ちいさなねずみが映画を語る

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さっしーの卒業発表に思うこと - アイドルというもののあり方、そして女性のキャリアパス

さっしーことHKT48指原莉乃がグループからの卒業を発表した。

HKTへの移籍には多少のすったもんだがあったが、むしろそれすら踏み台にしてグループトップに駆けのぼっていったのは流石としか言いようがない(勿論その辺は事務所の演出だったのかもしれないが)。タレント業も安定しているし、卒業しても浮き沈みすることなく、このままの芸能活動が続くだろうと思う。

 

それでも、今回語りたいのはそこではない。そもそもHKT移籍の原因となった、「知人男性」とのお話である。(なお、筆者はアイドルファンでもなんでもなく、一介の市民の独り言であることには留意いただきたい)

 

 

そもそもさっしーがHKT移籍したわけ

別にこの辺りの事情は皆さんご存じだと思うし、何ならファンの皆さんの方がよほどお詳しいと思うのだが、自分なりに少しだけ振り返ってみたいと思う。

 

彼女のHKT移籍が決まったのは2012年のことで、その原因は週刊誌で過去の交際関係をすっぱ抜かれたことだった。オリコンの記事(下記)に書かれているように、報道直後に秋元康氏から電撃移籍が発表され、彼女自身も驚きのまま(?)HKTに移籍することが決まった。相手が明かした交際の時期が、丁度彼女がAKBの正規メンバーに昇格した時期に当たっていたので、その辺りも含めて色々言われていたように思う。交際そのものがAKBの「お約束」に完全に反していたので、この話は随分ワイドショーを賑わせた(ように思う)。言葉を濁すのはもう6年半も前の話だからだ。

business.nikkeibp.co.jp

www.oricon.co.jp - そんなに前なんだね

なぜアイドルは清廉潔白でないといけないのか

そもそも「恋愛禁止」というのは、よく分からないのだがアイドル界にずっと敷かれている不文律である(リンク先はWikiサイトだが、そこそこちゃんとまとめられている気がする☞ 恋愛禁止 - エケペディア )。指原莉乃に限らず、AKBグループではちょこちょことこういった「スキャンダル」が明るみになっているが、プロデューサーである秋元康のコメントを辿ってみると、「あるんだかないんだか分からない」というのが真相のようだ。もっとも秋元氏の場合は、そういう風に濁しておかないと自分の方に火の粉がかかってくるという事情があるのかもしれないが(周知の通り彼の妻は元おニャン子クラブ高井麻巳子である)。

www.j-cast.com - ちょっと古いのだが、2012年12月の発言

 

勿論この話はAKBグループに限った話ではない。先日メンバーの自殺が話題となった地方アイドルでも、契約事項の中に恋愛禁止が含まれていたことは報道されていたし、矢口真里モーニング娘。脱退だってその原因は熱愛だとされているし、「アイドルたるもの恋愛禁止」というのは、日本の芸能界全体に広く周知された不文律になっていると思う。

lite-ra.com

でも、少し落ち着いて考えてみたいのだが、こうやって「恋愛禁止」を謳うことの意味は何なのだろう?

1. アイドルは「偶像」だから

アイドルの語源は「偶像」を意味する "idol" という単語であることは誰でも知っていることだ。可愛い/かっこいい人たちが大勢集まってパフォーマンスをしているのは、それだけで目の保養になるし、そのまま「崇めるべき存在」へ変化することもあるにはあるだろうと思う。「偶像」なのだから、「現実には無いもの」であることも当然だ。だからこそファンに夢を観させてくれる訳だし、アイドルの舞台はいつでも輝いている。でも、そういう存在であるのは、アイドルという職業人である時間だけであるべきで、何も私生活までがちがちに縛られる必要は無いと思う。

 

逆に言えば、アイドルとしてバリバリに活躍しているメンバーが、オフの時『聖☆おにいさん』みたいにぐだらぐだらしていたって、それは本人のオフの時間なのだから、放っておくのが正解だろうと思う。何よりそういう時間が、仕事に打ち込む上での充電期間になっているかもしれないし、一概に否定はできないはずだ。それが恋愛だったとしても、こちらからとやかく言える筋合いは無い。

 

聖☆おにいさん(1) (モーニングコミックス)

聖☆おにいさん(1) (モーニングコミックス)

 

—『聖☆おにいさん』は世紀末に働きまくったブッダとイエスが、オフを取って東京・立川のボロアパートで暮らし始め、下界日本の生活をエンジョイしまくる中村光のギャグ漫画だ

 

2. 「恋愛禁止」にしておく方がファンが付く

次に多く言われるように思うのが、経営側からみたこの下世話な話である。この子たちには悪い虫は付いていませんよ、とアピールすることにより、「ぼく/わたしにもワンチャンあるかもしれない!」と思うファンが群がるという構図だ。しかし落ち着いて考えてほしいのだが、そうやって推しの子を手に入れたとして、そういう当人だって「掟を破って交際している悪い虫」に他ならない。それとも、絶対の掟を破って交際しているというスリルが楽しいとでも言うのだろうか? そんな渡辺徹みたいな話、そうある訳がない(しかも彼の場合だって、榊原郁恵と結婚したのは、仕事上での共演がきっかけだったはずだ)。

 

自分についてのとはず語りではあるが、わたし自身はそういったことが全く気にならない(そもそも推しにしようと思ったらしっかりステディのいる人だったりすることも多い)。エマ・ストーンアンドリュー・ガーフィールドと復縁したからといって彼女の演技力が損なわれるか?*1 そんなことはない。むしろ推しには幸せになってもらいたいと思うし、共演を機にお付き合いし始めたのなら良い縁だと思うし、それが仕事の上でプラスになるのならもっと良いだろう。

 

ところでこんな話を書いていたらこんな話を思い出してしまった。

www.itmedia.co.jp - こっちの方が余程健全な気すらする(個人的には、ご本人もよく考えた末の結論だろうし、祝福したいと思う)

3. 恋愛をしていると仕事に身が入らない

2. と並んで多いのがこのアホみたいな話だ。そら多少は頭がぽわぽわすることもあるかもしれないが、みんながそうなるとは限らないし、人それぞれなのだからそんなに単純に一般化できる話ではない(☞ 恋愛が仕事に影響する?しない?-セキララ★ゼクシィ )。

もしこれが「自分がそうなので」という理由で言っているのだとしたら、「あなたは仕事とプライベートを分けられない上に、狭い視野で見える少ない"実例"で『エビデンス』とか言っちゃう人なんですね」という感想しかない(ここまでくると流石に暴言だが)。

 

そう言えば筆者も中学生の頃、受験期の学年集会で、教員から「受験期なので恋愛はお休みにしましょう」と大真面目に演説されたことがあった。これはカップルで合格・不合格に分かれてしまった時が悲劇だからということだったのかもしれないが、そんなあほな、と思ったのを今でもよく覚えている。

 

本当に本人を思って指導するならば、掛けるべき言葉は、「仕事に身が入らないと困るから恋愛は禁止です」ではなく、「仕事とプライベートのことは分けて考えられるようになりましょう」だろう。

今時結婚して専業主婦になるのが当たり前の世の中でもない。むしろ、その後もワークライフバランスを上手く取りながら仕事を続けていく方が当たり前の世の中だ。芸能界は、多くの人の関心を集める一方、そういうロールモデルになる役割だってあるだろう。

 

何より、「悪いことがあると困るから禁止してしまいましょう」というのは困った考え方だ。リスクの対処法としては楽なのだが、本人にとってプラスになるかというと疑問符である。それよりは、リスクへの上手い付き合い方を教える方が、人生の先達として正しい道筋なのではないかと思う。そしてそういう対処法を上手く考えられる人こそ、上に立つべき人材なのだ。

 

ついでだから女性のキャリアパスを考えてみる

話が結婚後の仕事の方へ行ったので、女性のキャリアパスについてちょっと考えてみたい。

 

どこぞの私立医大さまが何かと世間を賑わせているが、「女子は離職するからあんまり入れたくない」というのは間違った理論だ。確かに卒後10年辺りでM字カーブの底になるのは有名な話だが(厚労省資料参照)、本当にやるべきはその分「補充人員」を充足させることで、その理論で行けば女医はもっと増やすべきである。(勿論、プレジデント(下記)で指摘されているよう、診療科の偏りなんかも大きな問題ではあるので、単純な問題ではないのは確かだ)*2

ま、流石にどこぞの順天堂さんみたいに、理由を「コミュ力」とか言われてしまうと噴飯物なのだが(ハフポスト産経ニュースねとらぼ)*3

president.jp

男性と女性が大きく違うのは、妊娠・出産でどうしても離職せざるを得ない期間があることだ。出産後も、(母乳育児のみであれば)授乳は男にはできないことだし、産んだだけですぐ復職できるかというとそうでもない。その前に、妊娠・出産にタイムリミットがあることが1番の問題だ*4

 

女性の高学歴化、男女問わずの晩婚化など、色々な理由が相まって、高齢出産はどんどん増えている(院内調査のようだが、実際のデータもある)。一応35歳を区切りにするのが今のお約束だが、だからといって「34歳までに産めばオールオッケー!」ではない。妊娠に至る率は年を重ねるごとに下がるものだし、年を重ねるほど妊娠高血圧症や糖代謝異常合併妊娠、深部静脈血栓症など、合併症が加わる率も高くなる(先程と同じPDFに説明がある☞「分娩時年齢の高年齢化 現状と問題点」)。

www.jaog.or.jp

だから理想を言えば、できるだけ若い内に(結婚して)*5出産して「しまう」のが1番良いのだ。第1子を若い時に産めば、その分下の子どもも若い内に産むことができるし、母親の方も大きな合併症無く出産できる確率が上がるので、少子化だとか母体の健康という面でもプラスは大きい。

マイナス面としては、仕事を始めたばかりの頃に離職はしにくいだとか、子どもを抱えた状態でサポート無しの復職は難しいとか色々なことが考えられる。対策は色々考えられるが、どれも子どもの父、それに職場や行政の側が実施すべきことばかりなので、この記事では割愛させていただきたい。

 

芸能界はよくも悪くもロールモデル

ところで話を芸能界に戻すが、彼らは世間の脚光を浴びる以上、よくも悪くもロールモデルになっている。できちゃった結婚をすれば話題になるし、病気になって選んだ治療法も話題になるし、子どもに付けた名前だって話題になる。

bunshun.jp - 小林麻央氏を叩くわけではないが、これを機に「標準治療」の正しい意味は知ってほしい

出産だって同じ話だ。仕事に折り合いを付けて子どもを産むのは芸能界だろうが一般の働く女性だろうが同じであって、みんなから見えるところにいる人はそれだけロールモデルになりやすい。

昨今では多くの芸能人が35歳以上での出産を明らかにしているが、だからといって「わたしにもできる!」と考えてしまうのは早計である。こういう人たちは、お金があるから高額な不妊治療も苦にならないのかもしれない。自分の身体にとって負担の無い出産方法を選んでいるのかもしれない。産後も身体のケアに気を配っているのかもしれない—到底一般人では真似できない「特別な何か」をしている可能性も高い。

tocana.jp - ゴシップ記事だが、言ってることはそんなに的外れではない

本当にロールモデルになるべきは、むしろこっちの方である。付けた名前こそ色々言われはしたが、夫であるりゅうちぇるの方だって家事や育児には積極的だし、夫婦の形としては素晴らしいものがあると思う。

mdpr.jp

ところで個人的には「事務所NGで別れさせられた」というのも何かおかしいと思うが……

 

話をアイドルの方へ戻して

だからやっぱり、日本の芸能界の恋愛事情は結構変だと思う。アイドルの恋愛を禁じる理由は、アイドル本人を思うものというより、アイドルが生み出すコンテンツの魅力を考えたものに大きく偏っている気がする。それでも、恋愛なんて運と縁なのだから、完全に禁じることなんてどだい無理に決まっている。

 

そもそも、運営側の人間だって、「今日からあなたは恋愛禁止です」と言われたら嫌じゃないのか? いじめ防止の基本はと言えば、「相手の嫌がることはしない」である。アイドルだってキャンペーンモデルになるのに、思いっきり反した言動をしないでくれという感じだ。

 

アイドルだって恋をしていい。誰かとお付き合いしたっていい。それが全て本人の芸の肥やしになるんだったらそれでいい。

そんな感じにならないかなあと切に願うばかりだ。

 

wezz-y.com - ところで昔騒がれた「クリスマスケーキ」理論だが、6年制大学を卒業すると、ストレートでも卒業した時にゃクリスマスケーキなんだよなァ(遠い目)

 

最後に

恋するフォーチュンクッキー

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病気がみえる vol.10 産科

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 がちがちの医学書ですけどこのシリーズはかなりさっくりしてて一般の方にもおすすめです

 

 

関連:アイドル / キャリアパス

*1:結局どうなったのかよく分からないのだが、『アメイジングスパイダーマン』での共演後ストーンとガーフィールドが交際し始めたのは事実で、その後一時別れた後、『ラ・ラ・ランド』の後くらいに復縁したとかしないとかいう情報がある(単にご飯を食べに行っただけらしい?)。ま、だからといってエマ嬢の価値が損なわれる訳ではない

www.cosmopolitan.com

people.com

www.gossipcop.com - こんな噂も上がってるが流石にこれはガセのようである

*2:「補充人員」とか言うと色々炎上しそうなのだが、何を隠そう、筆者は医学のたまごなのでその辺はお許しいただきたい。

*3:個人的には、何とか角が立たないようにひねり出した言い訳がこれだったのだと思っているが、それにしても貧弱な言い訳であるなあとは思う。むしろ角は立ちまくりだし

*4:勿論、男性の方も年を重ねると妊孕率は下がるし、精子の奇形率も増えるのだが、それは閉経という戻りようがないリミットがある女性と比べると、まだ小さい問題である

*5:かっこにしたのは非婚のパートナーシップをを想定してのことである

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