テリーJの死に寄せて - パイソンズからの追悼文
現地時間のおとといモンティ・パイソンのテリーJことテリー・ジョーンズが亡くなりました。2月1日の78歳の誕生日まであとわずかという日付でした。既に筆者からも追悼記事を出しております。
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一夜明けた今日、探しているとパイソンズのメンバーが各々追悼コメントを出していて、全員分出揃っていました。せっかくなので誰がどんなコメントをしていたか紹介したいと思います。
- 長年のスケッチメイト、ペイリン
- ペイリンに続いて長い付き合いのエリック・アイドル
- #死んでないです - テリーG
- 電話を投げつけられた?! - ジョン・クリーズ
- 日本に来たこの人も
- おしまい
- 200201追記) テリーJ、78歳の誕生日になるはずだった日
長年のスケッチメイト、ペイリン
追悼記事でも書いたように、折に触れテリーJの元を訪れ、したコメでの『ミラクル・ニール!』上映時には彼に代わってコメントまで寄せてくれたペイリン。オックスフォード時代の学友ということもあり、パイソンズの中では最も長くテリーJと関わった人物です。くせ者だらけのパイソンズの中で、パイソンズ唯一の良心と言われただけあって、彼の文章はどこかあたたかみがあります。 ペイリンは自身のFacebookページを通じて談話を寄せました。
Terry was one of my closest, most valued friends. He was kind, generous, supportive and passionate about living life to the full. He was far more than one of the funniest writer performers of his generation, he was the complete Renaissance comedian - writer, director, presenter, historian, brilliant children's author, and the warmest, most wonderful company you could wish to have.
I feel very fortunate to have shared so much of my life with him and my heart goes out to Anna, Alison and all his family. ——公式Facebookより(200123 00:31(JST))
拙訳ですが。
テリーは最も親しく、最も価値のある友人のひとりでした。彼は親切で、寛大で、支えてくれ、人生を最大限楽しむことに情熱を注いでいました。彼は同世代の中で最も面白いライター・パフォーマーのひとりだっただけでなく、コメディアンとしてルネサンスを起こした人物でもありました—ライター*1、監督、司会、歴史学者、素晴らしい子ども向け作家で、自分でも望んだであろうくらい最も温かく素晴らしい同僚でした。自分の人生の多くを彼と共有できて大変幸せ者だと感じていますし、私の心はアナ、アリソン、そして彼の家族全員と共にあります。
ペイリンの追悼文にもある通り、歴史学を学んでいた彼の知識は『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』などの作品で遺憾なく活かされます。また子ども向け小説もいくつか書いており、その一部は日本語訳もされています。大学時代から実に60年近い付き合いだったペイリン。覚悟はしていたと思いますが、その心中はいかばかりかと思います。
ちなみに追悼文の最後にある「アナ、アリソン……」というのはテリーJの妻に向けたものです。生化学者だったアリソンと長年連れ添っていましたが、2012年に離婚し、2014年にスウェーデン人のアナと再婚しました。アリソンとの間に儲けた息子のビル・ジョーンズは、『ミラクル・ニール!』の製作を務めたり、チャップマンの自伝を基にした映画*2の監督を務めたりと映画界で活躍しています。
そう言えば追悼記事で書き忘れたのですが、このふたりの共作と言えば、『木こりの歌』*3も大変有名でした(もっとも歌っているのはペイリンですが)。アーティスト思考で歌を作りまくっていたアイドルにこそ及ばないものの、元々声の良かったテリーJは歌もそこそこ上手く、"I'm so worried"なんかは歌詞をよくよく聞かなければ大変いい曲です(笑)。全員のソロ曲が入っている『シングス・アゲイン』で是非確かめていただきたいなと思います。
そしてもうひとつ書き忘れたのですが、ペイリンとテリーJは、パイソンの活動が下火になった後も、共に『リッピング・ヤーン』というコメディ番組を作っていました。名実ともに一生の友人だったわけですね……
200125追記) ペイリンから更に追悼文が
ペイリンが自身のウェブサイトにて追悼記事を公開しました。1964年にオックスフォード・レビューとしてエディンバラ・フェスティバルに出た時から、パイソンズ最後の映画『人生狂騒曲』に至るまでを振り返っています。実にペイリンらしい文章なので是非ご一読を。
ペイリンに続いて長い付き合いのエリック・アイドル
追悼記事で書いた通り、アイドルはペイリン・テリーJコンビと"Do not adjust your set"という番組を作っており、これがパイソンズの前身となりました。アイドルの追悼文もそれを踏まえた内容です。
I loved him the moment I saw him on stage at the Edinburgh Festival in 1963. So many laughs,moments of total hilarity onstage and off we have all shared with him. It’s too sad if you knew him,but if you didn’t you will always smile at the many wonderfully funny moments he gave us
— Eric Idle (@EricIdle) 2020年1月22日
拙訳:「彼を1963年のエディンバラ・フェスティバルで見た時から愛している。舞台上だけでなく私生活でも、沢山の笑いや浮かれ騒ぎを一緒に経験した。もし彼のことを[直接]知っていたなら大変悲しいことだとは思うが、そうでなかったとしたら、彼がくれた素晴らしく面白い瞬間瞬間に毎日笑わされることだろう」
エディンバラ・フェスティバルというのはその名の通りスコットランドはエディンバラで開かれる芸術祭です。格式あるエディンバラ国際フェスティバルに対し、コメディなどが中心のエディンバラ・フェスティバル・フリンジはもう少しくだけたお祭りで、、マーク・ゲイティスなどを輩出したTLoGもここで賞を取っています。学生時代のパイソンズもここに参加していますし、パイソンズのケンブリッジ組が参加していたフットライツという喜劇団からは、後年エマ・トンプソンなどを輩出しています。
Thank you all for your kind thoughts and messages of support for our dearly beloved brother Terry. It is a cruel and sad thing. But let's remember just what joy he brought to all of us.
— Eric Idle (@EricIdle) 2020年1月22日
アイドルは続けてもうひとつ投稿していました。
拙訳:「僕らの親愛なる兄弟テリーに対する、皆さんの温かい気持ちやメッセージにありがとう。残酷で悲しいことだ。それでも彼が僕らにもたらしてくれた喜びを思い出そう」
なんだか『ライフ・オブ・ブライアン』のラストシーンにアイドルが加えた "Always look on the bright side of life" みたいなことを言っていますね。アイドルはこの曲をロンドンオリンピックの閉会式でも歌っていました。イギリス人ならみんな歌える曲なわけですね。わたしも前を向きたい時にはよく歌う曲です。
www.youtube.com - 公式からの本編動画消えてたから『ノット・ザ・メシア』から
アイドルとテリーJのスケッチと言えば、すぐに思いつくのはあの「ナッジ、ナッジ」です。日本ではアイドルの吹替を担当していた広川太一郎氏の軽妙な吹替でも有名なスケッチ。ぺらぺら喋るやかましい客に辟易する旦那さんを演じたのがテリーJでした。また『人生狂騒曲』中の名曲「銀河系の歌」"Galaxy Song"でも、アイドル演じるセールスマンにびっくりするおばちゃんを演じています。後者が復活ライブで演じられた時は、突然パイソンズの大ファンだったホーキング博士の声(実物)が登場したんですよね*4。
#死んでないです - テリーG
テリーGも当然追悼文を出していました。同じテリーなので混乱する人も多いと思いますが、こっちのテリーはクソアニメ作家で、まだおっちんでません。Wikipediaでも一瞬テリーGが殺されてましたが違います。何度も言いますが『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』をやっとこさ完成させた方のおじいちゃんです。
HE WAS A VERY NAUGHTY BOY!!...and we miss you.
— Terry Gilliam (@TerryGilliam) 2020年1月22日
Terry was someone totally consumed with life.. a brilliant, constantly questioning, iconoclastic, righteously argumentative and angry but outrageously funny and generous and kind human being...
1/2 pic.twitter.com/2945mp6JYQ
...and very often a complete pain in the ass.
— Terry Gilliam (@TerryGilliam) 2020年1月22日
One could never hope for a better friend. Goodbye, Tel.
2/2
拙訳。
彼は本当に手に負えない子だねえ!!……そして大変惜しいと思うよ。テリーは人生というものに完全に夢中になっていた人だった……鮮やかで、常に疑問を持ち、因習は打破して、正当な議論をしては怒る人だったが、途轍もなく面白くて寛大で親切な人間だった……そしてよく尻に痛みを抱えていたな。これ以上の友を望む人などいない。あばよ、テル
テリーGのコメントは、『ホーリー・グレイル』の撮影で共同監督をしたらぶつかりまくって、結局次作『ライフ・オブ・ブライアン』ではテリーGの方から美術監督に引っ込んだという話を思い出すと大変面白いです(笑)。彼の書いている "HE WAS A VERY NAUGHTY BOY!!"というのは、『ライフ・オブ・ブライアン』でテリーJが演じたブライアンの母マンディが、チャップマン演じるブライアンを指して言った言葉でした。「彼は救世主じゃないよ、ただの手に負えない子だよ!」ってね……
そういえば当のテリーGはこないだミソジニー/アンチフェミニズム発言をしてめちゃくちゃ叩かれてましたが、パイソンズのネタなんて差別だアンチフェミニズムだの嵐なので最早驚きません。だってキャロル・クリーヴランドは、毎週毎週出て来てはパイソンズのメンバーに「台詞を取られ」、「わたしの台詞はこれしかないのよ!」"I have only one line!"と騒いでいたんですよ。テリーGもマァ自分たちが昔叩いていたような老害になりましたね、という感じですが、そこも含めてパイソンズだなあと思います。
日本公開直前にあったテリーGのミソジニー/アンチフェミニズム発言で「『ドンキホーテ』観に行く気失くした!」とか言ってる人見かけたんだけど、パイソニアン的には「テリーGがサイケでミソジニストで差別主義者なのは昔からだろ」って感情しか無い。
— ふぁじっこあなみ (@mice_fuz_anami) 2020年1月23日
電話を投げつけられた?! - ジョン・クリーズ
昔はあまりに仲が悪くて電話だかタイプライターだかを投げつけられたというクリーズですが、近年は関係を改善し、長年のよき友として付き合っていたようです。そんな彼もTwitterに追悼文を投稿しています。よく読んだら、奇しくもわたしが追悼記事で書いたことと全く同じことを書いていました。
Just heard about Terry J
— John Cleese (@JohnCleese) 2020年1月22日
It feels strange that a man of so many talents and such endless enthusiasm, should have faded so gently away...
Of his many achievements, for me the greatest gift he gave us all was his direction of 'Life of Brian'. Perfection
Two down, four to go
テリーJのことをいま聞いたばかりだ
沢山の才能があって、飽くなき情熱を持った男が、こうそっと消えていかなくてはならないというのは奇妙な感じだ……
彼の沢山の成功作の中で、最も素晴らしい贈り物だと思うのは、彼が『ライフ・オブ・ブライアン』の監督を務めたことだ。完璧だ
2人が死んだが4人で行くぞ
"Two down, four to go"というのは前の記事でも言った通り復活ライブのタイトルを念頭に置いたものですね。リプ欄にはファンから復活ライブで「ペンギン爆発」を演じた時の写真も貼られていました。このスケッチはテレビ版でチャップマンが演じたのを、テリーJが代役として演じたものなのです。それだけにここに貼られるのに相応しい写真ですね。
So sad. Last time I saw him, with you in 2014 pic.twitter.com/5s703NHPJj
— Peter Lewis (@PeterLewis55) 2020年1月22日
公式もこのクリーズの言葉を引用していました。
Farewell dear Terry J. Two down, four to go. Love Terry G, Mike, John & Eric pic.twitter.com/RbVrAAJz2d
— Monty Python (@montypython) 2020年1月22日
日本に来たこの人も
QALの公演で久々に来日したブライアン・メイも追悼記事をInstagramでシェアしていました。上の方の注釈でも書きましたが、実はパイソンズとクイーンは同じマイアミ・ビーチさんにマネジメントされていたという縁があります。
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おしまい
ここまでパイソンズのメンバーの追悼コメントを紹介しました。実はわたしが訳すまでもなく、BBCで日本語版記事が出ていたのですが、わたしの気持ちの整理がてら記事にさせていただきました。50周年で元気な姿が観られるかなと思っていただけに、残念でなりません。
200201追記) テリーJ、78歳の誕生日になるはずだった日
本日2月1日はテリーJの誕生日。あと数日というところで78歳になるのは叶わなかったけれど、沢山の素晴らしいスケッチをありがとう。奇しくも今日は #Brexit (イギリスのEU離脱)の日ということで、テレビシリーズを3話分見返しました。モンティ・パイソンの公式YouTubeアカウントからも追悼動画として名作スケッチの出演シーンモンタージュが公開されています。
関連:テリー・ジョーンズ / モンティ・パイソン / マイケル・ペイリン / エリック・アイドル / ジョン・クリーズ / テリー・ギリアム / グレアム・チャップマン
*1:ここでは多分いわゆる作家ではなくて、スケッチを書く人をイメージしているはずなので、敢えて「ライター」と書きます
*2:この映画なんですが、晩年書いた自伝を何故かチャップマン自ら朗読してテープに残しており、その音源が使われているというよく分かんない経歴があります(笑)そう言えばこの本読まなくちゃ。
*3:テリーJ演じるサラリーマンが床屋に入ったら、何故か床屋の親父(ペイリン)は血塗れだった上に、やたらと剃刀に過剰反応する(スウィーニー・トッドかよ)。どうしようかと逡巡する彼の前で、床屋の親父は突然「昔は木こりになりたかったんだ!」と語り出すのだが、何故か彼の女装癖が明らかになり……
*4:まさかのメイキング映像はまだYouTubeで観られます。パイソンズは一時期色んなスケッチをYouTubeで公開していたのに、リリックビデオと復活ライブのメイキングを残して、大半を削除してしまったんですよね……
ちなみにパイソンズの公式YouTubeで潤沢に過去動画が公開されていた過去には、『ボヘミアン・ラプソディ』にも「マイアミ・ビーチ」として登場した敏腕マネージャー、ジム・ビーチ氏の影があります。実はクイーンだけでなくパイソンズのマネジメントもしていて、どちらも公式が沢山の権利をしっかり持っていることから、YouTubeで寛大にも公開してしまおうと試みたわけです……