙がっていたし(その後延期に伴って退任)、2016年・リオ五輪時の引継式でも、中田ヤスタカ椎名林檎が見事なパフォーマンスを作り上げたので、期待は十分だったわけである。

 

五輪の開閉会式はその国のカルチャーを発信する一大イベントだが、その中でもロンドンのものは白眉であった。産業革命に始まるイギリスの工業史、ブリットポップに代表されるイギリスの文化的側面、そして今でも次々と「英国俳優」を送り出す源となっている豊かな舞台産業。開会式では『スラムドッグ$ミリオネア』や『トレインスポッティング』で知られるダニー・ボイルが指揮を執ったことでも有名である。

 

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サー・ケネスの場合

そんなロンドン五輪の開会式には、シェイクスピアの『テンペスト』から一節を引いて、"The Isles of Wonder"(不思議の島々)というタイトルが与えられていた。開会式のテーマにもなった『テンペスト』の一節を朗読する任を与えられたのが、イギリスが誇る舞台俳優の要、サー・ケネス・ブラナーである。日本では『ハリー・ポッター』シリーズのロックハート先生で広く知られる彼だが、本来は英国の舞台演劇において、特にシェイクスピア劇を得意とする俳優である。その活動はイギリスに留まらず、近年では自ら監督・主演するポワロシリーズの映像化にも主体的に取り組んでいる。この開会式では、イギリス鉄道の父イザムバード・ブルネルに扮し、イギリスが誇る作曲家・エルガーの『ニムロッド』を背景に朗々とした朗読を見せたのだった*2

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というわけでサー・ケネスと言えばイギリスが誇る名優のひとりなのだが、エマ・トンプソンと結婚していたその昔(トンプソンも名優で今やデイムである)*3、ヘレナ・ボナム=カーターとの浮気が発覚して離婚したという話は大変有名だ。勿論、私生活と俳優としての力量とが十分切り離されているからこそこのキャリアがあるわけだが、清廉潔白な人などどこにもいないと思わされる。

 

エリック・アイドルの場合

もうひとつ大変有名なのが、閉会式に登場して "Always Look on the Bright Side of Life" を歌って去って行ったエリック・アイドルだ。こちらはサー・ケネスの比ではない。

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モンティ・パイソンはイギリスが誇るインテリコメディ集団である。しかしながら、そのネタはいつもエログロ差別の塊で、良くも悪くもどぎついブラックジョークが大好きなイギリスらしい。本放送されていたのは50年ほど前だし、一応第2放送(BBC Two)ではあるが、よく公共放送BBCであんなものを放送していたと思うレベルだ。ドリフターズだって日本を代表するコント集団だし、放送当時はPTAからクレームの嵐だったというけれど、パイソンズはそこに何倍もの頭の良さが加わってしまっているので余計タチが悪い(笑)。メンバー全員が70歳を超えた今でも彼らの舌禍(?)は収まるところを知らず、「パイソンズ唯一の良心」と言われたペイリン以外の3人が*4、今でも定期的に燃えているのもご愛敬である。

mice-cinemanami.hatenablog.com - 今でも定期的に燃えるテリーGおじちゃん

 

閉会式のこのシークエンスは、人間大砲として発射される宇宙飛行士(?)が、イギリス史を振り返る格好をした人々と握手していくところから始まる(後ろの曲はELOの"Mr. Blue Sky"だ)。しかしながらこの人間大砲は見事に失敗し、人々はあーあとため息をつく。そして、発射され損ねた宇宙飛行士が下から這い上がってくるとエリック・アイドルに変わっており*5、パイソンズ一成功した曲 "Always Look on the Bright Side of Life" を歌うという算段だ*6

アイドルの登場とイントロだけで会場中が大合唱した通り、この曲はイギリス国民に広く染みついた曲だ。原題は直訳すれば「人生の明るい方でも見て生きようぜ」となるが、フォークランド紛争でアルゼンチン軍に攻撃された軍艦が沈みゆく時に、乗組員が大合唱したことでも知られる曲で、イギリス人は逆境に陥ればすぐこの曲を思い出す。またサッカーの応援にも使われていて、つまりはイギリス人なら誰でも歌える曲なのだ。

 

この曲が初めて世に出されたのは、パイソンズの映画第3弾『ライフ・オブ・ブライアン』のエンドロールだ。ゴルゴタの丘なのかどこなのか分からないところで、ふんどしだけにされた男が30人ほど磔にされている。その中でアイドル演じるお調子者が呑気に歌い出すのがこの曲なのだ。何とも酷い状況である。何なら「人生はクソ、人生は笑いもので死なんてジョーク」とか歌っている有様だ。

"[Verse 3]
Life's a piece of shit (Oooh)
When you look at it
Life's a laugh and death's a joke, it's true (Oooh)" - via genius.com

 

ロンドン五輪閉会式では、アイドルがこの曲を歌う背景で、パイソンズのスケッチ(コントのこと)に因んだ演出が成されている。アイドルの後ろに控えている羽根の天使たちは、多分『人生狂騒曲』ラストシーンのオマージュだ。因みにパイソン作品は女性の描き方が著しく酷いことで有名である。唯一の女性レギュラーだったキャロル・クリーヴランドは、いつもぞんざいに扱われては「これが唯一の台詞なのに!」"It's my only line!"と絶叫していた。映画第4作の『人生狂騒曲』では、避妊と中絶は悪だと説くカトリックを揶揄して、"Every Sperm Is Sacred"という狂った曲を歌い踊っている(しかも書いたのはパイソンズの良心ペイリンとそのスケッチメイト・テリーJだ)。そのシーンを思い起こさせるように、後ろにはスケート靴を履いた尼僧たちが映っている。インド風の踊りが入ってアイドルが困惑するシーンがあるが、パイソンズには中国人を揶揄した "I Like Chinese" という曲、アラブ人を揶揄した曲 "Never Be Rude to an Arab"もあり、テレビの本放送時代なら、ここでインド人を揶揄するネタをやるところだと思わされずにはいられない(インドはかつてイギリスの植民地だったので)。よくよく見ればパイソンズの有名なスケッチ「まさかの時のスペイン宗教裁判!」"Nobody expects Spanish inquisition!" を思わせる人々もいるし、多様な人々を並べているようで、実はパイソンズのスケッチを思い起こさせているのだ。

 

ここまで少し批判的な感じでパイソンズのネタを紹介してきたが、実は筆者は筋金入りのパイソニアンだ(これまでのブログを読んできた人にはお分かりだと思うが)。どれも酷いネタばかりだし、今なら許されないネタばかりだが(何なら放送当時もあんまり許されていなくて、途中からBBCの検閲と大バトルを繰り広げていたのは有名な話だ)、それでもパイソンズのネタは底抜けに面白くて、どきっとするブラックジョークがふんだんに含まれている。彼らのネタを見ていて思うのは、人間誰しもどこかに差別心を持っていて、誰かを揶揄したい気持ちを抱えているという醜さである。パイソンズは宗教、特にキリスト教を散々ネタにしてきたが(その真骨頂がアイドルが名曲を産んだ映画『ライフ・オブ・ブライアン』である)、それは数多の宗教が説く綺麗事に辟易した彼らなりの皮肉なのだ。誰の心にも闇は潜んでいる。石を投げるのは簡単だが、自分が石を投げられる側になる可能性だって否定は出来ない。

 

パイソンズに石を投げた者だけがラーメンズに石を投げなさい

そこで冒頭の話に戻る。パイソンズに石を投げた者だけがラーメンズに石を投げなさい。今回問題になったのは、ラーメンズが1998年に発表したコントの一節だ。当時のテレビは今より何倍も不謹慎だったし、ラーメンズはそういう不条理ネタが大得意なユニットだった。そのくらい前を振り返ってみれば、バカリズムは今の何倍も尖っていたし、今や好感度芸人のひとりである大吉先生は謹慎を食らってインドに謎の旅行に出ていた。芸風やキャリア、そして時代の流れも全く考慮に入れずに、ただ不謹慎だと批判するのは片手落ちだ。今や笑えないネタは沢山あるが、どぎついからこそウケるものもあるのは残念なことにれっきとした事実だ。だって人間の心の中には差別心があるのだから。

9年前、アイドルが颯爽とロンドンのスタジアムに現れた時、パイソンズのネタはあんなに不謹慎だったからけしからん、と思った人もいたにはいたと思う。しかしながら実際には、会場中から "Always Look on the Bright Side of Life" が聞こえてきて大合唱になった。やはりこれはこれ、それはそれなのである。

 

同時に辞任騒ぎがあったCorneliusのことを擁護する気は全くない。いじめの首謀者だったことを嬉々として語るのはまた別の話だと思うからだ。でも小林賢太郎の件では少し違ったものを思っている。今は何でも過去のものをほじくり出される時代ではあるが、そんなに清廉潔白を求めても、きっとどこにもないと諦めているからだ。それをどぎつく伝えてきたパイソンズに、9年前のあなたは石を投げるだろうか? あなたに石を投げられる清廉潔白さがあるのならば、どうぞ石を投げなさい*7。わたしにはそんなことは到底できないと思っている。

 

……でも正直なところ、萬斎と林檎嬢によるショーが観たくなかったと言ったら嘘になるなあ……

 

関連:TOKYO2020 / 東京オリンピック / 小林賢太郎 / ラーメンズ / モンティ・パイソン / パイソンズ

*1:かつて高須クリニック高須克弥ホロコーストを"denial"した時も抗議文を出していたあの団体だ。勿論あの”denial”は『否定と肯定』を観た身では看過できないが☞

*2:因みに筆者は『ニムロッド』が大好き過ぎるので聞くと泣く(どうでもいい)。

*3:最近で言うと『クルエラ』でバロネスを演じて「ふたりのエマ」対決していたのだった☞ 

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*4:ペイリンは本当にただのいい人で、彼がいなかったらこのグループはもっともっと早くに空中分解していたと思う。でも彼の書くネタもなかなか酷い時はある(『木こりの歌』とか)。

www.nicovideo.jp - 批判を見越して抗議文までネタにしちゃってるのは流石だね!

*5:この時日本で中継を担当していたNHKがアイドルを知らず、「パイソンズ? 誰それ?」という放送をしてプチ炎上したのも懐かしい

*6:ここでパイソンズの中からアイドルだけ出てくるのは、多分この時期『スパマロット』の訴訟問題で彼がすっからかんだったとか、この作品のせいでクリーズと大もめしていたとか、その他の人間性にかかわるところがありそうなのだが、そこはまあアイドルなのでしょうがない

*7:そう言えば『ライフ・オブ・ブライアン』には石投げのシーンがあったなあ

ふるさとと過去に訣別を - 杜の都から『 #おかえりモネ 』を語る - 第8・9週

相変わらずのんびり書いている『おかえりモネ』記事ですが、今回はまたちょっと違った理由でまとめてになりました。第8週では亜哉子の浮気疑惑から遂にあの人の話が展開し、第9週では3回目となるモネの気象予報士試験の結果が物語を揺さぶります。

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  • 第8週「それでも海は」
    • 遂にこの人が物語の主役に
    • もう戻れない過去
  • 第9週「雨のち旅立ち」
  • おしまい!

 

第8週「それでも海は」

3度目の気象予報士試験に本腰を入れて準備するため、モネ(演:清原果耶)は帰省がてら亀島に戻ってきます。そこで妹・みーちゃん(演:蒔田彩珠)*1から聞かされたのは、母・亜哉子(演:鈴木京香)が度々本土(気仙沼市内)に渡っていて、浮気をしているのではないかという島中の噂話でした。とんでもない話に気象予報士試験の勉強どころではなくなったモネは、みーちゃんを誘って尾行の旅へ。さながら彼女はシャーロック・ホームズです。

——色々古臭いところもありますが、個人的には偕成社ホームズが結構好きです

 

*1:今調べたら蒔田さんの所属事務所はユマニテなんですね。かつてこの事務所の看板女優として引っ張っていた満島ひかりを思わせるところがあって素敵です。

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どこを取っても魅力的なふたりのエマ - 映画『クルエラ』

ちょっと遅くなったが、映画『クルエラ』"Cruella"('21)を観てきた。ディズニー映画『101匹わんちゃん』に登場する悪役をタイトルロールに据え、その役にエマ・ストーンを持ってきた。元々ずる賢い悪役も大得意なエマ嬢なので、制作の噂を聞いたときから楽しみにしてきた一作だが、蓋を開ければどこを取っても魅力的なふたりのエマの応酬だった。

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娯楽映画なのでネタバレは無しでいけるような気もするが、ここは一応ネタバレもあるかもしれない記事にしておく。

※ ネタバレあるかも! ネタバレあるかも! ネタバレあるかも! ※

 

 

悪役に魅力的なストーリーを与えるのこそ

あらすじを書いてもいいのだが、この作品は「隠された事実」のもつれた糸かせをディズニーばりに(いやディズニーなのだが)ほどいていくから面白いのであって、書き過ぎると本末転倒なので、今回の記事では敢えて省くことにする。

 

この作品は、ここ数年続くディズニーの実写映画化シリーズの新作だ。原作になったのは1961年の『101匹わんちゃん』だが、実はこの作品は既に2回実写化されており(『101』、『102』)、今回は3作目のスピンオフということになる。悪役にスポットを当てた実写作品という面では、アンジェリーナ・ジョリーが主演した『マレフィセント』('14)以来の作品だ。

 

マレフィセント』の時にも感じたが、ディズニーはヴィランを決してただの悪者にしておかない。どんな役にもとびきり魅力的なストーリーを用意して、悪役ですら愛すべき人物にしてしまうのがディズニーなのだ。『白雪姫』でりんご姫をいじめる継母は、世界一の美しさを求めるが故に歪んだ心になった人物だった。『リトル・マーメイド』のアーシュラは、アリエルの美しさと声を妬ましく思い、それを奪い取ってしまう女である。アニメ作品の悪役たちが軒並み、「ディズニー・ヴィラン」と呼ばれて愛されているというエピソードでもよく分かるだろう。

 

枠組み自体はアンジェリーナ・ジョリーがタイトルロールを演じた『マレフィセント』とさほど差はなかったと思う。主人公の知らない隠された過去がどんどんほぐれていき、ディズニー・ヴィランの人間的な魅力を引き出して、最後にはヴィランの虜にしてしまう。マレフィセントもクルエラも、アニメでは自分の利益に貪欲なとびきりの悪役として描かれているが、単なる悪役に留まらせない一面を実写で掘り下げていくのは如何にもディズニーといった手法だ。ディズニーはここのところ勧善懲悪というより「みんなにそれぞれ理由があるんだぜ」という物語を好んでいて、この作品もそういう「物語の捉え直し」という軸の上にあるんだなあと思わされずにはいられなかった。

 

しかしながら、これらふたつの作品は、ジョリーとストーンという「物言うプロデューサー女優」が一枚噛んでいるので、単なるガールズパワーという作品に収まっていないのがとてもよい。マレフィセントもクルエラもとびきりの悪役だが、たまたまワルが女性だっただけで、彼女たちはその特徴を活かすべくとびきりの衣装で悪事に繰り出す。今作ではファッショニスタの世界が舞台なので、着飾ることも物語の本筋に入っていて、そこも面白いポイントである。

 

ところでエマ嬢が製作総指揮に名を連ねていたのは当然だが(実際彼女は最近の出演作でわりかし製作に積極参加している)、もうひとりグレン・クローズが名を連ねていた。クローズと言えばアカデミー賞7度ノミネートの実力派女優だが、実は先述の実写版(『101』『102』)でクルエラを演じた女優でもあった。『メリー・ポピンズ』の時もそうだが、ディズニーはこういう過去作への密かなオマージュというのをきっちり盛り込んでくるなあと思う。

 

よくも悪くもディズニーらしい作品

先程筆が滑ってガールズパワーの話を書いたが、この話は良くも悪くもディズニーなので、話の流れがどこか現代のポリティカル・コレクトネス(political collectness)の中にあるような気がする。例えばアーティというキャラクターはディズニー実写では初のオープンリー・クィア*1なのだが、『美女と野獣』のル・フウの人物設定しかり*2、アーティしかり、ということで、両者は同じ話の流れにある。しかしながら、残念なことに舞台は1960年代〜70年代のイギリスだ。イギリス社会は今でこそLGBTQの人々に大変寛容だが、この頃は露骨にホモフォビアがはびこっていて、アーティのような人物が自由に生きていけるような社会ではなかったはずである。勿論彼のような人はいて、自分のブティックを開いて生きていたかもしれないが、『パレードへようこそ』さながら投石だの落書きだのが横行して*3、あんな綺麗なディスプレイが保てたかどうか怪しいものだ(因みに『パレードへようこそ』は1984〜85年の話)。またこの時期は『空飛ぶモンティ・パイソン』のテレビ版が放送されていた時期でもあるが、パイソンズのメンバーであるグレアム・チャップマンが途中までゲイであることをひた隠しにしていたのも有名な事実である。その後チャップマンは著名なゲイの人権活動家(gay rights activist)になったが、それでもパイソンズのスケッチにはゲイを茶化すものがいくらでもあるし、そこからは容易に当時の空気感が読み解ける*4。ほぼみんながバイセクシュアルだったろうと知っているクイーンのフレディ・マーキュリーだって、生前は自身のセクシュアリティについて決して明言しなかったし、当時はそういう時代だったのである(因みにフレディは91年没)。

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もうひとつこの作品には、やたらと日本だとかアジア人の影がちらちらと見えてしょうがない。大きくなったホーレスが盗みの成果を自慢するシーン、何故だか彼は木枯らし紋次郎みたいな格好をして登場する(ここは劇場で普通に笑いが起こっていた)。また、リバティにもバロネスのブティックにもちらちらとアジア人の店子が登場する。しかしながら、何度も言うがここは1970年代だ。いくら中華系や日本人とイギリスとの繋がりが強いとは言っても、あの当時街を歩けば日本人、という程に東アジア人がいたとは思えない*5。恐らくこれは、オスカーの授賞式でフランシス・マクドーマンドが声高に宣言した「インクルージョン・ライダー」を念頭に置いたキャスティングだろうと思う。確かにアジア人俳優に機会は与えられるべきだ。それでも、どう考えても黒人やインド系がもっといそうな時代背景において、東アジア系をちらほらと配置するのはまた違う話なのである。

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はっきりしたことを書いてしまうが、ディズニーは敏感に社会問題を嗅ぎ取って「やってますよ」感を出すのが得意な会社だ。でも所詮はアメリカ企業であって、舞台となっている国の歴史より、今のアメリカで問題となっていることの方が前面に出てしまうことだって多い。だからこの映画はよくも悪くもディズニーらしい作品なのだ。

 

ダルメシアンは実は凶暴

ディズニー映画のせいで可愛いイメージの付いたダルメシアンだが、実は元々猟犬で、なかなかタフだし警戒心が強いのは有名な話だ。『クルエラ』では自分たちが招いた種だからというのか、やたらとダルメシアンの凶暴な面が強調されている。何ならクルエラもといエステラがダルメシアン嫌いになる原因もそれだ。なんだか楽屋落ちみたいで面白い。

 

『101匹わんちゃん』では躍起になってダルメシアンの毛皮を集めていたクルエラだが、実は『クルエラ』ではただの1枚もダルメシアンの毛皮を得ようとしない。途中でダルメシアン柄のスカートが登場して、観客はみんなヒエッとなるものの、その直後にバロネスの愛犬3匹が揃って登場して、あれはただのブラフなのだということが分かる。『101匹わんちゃん』であんだけご執心だったクルエラなら、恨んだ相手の犬くらいなめしそうなものだが、そこはディズニー映画なので、ということなのだろうか。エンドロールの "no animal harmed"(動物は傷付けられていません)という言葉が滑稽だ*6。そう言えば「動物は傷付けられていません」って出てくる伊坂作品は『陽気なギャング』だっけ?

——久遠くんが動物大好きなのでこの作品も動物に優しいです

 

アトラクションのような驚異的な導線

——今週のお題「住みたい場所」

筆者の邪推ばかり書いていてほとんど筋書きの話をしていなかったが、主人公のエステラ嬢は、ロンドンの華やかなファッション界に憧れながらも、寄宿学校で筋金入りの悪ガキとして名を馳せていた。彼女はひょんなことからロンドンに棲み着くことになり、ガイドブックで何度も眺めていたリージェンツ・パークが、心の支えになる。凄くどうでもいいが、実はリージェンツ・パークはシャーロック・ホームズの本拠地ベーカー街221Bの目と鼻の先なので、この描写にホームジアーナの筆者は大変わくわくしてしまった。1度は行ってみたいし住みたい場所が、エステラの憧れとして描かれるので、彼女と同じ気持ちになってわくわくしてしまう。

因みに彼女がロンドン入りするシーンで、ザ・マルとバッキンガム宮殿が映っていてもういっちょわくわくしてしまった。ザ・マルは2012年のロンドン五輪2017年の世界陸上競歩などの会場に使われた場所だが、ロンドンと言えばここ!というような風景でもあり、『メリー・ポピンズ リターンズ』でもしっかり登場していた(点灯夫たちがビッグ・ベンへ急ぐシーン)。

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大きくなったエステラはリバティ百貨店に潜り込んで働くことになるが、実はこの店はロンドンいち有名な百貨店だ。日本で言えば銀座三越に彼女が潜り込むみたいなものである。地下でせっせとトイレを磨くエステラから、リバティで働く従業員たちを写して戻っていく一連の長回しが、驚異的なカットだった。まるでディズニーのアトラクションのような驚異的な導線。……いや、勿論ディズニー作品なのだが、あの一瞬のカット割りには恐ろしさすら覚えるほどの感動を覚えた。

 

よくもまあこれだけのキャストを

赤毛のエマ嬢、白い髪のエマ嬢

今作のエステラ/クルエラは、本来黒と白のツートンカラーの地毛のところ、リバティで働き始めてからは見事な赤毛に染め直し、バロネスの右腕にまで登り詰めていく。この演出は、エマ嬢自身のキャリアを考えてみると面白い展開だ。

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『ラ・ラ・ランド』まで至るえまごず3部作で見せた赤毛が大変有名なエマ嬢だが、実は彼女の地毛は結構明るいブロンドだ。何なら結構白に近いくらいで、『バードマン』出演時の髪色が一番地毛に近いのではないかと思う(あとはガーフィールド版『スパイダーマン』のグウェン・ステイシー役もなかなか近い)。ところが彼女は、アリゾナから出て来た当初、役者として全く売れなかった。彼女が今のキャリアを掴んだのは、髪の毛を赤毛に染め直したのが転機とも言われている*7。ストーンと言えば赤毛の印象だが、実はこれは作られたエマ嬢の姿なのだ。

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今作でもエステラは、本来の白黒の髪を染め直し、赤毛になってファッション界に潜り込んでいく。そして成功を掴み、さあこれからはわたしの時代だ、というところで、元の白黒の髪を露わにするのである。エマ嬢の紆余曲折のキャリアを知る者として、この演出と彼女のキャリアが重ならないわけがない。エステラがチャンスを掴んだあの赤毛は、エマ嬢に今のキャリアを与えた赤毛でもあるのだ。

 

ちらっと『バードマン』の話が出て来たが、エステラがすっかりクルエラになった後、ベランダでひとり黄昏れるシーンで、この映画を思い返さずにはいられなかった。この映画にもエマ嬢演じるサムがひとり黄昏れるとても美しいシーンがある。リバティのシーン以上に驚異的な長回しのシーンが含まれているので、是非1度観てほしい。

 

魅力的なもうひとりのエマ

そしてエステラと酷く対立することになるバロネスを演じるのは、もうひとりのエマことエマ・トンプソンである。エマ嬢も見事なブリティッシュ・アクセントを見せていたが*8、トンプソンはトンプソンでザ・イギリスの芸能一家というような経歴なので、一歩も譲らない。

 

バロネスとして着飾り立てたトンプソンの姿は、最初カメレオン俳優なのかと思わせるほどの変装ぷりだ*9。しかしながら、悪役として『101匹わんちゃん』のクルエラに負けず劣らず暗躍していく様子で、少しずつ彼女の俳優としての力量が漏れ出していく。この配役はさながらアメリカとイギリスのエマ一騎討ちというような感じだ。そしてどちらも悪役大好きな俳優なので、活き活きと、そしてとことんまでぶつかり合いを見せる。

 

彼女の役名は字幕でも「バロネス」となっていたが、正確には「男爵夫人」というのが正しいと思う*10。同じ呼称で女男爵を示すこともあるが、男爵と結婚したというくだりがあったので、結婚して男爵夫人になったのだろう。

【ネタバレ注意!】

イギリスの貴族制度をちょっと囓っていると、彼女がエステラの存在を知って抹殺したがるのも腑に落ちる。彼女は飽くまで結婚して男爵夫人になったのであって、未亡人になった今でも夫の財産を使って生きているが、直系の子孫がいるとなると話が変わってくる。この場合、エステラに当主としての権利が移り、彼女は女男爵; バロネスを名乗ることもできるのだ*11。因みにこの辺の相続の話がめんどくさくて揉めているのが『高慢と偏見』である。ベネット家の財産は限嗣相続で、女ばかり5人産まれてしまったので、親たちは娘たちが金持ちと結婚して幸せに暮らせるよう祈るしかなかったのだ。

 

つよしの髪があるのはずるい

いやもうこれはほんとずるい。この映画の全てをつよしが持って行った気がする。

 

バロネスの側近として傅くジョンを演じるのはマーク・ストロング。元々『キック・アス』で見せたように悪役が大好きな俳優なので、最後までどっちに転ぶか分からないなあと思っていたのだが、蓋を開けたらこっちサイドだった*12。こういうところも含めて、この映画の全てをつよしが持っている気がする。

 

つよしと言ったらつるっぱげ、つるっぱげと言ったらつよし、というくらいスキンヘッドがトレードマークなマーク・ストロング*13。だからこそ唐突に髪ありつよしを見せられると我ら洋画クラスタは大変弱い。もう過去の髪ありつよしが観られるので劇場に走って下さい。これが一番の感想かつネタバレだ。

——上が髪なしつよしで下が髪ありつよし、そして両方に出てくるコリン・ファース

 

(中身全くない節書いてごめんなさい、それくらいあのつよしを観に劇場へ走ってほしい笑)

 

『スマイル』で溢れ出る『ジョーカー』感

本当はこの作品の音楽をあの『ムーンライト』のニコラス・ブリテルが務めたことに触れたいのだが(あれ以来すっかり売れっ子音楽家で嬉しい限りだ)、ひとつ曲の使い方が気になってしまって、それどころではなくなってしまった。問題の曲は『スマイル』だ。丁度クルエラが悪事に向かうシーンで流れていたように思う。

 

実はこの曲は、DCコミックス作品ながら金獅子賞に輝いた映画『ジョーカー』で酷く象徴的に使われている。ヴィランを中心に据えた映画でこの曲を使ってしまうと、ああ、この映画ではあの作品のようなことがやりたかったのだな、と当然考える。元々ディズニーは世界各地の物語を「ディズニー化」してきた会社だし、だからこそ余計にそう考えるのかもしれない*14

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『ジョーカー』は悪役誕生の影にあった社会の闇を描いた作品だった。ディズニーはクルエラという悪役を描くのに、どういう手法を用いたのか? そういうところに目を付けるのも面白いかもしれない。

 

おしまい

筆者がのんびり記事を書いているうちに映画の公開からはかれこれ1ヶ月余り経ってしまった。今作は劇場と配信が同時公開されたので、既にAmazonなど大手配信サイトで映画を観ることができる。是非ふたりのエマの魅力的な悪役の応酬を観ていただきたい。

クルエラ (字幕版)

クルエラ (字幕版)

  • エマストーン
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あとこれは凄くどうでもいいのだが、どっかでこの曲が流れたら良かったんじゃないかなという曲を最後に付けておく。朝ドラ『エール』の最終回良かったですよね。

 

関連:クルエラ / エマ・ストーン / エマ・トンプソン / マーク・ストロング / クレイグ・ガレスピー*15

*1:openly queer、LGBTQであることを周囲に明らかにして生きている人のこと

*2:ガストンの腰巾着として生きているル・フウには、エマ・ワトスンが主演した2017年版の実写映画で、実はゲイで密かにガストンへ思いを寄せているという設定が追加された。LGBTQの人々が世の中にそれなりいるというのは確かな事実だが、ディズニーがこういうことをやるといつも小手先のような感じがしてならない(ポリコレの概念を敏感に突っ込んでくる割に、ジョン・ラセターのセクハラ問題は明るみになるし、何なら創業者のウォルト・ディズニーは黒人差別主義者だった。昔の作品にはそこそこアジア人差別も登場する)。正直筆者もストレート・アライではあるので、普通の映画にLGBTQが普通の役として出てくるようになればな、とは思うのだが、、、

*3:この話は、1984〜85年にかけてウェールズで起きた炭鉱労働者ストライキの期間に、国民の多くがそっぽを向く中、同性愛者たちのコミュニティが活動に共感して金銭支援を行い、それをきっかけに両者の交流が生まれたという実話を基にした映画である。作中、同性愛者たちの活動を快く思わない市民たちが、事務所にもなっていた本屋を襲撃して、ゲイの店主を袋叩きにするシーンがある

*4:勿論、チャップマンの後にもスティーヴン・フライやマット・ルーカスなど、ゲイのコメディアンは何人もいるが、彼らもゲイを茶化すような作品は結構作っているので、これは最早イギリスコメディ界のお約束と言ってもよいのだが

*5:1970年に放送されたパイソンズの『バカ歩き省』"Silly walks"で「日本人は頭の上でくるくる足を回して……」というようなネタがあるので、それを考えてもまだまだ日本は異国の地だったはずである(問題のシーンは2分50秒頃〜)。また『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(BTTF2)でマーティは日本人の上司相手に「シャチョサン!」と叫んでいるが、この映画だって1989年だ

*6:【ネタバレ】そう言えばラストシーンの贈り物が『101匹わんちゃん』に繋がる展開になっている。……流石にあれはこの話の中で1番のご都合主義のような……

*7:調べてみるとダークブラウンに染めてその後ジャド・アパトーの進めで赤毛にしたらしい。ところで赤毛は西洋だとちょっぴり嫌われていたりもする色なのだが……

*8:もっともそれができるのは既に証明済みだったのだが☞

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*9:まあトレローニー先生だって最初「えっ誰?」というような感じだったので、その片鱗はあるのかもしれない。

*10:但し翻訳は安心と信頼の松浦美奈さんなので、「ハウス・オブ・バロネス」の呼称など含めて、迷った末の「バロネス」表記なのだと思っている

*11:バロネスは結婚して男爵夫人になっただけの女性だが、エステラが家督を継いだ場合は、当主としてのバロネス; 女男爵になることができる

*12:ネタバレを防ぐためにわざとぼかしている

*13:「ストロング」なので「つよし」という安直なジャパニーズ愛称である

*14:実は『メリー・ポピンズ』の原作者パメラ・トラヴァースは、そういうディズニーの姿勢を嫌っており、この作品の映画化までには紆余曲折あった。その様子を今作にも出演したエマ・トンプソン主演で描いたのが『ウォルト・ディズニーの約束』である☞

*15:そう言えばガレスピーは『ラースと、その彼女』とか『アイ, トーニャ』で知られるのだが、両作品ともめちゃめちゃ観たいのにまだ全然観られていない(前者はごすりん案件で、後者はマーゴ・ロビーがトーニャ・ハーディングを演じた作品だ)。

杜の都から『 #おかえりモネ 』を語る - 第5週〜第7週

実生活が忙しすぎて3週分くらい溜めていた『おかえりモネ』を一気観しました。全然杜の都から語れておらん。何なら『クルエラ』の記事すら溜めています。今回は前回の続き、第5週分からです。

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  • 第5週「勉強はじめました」
  • 第6週「大人たちの青春」
    • 気象予報士試験、受けてみます
    • まさかの過去編が過去編じゃない(?)
    • トムさんの決心
  • 第7週「サヤカさんの木」
  • おしまい!

 

第5週「勉強はじめました」

遂にモネちゃんが本腰を入れて気象予報士試験の勉強に取り組み始めました。菅波先生も勉強を手伝ってくれます。……待ってわたしにそんなことできない。いくら何でも畑違い過ぎて、熱心さがなければできないことだと思います。そら米麻の皆さんも色めき立つわ(そして分かりやすい葉っぱのあんちゃん展開!)。

——「葉っぱのあんちゃん」についてはこちらをどうぞ

 

一方で、二束三文で売り払われるナラ材に心を痛めたモネは、これを登米市内の小学校の学習机に使えないかと考えつきます。乾燥にかかる時間とコストを解決するアイデアも出し、翔洋さんにはすっかり「プロジェクトリーダー!」と褒められるやら。気象の勉強も活かしながら成長していきます。しかしながら、伐採中の大雨に口を出したモネは、山の棟梁・クマさんに露骨に嫌がられてしまいます。まだまだ青い感じがあっていい展開ですね。

 

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杜の都から『 #おかえりモネ 』を語る - 第3週〜第5週途中まで

なんだか大分滞っていましたが、ちゃんと観てます。『おかえりモネ』大胆に振り返り記事です。

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帰ってきたまえだまえだ兄

亀島にこそこそと帰ってきた金髪の兄ちゃん。まさかの正体はまえだまえだ兄こと前田航基でした。ひとつ前の『おちょやん』には藤山寛美役(実質)として弟・旺志郎が出演していましたが、今作では兄が出演です。元々お兄ちゃんの方が味のある役者になりそうな気がしていましたが(私見)、最近は多少芸能活動をセーブしていたので、今回の出演はとても嬉しいです。大きくなったねえ。

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彼が演じる三生(みつお)は、寺の息子で、仙台の仏教系大学に通っているという設定です。しかしながら、三生はまさかの大学デビュー。金髪にしたのにどこか垢抜けなくて「PUNK」とでかでかと書かれたダサいTシャツを着ているのが本当にミソです(笑)。

ところでこの話で、彼の通っている大学は東北福祉大だろうなあ*1とぴんと来てしまいます。ほんと地元民からすると無駄にディテールが細かい。いいえ褒めております。

*1:福祉大は本当に曹洞宗の僧侶でないと学長になれないという仏教系大学です(あんまり知られていませんが)。ちなみに宮城県では元々禅寺が多いです

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杜の都から『 #おかえりモネ 』を語る - 第2週〜第3週月曜回

朝ドラ『おかえりモネ』勝手に解説記事、今回は第2週分です。過保護過ぎて仕事中のモネに散々電話を掛けてきていた父・耕治が突然モネの働く森林組合に押しかけてきました。そんな折地元の小学生たちが林間学校に訪れ……モネと父の過去も伺える第2週です。mice-cinemanami.hatenablog.com

ジャズで繋がっていた父娘

第1週で島から逃げるように登米に来たことが分かっていたモネ。過保護な父・耕治は、モネが島を出る話をした時のことを悔いており、引き止めればよかったのではないかとわざわざ米麻までやってきます。震災以来ぱったりと楽器をやめ、笑顔も少なくなってしまったモネ。自分もトランペットを吹く父は、娘にまたサックスをやらないのかと訊ねますが、モネは高校の音楽コースに進めなかった時点で諦めたのだと言い切ります。

 

宮城県内で音楽科がある高校はそう多くなく、仙台市内の常盤木(私立高校)か、加美にある国立音楽院のキャンパスくらいなので、気仙沼に住むモネが進学できなかったという高校は明らかに架空の存在でしょう。ここでモネが95年生まれという設定が効いてきます。前の記事でも書いた通り、東日本大震災は、95年生まれの学年が丁度中学卒業のタイミングで起きました。宮城県内の高校入試事情を考えると、この学年がみんな進路を決めたところで起こったのがあの震災だったのです。そう考えると、希望の進路に進めなかったモネが、未曾有の震災を目前にして呆然としていたというのも大分納得できます。脚本の妙です。

 

今週は大学時代の父を知る喫茶のマスターとして塚本晋也も登場しました。初回でイケメンな登場をした浅野忠信はまだ出て来ませんし、第1週でちらりと登場していたモネの同級生たちもまだ全然出て来ないので、暫く登場人物紹介週は続くのかもしれません。しかし内野聖陽の東北訛り全開なのは本当にこの辺の人って感じでいいです(笑)*1

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*1:仙台に限らず宮城県民はあんまり自覚無く訛っています。都会に近付くほど自覚度が下がりますが、耕治は地元のインテリなので余計自覚が無いのかもしれません(笑)。

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杜の都から『 #おかえりモネ 』を語る - 第1週

2004年の『天花』以来実に16年ぶりに、宮城県が舞台の連続テレビ小説(朝ドラ)が始まりました。タイトルは『おかえりモネ』。清原果耶演じる気仙沼生まれのヒロインが、登米森林組合に就職し、気象予報という仕事に出会うお話です。今年は震災から丁度10年の年ということもあって、脚本にも力が入っているよう。ここまで2週分を見てみましたが、大分出来の良いドラマでびっくりしました*1宮城県民なら分かるローカルネタも沢山なので、折角ならばと解説記事を出してみようかなと思いました。今回は第1週分です!

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  • モネの設定
  • モネの周りの人々
    • 永浦家
    • 米麻の人々

 

モネの設定

 モネこと永浦百音は1995年9月生まれの19歳(物語の最初は2014年設定です)。朝ドラの主人公が90年代後半生まれというのにちょっと年の流れを感じます。ヒロインが急に同世代に!

 よしなしごとはさておき、モネは台風の日にやっとのことで島を渡って生まれてきた女の子です。この台風は平成7年の台風12号。関東をかすめて三陸沖を北上し、被害をもたらした台風のようです。やんやと騒ぐ父・耕治に対して、黙って船を出した浅野忠信のかっこよさよ。登場人物がなかなか多いので、2週目まで影も形もありませんでしたが、このうち出てくるのが楽しみですね。

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 その後急に現在(2014年)になったカットで、モネは彩雲に感動してパシャパシャと写真を撮ります。大分珍しい現象ですが、実は仙台では2005年に広く観測されてニュースになったという話がありました。この後も1回か2回くらい見たような記憶があります。

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 ところでモネちゃんは1995年生まれですが、これはこの学年が丁度中学卒業の年に震災に遭っているからでしょう。短くインサートされたカットから、モネは震災の日の津波で高台に避難したことが伺えます。実は震災の前々日、3月9日に前震があったのですが、この日は公立高校の入試日で、一部の会場で試験が中断するなど影響が出ていました。仙台市内の中学校なら震災の翌日が卒業式の予定日でしたし、気仙沼とはいえ大きな日程の差はないと思います。彼女が震災のことを聞かれて、「そこにはいませんでしたから」というのも、もしかしたらそういう事情かもしれません。

 

 そして物語が2014年から始まるのもちょっとした縁を感じます。実はこの1年後、2015年9月に宮城県は大きな豪雨災害に見舞われました。きっとこの時、モネちゃんはまた気象予報士という仕事の重要さに気付くのではないかと思います。(また余談ですが、2019年10月にも台風により丸森町などを中心に大きな被害を受けていますので、もしかしたらこちらも盛り込まれるかもしれません)

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*1:なんせ『天花』の時は当時の最低視聴率だとか言われてしまったので……いぐねの話良かったんですけど……

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