ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

登場人物、全員悪女。- オスカー直前『シカゴ』特集

レネー・ゼルウィガーが久々に映画界に戻ってきて、映画賞を賑わせている。伝記映画は昨今の流行りだが、彼女がジュディ・ガーランドに扮して栄枯盛衰を演じた『ジュディ 虹の彼方へ』"Judy"('19)はそれ以上の高評価だ。若い頃に大成功を収めながら、近年は長い休養生活にあった彼女の姿を、ガーランドに重ねる人も多いのだろう。先日授賞式が行われたBAFTAでも主演女優賞を獲得し、オスカーが彼女の手に渡るのもほぼ確実な気がしている。

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ゼルウィガーはこの作品の中で、『オズの魔法使』や『スタア誕生』で美声を轟かせたガーランドに扮し、自ら彼女の名曲を歌っている。実はそんなゼルウィガー、ミュージカル映画の経験充分というのをご存じだろうか。それが本日特集する『シカゴ』"Chicago"('02)である。今日はゼルウィガーのオスカー必勝祈願として、なるべくネタバレフリーで映画版『シカゴ』の魅力に迫りたい。

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あらすじ

1920年代のシカゴでは、女が死刑にならない街として有名だったが、一方で定期的に殺人事件が起こる物騒な街でもあった。ヴォードヴィル(ナイトクラブ)の踊り子ヴェルマ・ケリー(演:キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は妹と夫の浮気現場に踏み込んで射殺し、踊り子を目指しつつしがない整備工の嫁として暮らすロキシー・ハート(演:レネー・ゼルウィガー)は、浮気相手の裏切りに激昂して射殺し、それぞれ同じ刑務所に収監される。賄賂の大好きな女看守 "ママ"・モートン(演:クィーン・ラティファ)、愛こそ取り柄の悪徳弁護士ビリー・フリン(演:リチャード・ギア)をも巻き込み、ヴェルマとロキシーは自身の「名声」を巡ってドロドロの愛憎劇を繰り広げることになる……

 

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有名ミュージカルの映画化決定版

この作品は同名ミュージカルをハリウッド映画化したものである。ゼルウィガーの演じたロキシー・ハートと言えば、米倉涼子がブロードウェイで演じてきたことでも有名だと思う。元のミュージカルも舞台界の最高峰トニー賞を受賞しているし、ブロードウェイロングラン記録を持つ三大巨頭のひとつとあって、その映画化には贅が尽くされた。

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映画化に名乗りを上げたのは、当時映画賞請負人の名前をほしいままにしていたハーヴィー・ワインスティーン率いるミラマックス。そして主演でもあるロキシー・ハート役に起用されたのが、ミラマックスの申し子として『ブリジット・ジョーンズの日記』に出演したばかりだったレネー・ゼルウィガーである。後に2006年の『ミス・ポター』でもミラマックスとタッグを組み、GG賞ノミネートを勝ち取っている。ワインスティーン問題を考えると正直何かあったんじゃないかと思うくらい、この頃のレネーはワインスティーンと蜜月を築いていた。その辺は邪推なので今回はどこかに置いておく。

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美しきヴェルマとロキシー

アルトの名優キャサリン・ゼタ=ジョーンズ

原作でもヴェルマとロキシーは何かにつけて正反対の美しき殺人犯。スクリーン上でも、黒髪でアルトのヴェルマと、金髪で声の高いロキシーが美しい対比となっていた。そんなヴェルマを演じたのは『ターミナル』*1などのキャサリン・ゼタ=ジョーンズである。元々(上で示したインタビューで話していた通り)ダンスも歌も堪能な人物で、妖艶な踊り子ヴェルマとしてその腕を存分に示している。ゼタ=ジョーンズはこの演技でアカデミー助演女優賞にも輝くなど、この年1番の女優として評価されている。

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そんな彼女の夫は名優マイケル・ダグラス。2009年には夫がアメリカン・フィルム・インスティテュートの名誉賞を受賞するにあたり、『コーラスライン』の名曲「ワン」を歌っている。そりゃ、こんな素敵なショーを見せられたら、奥さんに投げキスしますよね♡

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壮絶増量→減量で出演、ゼルウィガーの役者魂

一方のゼルウィガーは、前年に『ブリジット・ジョーンズの日記』でテキサス生まれながら主人公のぽっちゃりイギリス人女性を等身大で演じて大絶賛されていた。しかしながら、この映画でタイトルロールを演じるにあたり、彼女は元々の体型から大増量。共演したコリン・ファースに言わせれば、「飲み物を飲むようにピザを食べまくる」生活でブリジットの体型を再現したという(メイキング映像より)。

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その時のレネーの体型がこれ。原作通りデカパンを調達してくるとことかもあってほんと彼女の役者魂を実感する。テキサス生まれなのにイギリス英語を完璧マスターして、「アメリカ人がブリジットを演じるなんて!」という批判も封じ込めた……それで終わるはずだった。

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ところがこの翌年、見事に体型を絞ってロキシー・ハート役を熱演したから映画界は彼女の役者魂に2度びっくり! 『シカゴ』での名演でゴールデングローブ賞(ミュージカル・コメディ部門)主演女優賞を獲得したほか、オスカーとBAFTAのノミネートも勝ち取り、最も乗りに乗っている女優の名前をほしいままにしたのである。

 

そう言えばうっかりコリン・ファースの名前が出て来たからハドリー・フリーマンのこの記事紹介するけど、ファースはほんと出てくるエピソードが全部いい人でしかない。 流石全世界の恋人、ダーシーさん……! (この記事は『ガーディアン』で映画評論家ハドリー・フリーマンが過去参加したアカデミー賞のエピソードを振り返ったもの。女性ということもあり先述したハーヴィー・ワインスティーンなどにパーティから締め出されたり、鼻であしらわれたりしていた話を面白おかしく書いているが、その最後にファースとの逸話が載っている。フリーマンはある回で、ワインスティーンと一緒にいた男性監督に大変邪険に扱われる。そこにファースがやってきて「ハドリー・フリーマンさんでしょ! 貴女の記事のファンなんです!」と優しく接してくれたら、その後監督の態度が手の平クル〜となって大爆笑したという話)

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悪徳弁護士ビリー・フリンはなんとこの人

更に素晴らしいのはビリー・フリンを名優リチャード・ギアが演じているということである。他のキャスト同様、歌もダンスも全て自分でこなし、おまけに悪徳だが憎めない弁護士を人間らしく演じている。筆者が大好きなのはロキシーを影で操るさまを腹話術師とマリオネットとして表現した "We Both Reached For The Gun"のシーン。クライマックスでは伸びやかな声を披露していて本当に素敵。劇中ではタップダンスを披露するシーンもあるので、こちらもご覧あれ……!

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監督はロブ・マーシャル

本作の監督は、原作ミュージカルを手掛けたボブ・フォッシーの大ファンだったというロブ・マーシャル。劇場用長編映画の監督は初めてながら、この作品でアカデミー監督賞にノミネートされる快挙を成し遂げた(おまけに作品は作品賞を獲得している)。彼がこの作品から実に15年経って手掛けたのが……あの『メリー・ポピンズ リターンズ』である。『シカゴ』でも遺憾なく示された彼の才能と、ミュージカルへの愛、そして55年前の前作へのリスペクトが相まって、一大スペクタクルが繰り広げられる完璧な続編が作られた。その原点はこの映画にあったのだな……と思いながら観るのもそれはそれで楽しい。

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登場人物、全員悪女。- 有名ナンバーを是非聴いて

『シカゴ』は本当に素晴らしいミュージカルである。誰が歌う曲をとっても名曲揃い。本当はひとつひとつ解説したいくらいなのだが、それは流石にオタクが過ぎるので、ヴェルマとロキシーの名曲に絞って紹介したいと思う。

 

素晴らしいオープニング・ナンバーにしてヴェルマのテーマ曲

 

勿論 "All That Jazz"のことである。黒いアイメイクがゼタ=ジョーンズの美しさを引き立てる。ヴォードヴィルの踊り子ということもあり、歌詞は結構性的だが、彼女のアルトの歌声がそれだけではないゼタ=ジョーンズの妖艶さをも引き出す。そりゃロキシーじゃないけど「こうなりたいな」と思ってうっとり観てしまう……

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悪女たちを一気に紹介するナンバー

Cell Block Tango

Cell Block Tango

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刑務所に収監されている6人の女殺人犯の背景を示す"Cell Block Tango"。監獄の檻が横に並んだ画面は、舞台版への多大なオマージュである。単なる紹介ナンバーに留まらず、悪女ながらどこまでも美しい彼女たちの女としての魅力を示すシーンにもなっていてとてもいい。ここでもゼタ=ジョーンズのすごみのある声が炸裂している。

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勘違い女のナンバー

Roxie

Roxie

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その名の通りロキシーがスターになった自身を夢見る "Roxie"。元々可愛らしい声のゼルウィガーだが、地声よりももっと甘えたような声を出して、これでもかと勘違い女を演じているのが素晴らしい。『ジュディ 虹の彼方へ』でも舞台で歌声を披露するシーンがあったが、彼女ならジュディ・ガーランドを演じられるのも納得だ。自身の成功を信じて疑わないロキシー楽天さ加減が最高で、筆者は前を向きたい時にこの曲を聴いて、勘違い女のテンションで過ごすことにしている(笑)(勿論その前に"All That Jazz"でかっこいいヴェルマさまのパワーもいただくが)。

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ちょっとしたネタバレだけれど、この後ある登場人物が処刑されて、「え、女も処刑されんの……? 話違うじゃん……!」みたいな顔になるロキシーの演技がほんといい。表情の豊かさもゼルウィガーの素晴らしさである。

フィギュアスケートにも使われたラストナンバー

 

筆者が大好きなのはヴェルマとロキシーがヴォードヴィルで共に踊る"Nowadays(reprise)"。ふたりの踊る可愛らしいダンスに、着弾を模した演出で笑わせてくるところに、何をとっても最高である。ヴェルマとロキシーになりきって、これでもかこれでもかと素晴らしいダンスを見せてくるふたりに拍手しかない。

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この素敵なナンバーを使っていたのがさっきまでやってた四大陸選手権にも出ていた*2韓国のイム・ウンス。振付は表情豊かなスケーティングでファンを魅了した鈴木明子であった。よく観ると映画版の細かい振付まで拾っていて流石あっこちゃん……! 最近は『ラ・ラ・ランド』も人気だけれど、やっぱりミュージカル作品をフィギュアで使うの最高ですね!

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おしまい

というわけで授賞式まであと少し、是非開始まで『シカゴ』を観て暇つぶししよう……!

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ゼタ=ジョーンズ、ゼルウィガー、ギアなどメインキャストが全員生歌を披露した劇中曲は、サウンドトラックで全曲聴けるので、こちらも是非どうぞ……!

 

いよいよ日本時間で2月10日は今年のオスカー授賞式……!

関連:レネー・ゼルウィガー / オスカー / アカデミー賞 / シカゴ / キャサリン・ゼタ=ジョーンズ / クィーン・ラティファ / リチャード・ギア / ジョン・C・ライリー

*1:やっぱり、わたしこの映画がとても好きなんだなと毎度思わされます。東欧のクラウコジアが突然無政府状態になり、パスポートが無効になって帰国できなくなった男性(トム・ハンクス)と、幸せな恋愛に恵まれないCA(ゼタ=ジョーンズ)とのJFK空港での交流を描いた名作。

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*2:そう言えば羽生結弦が遂に4CCを獲りましたね……! 大変素晴らしい!

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