ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

ライアン・ゴズリングは死んでてもイケてるぜ - 映画『アナと世界の終わり』

のっけから訳分からないことを、と思われるかもしれないが、取り敢えず読み進めてほしい。

 

アナと世界の終わり』"Anna And The Apocalypse"('17) を観てきた。THE RIVERで予告編の公開が記事になった時から楽しみにしていた一作。5月末の日本公開決定後も、なかなか杜の都での公開が決まらずに鬱々としていたが、この度ようやく封切られたのでレビューをお届けする。ちなみに仙台の公開館、チネ・ラヴィータでは7月12日から2週間の限定公開とのことなので、気になる方はお早めに! (とか言いながら書く時間が無くて放置している間に最終日が迫っているけれど、気にしない気にしない!)

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そう言えばこの作品、ある雑誌では「『ショーン・オブ・ザ・デッド』meets『ラ・ラ・ランド』」と評されていたが、全編にわたって溢れていたのは、クリスマス、『ショーン・オブ・ザ・デッド』の小ネタ、そしてライアン・ゴスリングへの偏愛だった……*1

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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この記事ではナチュラルに『ショーン・オブ・ザ・デッド』のネタバレを含む可能性がありますので未見の方はご注意下さい※

 

 

 

 

 

ある動画とのミッシングリンク

予告編を観た筆者を「何じゃこりゃ」と思わせて劇場まで連れて行ったこの映画だが、実はある意外な人物が関与している。その人物の名はライアン・マクヘンリー。ライアンかぶりだけどライアン・ゴスリングではない。だけど彼のキャリアを語る上ではライアン・ゴスリングを置いては語れないのでややこしいことこの上ない

 

ライアン・ゴスリングファンの筆者にとって、マクヘンリーの名前を知るきっかけになったのは彼が元々Vineに投稿していたこの動画だった。タイトルは「ライアン・ゴスリングがシリアルを食べようとしない」。ゴスリングの出演作から上手いところを切り出してきて、画面の前にシリアルの乗ったスプーンを用意し撮影するという何ともアナログな撮影手法である。しかしながら、インターネットミームとしても大人気のゴスリングであるし(嘘だと思ったら「Ryan Gosling meme」とかで検索してほしい)*2、ローテクなのに演出が上手くて思わず笑ってしまう出来だったことから、動画は大人気、マクヘンリーの名前も急上昇することになったのである。

www.youtube.com - 2013年にも8本まとめて投稿しているけれど、これは完全版の様子。

 

この絶好のチャンスに、マクヘンリーはかねてから企画を温めていた、自身の短編映画 "Zombie Musical" (YouTubeで視聴可) の長編化に乗り出す。この作品は2011年に公開され、その年の英国アカデミー・スコットランド・ニュー・タレント賞(British Academy Scotland New Talent Awards、簡単に言うとBAFTAスコットランド支部主催の新人賞)で監督賞にノミネートされていた。ところがそんな矢先、マクヘンリーは骨肉腫と診断されてしまう(パンフレットには「珍しい骨のがん」と書いてあるが)。そして2015年5月、治療の末にマクヘンリーは27歳の若さでこの世を去ったのだった。これから多くのハイセンス作品を作ったであろう彼の死は、「シリアル動画」を知る多くの人々に悼まれたが、その中には件の動画の素材にされたライアン・ゴスリングも含まれていた。彼は自身のTwitterを更新し、遂にシリアルを口にしたのだ(BBC.co.uk)。

 

ゴスリングファンの筆者は、彼がマクヘンリーの死を悼んだ動画を投稿したところまでは知っていたが、マクヘンリーが自身の作品の長編化に取り掛かっていた事実、そしてその映画が予告編をたまたま目にした本作だとはつゆ知らずにいた。ところがどっこい、本作の日本公開が正式決定し、東京での封切りが近付いてきてこりゃびっくり。あの「シリアル動画」とこの映画のミッシングリンクを明らかにする記事を目にしたのだ。筆者はこの記事を読んだ瞬間、「あっこの映画は万難を排してでも観に行かなくちゃいかんな」と固く決心したのである。

青春ゾンビミュージカル『アナと世界の終わり』制作秘話 原作者は“ライアン・ゴズリングがシリアルを食べない”動画を作った男 – ホラー通信

ライアン・ゴズリングが追悼動画まで出したハイセンスなシリアル動画は知っていたけど、まさかこの映画の原案もこの人だったとは……観に行きます。

2019/05/15 22:02

 

改めて本編のお話

この映画を評した「『ショーン・オブ・ザ・デッド』meets『ラ・ラ・ランド』」(ETカナダ)という文章は言い得て妙で、実際本編も『ショーン・オブ・ザ・デッド』とゴスリングへの偏愛で成り立っている。舞台はクリスマスを目前にしたイギリスの片田舎、リトル・ヘイヴン*3。よくよく聞くと登場人物たちの喋りも少し訛っているのでお聞き逃しなく。個人的にはステフ役のサラ・スワイヤーとアナ役のエラ・ハントの喋りががっつりブリティッシュで凄く心地よかった。

 

作品を彩る音楽たち

主人公のアナは高校の用務員を務める父トニーと2人暮らしで、高校卒業を目前に控えている。彼女に加え、バイト先も同じ大親友のジョン、歌姫リサとちょっぴり映画オタクのカメラマン・クリスのラブラブカップル、新聞部の社会派ライター・ステフに、何故だかアナに意味ありげな視線を送ってくるチャラ男ニックが主な登場人物である。校長就任を目前にしていた教頭のサヴェージは、生徒たちの奔放さがどうしても許せない様子。そんな彼らの関係性を一気に解き明かすのが、メインソングとして予告編でも大きく取り上げられていた"Hollywood Ending"である。YouTubeには英語版リリックビデオも上がっているので、こちらも合わせてご注目! ちょっとモブな人物から歌が始まるというのも面白い演出である。

theriver.jp - 果たして彼らにはどんなエンディングが待っているのか……?!

ところで"Hollywood Ending"ではリサとクリスが熱烈なキスを見せていたが、何かの伏線なのかなと思っていたら何の伏線でもなかった。何の話や。

 

閑話休題、筆者が大好きなのはこの映画のオープニングナンバーである "Break Away"。ギャップイヤーを取りたいアナ、サヴェージの望む記事ではなく自由な記事が書きたいステフ、そして親友アナとの関係性を変化させたいジョンと、三者三様の悩みがひとつに集約されるというクレバーな作りになっている。3人に焦点を当てつつ、さりげなくニックとクリスの人となりも紹介される演出が効いている。

www.youtube.com - THE RIVERさんの解説記事もどうぞ

 

もうひとつ筆者が大好きなのは、アナがノリノリで登校するシーンの "Turning My Life Around"。音楽を聴くアナがゾンビに気付かないのは明らかな『ショーン・オブ・ザ・デッド』へのオマージュだ! (個人的には後ろで自動車事故が起こっているのも何だかSOTDっぽい)。日本語版クリップでは切れてしまっているが、この後アナは電柱で『雨に唄えば』の有名ポーズを再現しているが、そう言えばライアン・ゴスリングも『ラ・ラ・ランド』の"City Of Stars"でこのシーンを再現していた。アナ役のハントは大のミュージカル好きとあって、このシーンものりっのり!

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https://theriver.jp/wp-content/uploads/2019/05/1-AATA_5_Ella-Hunt-Anna-dancing-and-singing-oblivious-to-the-zombie-apocalypse-in-Turning-My-Life-Around.jpg
——アナが再現する『雨に唄えば』(THE RIVERさんより)

 

【キャスト編】

女性陣:物語イチのイケメンガールは、実は作品の振付師

『ハイスクール・ミュージカル』にゾンビを登場させれば面白くなるというマクヘンリーの原案通り、作品の前半ではアナを初めとした同級生たちが、ミュージカルシークエンスで歌い踊って自分たちの高校生活を表現する(内容がちょっと後ろ向きなのが流石イギリスである)。後半はどんどんとゾンビの割合が増えてしまい、キレッキレのダンスシークエンスは鳴りを潜めてしまうが、実は本作で振付を担当したのは、イケメンガール・ステフを演じていたサラ・スワイヤー!(パンフレットより)。知的で社会派でガッツもあるステフは本編でも非常にイケメンだったが、スワイヤー振付のダンスもキレッキレでステフのようにイケメンである。

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アナ役のエラ・ハントが元々ミュージカル好きなのは先述の通り。何と今作でBAFTAスコットランド賞主演女優賞ノミネート! ゾンビに気付かず登校しながら歌う"Turning My Life Around"では、ジョンと落ち合った墓地でキレッキレダンスを見せている。遅刻しそうなのに墓地で踊り狂っているというのも何か面白い。どうやらハントは『ショーン・オブ・ザ・デッド』も大好きらしく、ゾンビに出会った時に欲しいのはおペグちゃんの電話番号とショベルだとのこと*4

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もうひとり忘れちゃならないのがクリスと熱々カップルの歌姫リサを演じたマーリ・シウ(Marli Siu)。パンフレットによると、彼女はエディンバラ・ネイピア大学(ご当地の数学者、ネイピアの名前を取った大学だ)で演劇・文学の学位を取得しているが、その前にはダニエル・クレイグら多くの英国人気俳優を産んだナショナル・ユース・シアターに所属していたとのこと。つくづくイギリスは俳優育成のためにしっかりしたプログラムがあるなあと思う限りである。本作はシウにとって初めての長編映画出演とのことで、この先もチャンスをつかみ取ってほしいなと思う。

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男性陣:アナを取り巻く愉快な(?)人々

先程シウが長編映画初出演だと書いたが、男性陣もまだまだ若手揃い。イギリスの地方から生まれたスマッシュヒット作出演で、今後のキャリアをつかみ取ってほしいメンツである。アナのよき親友ジョンを演じたマルコム・カミングは今作が長編映画デビュー、元彼ニック役のベン・ウィギンズも長編2作目。大親友ながらアナとの関係性を変化させたいジョン、そして中盤で突如アナの元彼だったことが発覚するニックは、どちらも劇中で美しい歌声を披露しているが、果たしてアナが最後に選ぶのはどちらなのかご注目を。クリス役のクリストファー・ルヴォーは、役名だけでなく性格も自分にそっくりだと語っている(パンフレットより)。リサ役のシウには、「ゾンビに襲われたら真っ先に捕まりそう」(パンフレット)とまで言われてしまっているが(笑)、果たして彼の運命や如何に、というところである。そんなシウからの評判とは裏腹に、ルヴォーは本作のプロモーションでスワイヤーと武器作りに励んでいたが……

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マーク・ベントン演じるアナの父トニーは、妻亡き後娘を育て上げたせいか少し保守的な人物。彼にギャップイヤーのオーストラリア行脚を反対されたことが、アナの歌う"Break Away"の歌詞へと繋がっている。しかしながら、アナもトニーも相手を深く思いやっていて……この親子の愛情は作品を貫くキーのひとつとなっている。

 

そして、初登場からステフとアナに口うるさく迫るサヴェージを演じるのはポール・ケイ。元々イギリスではコメディアンとして活躍しているようだが、どんどんエスカレートするサヴェージの狂気を演じるにはうってつけの人物! "Nothing's Gonna Stop Me Now"では、長年の教頭生活で溜めた鬱屈さを一気に発散している。狂気に囚われたサヴェージの運命にもご注目いただきたい。

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ネタバレじゃなさそうなセレブネタのお時間

ゾンビに気付かず登校するアナ同様、同級生たちはこの大惨事にあってもどこか他人事でとんちんかんな行動を繰り返している。そんな彼らの会話としてちらっと登場するのが場違いなセレブネタである。イギリスの片田舎でゾンビアポカリプス中にセレブ話をしているというのもいい(笑)。

 

予告編でも使われていたクリスによる「ジャスティン・ビーバーがゾンビに!」という台詞だが、ジャスティンは映画で使われるセレブのお名前としてお約束の選択。そう言えばベン・スティラーが15年ぶりにズーランダーに扮した『ズーランダー No.2』でも、本人役として登場したジャスティンが文字通り瞬殺されるシーンがあったものだった。

ズーランダー No.2 (字幕版)

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ジョンはどうやらアイアンマンの大ファンである様子だが、アナせかの世界線でもMCUは大人気のようだ。バイト先のボウリング場のボールプールでジョンとクリスが交わすしょうもないトークに登場するRDJ; ロバート・ダウニー・Jr.は言わずもがなアイアンマンとしてMCUを10年間引っ張った立役者。そう言えばやっとガイリチ版ホームズ第3作の制作が始動したらしい……*5

mice-cinemanami.hatenablog.com - アベンジャーズのメインキャラではなくどちらかというと傍流が大好きな筆者の過去記事

そしてこの会話の直後、意味も無く登場するのがライアン・ゴスリングの名前である。この登場には本当に何の意味も無い。RDJとさして繋がりがあるわけでもない。どう考えても制作陣の好みである。何ならマクヘンリーの好みである。

クリス:「分かった じゃあ…… ライアン・ゴズリングは?」

ジョン:「生きてても死んでても 彼はカッコいい(ドヤ)」

——パンフレットより

冒頭で長々と書いた通り、元々この作品が長編化された背景にはマクヘンリーによるハイセンス動画があったわけだが、それにしても唐突である(筆者の観劇した劇場では思わず大勢の笑い声が聞こえてきたほど(笑))。でもまあ推しは死んでもイケてるならまあいっか……ってそうじゃねえよ!

 

おしまい

ネタバレを回避したために随分砂を噛むような記事になってしまったが、ゾンビミュージカルという新ジャンルを切り開いたこの作品の面白さは折り紙付き。おまけに高校生ならではの葛藤、家族や友人との絆という題材も扱われているなかなかに優秀な作品である。どこか脇の甘い登場人物ばかりである分、どんどんとゾンビの割合が増えていって誰が死ぬか最後まで分からないのも見どころのひとつ。ひとりまたひとりと浸食されていくのではなく、「え、そこ?」というタイミングなので、ストーリーの予測も付かない。これだけ書くとホラーのようだが、むしろコメディのテンションで進んでいくので、その辺りのアンバランスさも面白い演出である。

 

劇中を彩る曲は全部で12曲。それらが全て収録されたサウンドトラックは、Amazonなどで購入可能。先程クロールしたらノベライズ本も売っていてびっくりしてしまった。筆者もサントラを買うかどうか大変迷っている(☜買うときのパターン)。

ANNA & THE APOCALYPSE

ANNA & THE APOCALYPSE

 
Anna and the Apocalypse

Anna and the Apocalypse

 

 

字数がどんどん嵩んできたので、本作でも大いにネタにされていた『ショーン・オブ・ザ・デッド』との繋がりについては次記事にて改めて特集したいと思う。もう1度繰り返すが、仙台での上映は2週間限りということでいよいよ7月25日まで! 杜の都でアナせかを観たい人は今すぐチネ・ラヴィータへ急げ〜!

ショーン・オブ・ザ・デッド [DVD]

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関連:ジョン・マクフェール / アラン・マクドナルド / ライアン・マクヘンリー / エラ・ハント / マルコム・カミング / サラ・スワイヤー / クリストファー・ルヴォー / ベン・ウィギンズ / マーリ・シウ / マーク・ベントン / ポール・ケイ

*1:人口に膾炙してるからタイトルは「ゴリング」にしたけど、本当の発音は「ゴリング」らしいから、一応ここから下では「ス」で統一しておこうと思う

*2:1番有名なやつはにっこり顔のごすりんに"Hey Girl"とテロップが付いてるやつ

*3:一応ウェールズに子の名前の街があるのでリンクを貼ったが、出演者も制作陣もみんなスコティッシュなので、もしかしたら架空の街という設定なのかもしれない

*4:何じゃその選択と思った方はこの記事をどうぞ☞

theriver.jp

*5:監督は『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャーが内定した様子だが、『キングズマン』のマシュー・ヴォーンが『ボヘミアン・ラプソディ』の監督就任に一役買っていたことを考えると、ヴォーンとリッチーが長年のキャリアを経て同じ場所に戻ってきたようで大変エモい。マシュヴォンは元々ガイリチの『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』などをプロデュースした親友であった。

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