ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

つべこべ言う奴は吹っ飛ばせ - 映画『キャプテン・マーベル』

ブリー・ラーソン主演、MCUフェイズ3の鍵を握る待望の一作、キャプテン・マーベル』"Captain Marvel"('19)を観てきた。『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』('18)で衝撃のラストを迎えてから1年、ユニバースを救う鍵を持つのは彼女だと言われ続けてきたわけだが、果たしてその真相や如何に? というわけで、今回は初回からネタバレ考察でお送りしたいと思う。

www.youtube.com - 日本語版はこちら☞ディズニー・スタジオ公式*1

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

 

www.instagram.com - プレミア上映より

Captain Marvel Logo New

※劇中のシーンに合わせ、ブリー・ラーソンの役名は、「ヴァース」「キャロル・ダンヴァース」「キャプテン・マーベル」を使い分けています※

MCU初の女性主人公単独主演作

キャプテン・マーベル』は、『アイアンマン』('08)から始まったMCU; マーベル・シネマティック・ユニバースにおいて、初めて女性を単独の主人公に据えた作品である。正確に言えばGotGシリーズ、アントマンシリーズなどにおいて主役級の女性キャラクターは登場しているが*2、シリーズの主人公はやはり男性キャラクターの方であった(それぞれピーター・クィル/スター・ロード、スコット・ラング/アントマン)。そういったわけで、この作品には物語上の救世主としてだけでなく、多様性を重んじるMCUの転換点としての役割も期待されていた。

アイアンマン(字幕版)

アイアンマン(字幕版)

 

——全てはここから始まった

 

その主演に据えられたのは、2015年の『ルーム』"Room"で既にオスカー主演女優賞に輝いているブリー・ラーソン。元々熱心なフェミニストであることも有名だし、キャプテン・マーベル役決定後には、原作のコミックを読み漁る姿を公開して、ファンを歓喜させた。全世界に原作・映画双方の熱烈なファンがいるマーベル作品であるが、彼女の配役については、映画が出る前から「これだけ勉強熱心だし何を任せても大丈夫!」という感想に溢れていた気がする。

www.instagram.com

www.dailymail.co.uk

そんなラーソンが首を縦に振る脚本だから、その中身もフェミニズム映画になるのは当然のことだった。監督・脚本を手掛けたのは、ライアン・ゴズリングに初のオスカーノミネートをもたらした『ハーフネルソン』"Half Nelson"('06)コンビのアナ・ボーデン&ライアン・フレック*3MCUで脚本に女性が絡んでいるのは今作に限ったことではないが、やはり『キャプテン・マーベル』という映画を作る上において、女性がここに絡んでいるというのは重要なポイントだろうと思うのだ。

ハーフネルソン(字幕版)

ハーフネルソン(字幕版)

 

 

この作品は究極のフェミニズム映画

※この節にはあらすじのネタバレを含みます※

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

 

☞     ☞     ☞

 

初っ端、上官たるヨン・ロッグ(演:ジュード・ロウ)から武術のトレーニングを受けるヴァース(演:ブリー・ラーソン)は、ひたすらに感情的な一面を貶される。感情的になるな、怒りを抱けば相手を利することになる、感情的になることはお前の弱さだ、常に冷静でいろ……ヴァースはその言葉を理解していながら、つい感情にまかせて自分の手に宿った力を使ってしまう。一方、同じ部隊に属する女性隊員、ミン・エルヴァ(演:ジェンマ・チャン)はいつでも冷静沈着な人物。ヴァースとミン・エルヴァは明らかに対比的に描かれている。

そしてこの、「すぐ感情的になる」一面は、女の弱点として描かれがちな姿だ。女はすぐにヒステリーになりやがって! というのは、フィクションの世界だけでなく、現実世界でもまま見る罵倒句のひとつである。まあ筆者も、同情を買いたいがためにすぐ泣き出すような人間は軽蔑するのだが、やはり「だから女は」とか大きな主語でくくられると相手の男にちょっと反感を持ってしまう。

president.jp

 

ヴァースの脳裏に映る画像にも、同じような状況が残っている。遊園地で遊んだゴーカートでは飛ばしすぎるなと叱られ、軍隊のロープ訓練ではそんなことなど女にはできないと嘲られる。戦闘機のパイロットとして活躍する姿を追い求めるが、理解の無い上官に「コックピットは女の入る場所じゃない」と罵倒される。彼女の物語には、常に「女だてらに」という外部の視点がつきまとっているのである。

 

しかしながら、この作品は、虐げられた女たちが男たちに逆襲する、という陳腐な枠組みにはなっていない。キャロルや盟友マリアが本当に求めているのは、性別で色眼鏡を掛けられることなく、ただ平等に扱ってもらうことなのである*4。もっと言えば、性別だけでなく、人種という大きな壁も乗り越え、ひとりの人間として、全員を平等に扱ってほしいというのがこの作品の訴えだ。そういうわけでキャロルの盟友で共に戦闘機パイロットを目指していたマリアをジャマイカ系のラシャーナ・リンチが演じたことには大きな意味があるし(アメリカという土地柄を考えれば、アフリカ系女性でシングルマザーのパイロット志願者なんて二重三重のマイノリティだ)、ミン・エルヴァ役がチャイニーズのジェンマ・チャンに与えられたのも素晴らしいことだ。

www.elle.com - チャンは公式の場ではアジア系デザイナーのドレスしか着ないというマイルールを課している人物だとか

 

そしてこれが、この映画を「究極のフェミニズム映画」にする理由である。この映画で言われているのは、「女性は虐げられてきたのだから、男から奪ってしまえ」という女尊男卑的な思想では決してない。ただ同じラインに立って、同じ評価基準で公正・正当に判断され、その上で自分の求めるものを実現したいという願いなのである。確かに戦闘機乗りを目指す女性は数少ないかもしれない。しかし、そういう夢を持つことに罪は無いし、能力があるなら正当に評価されるべきだ。

女だからこうしなくちゃ、と制限を掛けられるのはおかしな話だと思う。女だから結婚したら家庭に入れ、家事は全てやらなくちゃいけないなんて考えは間違っている。料理・掃除・洗濯、そういったことが好きな男性も得意な男性もいるし、自分より上手くてそういう仕事を楽しんでくれる人がいるなら任せてしまったっていい。対して男性が全員スポーツ上手かというとそんなことはない。太古の昔だったら狩りの出来ない男性は淘汰されていたかもしれないが、今はそういう時代ではない。昔はどうだったという話を持ち出すのはナンセンスだ。コンピュータの発達した世の中で、100桁の計算を全て人力に任せるようなもの。時代が違うのだから、楽できるところ、やらなくていいところはタスクシフトしてしまえばいいと思う。逆に得意な分野があるのならば、それをガンガン活かしていく方が社会のためだ。

 

物語終盤、ヨン・ロッグの呪縛から解放され、本来の名前と心意気を取り戻したキャロルの脳裏には、何度倒れても立ち上がり続けた自身の姿が走馬灯のように浮かぶ*5。このシーンにより、この作品は単なる女性賛美の映画ではなく、逆境にも負けず立ち上がる全ての人への賛歌となるのである。

realsound.jp - ヨン・ロッグの言葉については2ページ目に記載あり

 

キャストの妙

主役を演じるブリー・ラーソンについては既に触れたので、ここではその他のキャストについて触れたい。まずは女性陣から。

 

説明不要の芯の強さ、女性陣

キャロルの親友にして、共に戦闘機パイロットを目指して訓練を積んでいたマリア・ランボーを演じるのは、ロンドン出身の女優ラシャーナ・リンチ。ABCのドラマ "Still Star-Crossed" で主演歴があるようだが、この作品でさらに羽ばたいていくことだろうと思う。ランボーが諦めかけた戦闘機パイロットの道に戻り、豪快な空戦を繰り広げるシーンは作品の見どころでもある。

そしてそんな母の背中を押すのが、アキラ・アクバル演じる彼女の娘モニカである。挑戦し続ける果敢な母であってほしいという台詞が与えられていてとてもいい役だと思った。同時にモニカはロケット技術者になりたいという夢を語っていたが、その姿はマーキュリー計画を支えた女性たちを思い起こさせるし(この話は『ドリーム』"Hidden Figures" の原作だ)、MCUで後々彼女が登場しても面白いのかなと思う。

ドリーム (字幕版)

ドリーム (字幕版)

 
ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)

ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)

 

 

先述の通り、冷静なクリー人戦士ミン・エルヴァを演じたのは、ジェンマ・チャン。昨年は『クレイジー・リッチ!』"Crazy Rich Asians" 出演でも話題になったが、筆者としては『SHERLOCK』第1シーズン第2話「死を呼ぶ暗号」"The Blind Banker" のスーリンのイメージが強く、躍進に嬉しさもある。

via GIPHY

 

www.instagram.com - リンチ、ラーソン、チャンの3ショット!

 

そして主人公キャロルの子ども時代を演じているのは、12歳にして既に実力/経験充分な天才子役マッケナ・グレイス。MCU関連で言うと、2017年の『gifted/ギフテッド』では、キャプテン・アメリカことクリス・エヴァンスと共演している。この作品でグレイスが演じるのは、自身の天才的数学力により、大好きな叔父から引き離されそうになるメアリー。あどけなさが残った『gifted/ギフテッド』、成長して美しさも際立ってきた『キャプテン・マーベル』、2作合わせてご覧いただきたい。

 

そして見逃してはならないのが、ウェンディ・ローソン博士を演じる名優アネット・ベニングウォーレン・ベイティの妻にして、アカデミー賞4回ノミネートのベニングが、短い登場シーンながらしっかりとした存在感を残している。(このクラスの女優を1回限りの役に据えてしまうMCUの豪華さを感じるキャスティングでもあり……)

 

脇を固める男性陣

ヴァースに理不尽なほど厳しい上官ヨン・ロッグを演じるのはジュード・ロウホームジアンの中では、アイアンマンことロバート・ダウニーJr.とタッグを組んでワトスン役を演じていたことから、MCU2組目のホームズコンビとしてちょっとした話題にもなったほどだった*6。スチル写真公開後も暫く役名が「クリー人の将軍」だっただけに、多分この1回だけの登場なのだろうなと思っていたが、その通りで少し残念である。本編ラストシーンの更に後を描くポストクレジットシーンは編集上カットされたようだが、その内容を読む限り、今後の展開次第では再登場もあり得そうな……

theriver.jp - ガイ・リッチーはお願いだから『シャーロック・ホームズ』はよ作れよ! UNCLE2も作れよ!

そして相手に見事に化ける能力を持つスクラル人のタロスを演じたのは、ベン・メンデルソーン。『レディ・プレイヤー1』などで演じた悪役も印象的だが、今作では「ベン・メンデルソーンは悪役を演じるだろうという予想を裏切る」(THE RIVER下記事)ことを目的に配役されたという。その思惑通り、前半は情報のためにヴァースやフューリーを欺く姿、後半は部下や家族を守るため奮闘する姿が描かれており、その両方を表現したメンデルソーンは間違い無く今作の立役者だ。

theriver.jp

ニック・フューリーを語らせろ

ニック・フューリーを演じるサミュエル・L・ジャクソンは、1995年が舞台の今作に合わせ、デジタル処理で25年若返っている。シャマランの最新作『ミスター・ガラス』で老けた姿を見せていただけに色々話題にもなっていたが、筆者はこの記事を書きながら彼が70歳であるということに衝撃を受けている(若々しいし出演作目白押しなので年を感じさせないのだ)。『キャプテン・マーベル』は「アベンジャーズ」誕生以前の話になると明示されていたが、予告通りアベンジャーズ結成に至る様々な秘密が明らかに。その中にはフューリー自身の話もいくつか盛り込まれていたので、是非劇場でチェックしてほしい。

 

フューリーと言えばS.H.I.E.L.D.の冷静沈着な長官というイメージが刷り込まれていたが、今作では文字通り猫可愛がりする姿も明らかになっている。筆者は訳あって吹替版で観たのだが、このシーンの竹中直人サミュエル・L・ジャクソン本人と同じくらい吹っ切れていてとても良かった(笑)*7キャプテン・マーベルの吹替を担当した水樹奈々も、ラーソンの喋りに寄せたところがあって素晴らしいので、吹替もチェックしてほしい。

youtu.be - リンクをクリックすると当該シーンから。このシーンは早くからファンにキーシーンだと思われていたらしい

 

ところでブリー・ラーソンサミュエル・L・ジャクソンは、2017年の『キングコング: 髑髏島の巨神』でも共演している仲良しコンビ(来日時写真@ラーソンのInstagram)。来月からNetflixで配信されるラーソンの初監督作『ユニコーン・ストア』でも共演しているほか(Netflix予告編)、『キャプテン・マーベル』のプレスツアー時にはジャクソンとの友情を明かすツイートも投稿しており、映画内だけではない強い繋がりを感じるのである。

——(拙訳:最高の共演者最高の旅行友達最高のプレスツアー仲間最高の仲間!💖)

 

スタン・リー尽くしのオープニング

キャプテン・マーベル』は、昨年11月にスタン・リーが逝去して以来初めて公開されるMCU作品となった。最晩年までマーベルの原動力であり続けたリーの死を悼み、通常MCUのヒーローたちが登場してきたオープニングも、その全てがスタン・リーに変化しているという特別仕様だった。

それに加え、カメオシーンの内容も逝去後に編集し直されたという。1995年が舞台の今作において、スタン・リーは自身の出演作『モール・ラッツ』の台本を読み込んでいる。カメオで様々な役を演じてきた彼に、最後に与えられた役は本人役だったのだ。そしてそんなリーに対し、ヴァースはちらりと微笑みを投げかけるが、ファンの代弁者のような良い表情だったと感じた。

theriver.jp

そう言えばGotG2撮影時、ジェームズ・ガンはリーの移動を考えて、『ドクター・ストレンジ』で使用されたシーンなど、3つのカメオシーンをまとめ撮りしたと明かしていた。今回も同様の処置が執られただろうか。出来るならばMCU10年の総まとめである『アベンジャーズ/エンドゲーム』でも、リーの姿が観たいものだ。

ew.com

 

www.youtube.com - スタン・リーのカメオ集(長い)(多すぎ)笑

最後に

せっかくだからブリー・ラーソンが第88回アカデミー賞主演女優賞に輝いたこの作品をご紹介したい。白すぎるオスカーとして批判に晒された回ではあったが、レオナルド・ディカプリオが『レヴェナント』で悲願のオスカー初受賞、世界初の性別適合手術を受けたリリー・エルベに迫った『リリーのすべて』でオスカーが渡ったアリシア・ヴィキャンデル、そしてイギリス舞台人として堅実に活動していながら、スピルバーグに見出されたことで、『ブリッジ・オブ・スパイ』以降のフィルモグラフィを手にしたマーク・ライランスと、その内容自体は素晴らしいものだったと思う。というわけで今日のご紹介は『ルーム』!

ルーム(字幕版)

ルーム(字幕版)

 
ルーム スペシャル・プライス [Blu-ray]

ルーム スペシャル・プライス [Blu-ray]

 

 

関連:ブリー・ラーソン / サミュエル・L・ジャクソン / ベン・メンデルソーン / ジュード・ロウ / ジェンマ・チャン / アネット・ベニング / ラシャーナ・リンチ / マッケナ・グレイス / スタン・リー / アンナ・ボーデン&ライアン・フレック / キャプテン・マーベル / MCU; マーベル・シネマティック・ユニバース

*1:日本語版、初っ端彼女が言う"It's hard to explain."(説明が難しいの)を思いっきり「思い出せないの」と訳し間違えていて(故意な気もする)少し気に入らない

*2:GotGのガモーラとアントマンホープヴァン・ダイン/ワスプがそれに相当する。アベンジャーズのブラック・ウィドウも、飽くまで作品の主軸は(ry

アントマン&ワスプ (字幕版)
 
アントマン (字幕版)

アントマン (字幕版)

 

——『アントマン』第2作ではワスプがタイトルに!

因みにブラック・ウィドウ単独主演作はMCUの次回作として組み込み済。

screenrant.com

*3:脚本には彼らの他にジェネヴァ・ロバートソン・ドゥウォレット(Geneva Robertson-Dworet)がクレジットされている

*4:そう言えばキャロルのコールネームは後に「アベンジャーズ」の由来となるが、その本来の意味は、「復讐者」「仇を討つ人」というものである。彼女が他の音子どもを見返してやるという意志でこのコールネームを付けたとしたら面白い設定だ

*5:ところで冒頭のヨン・ロッグの言葉は、スーパーヒーロー映画なので、当然のように後の伏線なのだが、脚本上その辺のツッコミはかなり淡白になっていて意外な感じがした

*6:1組目は『SHERLOCK』コンビ。ベネディクト・カンバーバッチドクター・ストレンジマーティン・フリーマンが『シビル・ウォー』からエヴェレット・ロスを演じている。因みに『インフィニティ・ウォー』ではシャーロックネタのシーンも検討されたが、諸般の事情で(記事参照)削除となっている。

theriver.jp

*7:もう1箇所、コミカルに "Please Mister Postman" を歌うシーンでは思わず笑っちゃったくらいであった。彼の配役がここで生きてくるとはなあ……

Please Mister Postman

Please Mister Postman

  • provided courtesy of iTunes

 

Live Moon ブログパーツ