ちいさなねずみが映画を語る

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あんなに優秀なのに報われない高橋くん - 『監察医 朝顔』シーズン2第11話/第12話

今夜13話の放送日なのに何とものんびりした話ですが、『監察医 朝顔(フジテレビ月9) の第12話をようやく観ました。実はとある試験があって準備にかかりきりになっており、気付けば次の話の放送がすぐそこという事態になってしまいました(とある試験のことは気が向いたら書くかもしれません)。更に前の週の分(第11話)も、記事にするには分量的に微妙だったのと、第12話との繋がりが深い話だったので、2話分をまとめたいと思います。第10話のネタバレ記事はこちらです。

mice-cinemanami.hatenablog.com

あらすじ

第11話【トンネル崩落事故編】

岩手県・仙ノ浦の実家へ祖父・浩之(演:柄本明)の見舞いにやってきた朝顔(演:上野樹里)とつぐみ(演:加藤柚凪)。震災で行方不明になった母・里子(演:石田ひかり)を捜索すべく仙ノ浦へ移住していた父・平(演:時任三郎)が送迎してくれるが、朝顔は父の細かな言動に認知症の始まりを感じ取る。

一方その頃、長野県でトンネル崩落事故が発生。死傷者多数が疑われたことから、興雲大学に遺体安置所の設営依頼が届く。設営のためつぐみを義姉・忍(演:ともさかりえ)に預けて長野に急いだ朝顔だったが、実はこのトンネルには長野県警へ出向していた夫・桑原(演:風間俊介)が急行していたのだった……

 

第12話【つぐみ失踪編】

※第11話ネタバレ注意!※

 

遺体安置所・検案所の設営に向かった興雲大学法医学教室チーム。朝顔がリーダーに指名されて設営を進めるが、そんな折 忍からつぐみが失踪したとの連絡を受ける。

 一方、ひとり大学に残って当番分の解剖を引き受けていた藤堂(演:板尾創路)は、若い女性の薬物中毒案件に当たり、同様の事件が頻発していることに気付く。警察の捜査の手は、教室の頼れる検査技師・高橋(演:中尾明慶)が想いを寄せるパン屋の店員、北村愛菜(演:矢作穂香)に及ぼうとしていた……

www.youtube.com - 予告編

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先には本編の結末に触れる記述があります※

 


 

第11話【トンネル崩落事故編】

ほんとは前の記事を書いた後この記事についても触れるつもりだったのですが、実生活がちょっと忙しくなってしまったのと、まとめるほどの分量がなかったのでこんな感じになってしまいました。予告編ではトンネル崩落事故編が大分取り上げられていましたが、実際には朝顔とつぐみの仙ノ浦帰省が話の半分を占めていて、第12話にも大きく関係しているという感じです。

 

平さんはもしや……

以前電話口で「里子」(=母の名前)と呼ばれたことから父親の現状を心配していた朝顔。仙ノ浦に帰ってみると、父は祖父の入院先を間違うやら、大事にしていたはずの母の遺骨(疑い)を美幸(演:大竹しのぶ)の食堂に忘れるやらで思った以上に深刻そうです。自らの死期を悟る祖父・浩之から遺骨の鑑定を迫られた朝顔は、父との間で板挟みになります。

 

平さんは神奈川県警を早期退職して仙ノ浦へ移住したので、年から言えば50代の後半ということになります。ちょっと早い気もするけれど、認知症が始まってもおかしくはない絶妙な年です。しっかし、前の記事でも書きましたけど、新シリーズになってから朝顔先生の周りががちゃがちゃし過ぎて急展開の大連続……

シーズン1の作り方がとても好きだったので今回も大分期待していたのですが、主人公の周りに大きな事件が起きないことが良さだったのに*1、今季は最初から教室内でぐわんぐわんのジェットコースター状態で何とも言えない気持ちになっています。

光子ちゃんもそりゃ泣くって - 『監察医 朝顔』シーズン2第10話 - ちいさなねずみが映画を語る

 

父の病状を案じた朝顔は、彼が足繁く通う食堂の女将・美幸に話を聞きますが、彼に気のある美幸はうざったげに話をはぐらかしてしまいました。美幸も震災で夫と娘を亡くしており、平さん同様「欠けた」人物なのですが、だからこそ平に惹かれる部分もあるのでしょう。わがまま故に嘘を吐いてしまう、そんな演技に大竹しのぶはぴったりです。

 

母・里子は石田ひかり(1972年生まれの現在48歳)が演じていたので、大竹しのぶが同級生役というのは大分年が合わない気がします。それでも調べてみたら時任三郎大竹しのぶは同じ1957年度生まれなんですね。……ううん、相手役としてはぴったりなのですが、里子は平にとって年下のよい妻という感じだったので、そこは里子と年を合わせた方が良かったのでは……と思ってしまいます。大竹しのぶの演技は良いのですが。

 

勇み足の遺体安置所・検案所設営

※この節には第12話のネタバレを含みます※

www.youtube.com

 

一方桑原くんが赴任している長野県では突然のトンネル崩落事故が発生。神奈川でニュースを見る山倉係長(演:戸次重幸)は「こりゃあ死者が数人出てもおかしくはないな」と呟きます。前年の不法投棄現場で獅子奮迅の働きを見せたことが評価され、興雲大学に現場指揮の依頼が舞い込みました。

 

ところでこのシーン、大規模災害時に全国の法医学教室から応援が入ること自体は本当です(実例1実例2)。しかしながら物語は、懸命の救出作業で死者を出すことなく全員を帰還させ、全国からの召集は単なる勇み足に終わってしまいました……という筋書きになっています。この間に桑原夫妻の娘・つぐみが失踪してしまう、というのが11話から12話にかけての中心となっていますが、どうもこの筋書きを書くためにわざわざ出張案件を書いたとしか思えません。

 

先日宮城県では140台近くの車が関係した多重事故が発生し、全国的なニュースになりました。筆者も何人か亡くなってもおかしくはない事故だな、と思っていたのですが(まさに山倉係長の呟きとおんなじでした)、現場の救出作業などもあり、亡くなられたのはおひとりのみでした。(勿論おひとりとはいえ尊い命が失われております。ご冥福をお祈りいたします)

この時現場で行われたことを考えてみると、まず現場に急行してトリアージが行われ、重症者から近くの医療機関へ搬送、そして立ち往生した残りの車の人たちを、バスなどで高速道路上から退避させる……という流れでした。140台が関係した事故でもこの通りです。桑原くんが自転車で巡視に行くような小さなトンネルで、全国の法医を呼び集めるようなことがあるでしょうか?

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この話は恐らく2012年に起きた笹子トンネルでの事故を下敷きにしているのだと思います。あの事故では高速道路を通過していた車の乗員9人が亡くなり、高速道路の保守点検を考える上で大きなニュースとなりました。しかしながら、今回の事故はそれよりもずっと規模の小さなものとして描かれています。死者が出たとしても、地元の大学で充分対応できるでしょうし、ましてや全国に150人くらいしかいないはずの法医が、10人以上もぞろぞろとやってくるような案件ではありません。設定そのものが寂しくなったつぐみが家出するための布石でしかなく、ご都合主義な感じがしてしまってちょっと……と感じてしまいました。

(また、こうやって興雲大学が乗り込む案件で、また桑原くんが巻き込まれた疑いになっているのももやもやしてしまいます。朝顔先生は強い人物なので、そういう時でも凜と働くのです、と描かれていますが、何もそこまで彼女を絶望の淵へ落とさなくたって……と思います)

 

第12話【つぐみ失踪編】

長野で遺体安置所・検案所の設営に朝顔が駆け回る中、神奈川でつぐみを見てくれていたはずの義姉・忍からつぐみが失踪したと聞かされます。桑原くんと再会した朝顔は、法歯学者・絵美先生(演:平岩紙)の勧めもあって神奈川にとんぼ返りするのでした……

 

かっこいい絵美先生、頼れる男過ぎる桑原くん

このシーン、神奈川に帰りなさい、と勧める絵美先生がかっこよすぎです。元々平岩紙さん*1が大好きなので、朝顔にレギュラー出演すると知ったときは本当に嬉しかったのですが(しかも法歯学者!)、藤堂先生をバシバシ叩き切りながら、同じ母として朝顔先生に親身になってくれる絵美先生、本当にいい役過ぎる。彼女を好きになったのは『ハッピーフライト』がきっかけなのですが、今キャストを振り返ってみたらこの作品の機長役は時任三郎でした。『GOOD LUCK!』とごっちゃになってたんだけどこっちだったか!

 

神奈川へとんぼ返りし、野毛山署のみんなにも声を掛けてつぐみを探す桑原夫妻。わたしがちょっと目を離したから悪かったのだと泣く忍に、つぐみに何かあったらどうしようと泣き叫ぶ朝顔と、ちょっぴりヒステリックなシーンが続きます。前の記事でも書いた通り、朝顔先生はなかなか優秀なコマンダーなのですが、時々こういうヒステリックなシーンが入るのは彼女に合わないような気がしてしまうのですが……

まあ勿論、これはこの後に続く「桑原くん超いい男」シーンを描くための布石です(笑)。シーズン1から思っていたのですが、桑原くんは夫としても父としてもいいやつ過ぎます。低学年の内から他の学部と隔絶された生活を送る医学科を出て、その中でも1番の異端である法医に進んだ女医がこんないいやつと出会うなんて現実ではそうないと思います!(突然の叫び声)

 

実はこの桑原くんの存在が、女医のキャリアパスを深く考えさせるものとして、シーズン1を高く評価していた理由でもあります。医学部を出た後、女医に待っているのはキャリアを優先するのか結婚出産を優先させるのかという2択問題です。ストレートで出たとしても2年の初期臨床研修をスキップすることは基本できないので*2やっと仕事ができるようになった時には27歳、三十路の声が聞こえています。一般的にはこの段階で何を専門にするのか(何科になるのか)決めてキャリアをスタートしますが、そこから一人前になるには、臨床科では3年から5年ほどの後期研修、法医のような基礎医学では4年の大学院生活が必要です。実際朝顔はシーズン1の段階で30歳という設定です(シーズン2では5年後なので35歳)。そんな中で、つぐみの子育てこそありますが、彼女にキャリアパスを諦めずにいさせてくれる桑原くんは、ただただいいやつだと思うのです。

 

(ところで桑原くんと朝顔、興雲大学のバンで帰ってきちゃってたけど、長野にいたみんなは結局どうやって帰ってきたんだろう……(笑))

 

報われなさ過ぎてただただ不憫な高橋くん

「桑原くんいい奴問題」について筆者の筆が滑ったところで、第12話のキィである高橋くんの恋愛問題にお話を移しましょう。神奈川で留守を守っていた藤堂先生が解剖した遺体は薬物中毒者でした。翌日にも同様の症例が担ぎ込まれ、違法ドラッグのやりとりが横行しているのでは……という話になる法医学教室。折しも県警の捜査の手は、高橋くんが想いを寄せるパン屋の店員、北村愛菜に及ぼうとしていました……

 

今回の高橋くんはいつも以上に獅子奮迅の働きです。

  1. まずは長野で検案所の設営と片付けに奔走。
  2. 続いて(愛菜ちゃんとのデートを取り付けた後)、ウッシーと一緒に電気泳動ゲルの準備に取り掛かります(恐らくDNA鑑定だと思います)。
  3. その後は担ぎ込まれた女性の薬物検査に回り(血液検査のようですね)、
  4. 朝顔先生と光子ちゃんが依頼していたプレパラートを完璧に仕上げて、
  5. 最後にはマフラーに付いた毛髪からMS; 質量分析器を使って薬物のピーク検査。

いやお前は『フラジャイル』の森井くんかよ!*3 森井くんですら完璧なお仕事は病理のプレパラート作りだけだよ!

——フラジャイルめっちゃ面白いので原作読んでね! 既刊19巻ですが毎度毎度ドラマ性が強くて引き込まれちゃう。

 

普通に考えて薬毒物検査と病理染色と両方こなしちゃう高橋くんはただの超人です。COVID-19の流行が始まってPCRが注目されて以来あちこちで話題になっていますが、検査技師の専門はPCRから病理の染色から脳波や心電図など多岐に渡ります。実際のところは医師と同じように、それぞれの専門を持って分業しているのが普通です。それをひとりでこなしちゃう上に教室の雑用まで買って出てくれる高橋くん、いい加減報われてほしい……

 

ところが彼が想いを寄せる愛菜ちゃんは、県警が薬物流通の重要人物としてマークする女性でした。ふとしたことから彼女の毛髪を手に入れ、MSにかけた高橋くんは、彼女も使用者のひとりだったことを知って愕然とします。現実で仲里依紗と結婚してるからドラマで幸せになるのは許しません! ってくらいの可哀想ぶり……不憫でなりません。

 

遂に大谷亮平の正体が発覚!

教室で解剖した薬物中毒者の女性は、接種の影響で元気だった頃とは似つかない姿になっていました。腕の立つエンバーマーでないと修復は無理そう、と聞いた光子ちゃんは、とある人に連絡を入れます。そして法医学教室にやってきたのは……あ! 茶子先生をグルーシェニカー*4していた謎の男性! シーズン序盤で登場して以来、茶子先生の退場[退任]もあって正体不明のままだった大谷亮平が、ここにきてやっと本編に大きく関わるようになりました。

www.oricon.co.jp - 第13話のネタバレありですのでご注意を

彼の正体がエンバーマーだったと聞いて、頭の中に過ぎったのは『おくりびと』でした。本木雅弘演じた主人公は納棺士でしたが、その仕事はよく似通っています。死を巡る仕事が忌避されがちな様子は朝顔でも描かれていますが、この作品にも同じようなシーンがあって身につまされるところがあります。それでも、故人を送り出す上で、死に纏わる仕事は無くてはならないものなのです……この作品はお隣山形県の酒田・鶴岡を中心に撮影されていますが、どちらも素敵な街なので、COVID-19が収まったら行ってみてくださいね。

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にしても大谷亮平は『逃げるは恥だが役に立つ』でも石田ゆり子演じるゆりちゃんを翻弄する年下イケメン・風見を演じていましたけど、今作でも茶子先生をたぶらかしていて、またまたあって感じですね。(笑)

——本シリーズとこないだ放送された特別編も含めてボックスになるようです!

 

おしまい

筆者がこの記事を書くのに試行錯誤している間に第13話が放送されてしまいました。来週までTVerで見逃し配信されています。シーズン2のその他全話はフジの公式配信サイトFODで観られます。前のシーズンは既にDVD/Blu-rayボックスが発売されています。

監察医 朝顔 DVD-BOX(メーカー特典なし)

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関連:監察医朝顔 / 上野樹里 / 志田未来 / 中尾明慶 / 板尾創路 / 平岩紙 / 山口智子 / 時任三郎 / 風間俊介 / ともさかりえ / 戸次重幸 / 三宅弘城 / 大谷亮平 / 法医学

*1:急にさん付けになったのは大好き故に口が滑っただけなので、以後は敬称略で統一します

*2:基本的には、何科になるにせよ2年の臨床研修が必要で、この2年間は医者として最低限覚えておくべき仕事を学ぶべく、あちこちの科を渡り歩くように出来ています(スーパーローテーションと言います)。各科に居られる時間はせいぜい2ヶ月くらいなので、2年の間は自分の将来の志望科であっても、お客さん状態を抜け出せないのが実際のところです

*3:フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』に登場する検査技師。主人公で偏屈な病理医の岸から依頼される複雑な染め分け(病理切片の染色)を見事にこなし、人間嫌いな岸にも一目置かれる存在。

*4:グルーシェニカーが何か分からない方は伊坂幸太郎の『陽気なギャングが地球を回す』をお読みください! 映画化のキャストもあって伊坂作品の中で特にお気に入りな1冊です(映画化のオチは許してないけど)。

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)
 

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