ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

アシェットの『はじめての刺し子』を買ってみました

突然ですがタイトル通りアシェットの『はじめての刺し子』創刊号を買ってみました。元々手先の作業が好きなのと、ちくちく刺し子をするのに興味があったので(正確には昔1度やったことがあってまたやりたかったので)、手慰みにチャレンジしてみようと思ったのです。創刊号299円だし(2号目からは¥1,599)。

はじめての刺し子 1 -創刊-(1) 2021年 2/10 号 [雑誌]

はじめての刺し子 1 -創刊-(1) 2021年 2/10 号 [雑誌]

  • 発売日: 2021/01/27
  • メディア: 雑誌
 

 

結論から言うと、このマガジンの評価は、マガジンの中身◎・刺し子キット△です。発案者、自分でほんと刺してみたのかな??????

 

  • マガジンの中身◎
  • 刺し子キット△
    • 刺し子小物:こぎん刺しのがま口
    • 刺し子マルチカバー:△どころか……
  • おしまい

 

マガジンの中身◎

この後キットについてはメタクソにしますが、マガジンの読み物部分は凄く良いです。創刊号の冒頭にある「スタートガイド」では、本当の初心者でも上手く刺せるよう基本的な刺し方を丁寧に図解しています。加えて刺し子の歴史に関する読み物や(続き物なので分量は少なめですがしょうがない)、付録のマルチカバーとは別に図案をひとつ紹介しているなど、分量としては充分だと思います。全80号の最後までこの分量が続くかどうかは分かりませんが。中身は転載になってしまうので、気になる方は本屋さんでぱらぱらめくってみてくださいね。公式サイトでも少し覗き見できます。

hcj.jp

 

刺し子キット△

やはり付録がやりたくて買ったのですが、いざやってみるとこりゃダメだなという感じでした。良かったら続きも買おうかなとは思っていましたが、これなら市販の刺し子本を買って、自分で図案を写してちくちくやった方が良さそうです。作れる付録はマルチカバーと刺し子小物の2種類で、毎号マルチカバー用の布と刺し子糸付いてくるのと、刺し子小物用の材料が数号に分けて届くようです。

また創刊号だけ針とチャコペンが付いています。筆者は自分の慣れた裁縫道具を使ってしまいましたが、マガジンだけでも始められる親切設計のようですね。ただし針はビニール袋に入った状態で来るので、ピンクッションや針山くらいは自分で用意した方が良いとは思います。

 

  続く  ☞  ☞  ☞

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急進行する平さんの病状 - 『監察医 朝顔』シーズン2第15話

『監察医 朝顔(フジテレビ月9) の第15話を観ました。毎週放送のはずなのに、最近はなんだか2週に1回朝顔の記事を書いている気がします。先週の第14話は平さんを連れ戻すだけで、解剖も無く終わってしまったので特に書くことがありませんでした(予告を観ただけですが、来週もそんな感じになりそうな気がしています)。ところで今回の話は、平さんが神奈川に帰り、海外で解剖された遺体を再解剖し、桑原家と万木家で盛大にお正月を迎えるという話でした。朝顔シリーズ前の記事はこちらの13話です。

mice-cinemanami.hatenablog.com

 

あらすじ

仙ノ浦に移住していた父・平(演:時任三郎)を神奈川へ連れ戻した朝顔(演:上野樹里)。父からアルツハイマー病であることを告げられるが、夫・桑原(演:風間俊介)を含め家族みんなで助け合おうと誓う。一方新年を迎えた興雲大学に、海外で死亡した男性の再解剖依頼が入る。承諾解剖として請け負うことになるが、彼の腹部には「もう調べないでください」というメモが入っていた……

www.youtube.com - 予告編

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には本編の結末に触れる記述があります※

 

 

解剖の4区分

日本で行われている解剖は大きく法医解剖、病理解剖(病院で亡くなった方の死因解明のため病理医が行う)、系統解剖(いわゆる献体を用いて、医学生・歯学生が行う解剖実習の一環)の3つに分かれていて、法医解剖は更に4区分に分けられます。

司法解剖は一般に事件性が疑われる遺体で、証拠保全のために行われます。刑事裁判の証拠を得るためなので、死因が明らかであっても解剖されることがあります。実際には、体表から死因特定できず、病死か他殺か体表所見では分からなかった、という理由で司法解剖になることもありますが*1、その辺は警察さんの案配次第です。因みに遺族の承諾は不要です(一応事件性を疑って解剖に回しているので)*2

 

下の3つはまるっとまとめて行政解剖と呼ばれることもあります。狭義の行政解剖、すなわち監察医解剖は、監察医の枠組みがある県でしか行われず、事件性はないが死因が分からない、という症例を扱っています(10話の振り返り記事で少し触れています)。狭義の行政解剖遺族の承諾無しで行えます

ひとつ飛ばして、新法解剖は死因・身元調査法(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律)という新しい法律によってできた枠組みです。この法律は2013年に制定されたのですが、この法律には、東日本大震災当時、身元調査のための試料採取の根拠法があやふやで、うっかりすると死体損壊とか言われるんじゃないかとざわざわしていた、そんな背景があったとか聞いたような気がします*3。元々グレーゾーンだったところにきちんと法的根拠を持たせた、というような法律なので、結構運用としては曖昧のようですが、一応所轄の警察署長が許可を出せば遺族の承諾無しに解剖が行える、とされています。法律の原文はこちらです(e-gov 法令検索)。

www.niigatashi-ishikai.or.jp - これは新潟大の先生が東日本大震災での活動経験を書き残した記事です

 

承諾解剖はお金がかかるの?

さて最後にひとつ残ったのが、今回ドラマでも行われた承諾解剖です。ドラマの中で朝顔先生は「今回は承諾解剖なので、お金をいただきます」という趣旨のことを話していますが、それはそう、という面と、今回は特殊だからね、という面と両方があるなあと思います。

 

解剖の4区分でひとつ残った承諾解剖は、監察医務院が置かれていない県(全国の大多数です)で、狭義の行政解剖、すなわち監察医解剖に相当するものを賄う制度です。事件性はないが死因が分からない時に、遺族の承諾を得て行う解剖です。この枠組みだけ、法医解剖ですが遺族の承諾が必要とされています。(実は病理解剖も、根拠法が同じ死体解剖保存法で、遺族の承諾が原則必要とされています。病院で亡くなれば病理解剖、そうでなければ法医に回って承諾解剖、という感じですかね)

 

ところがこの承諾解剖、県によって大分運用が異なっています。解剖にかかる費用を全て遺族に請求するというところもあれば、遺体の搬送費用など一部を公費で負担したり(=多少の遺族負担を求めたり)というところもあるようです。神奈川県警は前者のパターンで、他3区分の解剖費用は公費負担ですが、承諾解剖のみは全額遺族負担としています。ところが千葉大の報告によると、承諾解剖でも「ごく例外的に、県費をもとに準行政解剖(承諾解剖)が実施される場合はある」とあります。後者の実例も大分探したのですが、各県警で出しているわけでもなく、具体的な運用はよく分かりませんでした。各県で異なるというのだけはれっきとした事実なのですが、実情は当事者にならないと知らせてもらえないようです……

(なお、その他の法医解剖が全て公費負担というのは、死体解剖が限られた人に認められた行為であること、また遺族の承諾が不要であることと大きく関わっていると思います。行政の事業として遺族の許可なく解剖をするので、その費用は負担する、というロジックです。実際には司法解剖行政解剖であれ、遺族が加害者など少数の例外を除いて、ほとんど全ての例で承諾は取得されていると思いますが)

 

15話の承諾解剖は、実は特殊な症例

先程もちらっと書きましたが、15話の症例は実は大分特殊な症例です。何故ならこれは茶子先生が古巣へコネでねじ込んだ症例だからです。実際にこのような依頼を表立って受けている法医学教室というのはほぼ皆無だと思います。普通は承諾解剖も、他の3区分と同じように、各県警が仲介して法医学教室へ繋ぐものです。ところが今回の症例は、杜撰なエンバーミングのせいで茶子先生たちの元へ持ち込まれ、故人の娘が野毛山署の森本刑事の知り合いだったことから興雲大学へ話が回ったものでした。はっきり言って特殊ケースも特殊ケースで、県費で一部負担してくれる県でも、否応なしに全額遺族持ちになってしまうようなケースだと思います(勿論、現実の神奈川県では、先述の通り承諾解剖の費用は遺族持ちなのですが)。何ならこういう解剖依頼は受けてもらえない可能性すらあります。

 

にしても今シーズンは怒濤の再解剖祭りで、ほんと再解剖大好きだな〜と思います。海外でエンバーミングされた症例の再解剖とか、いやもうそれ『アンナチュラル』の最終回ですよね? (ところでアマプラでアンナチュラルまた観られるようになってた!☞)

最終話 旅の終わり

最終話 旅の終わり

  • メディア: Prime Video
 

 

また、今回の再解剖では、故人のDNA検査を行うことが物語上のひとつの鍵となりました。ところが遺伝情報というのは、たとえ死者であっても個人情報として保護すべきものとされています(以下の論文をどうぞ)。遺伝子検査をする際には、当事者へ遺伝カウンセリングと呼ばれる専門のレクチャーを行うことが求められていますが、遺伝情報というのはそれだけセンシティヴなものなのです*4。今回の案件で、そういった配慮は行われたのでしょうか。そもそも、身元の確認という点で言えば、妻と娘による面通しで確認が済んでいるので、DNA検査自体不必要な検査である可能性があります。承諾解剖なので費用は遺族持ちですが、だったら尚更不必要な検査は行わないような……(まあドラマなので深く考えてもしょうがないのですが!!!!!)

www.jstage.jst.go.jp

Tips!

  • 法医解剖には、司法解剖行政解剖、承諾解剖、新法解剖の4種類がある
  • 根拠法は、司法解剖刑事訴訟法行政解剖・承諾解剖→死体解剖保存法、新法解剖→死因・身元調査法
  • 承諾解剖以外は遺族の許可なく行うことができるが、承諾解剖と病理解剖は原則遺族の同意を必要とする

 

アルツハイマーにしては進行が速すぎないか

今回のもうひとつの軸となっているのが、アルツハイマー病を発症した平さんの「帰宅」です。平さんは神奈川県警を早期退職して岩手県の仙ノ浦へ移住し、東日本大震災で行方不明になっていた妻・里子(演:石田ひかり)を捜索していましたが、アルツハイマーと診断されたことから、朝顔夫婦と再び同居することになりました。

……でも、どう考えても進行速すぎませんか? 『監察医 朝顔』は、第1シーズンの後半から舞台を2024年に移しています。桑原夫妻の娘・つぐみは5歳のままで、今回のエピソードでクリスマスと正月が描かれたことから、2025年新春に設定が移ったことが分かります。平さんが早期退職したのは第2シーズンの途中なので、仙ノ浦生活はせいぜいが半年というところでした。ところがアルツハイマーは一般に10年くらいの経過でゆっくりと進んでいく病気です。確かに急速進行するケースもありますが、割合としては少なめです。平さんの発症は仙ノ浦生活の途中だったはずなので、いやその経過はCJDかよ! みたいな気分になります。

 

数ヶ月の経過でがたがたがた、と進んでいく認知症のことをちょっと調べてみました。Neurol Clin. に載ったこの総説では(下記、原文は:Neurol Clin. 2007 Aug; 25(3): 783–vii.)、週単位から月単位、下手したら日単位で進む認知症のことを、"Rapidly Progressive Dementia"(拙訳:急速進行性認知症)と定義しています。こういった病態を見た場合、最初に様々な検査を行って、感染、自己免疫疾患、悪性疾患(癌や白血病など)、血管性認知症、中毒性・代謝性疾患を除外せよ、と書かれています(Fig. 13.1)。その上で髄液検査を行って、……やはり最初に考えがちなのはCJD; クロイツフェルト・ヤコブ病だそうです*5。論文が古めなので新しいものも調べてみましたが、感染症関係や自己免疫疾患関係が多いとする後ろ向きスタディであるとか(最初の論文の前段ですね)、UCSFの自験例でプリオン病がその半分あまりを占めているとするスタディもありました。後者はほんのりとバイアスの匂いがしなくもありませんが……

www.ncbi.nlm.nih.gov - パブリックアクセスなので誰でも読めます!

 

その上で問題の「アルツハイマーは急速進行するのか」、という話ですが、結論から言うと「します」。自験例を集めたUCSFからの論文でも、Tab. 7-1やTab. 7-2で、RPDのうちそれなりの数がアルツハイマー認知症であることが示されています。平さんの受診シーンから、彼の脳は海馬を中心として全体に萎縮しており、改訂長谷川式簡易知能評価スケール; HDS-Rが18点/30点満点ということが分かっています*6。前者は典型的なアルツハイマーの所見ですし、後者も認知症を強く疑わせる状態です。おまけに彼の短期記憶は、日常会話ですら全てメモをしておかないといけないほど損なわれています。この状態まで数ヶ月で達したということは、平さんの言う通り、彼に残されている時間は娘の朝顔先生が思うよりずっとずっと短いのでしょう*7。なかなか辛い描写です。

 

平さん自身もそんな自分にもどかしさと苛立ちを感じており、第15話ではほんのりと希死念慮を抱いていることが匂わされます。認知症患者がうつ病を合併しがちなのは広く知られた事実です(特にレビー小体型で多いことが知られています)。そんな時もいいやつなのが桑原くん。うつ病に無理な励ましは厳禁のところ、そっと支えて共に歩いていくような言葉を掛けていました。つくづくこの脚本桑原くんがいいやつ過ぎるんよ。

 

15話のラストでは、朝顔先生に電話がかかってきて、仙ノ浦で入院していた祖父・浩之(演:柄本明)が危篤だと知らされます。浩之が肺癌だと聞かされたのは平さんの仙ノ浦移住タイミング、最早治療がないので緩和ケア中心の病院に移りましょうと言われたのはそこから数ヶ月のことでした。妻・角替和枝原発不明癌で亡くしている柄本明が、こういう役をやっているだけでもちょっとくるものがあります。朝顔先生が父も祖父も亡くしそうになっているというのは、第1シーズンのスローペースな描き方とはまるで対照的で、ちょっと色々「生き急ぎさせ過ぎ」な気がしてしまうのです。正直心の中で東京ホテイソンばりに「いぃやおじいちゃん死ぬんかい!」みたいなツッコミをしないと生きていけない(☞東京ホテイソン:M-1 2020決勝ネタ)。

 

Tips!

 

アフターコロナの一家団欒

辛い話と解剖区分の話ばかりつらつらと書いてしまいましたが、そんなことはつゆ知らず、万木家と桑原家合同のお正月食事会が開かれます。このシーンを観ていて、あ、このドラマはアフターコロナを描いているフィクションなのだな、ということを痛感させられるのです。平さんの話で書いた通り、第2シーズンの世界線は2024年の秋頃から2025年の新春です。4年後、わたしたちはああやってマスクも無しに家族みんなで集まれるような状況になっているのでしょうか? 願わくばそうあってほしいものですが、こればかりは全く分かりませんね。

 

ところでこのシーンで、朝顔の義姉・忍の旦那として初登場したのが、まさかのナイツ・塙宣之。いや桑原くんに姉がいるだけでもまさか展開だったのに更にまさかが重なってしまいました。

www.fujitv.co.jp

 

また、年末の発砲事件絡みで神奈川県警に帰れず終いの義理の息子を思い、平さんは現役時代の後輩たちに呑み会で口添えをしてくれていました。以前も登場していた矢神こと宇梶剛士、本宮課長こと神尾佑に加えてダチョウ倶楽部の肥後さんが出て来てもう情報過多です(熱々おでんのネタまでやっていました)*8。故人の妻役の美保純だけで充分そうな感じなのに、これでもかこれでもかという脇役抗戦(笑)。おまけに来週は相方の上島さんが再登場するわ(公式Twitterまんたんウェブ)、名脇役としてあちこち引っ張りだこの野間口徹が予告に写っているわ……第1シーズンのスローペースはどこに行ったんだ!(笑)

www.fujitv.co.jp

え、仙ノ浦ってそんなところだったの

15話のラストにて、第2シーズンの鍵となっていた歯の鑑定がやっと終わりました。祖父・浩之が一縷の望みを掛けていた歯は、結局別人のもの。隣県・宮城の行方不明者のものだったことが分かります。結果を知った朝顔と平は、「宮城県の人だったんだって、仙ノ浦から40 kmの」「遠いな」という会話を交わしました。……「仙ノ浦から40 km」の宮城県……? え、仙ノ浦って陸前高田とか大船渡とか、そっちの設定だったんですか……?

 

実は前のシーズンで三陸鉄道に乗るシーンがあったので、勝手に仙ノ浦の設定は、久慈とか宮古とか釜石とか、もっともっと北の方だと思い込んでいたのです。(ちなみに『あまちゃん』の舞台は久慈が想定されています)。そうか、それで平さんは一関まで迎えに来てくれたのか……因みに実際のロケは大船渡で行われているようです。大船渡だと台詞と距離が大体合いますね(唐桑からロケ地となった甫嶺駅で丁度40 km)。

www.city.ofunato.iwate.jp

 

おしまい

とりとめのないことを沢山書いてしまいましたが、第15話は来週までTVerで見逃し配信中それより前の話はフジの公式配信サイト・FODプレミアムで視聴できます。第1シーズンは既にボックス発売済。気付けば3月、放送もそろそろ終わりが見えてきましたが、果たしてちゃんとソフトランディングしてくれるのでしょうか……

監察医 朝顔 DVD-BOX(メーカー特典なし)

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  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: DVD
 

 

www.youtube.com

関連:監察医朝顔 / 上野樹里 / 志田未来 / 中尾明慶 / 板尾創路 / 平岩紙 / 山口智子 / 時任三郎 / 風間俊介 / ともさかりえ / 戸次重幸 / 三宅弘城 / 大谷亮平 / 法医学

*1:心臓の不整脈で突然死した時、はたまたくも膜下出血で人知れず亡くなっていた時、その人は確かに死んでいますが、体表所見はなんともなくて、結局何で死んだのか分からないことがあります。事件性は無さそうですが否定も出来ないので、司法解剖になることはあったりします。みんながみんな誰かの目の前で死ぬわけではありませんし

*2:前の注釈に関連しますが、九分九厘病死だろうなという気がしていても、確定できないからこそ解剖になっているので、ひょっとしたら家族や発見者が「犯人」かも、という疑いはあります。積極的に犯人として疑っているというよりは、「ひょっとしたら他殺とかじゃありませんよね、一応確認しておかないと」というようなことも多々です

*3:司法解剖が出来る人の要件を見れば分かりますが、基本的に解剖という行為は「死体損壊」という扱いで、それを法律で一部の有識者に認めているという形を取っています。医行為が基本的に違法で、医師にだけ例外的に認められている……というのと同じです

*4:【長過ぎる追補】本人のDNA検査を行うことで、ある病気の発病に関わる遺伝子異常が見つかったとします。遺伝子は親から子へと伝えられるものなので、その遺伝子異常を、血縁関係にある人物が共有している可能性があります。その場合、ひとりの検査だと思っていても、親きょうだい、自分の子ども、おじおばやいとこなど、血の繋がりがある人物みんなが結果に驚いてしまう可能性があります。また、「偶発所見」として、調べようと思っていたものとは違う遺伝子異常が見つかる可能性も、はたまた血縁関係が否定されてしまう可能性もあります。これらの事実をきちんと理解してから検査に臨んでほしい、というのが遺伝カウンセリングのメッセージなのです。

 

人間の歴史を見ても分かりますが、ある病気に関係する遺伝子を持つ、ということは、就職や結婚の上で、将来当事者を苦しめる可能性があります。未成年の遺伝子情報を勝手に検査するということはこれらのリスクも明らかにするということです。また、自分がそういう遺伝子を持っているかどうか、知りたくない、という人も確実にいます。この話はハンチントン病の家系でよく議論された過去があり、当事者であったアリス・ウェクスラー氏が、『ウェクスラー家の選択』という本を残しています。日本語訳もされていますので興味のある方はこちらもお読み下さい。

www.arsvi.com

ウェクスラー家の選択

ウェクスラー家の選択

 

 

*5:この病気は石田衣良氏の小説『美丘』で取り上げられていましたね。イギリスのBSE問題(狂牛病問題)が発覚した際に大騒ぎとなったのもこの病気です☞

美丘 (角川文庫)

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美丘―君がいた日々― DVD-BOX

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  • 発売日: 2011/04/20
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*6:長谷川式は長谷川和夫先生が作られ、長年使われてきた認知症のスクリーニングツールです。30点満点中20点をカットオフとして認知症の疑いとします。長谷川先生は2017年に自身も嗜銀顆粒性認知症であることを公表されましたが、その時「HDS-Rで評価しようにも、開発者だから全部覚えていて評価できなかった……」と話しておられたという裏話も……

med.m-review.co.jp

*7:もしかしたら早期退職前からそういう気があったのかもしれませんが、描かれていなかったことについてわたしたちは語れませんからね

*8:最早伝統芸、ダチョウ倶楽部の熱々おでん。ちなみにドリカムのマサさんではありません(本人公認)☞

www.youtube.com

まっすぐは合わなくて、曲げると苦しい - 映画『すばらしき世界』

数ヶ月ぶりに公開初週に映画館へ行って、ある映画を観てきた。作品名は『すばらしき世界』西川美和監督が4年ぶりに送る新作映画である。主演には監督が今ならお願いできるかな、と満を持して迎えた役所広司。殺人の罪で13年間収監されていた元ヤクザの男が、「今度ばっかりは、カタギぞ」と決意して出所するも、シャバで数々の生きにくさを痛感する……という作品だ。

wwws.warnerbros.co.jp - キャッチコピーは、「この世界は生きづらく、あたたかい。」

ネタバレ無しのあらすじ

三上正夫(演:役所広司)が13年ぶりに旭川刑務所を出た。自宅に上がり込んできたチンピラを斬り殺し、殺人罪で収監されていたのだった。「今度ばっかりは、カタギぞ」と独り言ちて東京へ向かうが、元ヤクザだった前歴が邪魔をし、定職に就くどころか生活保護を受けるにも大きなハードルが横たわる。三上が自らの権利として書き写した「身分帳」*1を元に、彼の母探しの番組を手掛けるとして若き元テレビマン・津乃田(演:仲野太賀)が近付いてくる。しかしながら、津乃田の目的はいつしか三上自身を追うことにすり替わり、その中で津乃田は三上の生き様を追う恐ろしさにも気付いてしまうのだった……

www.youtube.com

 

  

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には物語の核心に迫る記述があります。新鮮な気持ちで映画を観たい方はご遠慮下さい※

 

 

  • ネタバレ無しのあらすじ
  • 西川美和監督が、満を持して迎えた役所広司
    • 本人の自覚しない狂気だからこそ、恐ろしい
    • 実は「近いからこそ難しかった」博多弁
  • 名優たちを脇役として使える贅沢さ
  • 出所者の社会復帰の難しさ
  • 【ネタバレ】ラストシーンの表情
  • おしまい

 

*1:収監の際に経歴や前科、裁判の内容をまとめた帳面で、刑務所に保管されている。西川監督が原案とした佐木隆三の作品も『身分帳』というタイトルである

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まさかの人物の再登場 - 『監察医 朝顔』シーズン2第13話

『監察医 朝顔(フジテレビ月9) の第13話を観ました。年明けから始まっていた高橋くんメイン回のおしまいで、おまけにふたりも古顔が帰ってくる不思議な回です。優秀すぎるが故に(?)報われない高橋くんがどんなにハイスペックなのかは前の記事を読んでほしいのですが、今回も更にもうひとつ仕事を捌いていたことが発覚して「興雲大学はええ加減もうひとり技師雇えよ」という気分になりました(笑)。今回も例によってネタバレ記事です。

mice-cinemanami.hatenablog.com

 

あらすじ

薬物中毒で急死した女性の遺体は見るも無残な姿になっていた。この遺体を生前に近い姿で遺族に返すべく、法医学教室を退官した前教授・夏目茶子(演:山口智子)が、腕利きのエンバーマー・若林(演:大谷亮平)と共に興雲大学へ戻ってくる。

 

翌日、呑み潰れた藤堂(演:板尾創路)の代講を務めた朝顔(演:上野樹里)は、講義室で思わぬ人物を見つけることになる。その日教室に運び込まれた遺体の女性は、独り暮らしなのにもかかわらず、冷蔵庫に大量の作り置きを兼ね備えていた……

www.youtube.com - 予告編

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には本編の結末に触れる記述があります※

 

  • あらすじ
  • エンバーミング
    • 分かっているからこそ、切ない気持ち
  • 独居老人の孤独死
    • まさかの人物の再登場
    • 決して馬鹿に出来ない糖尿病という病気
    • 冷蔵庫の作り置きの謎
  • おしまい


 

エンバーミング

最近の朝顔クリフハンガーを多用して、1話の前半と後半で違う話を描くようになってきました。(そのせいでひとつ前の記事が2話分まとめになりました)。今回も前半は第12話で解剖した遺体のエンバーミングが中心で、後半は独居老人の解剖という全く別の話題になっています。

 

前の記事でも触れましたが、シーズン2前半で怪しげに興雲大学周辺をうろついていた大谷亮平の正体は、アメリカで修行してきた腕利きのエンバーマーでした。ひとりの死を巡り、遺族のケアが充分になされていない実態を目の当たりにしていた茶子先生は、彼の理念に共感して仕事を手伝う決意をしていたわけです。

www.oricon.co.jp - 第13話のネタバレありですのでご注意を

 

この後茶子先生は朝顔先生を拉致して亡くなった女性・松野紗英の両親へ会いに行きますが、ドラマだとは分かっていつつ、ここの脚本の齟齬にちょっとした綻びを覚えてしまいます。これから遺体を引き取りに来ると言っているのに家に押しかけるのも凄く変だし、着いてみたら着いてみたで松野夫妻は出掛ける準備を全くしていなそう……まあそういうところに茶々を入れるのも野暮ですね*1

 

*1:でも両親とも最初に娘の顔を見に来た時と同じ格好なのも解せない、が気にしないことにする

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あんなに優秀なのに報われない高橋くん - 『監察医 朝顔』シーズン2第11話/第12話

今夜13話の放送日なのに何とものんびりした話ですが、『監察医 朝顔(フジテレビ月9) の第12話をようやく観ました。実はとある試験があって準備にかかりきりになっており、気付けば次の話の放送がすぐそこという事態になってしまいました(とある試験のことは気が向いたら書くかもしれません)。更に前の週の分(第11話)も、記事にするには分量的に微妙だったのと、第12話との繋がりが深い話だったので、2話分をまとめたいと思います。第10話のネタバレ記事はこちらです。

mice-cinemanami.hatenablog.com

あらすじ

第11話【トンネル崩落事故編】

岩手県・仙ノ浦の実家へ祖父・浩之(演:柄本明)の見舞いにやってきた朝顔(演:上野樹里)とつぐみ(演:加藤柚凪)。震災で行方不明になった母・里子(演:石田ひかり)を捜索すべく仙ノ浦へ移住していた父・平(演:時任三郎)が送迎してくれるが、朝顔は父の細かな言動に認知症の始まりを感じ取る。

一方その頃、長野県でトンネル崩落事故が発生。死傷者多数が疑われたことから、興雲大学に遺体安置所の設営依頼が届く。設営のためつぐみを義姉・忍(演:ともさかりえ)に預けて長野に急いだ朝顔だったが、実はこのトンネルには長野県警へ出向していた夫・桑原(演:風間俊介)が急行していたのだった……

 

第12話【つぐみ失踪編】

※第11話ネタバレ注意!※

 

遺体安置所・検案所の設営に向かった興雲大学法医学教室チーム。朝顔がリーダーに指名されて設営を進めるが、そんな折 忍からつぐみが失踪したとの連絡を受ける。

 一方、ひとり大学に残って当番分の解剖を引き受けていた藤堂(演:板尾創路)は、若い女性の薬物中毒案件に当たり、同様の事件が頻発していることに気付く。警察の捜査の手は、教室の頼れる検査技師・高橋(演:中尾明慶)が想いを寄せるパン屋の店員、北村愛菜(演:矢作穂香)に及ぼうとしていた……

www.youtube.com - 予告編

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には本編の結末に触れる記述があります※

 

  • あらすじ
    • 第11話【トンネル崩落事故編】
    • 第12話【つぐみ失踪編】
  • 第11話【トンネル崩落事故編】
    • 平さんはもしや……
    • 勇み足の遺体安置所・検案所設営
  • 第12話【つぐみ失踪編】
    • かっこいい絵美先生、頼れる男過ぎる桑原くん
    • 報われなさ過ぎてただただ不憫な高橋くん
    • 遂に大谷亮平の正体が発覚!
  • おしまい


 

第11話【トンネル崩落事故編】

ほんとは前の記事を書いた後この記事についても触れるつもりだったのですが、実生活がちょっと忙しくなってしまったのと、まとめるほどの分量がなかったのでこんな感じになってしまいました。予告編ではトンネル崩落事故編が大分取り上げられていましたが、実際には朝顔とつぐみの仙ノ浦帰省が話の半分を占めていて、第12話にも大きく関係しているという感じです。

 

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光子ちゃんもそりゃ泣くって - 『監察医 朝顔』シーズン2第10話

『監察医 朝顔(フジテレビ月9)というドラマを観ています。一昨年の7月期にシーズン1が放送され、今回の放送はシーズン2なのですが、(個人的に)なかなか勉強になるところも多い作品です。シーズン1の作り方がとても好きだったので今回も大分期待していたのですが、主人公の周りに大きな事件が起きないことが良さだったのに*1、今季は最初から教室内でぐわんぐわんのジェットコースター状態で何とも言えない気持ちになっています。閑話休題、年明けスペシャル明け初回、後半戦のスタートとなった第10話を観ました。

 

あらすじ

熱傷遺体の解剖で大忙しだった興雲大学法医学教室。検査技師の高橋(演:中尾明慶)と院生の光子(演:志田未来)が居残りでの後処理を買って出る。翌朝転落事故の解剖要請が入り、朝顔(演:上野樹里)は光子の初執刀にどうかと提案する。朝顔のサポートで上手く行くかに思えた初執刀だったが、寝不足が祟った光子は、解剖中に針刺し事故を起こしてしまう。その後の検査で故人が狂犬病だったことが判明し……

www.youtube.com - 予告編

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には本編の結末に触れる記述があります※

 

  • あらすじ
  • 相変わらず解剖要請がひっきりなしな興雲大学
    • 高橋くんと光子ちゃんがせっせと計算していた熱傷範囲の話
  • おみっちゃん遂に初陣
    • 光子、やっと主執刀医になる
    • 寝不足で起こった針刺し事故
  • 遺体が感染源になる世の中
    • 「致死率100%」の恐ろしさ
    • 遺族のためにできることを
  • おしまい

 

 

相変わらず解剖要請がひっきりなしな興雲大学

興雲大学は確か横浜にあった設定だと思うのですが、相変わらず解剖要請はひっきりなしだし、当日にかなりタイトな日程でねじ込んでくるなあという印象です。前話だったかに高橋くんが「もう辛いなあ、他の大学に分担してもらう?」みたいなことを言っていたので、神奈川県内の症例をある程度分担しているのは感じ取れるのですが、当番日の分担もよく分かりません。実際のところ、横浜の監察医制度こそ2014年に廃止されたものの*2神奈川県内には4つの医大があり、その全てに法医学教室がありますので、もっとちゃんと分担されているのではと思います。知らんけど

 

この「田舎の県なんか?」と思うほど無茶苦茶な解剖スケジュールを見事に捌いているのが検査技師の高橋くん(演:中尾明慶)です。仕事も早くてよく気が付いて雑用も買って出てくれるというもうスーパーウルトラハイスペックな高橋くん。普通に教室に3人くらい欲しいです。というか検査技師の仕事の範囲超えてますよねというくらい色々やってくれていて勝手にこっちが申し訳無くなるくらいの働きぶりです。そんな高橋くんと、新米法医の光子ちゃん(演:志田未来)が解剖の後処理のために居残りする……というのが第10話の始まりです。

*1:シーズン1の最後ら辺は除きます

*2:横浜の監察医制度、詳細は知りませんでしたけど、解剖の代金が遺族負担だったりしてたんですね……へえ……

www.news-postseven.com

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本当になってほしくなかった虚構の世界 - 映画『コンテイジョン』

今年の厄は今年の内に、ということで、映画納めは2011年の映画コンテイジョン』"Contagion" にした。COVID-19が流行り始めたとき、その行く末をよく予測しているとして話題になった映画だ。ブログも年内最後の記事にしたいので長々とは書かないが、なかなかよくできた映画だなと思った。

コンテイジョン (字幕版)

コンテイジョン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

あらすじについて特に語ることはしない。香港を鍵として未知のウイルスが発生し、それが運悪く全世界に広がってしまったことで起こるパニックを描いたスリラー映画だ。CDC; 疾病対策センターの専門家たちに助言を得て作ったというが、今のCOVID-19による世界を考えるとなかなかよくできている。(そしてCOVID-19が作中のMEV-1ほど強毒性でなくよかったと思うばかり)

 

ペイシェント・ゼロを追え

COVID-19関連*1の言葉が世間を賑わせたのが2020年という年であったが、「クラスター対策」はその中でかなり上位に来ると思う。春先から夏にかけて押谷せんせであるとか西浦せんせであるとかがせっせとその話をしていたが、この映画の中でも既にその理論は実践されている。実際、ペイシェント・ゼロ(疾患を初めて発症し、流行の起点となった人物)を探し、徹底的な追跡調査をするという手法は、既にSARSの時にも使われているので、この映画で描かれていてもおかしくはないと思う。(だからクラスターとか嘘だろ!みたいなことを言っていた人たちはちょっと的外れだったのであり……)

 

この映画では、マリオン・コティヤール演じるWHOの医師が、防犯カメラの映像を食い入るように眺めてペイシェント・ゼロを特定していく姿が描かれる。実際そこまでやるかというとちょっと疑問符なのだが、ああこれはまさにクラスター対策の手法だな、と思っていたら、台詞でしっかり「クラスターが発生」と言われていて面白いなと思った。

なおこの後、コティヤールと対する香港当局の人物が、香港が起点かどうか分からないじゃないか、と食い下がっていて、COVID-19でもWHOの調査団入れる入れないで内輪揉めしていたよなあ……などと思うなど。

 

今すぐ野戦病院を作れ

作中のウイルスMEV-1はあっさりアメリカに入ってきて、シカゴを中心に大流行し、アメリカという国を静かに蝕んでいく。作中このウイルスによる死者数が報じられるシーンがあるのだが、今のCOVID-19の死者と比べて1桁違うので少し安心したものの、COVID-19の死者数ですらとんでもない数字で、数ヶ月のうちに感覚が麻痺してしまった恐ろしさを自覚するなど。

 

そんな中、CDCが野戦病院を建てるべく奔走する様子が描かれる。映画上しょうがないのだろうが、CDCの対策チーム*2が誰ひとりとしてマスクをしないという、COVID-19の世界では有り得ないような描写がされていて、普通に心配になってしまう(この伏線はきちんと回収される)。

また、大分はじめの方だが、MEV-1がアメリカに入ってきた直後のこと、きちんとした対策をせねばならない、と解くCDCの職員に対し、シカゴ当局の役人たちが、病原体の特定はできているのかと騒ぎ立て相手にしないところで心が痛んでしまった。未知の感染症であれ、いわゆる「標準予防策」を取るのがまずは1番大事なのだが、瑣末なところにこだわって「木を見て森を見ず」なのはどこの国でも同じなのだなあと思わされる。

 

偽ジャーナリズムに振り回される

この作品唯一の悪役はジュード・ロウ演じるフリーランス・ジャーナリストだ。ワクチンなど効かないし、CDCたちは自分たちの家族を守るばかりで民を守らないと世間を扇情し、自分の書くブログこそが真実なのだと騒ぎ立てる。これはまさに陰謀論だ。残念なことに、こんにちでも、COVID-19に限らず様々な陰謀が渦巻いていて、当たってほしくなかった予測だと思う。

 

ロウ演じるジャーナリストは、レンギョウこそ特効薬だとか、ワクチンで自閉症が増えるかも、などと騒ぎ立てる。ホメオパシーに関しては敢えて口を噤むが(これはある意味宗教なので)、ワクチンで自閉症が増える、との主張に思い出すのは、ドナルド・トランプをはじめとした反ワクチン派だ*3。彼はジャーナリズムに熱狂しているが、もしかしたら最後の方では、"宗教を作る快感"に取り憑かれてしまったのかもしれないなどと思う。

 

ワクチン接種の平等性

この話が作中で描かれていたのにはびっくりした。今でもCOVID-19のワクチン接種スケジュールをどうするか侃々諤々の議論が繰り広げられている。先進国ばかりにならず、アフリカをはじめとした医療体制が脆弱な国にも早く行き渡らせるように、という議論が行われているが、結局やってみないと分からないところがあるので、なかなか難しい議論である。

 

そう言えばアメリカやヨーロッパで作られたCOVID-19のワクチンが日本に入ってくることが決まった。アメリカやヨーロッパのワクチンは、作中ジェニファー・イーリー*4がやっているように、筋注が一般的である。

しかしながら、日本のワクチンは皮下注が中心だ。これは一時期ワクチン被害の訴訟があり、筋注のせいで大腿筋短縮症が起きるなどの訴えが起きたという事実が結構関係している。唯一の例外が子宮頸癌ワクチンだが、筋注のワクチンは皮下注より反応性が強いため、普通のワクチンより反応性が強いという弱点がある。その結果何が起きたかは皆さんも知っての通りなのだが……*5COVID-19のワクチンが、日本でどのように接種されるかは分からないが、子宮頸癌ワクチンの二の舞にはならないようにと願うばかりだ。(ところでこの作品の量産型ワクチンは鼻腔噴射になっていて面白いなと思った)

 

 

暴動、そして銃社会

COVID-19が流行し始めてから、アメリカで銃の購入が増えたという話があるが、同じような姿が作品でも描かれる。食糧配給で暴動になったり、薬屋やスーパーで暴動になったり、人は学ばないし究極的には利己的なのだな、と思わされる描写だ。

思えば緊急事態宣言が出された前後、トイレットペーパーがなくなるとのデマが回って、トイレットペーパー、ティッシュ、更にキッチンペーパーなどさえ店頭から消えたのを思い出した。誰ひとりとして石油危機の頃の惨状から学んでいなかったのがよく分かるエピソードだが、アメリカの場合はここに銃が加わってくるので、余計悲惨な話になってしまう。

 

おしまい

沢山書いてもしょうがないので、雑感も沢山書いたしこの辺で筆を置こうと思う。今日は東京で遂に千人越えの感染者数が発表されたし、来る年もまだまだ油断はできないが、まずは大晦日まで無事に辿り着けたことに感謝を。『コンテイジョン』はAmazon Primeなどで配信されているので、COVID-19を巡る喧噪と比較しつつ是非ご覧いただきたい。

コンテイジョン (字幕版)

コンテイジョン (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

そう言えば尾身先生のこの本欲しいのですがまだ買ってません。その内買いたいと思います。皆様よいお年を、そしてどうかお元気で。

WHOをゆく: 感染症との闘いを超えて

WHOをゆく: 感染症との闘いを超えて

  • 作者:尾身 茂
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 単行本
 

 

 

関連:COVID-19 / コンテイジョン / スティーヴン・ソダーバーグ / マリオン・コティヤール / マット・デイモン / ローレンス・フィッシュバーン / ジュード・ロウ / グウィネス・パルトロー / ケイト・ウィンスレット / ブライアン・クランストン / ジェニファー・イーリー / サナ・レイサン / エリオット・グールド

*1:死んでも(?)新型コロナとかコロナ禍とか言いたくないのでわざわざCOVIDさんと書く

*2:他にも主要な登場人物たちもマスクをしていない。手に入らないという描写でもないのだが

*3:トランプがMMRワクチンと自閉症の"関係"を声高に主張していたのは有名な話→

www.huffingtonpost.jp

*4:個人的に『高慢と偏見』のリジーが大好きなので、ここで重要な役どころなのがとても嬉しかった→

mice-cinemanami.hatenablog.com

*5:訴訟を起こした原告団についてここでは口を噤むが、確かに接種した時、周りがみんな腕の痛みが残ると言っていたのを思い出す。「他のワクチンと違う」というのが、子宮頸癌ワクチンの「汚点」として責められるポイントになってしまったのだろうとも思う

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