ちいさなねずみが映画を語る

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杜の都から『 #おかえりモネ 』を語る - 第3週〜第5週途中まで

なんだか大分滞っていましたが、ちゃんと観てます。『おかえりモネ』大胆に振り返り記事です。

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帰ってきたまえだまえだ兄

亀島にこそこそと帰ってきた金髪の兄ちゃん。まさかの正体はまえだまえだ兄こと前田航基でした。ひとつ前の『おちょやん』には藤山寛美役(実質)として弟・旺志郎が出演していましたが、今作では兄が出演です。元々お兄ちゃんの方が味のある役者になりそうな気がしていましたが(私見)、最近は多少芸能活動をセーブしていたので、今回の出演はとても嬉しいです。大きくなったねえ。

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彼が演じる三生(みつお)は、寺の息子で、仙台の仏教系大学に通っているという設定です。しかしながら、三生はまさかの大学デビュー。金髪にしたのにどこか垢抜けなくて「PUNK」とでかでかと書かれたダサいTシャツを着ているのが本当にミソです(笑)。

ところでこの話で、彼の通っている大学は東北福祉大だろうなあ*1とぴんと来てしまいます。ほんと地元民からすると無駄にディテールが細かい。いいえ褒めております。

 

わらわらと登場するモネの同級生たち

さてモネたちが出演していた「北限のゆずまつり」ですが、実際あの辺りはゆずの栽培の北限近くです(正確にはもう少し北の陸前高田あたりです)。実際の大島は椿が有名な場所です。また石巻の桃生あたりだったかと思いますが、その辺りは茶栽培の北限でもあります。

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おばあちゃんの初盆ということで今週はモネの同級生たちがわらわらと出て来ました。初回でちらっと写真が写っていた同級生女子のすーちゃんを演じるのは恒松祐里。現在は『泣くな研修医』にもレギュラー出演していますが*2、仙台繋がりということで考えれば『アイネクライネナハトムジーク』にも出演していました(物語の鍵を握る織田美緒ちゃんです)。アイネは映画にしてもとてもよい出来だっただけに、三浦春馬がもうこの世にいない悲しさをひしひしと感じます。

 

ところでゆずまつりのビッグバンド演奏、なぜクラリネットが1本だけ参加しているのか大分謎ですが(笑)、ここからジャズフェスに繋がるのかな! という感じで、もしかしたら伏線なのかもしれません。みんなが吹いていた曲「アメパト」は、『アメリカン・パトロール』という吹奏楽の定番曲です。個人的にはみーちゃんがクラリネットにストラップを付けていたのにわくわくしました。初心者のうちはアンブシュア安定のためにストラップありの方がいいとか聞いたりしますよね(もっともビッグバンド的なら無い方がパフォーマンスしやすいかもしれませんが)。そう言えば日本映画史に残る名作『スウィングガールズ』はビッグバンドを扱っていますが、舞台はお隣山形県です。

 

明らかになる「震災の日モネが不在だった謎」

震災の日モネが不在だったのは、高校の合格発表で仙台に向かっていたためでした。発表後ジャズバーでヴィヴィッドな演奏に圧倒されるモネ。ここで時計の針が14時46分に変わって1日の幕切れになるという、「震災を描かないで描く」見事な演出です。翌日何とかガソリンを得て気仙沼に帰ったモネは(実際当時の県内は、内陸部ですらガソリンスタンドに物凄い車列ができるほどでした)、津波の被害を目の当たりにし、「あの時亀島にいなかった」という念に苛まれるのです。

 

実際のところを言うと、公立中学校なら大体震災の前日が卒業式なので(しかも大体公立高校の合格発表はこの後です)*3、あの日に合格発表に行ったというのはフィクションです。でも、モネが楽器を置いてしまったことへ二重三重に意味を与えるよい脚本ではないかなと思います。

筆者もあの当時宮城県内にいましたが、内陸に住んでいたので、被害と言っても家の中がしっちゃかめっちゃかになってライフラインが暫く止まったくらいが関の山でした。文字に起こすとまあまあの被害ではありますが、細々と得られたラジオやテレビからの情報で、「津波で何もかも流された方々に比べたら……」と思っていた記憶があります。モネも、地震の揺れには遭ったものの、気仙沼を襲った大津波を目の当たりにすることはなく、みーちゃんのようにあの恐ろしさを体感したわけではありません。「わたしはみんなの恐ろしさを理解出来ない」と責めてしまうのもしょうがないでしょう。しかしながら、モネは行きたかった高校に落ちて、そのショックも覚めやらないままの時にあの震災に遭っています。それなのに辛さを吐露できないという心の痛い脚本です。

 

ところで地元の吹奏楽系にしか分からない話なのですが、父・耕治が楽器のリペアに訪れた楽器店、何だか見覚えがあると思ったら昔大分お世話になっていたもりかんさんでした!(モリタ管楽器サービス)。この辺の吹奏楽関係の人たちだと、コンクールの時とか何だでよくお世話になる修理屋さんです。この辺も大分憎い演出ですね!

 

宮城がくしゃみをすると広島の牡蠣が死ぬ

実家のカキのためせっせと自由研究に勤しむモネの妹・みーちゃん。その内容はカキの地場採苗という大人顔負けの内容でした。種カキを自分たちの養殖場で採取できればコストダウンとブランド化に繋がるのではないかというみーちゃん。その中で、祖父のカキ養殖に対する知識と、天気を読む漁師力を目の当たりにしたモネは、ますます気象予報の面白さにのめり込んでいくのでした。

 

物語でも「石巻と松島が種ガキの産地」と言われていましたが、宮城県は種ガキの産地として大変有名な場所です。カキの生産量はずっと広島に甘んじて(というか大差を付けられて)2位ですが、実は広島のカキも宮城から種ガキを持って行って作っているので、宮城県がなければ全国のカキ需要を賄うことはできません。広島の人たちに「カキと言えば広島」と言われると宮城県民はぷんぷんするのですが(笑)、それにはこういう理由があります。

一般に、広島のカキは穏やかな瀬戸内の海でゆっくり育つので、ひとつひとつの大きさが大きいと言われています。一方宮城のカキは多少小ぶりですが味が濃厚とされています。水揚げ量では水をあけられていますが、やっぱりカキが大好きな宮城県民は「カキと言えば三陸!」と思っています。(※ちなみにそんなカキの養殖については仙台うみの杜水族館で大特集されているぞ!)

 

最初の記事にも書きましたが、三陸の養殖業のために、長年上流の山へ植樹する活動が行われてきました。姫ことサヤカさんをはじめ、米麻の人々の活動は、こういった森と海の繋がりを表したものです。米麻のモデルになった登米(とよま)は、登米市の中でも気仙沼のすぐ隣。震災当時、役場機能を失った南三陸町が一時的に間借りしたのも登米市でした。海と山はまるで違うようで、密接につながり合っているのです。

 

ところで第5週、モネが米麻へ帰ったあとの電話で、母・亜哉子がカキを無菌水につけているという話がちらっと出て来ます。元々カキは周囲の水を吸っては吐き、吸っては吐きする動物で、カキがいると水がよく濾過されることも知られています。残念なことに坂口健太郎演じる菅波先生はあたってしまった経験があるようですが、下水の流れ道にカキの養殖場があると、下水に含まれるノロウイルスなどをカキが体内に取り込んでしまって、当たりやすくなってしまう……というわけです。三陸の生食用カキは、こういったことがないよう細心の注意を払って生産されたカキなので、是非安心してお召し上がりくださいね。

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実は診療所にもモデルがありました

ところで!!!分かりやすくモネちゃんときゅんな菅波先生!!!大分お塩ですけどあれですよね? これは葉っぱのあんちゃんになるあれですよね???

 

そんな菅波先生の務める診療所にもモデルがありました。数年前からここらの界隈でも話題にはなっていましたが、医療社団法人やまとが運営する僻地診療所がそのモデルです。宮城県内の僻地医療に関しては、長年宮城県唯一の医大だった東北大学が取り組んできましたが、(地域枠の奨学金を作ったりしたものの)、結局上手く行かずにいます。医局制度の中で田舎に行くことはあれど、どうしてもそれは専門科を決めた後の話になりますし、総合医の制度ははっきり言って県内ではあまりよく機能していません。宮城県に2つ目の医大東北医科薬科大学を作る時に、地域医療が掲げられましたが、1期生はまだ卒業しておらず(今年1期生が卒業です)、その担い手はまだまだといったところです。振り返って首都圏を見てみれば、埼玉を除いて多くの県で医者余りを起こしています。近年は「医師不足」より「医者偏在」の方が問題だと言われていますが、そこに入り込む形になったのがこのやまと診療所です。

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いつぞや東北大の地域枠奨学金が炎上した騒ぎがありましたが*4、地域枠の奨学金というのは諸刃の剣だと思います。地方でキャリアを積むことも可能ではありますが、現在は初期研修を終えたところですぐ専門医研修に乗るのが当たり前のようなクソプログラムになってしまったので*5、なかなかそういう道を選ぶのも少ないような印象です。

 

この後の話でモネは東京へ向かうようですので、菅波先生ともきっと東京でまた会って、ふたりの人生は重なり合っていくのでしょう。先が楽しみですね!

 

おしまい!

大分中途半端なところですが、実はまだ今週分を半分くらいしか見ていないので(笑)、今回はここで筆を置かせていただきたく存じます。広葉樹の商品開発を頼まれたモネ。『神去なあなあ日常』ばりに寡黙な山の男たちも登場し、モネも森林組合の一員として独り立ちです。以前の週で登場した子供たちとの縁も描いているところが、丁寧なドラマだなあと思います。まだまだ楽しみですね!

 

関連:おかえりモネ / 清原果耶

*1:福祉大は本当に曹洞宗の僧侶でないと学長になれないという仏教系大学です(あんまり知られていませんが)。ちなみに宮城県では元々禅寺が多いです

*2:そう言えばあのドラマめちゃめちゃ突っ込みどころが多いのですが、この話をツイートしたら原作者の中山先生にいいねされたのはめちゃめちゃ笑いました。 

*3:因みに私立高校ならもっともっと早くて、あの日には合格したか分かっています

*4:まああれ、内情知ってるのでまああの人はそういうこと言うよねとはなりますが、大して話わかんないくせに首突っ込んできた上昌広御大が、今回のCOVID-19で大炎上していたのを見て「あ……」みたいな気持ちになったりはしました

*5:つくづくあの専門医制度、子育てしたことのないおっさんたちが会議室に集まって決めたんだろうなと毎回思わされます

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