(濡れシャツ)コリン・ファースの出世作、BBC版『高慢と偏見』はマストバイ!
何気なくTwitterを眺めていたら、BBC Japanのホッキョクグマさんから、とんでもない告知がなされていた。
ジェイン・オースティン&コリン・ファースの代表作! NHK放送時の吹替えや特典を挿入したBBC「高慢と偏見」リマスター版Blu-ray & DVDがさらにお求めやすいバリューパックになって登場です!! #BBC #海ドラ #海外ドラマhttps://t.co/UtsxFLjyF1https://t.co/WDLk8dVYEc pic.twitter.com/hPHtta7kd9
— BBC Japan (@BBCJapan) 2019年12月2日
な、な、なんだってーーーーーーーー! 今年のクリスマスのマストバイだよ!
こんな風に筆者を慌てさせたこの作品は、ジェイン・オースティンの不朽の名作『高慢と偏見』の映像化決定版として名高く、放送当時「イギリスの街並みから人が消えた」という都市伝説まで持つBBC版。コリン・ファースを一躍スターダムにのし上げたほか、『ブリジット・ジョーンズの日記』という二次創作にして大ヒット作まで生んだ作品である。ということで、この記事ではお買い求めやすくなったこの作品にロックオン!
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『高慢と偏見』のあらすじ
原作はジェイン・オースティンが1813年に発表した小説。ロンドンに程近いハートフォードシャーにある田舎町ロングボーンを舞台に、女ばかり5人姉妹のベネット家と、近所に逗留することになったビングリー家・ダーシー家との交流を描く作品である。
しかしながら、「交流」とは飽くまで聞こえのいい言葉であって、実際にはベネット家・ビングリー家・ダーシー家の3家の思惑がもつれた結婚合戦。都会の名家で裕福なビングリー家・ダーシー家と違い、ベネット家は田舎の貧乏一家であり、おまけにベネット家の土地は「限定相続」という特殊な方式で、父親が死ねば遠縁のいとこの手へ渡ってしまうという状況だった。そのため、母親のベネット夫人は、娘たちに裕福な結婚をさせようという下世話な魂胆が見え見えの状態。そんな母親に対し、切れ者*1で厭世的な次女リジー(エリザベス)は、一家の恥と憤慨していたのだった。
ちなみにこのリジーが筆者のお気に入りなのだが、『若草物語』でも次女のジョーにときめくし、筆者の好みは本当にブレがない*2。
そんな3家のどろどろな思惑とは裏腹に、ベネット家のおっとりした長女ジェーンは、ビングリー氏と互いに惹かれ合うようになる。しかしながらおっとりしたジェーンはなかなか恋心をストレートに言い出せず、ビングリー氏の盟友ダーシー氏とリジーの心をやきもきさせる。おまけに高慢なダーシー氏は、リジーの悪口をビングリー氏に愚痴ったところを本人に聞かれ、高慢ちきなやつと偏見を持たれてしまう。実はダーシー氏もリジーのことを悪しからず思っていたのだが、このふたりの間では「高慢と偏見」が入り乱れて……というお話。前半は3家での人付き合いが中心に描かれるが、後半からは五女リディアを中心とした一大騒動も巻き起こり、登場人物の関係性が一気に変わっていく面白さも待っている。
この辺の面白さは既にNHKの「100分で名著」で大特集されているので、原作と合わせてこちらもどうぞ。
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BBC版は長らく映像化の決定版だった
そんな『高慢と偏見』を、国営放送の威信を賭けて(?)BBCが映像化したのが、今回大特集している95年BBC版である。主役であるエリザベス・ベネットにはジェニファー・イーリー、ダーシー氏にはコリン・ファースを据え*3、ナショナル・トラストを通じてイギリス中のカントリー・ハウスなどをロケ地に選び、原作に忠実な世界を映像化したのだ。
この作品で一躍スターダムに登り詰めたのが、ダーシーを演じたコリン・ファースである。1960年生まれのファースは、当時既に35歳であり、『アナザー・カントリー』以来舞台などの活躍歴は確立されていた。しかしながら、BBC版第4話にあった「湖のシーン」と呼ばれる一節が、この作品、ひいてはファースの代名詞ともなり、ある種のセックス・シンボルとして扱われるようになるのである。そして、「イギリスの街並みから放送中人が消えた」とまで言われる大ヒットへと繋がったのだった。
www.youtube.com - 噂の「湖のシーン」
実はこの「湖のシーン」、原作に忠実なBBC版において、唯一原作から逸脱したシーンである。原作でもリジーがダーシーの実家を訪れるシーンは存在するが、リジーはたまたま帰宅を早めたダーシーと遭遇するのであり、決して泳いだ後の濡れシャツのダーシーと出会うわけではない。そういった理由もあって、濡れシャツダーシーさんはファースの代名詞となったのである。
そう、濡れシャツと言えばコリン・ファース。コリン・ファースと言えば濡れシャツ。こないだは何か「アグリーセーターといえばコリン・ファース、コリン・ファースと言えばアグリーセーター」とか言ってた気がするが気にしない気にしない。
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BBC版はあのヒット作の生みの親
濡れシャツダーシーさんでイギリス中のおねえさま方を虜にし、街から人を消したコリン・ファースであったが、そんなファースのダーシーさんに惚れ込んでしまったのが、『ブリジット・ジョーンズの日記』の原作者ヘレン・フィールディングである。何を隠そう、『ブリジット・ジョーンズの日記』は、元々この作品、ひいてはファースのダーシーさんに惚れ込んだフィールディングが、彼自身を理想の恋人として想定し、ダーシーという名字を与えて執筆した作品なのだ。おまけにブリジットとマーク・ダーシーは、『高慢と偏見』のリジーとダーシーのように、高慢/偏見が元のすれ違いを起こすという筋書きで、まさに本歌取り……!
『ブリジット・ジョーンズの日記』第1作では、時代背景が1995年の放送当時に設定されており、ブリジットもこの『高慢と偏見』に夢中な様子が描かれている*4。なんとブリジットは、ドラマが大好きなあまりコリン・ファースへの単独インタビューを取り付けるが、彼女なのでインタビューの転ぶ先は予測不可能で……?! 作品は2001年に映画化されているが、その際にはファースがマーク・ダーシーを演じるというファン垂涎のキャスティングとなった*5。主演のレネー・ゼルウィガーは、休み時間にピザを大食いして10kg以上も増量した挙げ句、アメリカ人なのにイギリス訛りを完璧に習得したとあり、彼女の役者魂にも注目の一作である。
濡れシャツダーシーさんをいじられ続けるコリン・ファース
濡れシャツと言えばコリン・ファース。コリン・ファースと言えば濡れシャツ。この役のイメージがあまりに強すぎて、本人を数年間悩ませたこの濡れシャツ。そんな濡れシャツがイギリスのおねえさま方並みに大好きなのが、我らが『ラブ・アクチュアリー』の監督、リチャード・カーティスである。
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2001年に第1作、2004年に第2作が公開された『ブリジット・ジョーンズの日記』だが、カーティスはこの2作の脚本を担当している。この作品で話題となったのは、冴えないはずのブリジットを巡って争う男性陣ふたりを、誕生日がほんの1日違いであるコリン・ファースとヒュー・グラントのふたりが演じたことだった*6。2作とも、ファース演じるマーク・ダーシーとグラント演じるダニエル・クリーヴァーの喧嘩シーンが盛り込まれているのだが、喧嘩の最中ヒートアップしたふたりは、何故か自分から水場を見つけてびしゃびしゃになる。ほんと意味も無くびしゃびしゃになる。勿論これが、カーティスによるジョークシーンであることは言うまでもない。
この2作に挟まるようにして、2003年に制作・公開されたのが『ラブ・アクチュアリー』。この作品でも、ファースは意味も無くびしゃびしゃになる。彼の役どころは傷心の小説家だが、彼が水辺で執筆していると、小間使いの女性オーレリアがめちゃめちゃ作為的に彼の原稿を沼へ飛ばしてしまう。慌てた彼はオーレリアと共にあわあわと沼に飛び込むが……
『高慢と偏見』とは違い、不甲斐ない感じのファースがびしゃびしゃ濡れシャツで現れるので、本家を知っていると笑えて仕方がないシーンである。なお、このシーンの撮影で、ファースは虫に刺されて太腿がパンパンに腫れ上がる被害を被ったとかで、ほんとカーティスの悪ふざけが過ぎる。
お求めやすくなったぞ!
今回そんなBBC版『高慢と偏見』のバリューパックが登場。DVDで2,500円、Blu-rayで3,000円と大変お求めやすいので、この機会に是非どうぞ。原作を全6話のミニシリーズで映像化しており、さくっと観ることができる。一方で、人間関係の揺れ動きが多いこの作品を、余すこと無く丁寧に映像化している作品でもあるので、是非ご覧いただきたい。
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また、BBC版がいかに丁寧に映像化しているのかを考えるために、是非是非原作もお読みいただきたい。オースティンがこの作品を発表したのは19世紀初頭だが、作品の魅力は今も色あせないし、終盤にかけて事件が畳みかけるように起こって読み応えのある一作である。
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——ちなみに、そんな原作の文章を8割方そのまま使い、そこにゾンビを足した謎作品があるのだが……それはまた別の機会に!
——面白すぎるから原作読んだ後にそのままこれも読んでほしい
関連:コリン・ファース / ジェニファー・イーリー / 高慢と偏見 / ジェイン・オースティン / ブリジット・ジョーンズの日記 / ヘレン・フィールディング
*1:もっとも、物語の後半ではリジーの浅慮も分かってきてなかなかに楽しいところ
*2:そういえば『若草物語』は、エマ・ワトスン/サーシャ・ローナン/ティモシー・シャラメ主演、グレタ・ガーウィグ監督で映画化され、公開を控えているところ! ローナン・シャラメ・ガーウィグは『レディ・バード』のメンバーでもあり、なかなかに楽しみな一作である☞
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*3:余談だがこのふたりは撮影中一時交際していた
*4:また、ダイアナ妃の死でイギリス中が悲しみに包まれたことなども扱われている
*5:ちなみにこの事情からインタビューシーンは映画本編に盛り込めなかったが、セル版発売時に特典映像として別撮りされた。
*6:勿論ファースのキャスティングはフィールディングの執筆背景によるものだし、グラントの出演は彼がカーティス作品でスターダムを駆け上がったことと大きく関係がある
*7:二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション
*8:二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション
*9:二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション