2004年の『天花』以来実に16年ぶりに、宮城県が舞台の連続テレビ小説(朝ドラ)が始まりました。タイトルは『おかえりモネ』。清原果耶演じる気仙沼生まれのヒロインが、登米の森林組合に就職し、気象予報という仕事に出会うお話です。今年は震災から丁度10年の年ということもあって、脚本にも力が入っているよう。ここまで2週分を見てみましたが、大分出来の良いドラマでびっくりしました*1。宮城県民なら分かるローカルネタも沢山なので、折角ならばと解説記事を出してみようかなと思いました。今回は第1週分です!
モネの設定
モネこと永浦百音は1995年9月生まれの19歳(物語の最初は2014年設定です)。朝ドラの主人公が90年代後半生まれというのにちょっと年の流れを感じます。ヒロインが急に同世代に!
よしなしごとはさておき、モネは台風の日にやっとのことで島を渡って生まれてきた女の子です。この台風は平成7年の台風12号。関東をかすめて三陸沖を北上し、被害をもたらした台風のようです。やんやと騒ぐ父・耕治に対して、黙って船を出した浅野忠信のかっこよさよ。登場人物がなかなか多いので、2週目まで影も形もありませんでしたが、このうち出てくるのが楽しみですね。
その後急に現在(2014年)になったカットで、モネは彩雲に感動してパシャパシャと写真を撮ります。大分珍しい現象ですが、実は仙台では2005年に広く観測されてニュースになったという話がありました。この後も1回か2回くらい見たような記憶があります。
ところでモネちゃんは1995年生まれですが、これはこの学年が丁度中学卒業の年に震災に遭っているからでしょう。短くインサートされたカットから、モネは震災の日の津波で高台に避難したことが伺えます。実は震災の前々日、3月9日に前震があったのですが、この日は公立高校の入試日で、一部の会場で試験が中断するなど影響が出ていました。仙台市内の中学校なら震災の翌日が卒業式の予定日でしたし、気仙沼とはいえ大きな日程の差はないと思います。彼女が震災のことを聞かれて、「そこにはいませんでしたから」というのも、もしかしたらそういう事情かもしれません。
そして物語が2014年から始まるのもちょっとした縁を感じます。実はこの1年後、2015年9月に宮城県は大きな豪雨災害に見舞われました。きっとこの時、モネちゃんはまた気象予報士という仕事の重要さに気付くのではないかと思います。(また余談ですが、2019年10月にも台風により丸森町などを中心に大きな被害を受けていますので、もしかしたらこちらも盛り込まれるかもしれません)
モネの周りの人々
永浦家
おばあちゃんがカキに転生していることで話題となった(?)モネの実家・永浦家。祖父は元々遠洋漁業の漁師だったようですが、今ではカキ養殖業に転じています。歳を取って養殖業に転ずるというのは結構あるあるな話です。ここでもう「分かってる〜!」となってしまう。
モネの祖父は、登米の山主であるサヤカさんと旧知の仲です。モネと妹の未知に、山の木の恵みがカキにゆくのだと教えたのも祖父・龍己。この話を聞けば、この辺の人は「あ、『森は海の恋人』だな」と思うことでしょう。龍己の人物造型はきっと『森は海の恋人』活動の畠山重篤さんをモデルにしています。気仙沼でカキ養殖業を営み、上流にある岩手県の山で熱心に植樹活動をされている方です。
みーちゃんこと妹の未知は、水産高校で食品開発に勤しんでいます。将来は大学院まで進学して、水産業を発展させたいらしい。何と頼もしい高校生でしょうか? この辺りで水産系の高校というと、多分気仙沼向洋(宮城県気仙沼向洋高等学校)をモデルにしているのではないかなと思います。
過保護な父・耕治は銀行員。そして母・亜哉子は元教員です。第2週で父は仙台の大学に進学し、戻ってきて銀行員になっていることが分かりました。経済系の大学というととんぺい(東北大学)か学院(東北学院大学)あたりが順当かなと思います。この辺で最大手の地方銀行と言えば七十七銀行なのかなと思いますが、だとすれば耕治は宮城県内ではなかなかのエリートコースです。一方でジャズを愛し、トランペット吹きとしても活躍していたようですが、だとしたらサクソフォニストのモネと一緒にジャズフェスに出たりしていたのでしょうか。
www.j-streetjazz.com - 今年は出来るといいなあ
母・亜哉子も元教員ですが、宮城県内はまだ教員信仰が強めの地域なので、学校の先生というだけでそこそこ崇められますしかなりのエリート扱いされます。銀行員と教員の夫婦と言えばなかなかしっかりしたおうちですね。なお母を演じる鈴木京香は仙台市出身です。結構いい訛りをしています(笑)。
なおモネの実家がある亀島は、気仙沼市の沖に浮かぶ大島をモデルにしていると考えられます。2019年に島の悲願だった橋が開通しましたが、それまでは気仙沼から定期船が運航されていました。橋の開通後お役目を終えた路線ですが、そのうちドラマで廃線も描かれたら面白いですね。
大島と本土がつながり、お役目を終えた大島汽船。ありがとうございました。これも歴史の1ページ。#気仙沼 #気仙沼大島大橋 #大島汽船 pic.twitter.com/dYYkI27mnU
— 気仙沼プラザホテル (@kesennuma_plaza) 2019年4月7日
米麻の人々
作中では「米麻」(よねま)として登場しますが、登米能の話があったり、第2週で旧登米高等尋常小学校が登場するなど、明らかに登米(とよま)をモデルにしています*2。筆者はとよまが大好きなので舞台になって嬉しいです! とってもよいところなのでコロナさんが収まったら是非足を運んでくださいね。
でんでん演じる川久保さんと、はまけん(浜野謙太)演じる翔洋さん*3が言い合いしているシーンもひとつ見どころ。露骨な登米PRコーナーになっていて笑ってしまいます。川久保さんは石ノ森章太郎原画展を推していますが、後の台詞で出る通り、石巻のマンガッタンのイメージが強すぎて、登米が石ノ森章太郎のふるさとであることはほとんど知られていません。
www.city.tome.miyagi.jp - こっちが生地・中田にある方
www.mangattan.jp - こっちが石巻にでっかく鎮座してる方
一方翔洋さんが必至に取り組んでいる登米能も、長い歴史を誇る伝統芸能です。登米には実際美しい能舞台があり、ここで年1回、9月に能が披露されています。翔洋さんは「伊達政宗公の時代からあるもんだ」と息巻いていますが、実際政宗は陸奥という田舎におりながら、風流を愛した文化人でもありました。つくづく、生まれた年が20年早ければ、戦国の世の運命はまるで違っていたのではないかと思わされる人物です。
toyoma.co.jp - とよまの歴史施設6施設は共通券でぐるりと回ることができます! 是非行ってみてね!
因みにこの対決は、東京からやってきた気象予報士の朝岡が石ノ森章太郎ファンだったことで川久保さんの勝ちになりました。回を進めたところで、西島秀俊がノリノリで水木一郎ばりのスカーフを付けていて笑ってしまいます。
森林組合に併設された診療所に1週ごとやってくるのは坂口健太郎演じる菅波先生。いつもせっせと文献を読み漁る真面目な先生……もとい、ちょっとめんどくさそうな先生です。お医者さんあるある:1番聞かれたくない質問の「何故お医者さんになろうと思ったんですか?」(☜結構リアル)を投げてきたモネちゃんに、「人の命を救いたいと思ったから」と答えちゃうところも、何だかめんどくさそうな匂いを感じるポイントです。そしてこういうのって大体ヒロインといい仲になるフラグですよね! ね! 今回はオリジナル脚本だしね!
(※そう言えばはまけんも西島秀俊も坂口健太郎も、『とと姉ちゃん』布陣じゃありませんか? 坂口健太郎に至っては「葉っぱのあんちゃん」として登場して、高畑充希演じるヒロインと大分いい仲になっていましたよね? おおっと……?)
森林組合に出入りするおばちゃんとしてちらっと出ている人物にも注目です。吉田みよ子役の大島蓉子はお隣古川出身。『TRICK』で仲間由紀恵演じる主人公を追い回す大家役として出演していたあのおばちゃんです。鈴木京香に続く地元枠ですが、今度は誰が出てくるかな……?
第2週では、吉田さんたちが作った登米の郷土料理が登場。小麦粉を練ったはっとを入れたおつゆであるはっと汁も、油麩を卵と合わせて炊いた油麩丼も、どれも大好きなメニューなのでここぞとばかりに出て来て嬉しい! もうコロナと仕事さえ無ければ今すぐ登米に行きたいくらい素敵です!
第1週は、翔洋さんの登米能本番のために朝岡さんが見事な天気予報をしたところで締めくくられました。朝岡さんとの出会いはモネの人生を大きく変えそうですが……? さて今季は朝ドラを楽しみに生きていきます!
※追記:そう言えば登場人物を見ていたところ、東京でモネが暮らすシェアハウスのオーナーとしてマイコの名前が載っていました。……マイコォ?! マイコさん大好きなのに結婚・出産後大分仕事をセーブしていて残念がっていたので、めちゃめちゃ嬉しいです。余計見るぞ!
関連:おかえりモネ / 清原果耶