ちいさなねずみが映画を語る

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今年もクリスマスがやってきた - 映画『ラブ・アクチュアリー』

今年もマライア・キャリーが街中に流れる時期がやって来た*1

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こんな時期にやっぱり思い出すのは、おヒュー様はじめ英国俳優が勢揃いしたリチャード・カーティス映画、『ラブ・アクチュアリー』"Love Actually"('03)である。

 

 

 

あらすじ

舞台はクリスマス5週間前のロンドン。独り身を揶揄される若き首相。妻を亡くしたばかりの男やもめ。何だか部下に言い寄られるデザイン会社の社長。入社以来3年近く同僚に片想いしっぱなしのOL。彼女を弟に寝取られたうだつの上がらない作家。結婚式を挙げたばかりの新婚夫婦と、何だか様子がおかしい夫の友人。往年のヒット曲にしがみつくかっこ悪いパンクロッカー。

この映画は、そんな彼らの人生が、クリスマスに向かうにつれ少しずつ変わっていくのを描く作品だ。そして映画が進むにつれ、ばらばらに見えた彼らに、ゆるい繋がりがあったことが分かっていく。意外と世界は狭いのだ。

 

Love Actually (2003) Interconnections

Freywa, recreated by Joel Bradshaw [CC BY-SA 3.0 or GFDL], from Wikimedia Commons

 

映画を彩る10組の物語

詳しいことは映画鑑賞後にWikipediaでも観ていただければいいのだが、この作品では10組の恋愛ないし友情が描かれていく。そのどれもがカーティスらしく、ばらけてしまうことなく丁寧に描かれている。こういうオムニバス映画は『フォー・ウェディング』('94)の発展形とも言えるし、それをきちんとまとめあげるカーティスの技量たるやという感じだ*2。全部解説してしまうと完全なネタバレになってしまうので、ここではわたしの好きな俳優たちに絞って、ちょこちょこっと解説していきたい(と言って全部解説する気がする)。

 

www.crank-in.net - そう言えば来年のレッドノーズデイにはこの映画の続編が出るそうだ!

 

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英国首相デイヴィッドと秘書ナタリー

おヒュー様演じるデイヴィッドはイギリス史上最年少の首相という設定。だからこそ周囲にもちょっと舐められているし、ファーストレディがいないこともそれとなく揶揄されている。彼だって本当は心の支えが欲しいのだが、何となくいい女性が見つからない。そんな折に出会うのが新米のぽんこつ秘書ナタリー(マルティン・マカッチョン)。言葉遣いに注意しなくちゃ……と考えるあまり、首相の前でFワードを連発してしまったり、なかなかにうっかりさんである。

個人的には途中デイヴィッドがかますツンデレぶりが青臭い恋愛を見ているようで微笑ましい。何だかんだこのふたりは似たもの同士なのだ。

 

また、ダウニング街10番地でデイヴィッドが見せるキレッキレのダンスにもご注目。因みに当のご本人は、このシーンが嫌すぎて演じるのを最終日まで渋ったのは有名な話である(‘Love Actually’s’ 10th Anniversary: The Cast and Crew Reminisce About the Christmas Classic 、コメンタリーにも)。

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そう言えば最近おヒュー様も「恋多き独身貴族」生活に終止符を打ったようだが、その関係で出て来た記事に思わず笑ってしまった(さすがはイギリスの高田純次である)。

www.crank-in.net - 「走っても無駄だろ」じゃないんだよ

 

作家ジェイミーとハウスキーパー・オーレリア

おヒュー様の話をしたら、誕生日が1日違いのコリン・ファースについても話さなくてはならない。コリンが演じているのは、彼女を弟に寝取られたうだつの上がらない作家である。そんなジェイミーは、傷心のまま休暇を過ごすフランスにやってきて、ポルトガルから出稼ぎに来ていたオーレリアと出会う。英語が上手く話せないオーレリアとは意思疎通が上手く行かないが、ふたりは日々の小さな積み重ねを経て、少しずつ心を通わせるようになる。

 

via GIPHY - オーレリア役のルシア・モニス、笑顔が大変美しい

 

ところでコリン・ファース、天下のカーティス作品なので、当然のように濡れるシャツのまま飛び込んでびしゃびしゃになる。勿論このシーンは彼の代表作である『高慢と偏見』へのオマージュなのだが、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ*3でもこのモチーフは繰り返されていて笑うほどだ(因みにBJの原作にはダーシーがびしゃびしゃになるシーンは存在しない)。

 

高慢と偏見[Blu-Ray]

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そう言えばコメンタリーに出演していたグラントは、ファースの顔について「あいつのしわしわな顔見てみろよ、おっさんになっても変わらなそうな顔してるな」みたいなことを言っていた気がするが、何だかその言葉が自分に跳ね返っているような気がしてげふんげふん。(勿論今のおヒュー様も好きですけどね!)

 

3年近くの片想い、サラとカール

筆者が何度観ても泣くのがこのサラのシークエンス。詳しいことはネタバレになるので何も語らないが、奥手なサラのシークエンスは、他のシーンにまして丁寧に描かれていて、筆者1番のお気に入りである。

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サラを演じたのはローラ・リニー。ミア役のハイケ・マカチュ、カール役のロドリゴ・サントロと並んで数少ない外国人メインキャストのひとり。苦しみと喜び、両方に振り幅の大きい役柄を見事に演じきっていて、素晴らしいの一言だ。この役は、カーティスが「ローラ・リニーみたいな役者がいいんだけど、アメリカ人なんだよな〜」と言い続け、結局妻のエマ・フロイドに「そんなに言うならローラ・リニーに頼めば?」と呆れられた配役でもある(‘Love Actually’s’ 10th Anniversary: The Cast and Crew Reminisce About the Christmas Classic )。その通り彼女にぴったりの名役だ。

 

ところでこの映画、アメリカでは少し評価が低いのだが、原因はこのサラのシークエンスがどうにもまどろっこしいことではないかと思っている。でもわたしとしては、ああいう奥手な感情は充分理解出来るし、こんなところでまどろっこしいと言うなんてちょっと無粋だと思う限り。

 

そう言えばローラ・リニーコリン・ファースとこんな映画で共演していた。

 

悲しみを詰め込んだ役、カレンとハリー

カレン役のエマ・トンプソン、そしてハリー役のアラン・リックマンと言えば、共演回数も多く、英国映画界の名コンビとして知られていた。そんなふたりが演じるのは、2人の子どもを持つおしどり夫婦。口には出さないものの互いを気に掛けているよい夫婦なのだが、折悪しくミアという強烈な刺客が現れて……

 

ジョニ・ミッチェルの『青春の光と影』がすれ違った心の行方を暗示していて良演出だ。「幸せな恋愛ばかりじゃないか」と言われたカーティスは、「カレンのところに悲しみがあるからそれでいいんだ」と言ったとか言わないとか。監督から全幅の信頼を寄せられたトンプソンとリックマンの名演にも注目してほしい。

Both Sides Now

Both Sides Now

  • provided courtesy of iTunes

 

当時の若手俳優も今は売れっ子

この映画には、制作当時は駆け出しの俳優だった人物が何人か登場している。

例えばキーラ・ナイトリー演じるジュリエットのシークエンスに登場する夫ピーターとその友人マーク。それぞれチュイテル・イジョフォー(キウェテル・エジョフォーと書いた方がいいのか?)とアンドリュー・リンカーンが演じているが、かたやアカデミー作品賞受賞作『それでも夜は明ける』の主演俳優(イジョフォー)、かたや『ウォーキング・デッド』を長年率いたリック(リンカーン)である。

via GIPHY - マークのこのシーンは今作の名シーンの"ひとつ"

 

そしてもうひとりが今や『SHERLOCK』に『ホビット』にMCUにとすっかり売れっ子俳優になったマーティン・フリーマンだ。確か『The Office』の直後だから、まだまだスターダムを駆け上がり始めたばかりの頃。しかしながら、この頃には市井の人を演じさせたらピカイチの演技力が確立されているのだから、やはり名優だと思うばかりである。

via GIPHY - 飛び降りた後真顔になって人がいないか確認する辺りが見事だ

 

2017年には続編も制作

2017年のレッド・ノーズ・デイ(カーティスを中心とするチャリティ番組)に合わせ、14年ぶりにキャストが再集結して続編が制作された。

www.youtube.com単なるチャリティに留まらず、それぞれが素敵に年を重ねた姿を描き出している良作だと思う。アメリカ版では、みんなが気になっていたサラのその後が追加され、ちょっとほっこりする出来となった(ちょっと流れが悪いのはご愛嬌)。

 

どっかでもう1度観られないかなあと思ったのだが、違法アップロードしか見つからないのでげふんげふん……(正式名は"Red Nose Day Actually"なので、検索すればどこかに転がっているとは思う)

 

サントラはヒット曲満載に

サントラを手掛けたのはクレイグ・アームストロング。個人的には彼の手による3曲こそ至上の出来だと思う。ぴったりそばに寄りそう感じで素敵な曲だ。

 

 

しかしながら、この映画を有名にしたのは、随所で使われるポップソングの数々である。シュガーベイブスマルーン5といった若手人気グループから、カレンの悲しみを彩るジョニ・ミッチェルまで、幅広い音楽が使われている。是非サントラも合わせて聴いてほしい。

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最後に

どんなにアメリカ人に「辛気臭い」と言われようと、この作品はイギリスのクリスマスを描いた珠玉の作品だ。紙幅の関係で紹介しきれなかったキャストも多いので、是非クリスマスに合わせて観劇してほしいと思う。そう言えば冒頭紹介したマライア・キャリーのあの曲も登場しているぞ!

 

 

*1:杜の都でも冬の風物詩・光のページェントが行われていたりして季節を感じる次第

www.sendaihikape.jp - ところでURL「ひかぺ」なのかよ

*2:そう言えばオーディオ・コメンタリーでは、カーティスからグラントへ「君のキャリアなんて僕の作品だけだろ(笑)」と冗談が飛ばされていたが、実際おヒュー様を「ラブコメの帝王」にしたのは『ノッティングヒルの恋人』をはじめとしたカーティス作品群である

*3:第1作の公開は2001年、第2作は2004年なので、『ラブ・アクチュアリー』は丁度この狭間に当たる。ブリジットの上司クリーヴァーを演じているのはおヒュー様だ

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