メリー・ポピンズが帰ってきた。見事なまでに帰ってきた。🌂
日本では今年2月に公開された『メリー・ポピンズ リターンズ』。1964年に公開され、ジュリー・アンドリュースにアカデミー主演女優賞をもたらした傑作ミュージカルの、実に54年ぶり*1となる続編である。主演のメリー・ポピンズをアンドリュースから引き継いだのは、『イントゥ・ザ・ウッズ』でディズニー・ミュージカルデビューしていたエミリー・ブラント。また、前作のバート(演:ディック・ヴァン・ダイク)に相当する役には、『ハミルトン』『モアナと伝説の海』を大ヒットに導いた、歌って踊っておまけに曲まで書けるミュージカル界の天才リン=マヌエル・ミランダを迎えている。公開から2ヶ月も経っている作品を今更、という感じもするが、敢えて今だから書ける話をしていきたいと思う。
www.youtube.com - 「メリー・ポピンズが帰ってきた!」ひゅー!
前作はこちらから。
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簡単に前提整理 - 前作から時は流れて
バンクス家の母ウィニフレッドが婦人参政権活動に勤しんでいた前作の舞台は1910年*2。今作の舞台はそれから24年経った世界恐慌の時代に設定されており、バンクス家の弟マイケルとその子どもたちが物語の主軸となる。前作に登場したバンクス夫妻は既に亡くなっているようだが、メイドのエレン、そして隣家のブーム海将はまだまだ現役(?)である。そんなマイケル、妻を亡くして男やもめなだけでなく、不況の真っ只中にあって画家の商売は上がったり。妻の医療費に使った借金が嵩んで、家を追い出されかねない有様……そんな難局に手を差し伸べるべく、メリー・ポピンズがバンクス家へ帰ってくるのである。
メリー・ポピンズがやってきた理由は前作とまるで別
※ここから先には前作『メリー・ポピンズ』のネタバレがあります※
ところでメリー・ポピンズがバンクス家にやってきた理由は、前作とまるで逆である。今作の主軸となるのは、バンクス家の弟マイケルとその子どもたちだ。最初に筋書きを読んだ時、「メリー・ポピンズがバンクス家に帰ってくる!」とあったので、筆者はてっきり「またとんでもないわんぱく組か……」と思ってしまったほどだった。しかしながらマイケルの子どもたちは、父親の子ども時代とは似ても似つかないくらい利口な子ばかりなのである。
前作を観た方はお分かりだと思うが、『メリー・ポピンズ』に登場するジェーンとマイケルは、とにかく手に負えない子どもたちだ。両親がどんなナニー(教育まで請け負う乳母である)を雇っても、こっぴどい悪戯を仕掛けて降参させてしまうので、雇用が長続きしない。本人たちは「ナニーが嫌なことをするから」と述べているが、その悪戯は明らかに度が過ぎているし、しつけがなってないのは間違い無い事実だ。だからこそ父親のバンクス氏は、サフラジェット活動にうつつを抜かす妻ウィニフレッドを苦々しく思っているのである(勿論自分の責任は棚に上げて)*3。正直なところ、ジュリー・アンドリュースが大好きな筆者でさえ、この設定は少し気にくわないというくらい、映画のバンクス家はトンデモ家族なのだ。
しかし今作の子どもたちは、先述の通り「完全な」いい子である。双子のジョンとアナベルは、買い物だって買って出るし、小さな弟ジョージーの世話だって父に代わって請け負っている。おでかけするにはきちんとした服装を着ていくし、だだもこねないし、はっきり言ってマイケルの子どもとしては出来すぎだ。メアリー・ポピンズがやってきてしつけ直す必要はどこにもない。
そんな子どもたちにメアリー・ポピンズが課す宿題は、「子どもの心を取り戻すこと」。彼女の側には、母親がいなくなった穴を埋めなくてはと子どもたちが背伸びしていることなんてお見通しだ。子ども本来のイマジネーションを取り戻させる入浴時間に(『想像できる?』"Can You Imagine That?")、母はいつでもそばで見守っているのだと諭す『幸せのありか』"The Place Where Lost Things Go" など登場曲のほとんどで貫かれる彼女のポリシーは、最終曲である『舞い上がるしかない』"Nowhere to Go But Up" で周囲の大人たちにまで浸透するのである。
これは大人のためのおとぎ話
そういうわけで、今作の筋書きは、誰もが手を焼く駄々っ子たちを見事にしつけ直した前作とまるで逆になっている。社会のしがらみの中で失った子供心を取り戻すというのは、ディズニーが直前に送り出した『プーと大人になった僕』"Christopher Robin"('18)でも描かれたテーマだが、ファミリー映画の枠組みから考えると少し難解だ。また本作では、メリー・ポピンズが作り出す魔法の世界が目まぐるしく展開され、その辺りも小さな子どもには難しそうな気がする*4。
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それではこの映画の主目的はどこにあったのだろうか。その鍵を解くのは、ひとつ上の節で触れた『舞い上がるしかない』"Nowhere to Go But Up" である。登場人物たちが次々に風船を買い求め、風船に引かれるように空へと舞い上がっていく。その中でマイケルは、メリー・ポピンズの魔法が決して夢ではなかったことに気付き、明日を生きる活力を取り戻すのである。
本作の設定は大恐慌時代であり、マイケルはよすがとする妻を亡くしている。先の見えない辛い時代だからこそ、子どものような心を取り戻せというのが本作のメッセージだ。そしてそれが響くのは、日々の生活に疲れて余裕のなくなった大人たちの側であり、そういう訳で今作は「大人のためのおとぎ話」に仕上がっているのである。
目まぐるしく展開するメリー・ポピンズの魔法
トラヴァースの原作も、短編仕立てのようにメリー・ポピンズの魔法がいくつも繰り広げられる筋書きになっているようだが、今作では、アンドリュース版に輪を掛けて魔法の世界が展開される。お馴染みの階段シーンだけでなく、先程も触れた入浴シーン、ロイヤル・ドルトンの器でのピクニック、トプシーとのどんちゃん騒ぎ……

- 作者: P.L.トラヴァース,メアリー・シェパード,Pamela Lyndon Travers,林容吉
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その内容については次のサントラ記事で詳しく触れる予定だが、映画を観ながらふと思ったのは、「ディズニー、もしかしてアトラクション作るつもりじゃないの……?」ということである。
本家本元の『メリー・ポピンズ』は、長らくディズニーの実写・アニメ混合作の金字塔として君臨していながら、これがモチーフになったアトラクションは作られずにいた。東京ディズニーランドでもグリーティングこそあるものの、メリー・ポピンズが主役のアトラクションは存在しないままである。正確にはキャッスルカルーセルのBGMとして『チム・チム・チェリー』が使われているが、アトラクション自体のモチーフは飽くまで『シンデレラ』だ(『メリー・ポピンズ』にはバートの描いた絵の中へピクニックに行った一行が、メリーゴーラウンドの馬に乗って競馬の騎手になるシーンがあるので、この選曲はここも踏まえてのことだろう)。
本作でもしもアトラクションを作るとすれば、お楽しみの入浴シーン(『想像できる?』)、『ロイヤル・ドルトン・ミュージック・ホール』、トプシーの家での『ひっくりカメ』、ジャックが歌う『小さな火を灯せ』、そして最終曲の『舞い上がるしかない』など、素材は取り放題である。内容は恐らく、ライド式でバウンスが効いた感じになり、「ピーターパン空の旅」的な感じになるのだと思うが……(妄想が止まらない筆者であった)
ロンドンの名所をさりげなく取り込んだロケ地
メリー・ポピンズの舞台は言わずもがなロンドンで、そのロケ地にはさりげなく名所がいくつも取り入れられている。物語上重要な役割を果たすビッグ・ベンはさておき、折角なので紹介しておきたいと思う。
最終盤、点灯夫たちが自転車でビッグ・ベンへと急ぐシーンでは、バッキンガム宮殿の正面にあるロータリーが登場する。ザ・マルのどん詰まりにあるこのロータリーは、そう言えば一昨年ロンドンで行われた世界陸上で、競歩のコースになっていた場所だ。
www.youtube.com - こうやってサントラを流しながら撮影してたのね……!
そしてマイケルが働く銀行の外観に使われたのは、何とイングランド銀行と王立取引所(Royal Exchange)である。この場所の風景は1930年代という時代設定にぴったり……! そういう古い建物が残っているのもロンドンの良さである。
監督のロブ・マーシャルは、主撮影をスタジオで行いつつも、こういった「ロンドンらしい」('London-y')スポットを取り入れた画面構成にしようと試みたと述べている。他にもセント・ポール大聖堂、セント・ジェームズ・パークなどが使われているので、是非下記記事をチェックあれ!
▶他にもこんな記事も☞Mary Poppins Returns Filming Locations - Find That Location
さてさて、観たくなってきたよね……?
そんな『メリー・ポピンズ リターンズ』、ディスク版の発売日は今年6月5日に決定したようだ。それまではサントラでも聴いて我慢しようかな……
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メリー・ポピンズ リターンズ(オリジナル・サウンドトラック)(デラックス盤)
- アーティスト: オムニバス,エミリー・ブラント,リン=マニュエル・ミランダ,ベン・ウィンショー,平原綾香,岸祐二,谷原章介
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因みにこの次はキャスト記事が続く予定……!
関連:エミリー・ブラント / リン=マヌエル・ミランダ / ベン・ウィショー / エミリー・モーティマー / ディック・ヴァン・ダイク / アンジェラ・ランズベリー / ジュリー・ウォルターズ / メリル・ストリープ / コリン・ファース / ピクシー・デイヴィーズ / ナサニエル・サレー / ジョエル・ドーソン / 平原綾香 / 谷原章介 / 岸祐二 / 堀内敬子 / 森田順平 / 島田歌穂 / ロブ・マーシャル / メリー・ポピンズ
*1:日本での公開は2019年2月1日だが、北米公開は2018年12月19日
*2:ウィニフレッドは過激派とまで言えないものの、かなり熱心な活動家であることが伺える。この頃のイギリスで巻き起こっていた婦人参政権運動のうねりについてはWikipediaを斜め読みするだけでも結構分かる(サフラジェット - Wikipedia)。ところでもうちょっと年代が下ると過激な活動で知られたパンクハースト夫人が強大な指導力を示すようになるのだが、その様子は『未来を花束にして』で見ることができる(原題はまんま「サフラジェット」)。因みにパンクハースト夫人を演じたのは本作にも出演のメリル・ストリープだ☞
*3:両親がナニーに育児を任せきりで、子どもたちを構ってくれないというのも、ジェーンとマイケルの「非行」の一端ではあったのだが
*4:全然関係無い話かもしれないが、先日たまたま『ライオン・キング』を観ていて、「えっこの映画こんなに単純なの?」と思ってしまった。ディズニー黄金期の映画は比較的単純な筋書きのものが多い