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トリプル主演だけじゃない豪華キャスト - 映画『女王陛下のお気に入り』

映画女王陛下のお気に入り』"The Favourite"('18)関連記事の3本目だが、レビュー記事の最後で予告した通り、今回お送りするのはキャスト記事。映画賞シーズン前から3女優揃い踏みということが宣伝されていたこの作品だが、賞レースでは3人全員が女優賞を沸かせる有力候補となった。オスカーでもコールマン(主演)、ストーン・ワイズ(助演)が揃ってノミネートされたが、男性陣にも素晴らしいキャストがいるので、合わせて触れてみたいと思う。

mice-cinemanami.hatenablog.com - レビュー記事はこちら

 

——"Olivia Colman is brilliant! Rachel Weisz is brilliant! Emma Stone is brilliant!"

 

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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

一応ネタバレ記事にしておくが、キャスト記事なのでそんなにネタバレは無いはずだと思う。

 

www.instagram.com以下「パンフレット」と記載する場合は、「FOXサーチライト・マガジン Vol.14 女王陛下のお気に入り issue」を指す。

 

 

トリプル主演とも言われる女優陣ぶつかり合い

先日英国アカデミー賞; BAFTAで主演女優賞に輝いたオリヴィア・コールマンは、受賞スピーチの中で、「これは私たち3人の賞」ということを語っていた。その言葉通り、作品の中身は女優陣3人がしのぎを削る展開だ。

mice-cinemanami.hatenablog.com - 詳しい話はここ

アン女王 - オリヴィア・コールマン

主演扱いのアン女王を演じたのはオリヴィア・コールマン。長年シットコムピープ・ショー ボクたち妄想族』に出演したことでも知られるが、近年ではドラマ『ブロードチャーチ』の準主演でデイヴィッド・テナント(『ドクター・フー』10代目ドクター)と共演している。

映画作品としてはコルネット3部作の2作目『ホット・ファズ』で思い切りの良い演技を見せたほか(この思い切りは本作でもよく分かる)、筆者が見ていた作品だと、メリル・ストリープサッチャーを演じた『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』、またケネス・ブラナーが新生ポワロとなった『オリエント急行殺人事件』にも出演している。

 

ヨルゴス・ランティモス作品には、2015年の『ロブスター』以来2度目の出演。パンフレット10頁のインタビューでは、脚本を読み始めた瞬間に『女王陛下のお気に入り』への出演を渇望したことが書かれている。因みにここでも指摘されているよう、Netflixオリジナルドラマ『ザ・クラウン』では、クレア・フォイからエリザベス2世役を引き継いで演じることが決まっている。

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そして今年制作されたブリティッシュ・エアウェイズのCMにも出演しており、まさにキャリアはうなぎ登り! どこにでもいそうなおばちゃん風味こそ、いそうでいない存在なのだが、彼女の魅力にやっと世間が気付いてきたという気もする。

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そんなコールマンだが、元々はケンブリッジのホーマートン・カレッジに通っていた秀才。ケンブリッジ在学中には、パイソンズやエマ・トンプソンなど名だたるコメディアン・俳優を輩出したフットライツに参加し*1、ここで『ピープ・ショー』を手掛けたデイヴィッド・ミッチェル、ロバート・ウェブと知り合っている(ガーディアン、2007年)。

パンフレットのインタビューでは、彼女ですらアン女王の物語を知らなかったと語っている(10頁)。グレートブリテンの初代女王となりながら、イギリスでもすっかり忘れ去られた人物となってしまったアン女王だが、だからこそ思い切りのいいコールマンの演技が光ったのではないかと思う。

 

レディ・サラ・チャーチル - レイチェル・ワイズ

アン女王の幼馴染みにして英国を影で牛耳るレディ・サラを演じたのはレイチェル・ワイズ(ヴァイス)。ランティモスとはコールマン同様『ロブスター』以来の共作だ(ワイズは『ロブスター』でも主要人物を演じている)。現在は007役でもお馴染みのダニエル・クレイグと結婚しているが、以前は『マザー!』が日本で劇場公開から一転DVDスルーになった過去を持つダーレン・アロノフスキーと交際しており、何となくランティモス作品を好むのも分かる気がする*2

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アン女王を通じて英国を意のままに動かすレディ・サラは、今作で冷静沈着、時に大胆な人物として描かれている。そのキャラクターに説得力を持たせるのが、ワイズの美貌とほとんど感情を見せない表情、そしてコールマンとのふたり芝居になった途端に相好を崩す、明確なコントラストだと思う。また彼女は常に誇り高い人物として描かれており、ワイズの凜とした姿はそれに相応しい演技であったと思う。

 

既に地元イギリスでBAFTA助演女優賞を獲得したワイズ。同じ部門には今作でも名演を見せたエマ・ストーンが控えており、オスカー助演女優賞の行方が楽しみな結果である。ワイズが受賞すると2005年の『ナイロビの蜂』以来の受賞となる。やはりコールマンが言うように、この作品の女優賞は、コールマン・ワイズ・ストーンの3氏に対して与えられるべきだと思うばかり……*3

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そう言えば今作ではマーク・ゲイティスと夫婦役を演じていたが、ふたりは2016年の映画『否定と肯定』"Denial"でも共演していたのだった。トム・ウィルキンソンアンドリュー・スコットティモシー・スポールというブリテン島の名優揃い踏みで、ホロコースト否認の学者に名誉毀損裁判を起こされたデボラ・リップシュタットの実話を描く作品だ。

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アビゲイルヒル(→マシャム) - エマ・ストーン

いとこのサラを頼って仕官し、女王の寵愛を得てのし上がっていくアビゲイルを演じたのはエマ・ストーン。元々この作品を知ったのは、彼女の『ラ・ラ・ランド』の次回作がこれだというニュースだったので、わたしにこの作品を見させたのは半分以上ストーンである。

 

彼女は元々勉強熱心な女優として知られているが、撮影前にはアクセントコーチに付いて完璧なブリティッシュ・アクセントを習得したとのこと(パンフレット13頁)。結局はそのアクセントが古典的過ぎて、コールマンやワイズに合わせた現代的なものに矯正し直したというが(パンフレット13頁)、その努力たるや……という気がする。

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また、コールマン同様に、ストーンも元々思い切りの良い演技をする女優。将来の夫となるマシャムを言い負かすシーンや、協力を依頼するハーリーに「わたしはいつも自分の側」と言い切るシーンなど、根は勝ち気なアビゲイルをよく表現しているシーンがいくつもあった。これが彼女の末恐ろしさを感じさせることにも繋がり、改めて名優だなと思わされた次第である。頭が空っぽの人間というよりは、知性やずる賢さを内に秘めた女性を演じるのが得意なので、ナイスキャストとしか言いようが無い。

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 ——何度でも紹介するけれど、ストーンのそんな演技が観られるのはこれ

 

今回のアカデミー賞では、2014年の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』以来の助演女優賞ノミネートだ。こちらで演じるサムは、アビゲイル以上に鬱屈とした闇を抱える人物でもあり、ストーンの真骨頂という印象もある役。『女王陛下のお気に入り』と同じくフォックス・サーチライト作品でもあり、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』を挟んで、この素晴らしい制作会社と蜜月を築いているのは嬉しいものだ。

 

男性陣だって負けてないぜ

したたかなトーリー党首ハーリー - ニコラス・ホルト

アビゲイルの又従兄弟にして、彼女を利用するトーリー党首を演じるのはニコラス・ホルトX-MENシリーズのビーストとしても知られる一方、『シングルマン』ではコリン・ファース演じる大学教授に近付くケニー役も演じている。

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そんなホルトにアカデミー賞3回獲得のサンディ・パウエルが与えた衣装は、女性陣よりも華麗で色彩豊かなもの。ふわふわな鬘だけでなく、長身な彼(190cm)を余計強調するような3インチのヒールで、ハーリーの存在感は余計に高まっているのである(パンフレット16頁、35頁)。パウエルの衣装だけでなく、この作品ではハーリーやマシャムといった若手政治家の方が濃い化粧をしているのも注目点だ。

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そんなホルトだが、先日公開された(仙台は3/1公開)『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』でタイトルロールを演じている。サリンジャーの妻役として『ボヘミアン・ラプソディ』のルーシー・ボイントンも出演している作品で、筆者はちょっとそそられている。

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フォックス・サーチライトと蜜月を築いたストーン同様、ホルトの次回作もサーチライト作品。今夏全米公開されるこの作品で彼が演じるのは、何と『指輪物語』のJ・R・R・トールキンとあって、期待が高いものだ。

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アビゲイルに手玉に取られる夫マシャム - ジョー・アルウィン

アビゲイルにすっかり手玉に取られてしまうマシャムを演じるのは、新進気鋭のジョー・アルウィンテイラー・スウィフトとの交際が話題となっている彼だが、フィルモグラフィを見ると、ルーカス・ヘッジズがゲイを「矯正」される苦悩を演じた『ある少年の告白』"Boy Erased"、今作、今年賞レースを賑わせたもうひとつのコスチュームプレイ『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』など、話題作出演歴が目白押しといったところだ。

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終始ちゃらちゃらとした印象で、アビゲイルに使われるばかりで頭も働かなそうな印象のあるマシャム(メイシャムと読むのかと思っていたら「マシャム」呼びであった)。本人もパンフレットのインタビューで、男たちは実権を握っているように見えて女たちの手の中で踊っているに過ぎないのだと述べている(16頁)。

ところが実際のマシャムは、アンの死でアビゲイルが失脚した(正確には「宮廷を去った」)後も、次代のジョージ王に取り立てられ、王室債権徴収官として40年近く働いている。この後爵位を継いだ息子が死んでマシャム家はお取り潰しとなったが、なかなかしたたかに生き抜いていた人物なのである。

 

戦功の割に影が薄いモールバラ公 - マーク・ゲイティス

レディ・サラの夫にして、戦争の指揮官としても働いたモールバラ公ジョン・チャーチルを演じるのはマーク・ゲイティス。映画の冒頭通り、ブレンハイムの戦いの戦功でブレナム宮殿の敷地を下賜された人物だ(現在ブレナム宮殿は世界遺産である)。

 

そんなゲイティスは、元々「ザ・リーグ・オブ・ジェントルメン」というコメディ集団を結成していたコメディアン。この時スケッチメイトを務めていたのが、『ゴースト・ストーリーズ』の共同監督でもあるジェレミー・ダイソンだ。

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リーグ・オブ・ジェントルマン 奇人同盟!』でもダイソンと共になかなかのエログロホラー好みを見せていたゲイティスだが、実はご長寿ドラマシリーズ『ドクター・フー』、またイギリスが誇る名探偵シャーロック・ホームズギークという一面も。好きが高じてなのか、スティーヴン・モファットと共に『ドクター・フー』リブートシリーズを手掛けたほか、更にはホームズを現代に蘇らせた大人気シリーズ『SHERLOCK/シャーロック』をローンチしてしまうほど。彼のダークコメディ好きは、『SHERLOCK』第4シーズンがあまりに暗すぎると若干叩かれた話にも垣間見ることができる(笑)。

 

そんなモールバラ公が、ウィンストン・チャーチルチャールズ皇太子の前妻ダイアナ妃の先祖であることは先述の記事で触れた通りである。

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最後に

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関連:女王陛下のお気に入り / ヨルゴス・ランティモス / オリヴィア・コールマン / レイチェル・ワイズ / エマ・ストーン / ニコラス・ホルト / ジョー・アルウィン / マーク・ゲイティス / フォックス・サーチライト

*1:他にもヒュー・ローリーとスティーヴン・フライローワン・アトキンソンなどを輩出したという豪華さ。パイソンズの中でケンブリッジ出身なのはクリーズ、チャップマン、アイドルの3人だが、全員がフットライツ出身のほか、アイドルは部長まで務めている

*2:アロノフスキーの作風についてはこちらをどうぞ☞ダーレン・アロノフスキーは何故、精神と肉体を徹底的に傷つけるのか?【フィルムメーカー列伝 第十三回】 | FILMAGA(フィルマガ)

*3:映画を観た限りでは、何となくワイズの方が評価されそうな印象があったが、『ビール・ストリートの恋人たち』のレジーナ・キングが大本命なので、大人しく両方応援しておこうと思う(勿論レジーナ・キングも応援しているので胸が痛いが)。

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