ちいさなねずみが映画を語る

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サリー・ホーキンズを見つけてくれてありがとう - 映画『シェイプ・オブ・ウォーター』

先日第90回アカデミー賞で無冠の女王となった『レディ・バード』を紹介した。そうしたらこれも紹介せずにはいられまい。このアカデミー賞を最も湧かせたギレルモ・デル・トロのあの映画、そう、シェイプ・オブ・ウォーターThe Shape Of Water (2018)である。

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デル・トロはこの映画で、(ある意味観客を選ぶ、そして彼の得意な)怪物映画にもかかわらず、作品賞と監督賞を受賞した。対抗馬がゴールデン・グローブ賞受賞のフランシス・マクドーマンド(スリー・ビルボード)、サーシャ・ローナン(レディ・バード)だったことから主演女優賞獲得はならなかったが、主役のイライザを演じたサリー・ホーキンズ(サリー・ホーキンス表記が人口に膾炙しているが、彼女は「ホーキンズ」だ)の演技は、充分にオスカーものだったと思う。そんな作品のレビューを、鑑賞してきた3月に書いたレビューと共に振り返りたい。(時間が無いから過去作を引っ張り出しただって?!人聞きの悪い!)

 

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※注釈:このレビューは鑑賞当時の3月に書いたもので、鑑賞日はオスカーの授賞式(3月4日)の直前だった。

 

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サリー・ホーキンズを見つけてくれてありがとう

まず、私の大好きなサリー・ホーキンズを見つけてくれて、デル・トロ監督ありがとう*1。最後まで彼女の声は戻らないままだったけれど、ホーキンズの豊かな表情が手話を助けていて、やはりこの人が好きだな、と思った。

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 イライザの運命は、ジャイルズやゼルダなど遺された側からすれば悲しく、虚しいが、何にも増して水門の中で「彼」の力により蘇り、抱き合う姿は美しい。暫くあの余韻に浸りたくもあるし、“La La Land”と同じで、「あのフライヤーはこんな所を切り取っていたの」という悲しみすらある*2

 

181230追記) これが映画史上最も美しいFワード☞

 

オスカーの話 ※レビュー執筆は授賞式前

 時期柄オスカーの話になりがちだけど*3、映画賞の結果、そして「差別と陳腐な醜悪さ」を描いたところ、また『スリー・ビルボード』の監督だったマクドナーがノミネート漏れしていることなどから、デル・トロ監督のオスカー(監督賞)は当確なのでは、と思う(個人的には“Lady Bird”のグレタ・ガーウィグも頑張ってほしいが*4 )。また、「黄色い字幕」の作品だったことから、『バードマン』*5同様作品賞も獲ってほしい(そういえば『バードマン』は同郷メキシコのイニャリトゥ作品だった)。

 

ラ・ラ・ランド』『ムーンライト』との共通点 - 映像美と音楽の調和

 そういえば丁度1年前、私は同じ映画館の椅子に納まって『ラ・ラ・ランド』を観ていた。あの映画のコピーとこの映画のフライヤーだけでなく、他にもいくつかの共通点がある。イライザは映画館の上に住んでいて映画の香りを嗅いでいる。隣人ジャイルズと古いミュージカル映画を観ていてタップダンスを始める。彼女の愛を伝える手話は、唐突に白黒映画のミュージカルシーンに切り替わる(“Audition”のように)——そして何より、イライザは「本当の自分」を見つけてくれる人とやっと出会う。私は1年経っても『ラ・ラ・ランド』がまだ好きだし、だからこそこの映画もずっと好きでいるのだろうな、と思う。

 それと、懐古趣味かもしれないけれど、古い白黒映画風の音楽を暗く青みがかった映像に合わせたデスプラに賛辞を送りたい。こういう映像美と音楽の調和という点では、やはり昨年の『ムーンライト』や『ラ・ラ・ランド』が思い起こされるところでもある。

 

シェイプ・オブ・ウォーター (字幕/吹替)

シェイプ・オブ・ウォーター (字幕/吹替)

  • Guillermo del Toro
  • SF/ファンタジー
  • ¥2000

 

 

ざっくりネタバレあらすじ/ストリックランドのモチーフ

 舞台は冷戦期のボルティモア(そういえばジョン・ホプキン*6もある黒人の街だ)。悪役ストリックランドは自分の保身が第一で、オクタヴィア・スペンサー演じる黒人のゼルダへ差別丸出し、孤児で啞のイライザは見下し、白人で完璧な家族を手に入れた自分こそが「神のような存在」だと考えている。一方で彼は「陳腐な醜悪さ」の権化でもあり、この辺りはデル・トロ監督による痛烈なメッセージではないかと思う。ところでその象徴はストリックランドがおだてられて即決した青緑ティールのキャデラックだが、それはささやかな善の側であるジャイルズのバンによって破壊されるのである。

(余談だが「ストリックランド」といえば“BTTF”の教師の名字でもある。“Sing Street”の“Drive It Like You Stole It”では“Blue Cadillac”が「本当の自分を見つける自由」へ向かう道具だったが*7、この辺の倒錯に少しにやっとしてしまった)(それとイライザの首の傷は、えらのように3本あったなあと思う)

 

名優スタールバーグ

 個人的には、よくホフステトラー博士のような 当て馬になって結果散ってしまう役が好きなのだが、「彼」のために蛋白質を持ってきた時、イライザに「いい人ね」と言われて立ち尽くすスタールバーグの表情が良かった。

 

※追記:実はスタールバーグさん、『シェイプ・オブ・ウォーター』の他に、CMBYN(エリオの父)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(ローゼンタール)に出演しており、第90回アカデミー賞作品賞ノミニー9作品のうち3作品に出演していた。助演男優賞のノミネートがひとつもなかったのが勿体ないくらいで、これからちょっとチェックしてみたいな、と思わせた名脇役であった。

 

映倫での判定のお話

 ところで、日本(映倫)での判定は、R15+だった(アメリカは確かR)。公開前には誰かが「映画祭版と違った」としてカットを疑うツイートをし、フォックス・サーチライトが「カット・差し替えなく1箇所のぼかしのみ」と弁明するに至った。ふうん、と思って観に行ったところ、ストリックランド夫妻の◯◯◯シーンがぼかされていたが、あまりの露骨さに笑ってしまうほどだった。もっとあちこち弄られてもおかしくなさそうだが、よくR15+に収めたと思うばかりである……(良作なのでみんな観てってことか? ならタイムラグをなくしてくれ!)

 

 作品情報追記

【作品情報】『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017) “The Shape of Water

出演:Sally Hawkins, Michael Shannon, Richard Jenkins, Doug Jones, Michael Stuhlbarg, and Octavia Spencer

監督・脚本:Guillermo del Toro / 共同脚本:Vanessa Taylor / 音楽: Alexandre Desplat

配給:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ、2018年3月1日日本公開

 

因みにこのレビューでは随分あっさりまとめてあるが、そのうちもっと深掘りする記事が出るかもしれない……?

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関連:シェイプ・オブ・ウォーター / ギレルモ・デル・トロ / サリー・ホーキンス / マイケル・スタールバーグ / マイケル・シャノン / ダグ・ジョーンズ / オクタヴィア・スペンサー

 

*1:ホーキンズは元々大好きな女優なのだが、過去作をどう探してみても、『パディントン』しか観ていなかった。どうしてここまで惚れ込んだのかはよく分からないのだが、やはりマーティン・フリーマンと同じように、どこにでもいる人物のように見えて、確かな演技力を持っているところにあるのだと思う。

 

パディントン(字幕版)

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パディントン【期間限定価格版】Blu-ray

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*2:ラ・ラ・ランド』の本国版トレイラーには数パターンがあるが、"Auditions"を使ったこのトレイラーは、本編を観た後だと涙を禁じ得ない出来である。 

www.youtube.com - ライオンズゲート公式からのトレイラー集もどうぞ☞www.youtube.com

*3:先述の通り観劇はオスカーの直前

*4:前の記事で特集したよう、結局『レディ・バード』はオスカー無冠となった

*5:2015年の第87回アカデミー賞で作品賞と監督賞を制した『バードマン』は、イニャリトゥの指示でディスク収録の字幕まで黄色に揃えられたことが有名になった。詳細はこちら☞

eiga.comそう言えばその後観に行った『君の名前で僕を呼んで』;CMBYN も黄色字幕だった気がする。

*6:181216追記:ジョンズ・ホプキンズ大学のこと。医学系ではかなり名の知れたアメリカの有名大学である。医学/生物系では、ヘンリエッタ・ラックスという女性の子宮頚癌細胞から樹立されたHeLa細胞が、この大学の附属病院で樹立されたものだと言えば通じるかもしれない。HeLaの顛末についてはレベッカ・スクルートによる名著『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』に詳しいが、そこでは、黒人コミュニティの中でこの大学が「ジョン・ホプキン」と呼ばれていることに触れられている。

 

不死細胞ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

 

 

*7:わたしを映画館に連れて行った『シング・ストリート』の名曲。この話はまた後で

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