ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

あなたの推しはルッツ派? それともフリップ派? - フィギュアスケート隠れたみどころ

今日はこのブログを開設してから1年の記念日! 最近は日常生活の忙しさにかまけて間が空きがちだけれど、意外と定期的にアクセスがあるようで嬉しい限りである。これからも「ちいさなねずみが映画を語る」をどうぞ宜しくお願い致します*1

mice-cinemanami.hatenablog.com - 最初の記事

 

というわけで今日の記事は映画……ではなくトリノで絶賛グランプリ・ファイナルが開催中のフィギュアスケートについてである。多回転ジャンプ花盛りのご時世において、ジャンプの成功・失敗は総合得点を大きく左右する因子だ。6種類あるジャンプのうち、前向きに踏み切るアクセルジャンプに続いて基礎点が高いのが、今回取り上げるルッツ(Lz)とフリップ(F)である。ふたつのジャンプの違いは、わずかにエッジのインアウトのみ。わずかな違いながら、多くの選手で得意不得意が分かれる面白いジャンプである。というわけで、今日は各スケーターの好みにロックオン!

 

 

そもそもどんなジャンプなの

ジャンプの基礎点はトウループ(T)<サルコウ(S)<ループ(Lo)<フリップ(F)<ルッツ(Lz)<アクセル(A)の順である。アクセルは前向きに踏み切って他のジャンプより半回転多く跳ぶので、ルッツフリップは実質的に1番難しいジャンプとも言えよう。このふたつのジャンプは、滑ってきた足と逆の爪先を突いて跳び上がるので、「トゥジャンプ」と呼ばれる。滑ってきた足をインサイド(滑ってきた円に対して内側)に倒すのがフリップ、アウトサイド(外側)に倒すのがルッツだ。

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まあめんどくさいこと言ってもよく分かんないし、動画で観るのが1番1番。というわけでこちらがフリップジャンプ。そう言えば昔、日本スケート連盟のウェブサイトには「フリップが見分けられればジャンプ通」(アーカイブ)と書かれていたっけ*2。筆者も未だにフリップを見分けるのはちょっと苦手だ。

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対して跳ぶ前にアウトエッジに倒すのがこちらのルッツ。筆者はど変態なのでルッツが1番好きである。跳ぶ前にアウトエッジにぐいっと倒すところとかたまらない。ルッツは一瞬で判別できるけど、フリップがよく分かんないのは何故なんだろうか。「好きこそものの上手なれ」なんだろうけど……

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ルッツ屋さん

筆者の大好物ルッツ屋さん。公式戦にて初めて4回転ルッツを成功させたのは2011年のブランドン・ムロズで、以来男子シングルでは切り札4回転として君臨している技である。現在現役の男子でも、ネイサン・チェン、金博洋、羽生結弦などがこのジャンプを跳ぶことができる。因みに、今や女子でもロシアのトゥルソワとかシェルバコワがプログラムに組み込んでくるので、ほんと怖い時代である……

www.youtube.com - 先駆者ムロズの4Lz

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でも、もっと長いことこのジャンプを武器にしていたのが、アメリカのアダム・リッポン。両手を挙げるタノジャンプにした3Lzが大得意で、「リッポンルッツ」という代名詞まで付いていたほどだった。怪我により離脱した時期もあったが、キャリアの最後だった2017-2018シーズンで、再び4Lzを決めてファンが歓喜したものである(その後リッポンは悲願だった平昌オリンピック代表権を掴んだのだった)。ちなみにこの4Lzを決めたNHK杯では、ヴォロノフ、リッポン、ビチェンコの3人がおっさん表彰台を作り上げてセルフィーでめちゃめちゃ遊んでた*3。そう言えばこの時は、公式練習で4Lz着氷に失敗した羽生が負傷欠場した試合でもあった。

www.youtube.com - 2017-2018シーズンNHK杯

www.nicovideo.jp  - 【追記】そう言えばこの時のエキシビションはちょっとしたネタになりましたよね(笑)

トゥルソワとかシェルバコワが4Lzを決めてしまうので色々かすみがちだが、ロシアのルッツ屋さんと言えばトゥクタミシェワ姐さんとザギトワ姐さんを挙げずにはいられない。トゥクタミシェワ姐さんは、2015年に世界選手権を制しながら低迷期が続いていたが、トリプルアクセル再び武器にして昨年大復活したロシアの特異点。気付いたらインスタTwitterもはたまたYouTubeアカウントまで開設するSNSの女帝でもある。リーザさまの3Lzは本当にお綺麗なので是非観ていただきたい。

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そしてもっと凄いのがザギトワ姐さん。姐さんはルッツの後ろに、トゥを付かずに勢いだけで跳ぶループジャンプを付けることができる。Lz-Loは現役選手が跳べるコンビネーションジャンプで1、2を争う難易度で、4回転無しでトゥルソワ・シェルバコワ・コストルナヤなどに迫るための大きな武器にもなっているのだ。動画探してたら3つ目に更にループ付けてるヤバい動画まで出て来た。まだまだザギさまも侮れない存在である。

www.youtube.com - これはオリンピックシーズンのフリーの衣装ですね

日本女子でルッツ屋さんなのは、筆者が昔から大好きなさっとんこと宮原知子樋口新葉など。個人的にはわかばちゃんの3Lzが大好きだ。彼女に限らずルッツが得意な選手は、基礎点高いんだからショートプログラムではフリップ跳ばずにルッツ跳べばいいのに〜〜〜〜〜!と思ってしまう*4。3Aの実戦投入間近に怪我が重なって話が進まずにいるけれど*5、彼女がトゥクタミシェワ姐さんのように3Aと3Lzを武器に戦ってくれるのを楽しみにしている。(そう言えばさっとんが3Aを習得中という話もあったし、楽しみですね!)

www.dailymotion.com - オリンピックは出られなかったけど、ここで銀メダル取ってきた彼女は素直に凄い

 

男子選手で言うと、羽生結弦がこの技を持っているのは先述の通りだが、ネイサン・チェン、金博洋など、羽生と共にしのぎを削る選手がいずれもこの技を持っている。チェンに至ってはルッツもフリップも4回転が跳べるのに、アクセルが比較的苦手という結構珍しい選手でもある。個人的にはこのジャンプを持っているロシアのコリヤダくんにもう1度復活してもらいたいなと思うばかりだ。最近はジャンプがいまいち決まらなかったり、手術があったりで色々苦しんでいたしね。

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そう言えばさっき終わったばかりのグランプリファイナル男子フリーだけど、公式戦での羽生さんの4Lz成功は2年ぶりだったらしい。2年前のNHK杯の公式練習で怪我をして以来因縁のジャンプだったから、公式戦でクリーンに決めてくれて嬉しかったです。というか冒頭4Lo→4Lzの流れ凄いです。そして4回転をまるで3回転のように跳んで、彼の更に上を行くネイサンはもっと凄いです。

mainichi.jp - 最近思ったのだけど、やはり今の男子シングルの頂点に君臨しているのは羽生とチェンで、どちらかノーミスの方が優勝をかっさらうのだろうなと思う

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ちなみにルッツは、踏切が回転すべき方向と逆のアウトエッジなので、回転の推進力が逃げていく感じで難しいのだという(織田信成談)。つくづくそういうジャンプが大好きな自分は変態だなあと思うばかりである。

フリップ屋さん

対して筆者が見分けるのが苦手なフリップ屋さん。代表格は浅田真央である。こうやって観ると、前向きに滑ってきて直前で後ろ向きになり、ちょっとアウトエッジな感じから跳ぶ寸前にインエッジにするんだなあ。F-Loはザギトワの武器Lz-Loに次ぐ難易度なので、これだけ並べられると浅田真央の凄さというものをひしひしと感じてしまう。

www.youtube.com - わたしの大好きなソチの『ピアノ協奏曲第2番*6も入ってて嬉しい

 

そういうわけでなのか(?)、浅田真央にスカウトされてフィギュアスケートを始めた*7宇野昌磨もフリップジャンプを得意としている。世界で初めて公式戦で4回転フリップを決めたのは、4回転の申し子ネイサンでもボーヤンでもなく、宇野昌磨だった。今季はジャンプに苦しみ、美しい4Fも3Aも鳴りを潜めているけれど、この経験を糧にしてステップアップしてくれると信じている。

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でも実は、初めて4回転フリップに挑戦したのは、宇野も憧れて止まない髙橋大輔である。この試合は2010年の世界選手権なのだが、直前の6分間練習で突然成功し、そのまま組み込んだという伝説の一戦だった。結果的には両足着氷で失敗となったが、「6分間練習で人生初めて跳べたんで、行けるかと思って組み込んだんですけど、ダメでしたね(笑)」とインタビューで喋っていて、リアルタイムで観ていた筆者も大爆笑した記憶がある(笑)。来年からアイスダンス頑張ってね、哉中ちゃんをアイスダンスに引き戻してくれてありがとう!

 

現役日本女子でフリップ屋さんと言えば、ダブルアクセル爆走少女・坂本花織だろうと思う。ダブルアクセルの爆走ぶりもさることながら、3F-3Tが決まった時の流れの良さも素晴らしいものがある。彼女もわかばちゃん同様3Aへの挑戦を公言しているが、2Aの飛距離・流れは正直世界一だと思うので*8、実戦投入大変楽しみにしております。

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海外に目を向ければ、メドベージェワもルッツが苦手なフリップ屋さん。昔3回転を5連続で跳ぶ練習とか観たことあるけど、この3F-3T-3Loも凄いですね……

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どっちも跳べるスーパーマン

散々ルッツ屋さん、フリップ屋さんと分けて特集してきたけれど、世界に目を向ければどっちも跳べるスーパーマンは普通に存在する。代表格となるのがネイサン・チェン。ルッツとフリップ、両方の4回転ジャンプを持っており、おまけに両方コンビネーションにすることができる。ちょっと跳びすぎ注意です(笑)。

www.youtube.com - 2017年四大陸選手権FSで5本の4回転を決め世界初の快挙に

 

3Aを武器に日本女子トップをひた走る紀平もルッツフリップ両方をクリーンに跳べる選手のひとり。3Aのみが注目されがちだが、濱田コーチが主軸として重要視するループも含め、苦手なもの無く全てのジャンプをクリーンに決められるというのは、ひとつ彼女の強みだと思う。

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アクセル以外の5種類で作るコンビネーションジャンプの中で、理論上最高難度なのはルッツ-フリップの連続ジャンプである。大変難しくてど変態しか跳ぼうと思わないジャンプだが、実は昨季アルトゥール・ドミトリエフくんが実戦投入していた。2本目にフリップを入れるため、ルッツを普通と逆の左足で着氷するテクニックを使っている。

 

おしまい

今回はフィギュアスケートの隠れたみどころ、ルッツ屋さんとフリップ屋さんについて特集した。クリスマス前と言えば全日本選手権だし、出場選手の好みについて気にしてみても面白いかもしれない。

 

フィギュアスケートマガジン2019-2020 Vol.3 NHK杯特集号 (B.B.MOOK1470)
 
フィギュアスケートぴあ 2019-20 ~moment on ice vol.6: ぴあムック

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ジャンプをはじめとした技のポイントについては、トリノオリンピック金メダルの荒川姐さんが初心者向けに分かりやすく書いていてお勧めなので、是非手にお取りください。

フィギュアスケートを100倍楽しく見る方法

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関連:フィギュアスケート / ルッツジャンプ / フリップジャンプ

*1:ちなみにこのブログだとハンネは物凄く分かりにくいけれど、一応昔から「あなみ」というハンネを使っていて、このブログのIDの"mice-cinemanami"も個人的には「マイス=シネマナミ」と読んでいます(勿論"cinema"+「あなみ」です)。

*2:このページ、めちゃめちゃ分かりやすかったのに、どうして無くなってしまったんだろう……

*3:おっさん表彰台とか言ってるけどこの年のこの結果はフィギュアファンとしてはめちゃめちゃ嬉しかったです。1位から順に、NHK杯の恋人、リッポンルッツの鳥さん(この年のフリーのテーマが「翼が折れた鳥の再起」でした)、イスラエル・いきいき・29歳(当時)でしたね

*4:現状ショートプログラムの構成は単独ジャンプ、コンビネーションジャンプ、アクセルジャンプの3本である。因みに筆者は浅田真央がルッツ屋さんだと勘違いしていて、キャリアの後半こういうことを考えながら観ていたのだが、彼女が得意なのは普通にフリップの方だった

*5:正直日本女子で次に3Aを跳ぶのはわかばちゃんなんだろうなあ、と思っていたら、きひらんと細田さんがあっさり追い抜いていってしまった

*6:彼女の涙も含めて、あれは彼女の人生最高の演技でした

*7:実話。元々アイスホッケーをやる気でリンクに行ったのに、浅田真央に「君、可愛いからフィギュアスケートやりなよ」と言われてフィギュアスケートを始めた

*8:「かおちゃんの2Aは世界一! かおちゃんの2Aは世界一!」(ドビー風)。3Aを跳べる紀平さんも凄いけれど、2Aの飛距離と流れの伸びやかさという点では、正直さかもっちゃんの方に軍配が上がると思っている

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