ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

まさかの人物の再登場 - 『監察医 朝顔』シーズン2第13話

『監察医 朝顔(フジテレビ月9) の第13話を観ました。年明けから始まっていた高橋くんメイン回のおしまいで、おまけにふたりも古顔が帰ってくる不思議な回です。優秀すぎるが故に(?)報われない高橋くんがどんなにハイスペックなのかは前の記事を読んでほしいのですが、今回も更にもうひとつ仕事を捌いていたことが発覚して「興雲大学はええ加減もうひとり技師雇えよ」という気分になりました(笑)。今回も例によってネタバレ記事です。

mice-cinemanami.hatenablog.com

 

あらすじ

薬物中毒で急死した女性の遺体は見るも無残な姿になっていた。この遺体を生前に近い姿で遺族に返すべく、法医学教室を退官した前教授・夏目茶子(演:山口智子)が、腕利きのエンバーマー・若林(演:大谷亮平)と共に興雲大学へ戻ってくる。

 

翌日、呑み潰れた藤堂(演:板尾創路)の代講を務めた朝顔(演:上野樹里)は、講義室で思わぬ人物を見つけることになる。その日教室に運び込まれた遺体の女性は、独り暮らしなのにもかかわらず、冷蔵庫に大量の作り置きを兼ね備えていた……

www.youtube.com - 予告編

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には本編の結末に触れる記述があります※

 


 

エンバーミング

最近の朝顔クリフハンガーを多用して、1話の前半と後半で違う話を描くようになってきました。(そのせいでひとつ前の記事が2話分まとめになりました)。今回も前半は第12話で解剖した遺体のエンバーミングが中心で、後半は独居老人の解剖という全く別の話題になっています。

 

前の記事でも触れましたが、シーズン2前半で怪しげに興雲大学周辺をうろついていた大谷亮平の正体は、アメリカで修行してきた腕利きのエンバーマーでした。ひとりの死を巡り、遺族のケアが充分になされていない実態を目の当たりにしていた茶子先生は、彼の理念に共感して仕事を手伝う決意をしていたわけです。

www.oricon.co.jp - 第13話のネタバレありですのでご注意を

 

この後茶子先生は朝顔先生を拉致して亡くなった女性・松野紗英の両親へ会いに行きますが、ドラマだとは分かっていつつ、ここの脚本の齟齬にちょっとした綻びを覚えてしまいます。これから遺体を引き取りに来ると言っているのに家に押しかけるのも凄く変だし、着いてみたら着いてみたで松野夫妻は出掛ける準備を全くしていなそう……まあそういうところに茶々を入れるのも野暮ですね*1

 

分かっているからこそ、切ない気持ち

松野紗英は高校を中退して家出少女となっており、最近の姿を知らない両親にはどんな死に化粧にしてよいのか皆目見当が付きませんでした。そこで朝顔先生は、最近の彼女をよく知るパン屋の愛菜ちゃん(演:矢作穂香)に声を掛けることにしました。真実に気付いてしまい、自らロマンスの幕引きをする高橋くん(演:中尾明慶)と、友人を薬物の道に引き込んだ自分が、その両親に感謝されるとうあべこべさに涙する愛菜ちゃんの心の内が何とも切ない一幕です。

 

朝顔先生の言葉から、松野紗英はドラッグの逆耐性現象が元でオーバードーズに至ったことが示唆されました*2。前話の内容から、彼らが使っていたドラッグの主成分はアンフェタミンメタンフェタミン、つまりは覚醒剤だったことが分かっています。そう言えばこの問題どこかでも出たなあ!(115F6)

Tips!

  • 覚醒剤:離脱後の再使用では、逆耐性現象 (離脱後少量使用で精神病症状が再燃すること)やフラッシュバック現象が起きる恐れがある
  • 覚醒剤:精神依存○、身体依存×、耐性○

 

独居老人の孤独死

自らの手で愛菜ちゃんとのラブロマンスに幕を引いた高橋くん。傷心を感じ取った藤堂先生が呑みに誘い出し、教室員は口々に飲み代をカンパします。いやあこの教室スーパーウルトラハイスペックな高橋くんに頼り切りなことを除けばめちゃめちゃいい教室なんよ。

 

まさかの人物の再登場

翌朝でろでろになった藤堂先生から代講を頼まれた朝顔先生は、教室に他の生徒すらまとめ上げてしまう無茶苦茶な意識高い系の学生がいることを聞かされます。講義室に向かった朝顔先生が見つけたのは……あーっ! シーズン2の前半で県警を辞職してしまったと言われていた丸屋さん(演:杉本哲太)!!!!!正直前半の茶子先生再登場も吹っ飛ぶ驚きのリターンです。恐らく他の仕事との兼ね合いがあって出演シーンが無くなっていたのだと思いますが、にしてもそんな再登場を果たすとは(笑)。

 

神奈川県警を退職した後、丸屋さんは医学科への編入を目指すも失敗し、興雲大学の臨床検査学科に入っていました。調べてみたら学士編入の出来る大学は結構いっぱいあるんですね。この話を聞いた高橋くんは「入口俺と一緒じゃん!」と叫びますが、この経歴も『フラジャイル』の森井くんさん的で笑ってしまう。(正確には森井くんさんは1度医学部に入ったものの、私学の高額な授業料が払えずに退学して、臨床検査技師になるべく再入学したという過去があります)

——森井くんさんのこの回なんか探し出せなかったので、取り敢えず1巻貼っときます

 

再登場した丸屋さんは法医学教室での修行を希望し、教室の新たな戦力になることが決まりました。この後の高橋くんが言う「やった〜、遂に俺にも部下ができた〜!」が切実過ぎる(笑)。にしてもウッシーも丸屋さんも、医学部は平日研究室でバイトできるほど暇じゃないぞ!(☜正直羨ましい)

 

(※丸屋さんは医学科編入に失敗し検査技師を目指すことになりましたが、正直「法医[の業務]をやってみたい」だけなら、検査技師になってすぐ法医学教室などに就職する方がキャリアとして早い気がします。個々人のやりたいことは無視して単に時間だけ考えた場合の話ですがね、、、)

 

決して馬鹿に出来ない糖尿病という病気

丸屋さんリターンズの直後に運び込まれた遺体は、自室でひとり亡くなっていた65歳の女性でした。正直法医の解剖と言ったって、事件性がある遺体というより、運悪くおひとりで亡くなっていて、死に至った状況を知る者がいない、という症例の方が多い気がします。朝顔でもこういう症例が多く取り上げられています。

 

解剖シーンで真っ黒に変色した指先が写された時、筆者も直感で「DM?(=diabetes mellitus)」と思いました。勿論ドラマなのでムラージュ(詳しいことはWikipediaさんで)と呼ばれる特殊メイクなはずですが、前半の薬物中毒編といいなかなか再現度が高くてメイクアップ・アーティストとは凄い仕事だと思います。

mice-cinemanami.hatenablog.com - カズ・ヒロさんのお仕事について触れています

 

ご遺体には10年あまりの2型糖尿病治療歴があり、死因となった敗血症(性ショック)*3も手足の壊疽も、糖尿病のせいであったことが示唆されました。糖尿病は罹患者も大変多い病気ですが、自覚症状なく静かに身体を蝕んでいく一方で、決して馬鹿に出来ない恐ろしさを秘めた疾患です。糖尿病の罹病期間が長い人には、足の趾(ゆび)が1本欠け2本欠け、気付けば下肢を大きく切断している人もいます。これは糖尿病の合併症に末梢神経障害と血管障害があって、高血糖によって足先に向かう神経や血管がぼろぼろになってしまったために、壊疽を起こして切断せざるを得なくなってしまうからです。血管障害の方は「足先を養うだけの血流が届かなくなる」という話なので想像しやすいと思いますが、実はもっと怖いのは末梢神経障害の方です。足先の感覚を失った結果、何を踏んでも分からないし、痛みもないし、やけどしたって全く分からなくなります。怪我をしても分からないって怖くありませんか? 今回は不幸にして亡くなられた症例を扱っていましたが、そこまで行かずとも、足先の病変が元で重篤感染症を起こしている、という糖尿病患者の方は決して少なくありません。

しかも、高血糖というのは感染した細菌の餌がそこらに沢山あるという状態です。更に糖尿病患者ではそもそもの免疫能も下がっていることが多いです(易感染性と言います)。バリアが破れても気付けないし防ぎにくいのに、餌は沢山ある状態……どうなるかはもう分かりますよね。

Tips!

  • 糖尿病の合併症は一般に「しめじ」の順で発生する (糖尿病性神経障害、——眼症、——腎症)
  • 糖尿病性の足趾病変には、高血糖による血管障害だけでなく、神経障害による知覚鈍麻も大きく関わっている (詳しく読みたい方はこちらもどうぞ)
  • 足趾病変の悪化には、高血糖による易感染性も関与している

 

冷蔵庫の作り置きの謎

独り暮らしだったはずの女性の部屋には、大量の作り置きが常備されていました。しかも故人は牛肉アレルギーだったはずなのに、何故か牛肉も沢山冷凍されています。食中毒も否定できない状況で、朝顔と共に臨場した丸屋が奮起してしまい、ここから怒濤の培養祭りが始まります。いやあの量検査するってシャーレ用意するだけでも大変だから……!

 

案の定、量が多すぎて徹夜することになった丸屋(と巻き込まれたウッシー高橋組)。翌朝ふっと気付くと、解剖の際に遺体から採取して培養していた培地に菌が生えていました!

……っておい! ちょっと待て! 高橋くん細菌検査も全部教室で自前なの?! 先週の高橋くんウルトラハイスペックやんけリストにもうひとつ仕事が加わってしまいました。つくづく彼はもう3倍くらいお給料を貰ってもいいと思います。

 

培地に生えた菌から、故人はいわゆる劇症型溶血性レンサ球菌感染症だったことが分かりました。俗に「人食いバクテリア」と呼ばれるこの病気は、ありふれたはずの溶連菌*4がふとしたことで体内に入り、当人を死に至らしめるという恐ろしい病気です。元気なはずの若者でも感染することがあります。実際12歳の少女の例が報道されたりもしています。壊死した組織をデブリドマンしてきちんとした抗菌薬治療をすれば助けることもできますが、全体での致死率は30%とも言われています(以下の国立感染症研究所のページから引きました)。何とも怖い病気ですね……

www.niid.go.jp - 国立感染症研究所のウェブサイトです

 

冷蔵庫の作り置きの謎は本編を観ていただくとして、今回も色々と勉強になった一回でした。

 

おしまい

今回ご紹介した第13話は、来週までTVerで見逃し配信されています。シーズン2のその他全話はフジの公式配信サイトFODで観られます。前のシーズンは既にDVD/Blu-rayボックスが発売されています。次週の朝顔は、遂に父・平の病状と向き合うことにした朝顔、そして妻のため神奈川県警に戻ることを決意した桑原の戦いが描かれるようです。気付けば放送も残り1ヶ月くらいですね!

監察医 朝顔 DVD-BOX(メーカー特典なし)

監察医 朝顔 DVD-BOX(メーカー特典なし)

  • 発売日: 2019/12/18
  • メディア: DVD
 

 

www.youtube.com

 

関連:監察医朝顔 / 上野樹里 / 志田未来 / 中尾明慶 / 板尾創路 / 平岩紙 / 山口智子 / 時任三郎 / 風間俊介 / ともさかりえ / 戸次重幸 / 三宅弘城 / 大谷亮平 / 法医学

*1:でも両親とも最初に娘の顔を見に来た時と同じ格好なのも解せない、が気にしないことにする

*2:逆耐性現象というのは薬物を離脱した後、(その薬物への感受性が強まっていて)、以前の使用量よりずっと少ない量でぐわんぐわんな精神病症状が再燃することを言います。つまりは前と同じ量なんかとてもじゃないが使ってられない、というのがこの現象なのです。朝顔先生の言によれば、松野紗英は摂取の結果高血圧性脳出血によって死亡したのだと言いますが、きっと以前と同じ量を使って逆耐性現象によりオーバードーズになってしまったのだと思います。ちなみに覚醒剤には交感神経刺激症状があるので、高血圧になること自体は想像が付きます(皆さんだってかっかしたら血圧は上がりますよね)。

*3:台詞では上野樹里が「敗血症ショック」と言っていますが、septic shockは普通「敗血症ショック」と言います(細かいところなんですけどね)。

*4:溶連菌、もっと正確に言えばA群β溶血性レンサ球菌ですが、これは急性扁桃炎や猩紅熱、とびひの原因菌という至極ありふれたものです

Live Moon ブログパーツ