ちいさなねずみが映画を語る

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『テルマエ・ロマエ』ばりに時をかけるおじいちゃん - 映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』

インディ・ジョーンズシリーズ第5作にして、80歳 (ちなみにあと3日*1で81歳) のハリソン・フォード御大のインディ引退作インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』"Indiana Jones and the Dial of Destiny" ('23)を観てきた。フォードがインディ引退作と明言した通り、作中のジョーンズ博士も引退を間近に控えているが、話の流れは今までのシリーズを汲んで、以前よりも荒唐無稽になっていた。与太話感は以前よりも更にアップしたものの、フォードがこの年になってもインディとしてスクリーン中を駆け回ってくれたことを考えれば差し引いて然るべきだろう。……あとみんな、マッツの悪役大好き過ぎな!!!

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あらすじ

第二次世界大戦中、インディ・ジョーンズ博士 (演:ハリソン・フォード) は、オックスフォード大の考古学教授バジル・"バズ"・ショー (演:トビー・ジョーンズ) と共にナチスの巣窟へ潜り込み、アルキメデスの秘宝である「アンティキティラ」の片割れを盗み出した。20数年後、アンティキティラを巡ってバズの娘であるヘレナ・"ウォンバット" (演:フィービー・ウォーラー=ブリッジ) が突然ジョーンズ博士の前に現れ、これと同時にジョーンズ博士は陰謀に巻き込まれて行く。その影にはシュミット博士と名乗る眼光の鋭い男 (演:マッツ・ミケルセン) がいて……

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOIKER ALERT! !!!
※この先はネタバレ全開で感想だけ言って駆け抜けます※

 

 

IMAX課金したけど4DX乗りたいな

世界一どうでもいいが筆者はTDSのクリスタル・スカルが本当に大好きで、それはもうどれくらい好きかというと小学校の頃に1日で4回か5回くらい乗ったほどである。当然ながら今作を観終わった後も、「4DXに課金するかTDSに行くか……」と変な考えを過ぎらせていたのだった。アトラクションのモチーフとなった(であろう)第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から実に42年を経て、フォードが80歳を迎えた中でも、そのアクションは時代のおかげか更に更にパワーアップしていた。最新技術を駆使した故に与太話感もアップしているが、そこはもう突き詰めれば勝ちである。そもそも大学の考古学教授があんなに不死身なのがまずおかしいのだから。

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またナチか

今回ジョーンズ博士が挑むのは「アンティキティラ」を追うナチの残党たちだが、時代背景としてはアポロ11号帰還直後の1969年8月であるので、あのアイヒマン裁判(1961年)からやや下ったところになる。とはいえナチの残党はまだまだあちこちに逃亡しており、ナチ・ハンターと呼ばれた人々が血眼になって残党たちを追いかけていた時期でもあった。マッツ演じるフォーラー博士 *2の造型はそう言う意味でも現実味がある。因みに博士のエピソードは、ナチス・ドイツから敗戦直前にアメリカへ亡命して同国のロケット開発の礎を築いたヴェルナー・フォン・ブラウンから採られているのは明白だ。

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インディはアメリカ人らしさを追い求めたキャラクターなので(そうでなければ馬で駆けたりカウボーイらしい鞭を振り回したりが代名詞にはならない)、政治的に対立する分かりやすい外国人敵がいる、というのはシリーズを通した共通項である。しかしながらナチvsインディというのはシリーズで既に3回目、前作もソビエトが相手であったので、まあまたかという気はかなり濃厚だ。

40年も前からやっているシリーズなのでキャラクターたちの国籍が演者と合っていないのはまあまあある話ながら、マッツ・ミケルセンがナチの残党たる博士の役を演じているのはちょっと笑えてしまった。ひとつはみんなマッツの悪役観た過ぎだろ、という話と、もうひとつはデンマークってWWII間ナチス・ドイツに占領されてただろ?*3という話と……

——まあさ、ミケルセン兄弟が悪役にぴったりなのは否定しないぜ*4

 

最近のハリウッドはブリティッシュが好み

マッツとトビー・ジョーンズが並んで出ているとどうしても『SHERLOCK』に思いを巡らせずにはいられないが(何故ならマッツの兄ラース・ミケルセンとジョーンズは同シリーズで印象的な悪役を演じていたからだ)*5、ここに『フリーバッグ』で英米両国に認められたフィービー・ウォーラー=ブリッジがメインキャラとして出るとなると、やはりハリウッドはブリティッシュが好みと言わざるを得ない。今どきの流れを見ると、舞台作品で下積みを積んできた人たちの底力を、映像作品で活かしてほしいというような印象がある。荒唐無稽なハリウッド映画でも、ブリティッシュ俳優たちが沢山活躍するようになったのはそういう意味だと思う(なお、マッツも本国で実績充分の俳優として英語作品に軸足を移した人物である)。

第1話

第1話

  • フィービー・ウォーラー=ブリッジ
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今作でフィービー・ウォーラー=ブリッジが演じたヘレナ・ショーの造型についてはちょっとまあ振り切り過ぎているところもあるが、インディの冒険に振り回されるばかりになっていた過去作のヒロインたちとはまた毛色が違ってそこはよいのかもしれない。

 

公式に断罪された(?)シャイア・ラブーフ

第4作でインディとマリオンの息子として登場しながら、今作には登場しないことが早くから明言されていたシャイア・ラブーフスピルバーグの育てた秘蔵っ子として第4作に鳴り物入りで登場したものの、その後は奇行が目立ち、数々の逮捕歴やDV疑惑などもあって、すっかりお騒がせおじさんの印象がついて回っている。あの"Just Do Itおじさん"と言った方が通りが良いかもしれない。

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数多の奇行のあまり、秘蔵っ子として育てていたはずのスピルバーグすら匙を投げたという噂もまことしやかに流れていたが(多分本当だと思う)、今作ではそんなラブーフの演じたマットが、ベトナム戦争*6で戦死していたことがあっさり明かされる。前作であんなに鳴り物入りで出て来たのにあっさり死んでいるとは……そりゃマリオンもいなくなるわ。恐らくは、マリオンの登場シーンを減らすために考えられた筋書なのだとは思うが、まあちょっと使い捨て感が結構ひどいなとは思う

 

勝者の奪い取りは正当化

前作でも原爆(水爆?)実験からジョーンズ博士が逃げ出すシーンがあったのと*7、彼のキャラクター自体がカウボーイをモデルにしているので訳もない話だが、ナチスの強奪を揶揄している割に、勝者の奪い取りは正当化しているのが噴飯物な、実にアメリカらしい筋書である。その影にトビー・ジョーンズ演じるオックスフォード大の考古学教授がいるのが余計おかしくてならない。イギリス人が誇る大英博物館は、強奪の歴史と言っても差し支えないからだ(ブリッツマニアだがこれはブリティッシュジョークとして話している)。

ナショナル・ギャラリー 英国の至宝

ナショナル・ギャラリー 英国の至宝

  • ナショナル・ギャラリーのスタッフほか
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実際、ナチス・ドイツは占領した国々で沢山の美術品を強奪しては自分たちのものにして回っていたのだが、その論理を否定するようでいて、実は自分たちの考古学的収集をややネタにしているというのが面白い仕組みだなと思った。勿論これは狙った展開であり、その証拠にジョーンズ博士はヘレナに「どうせ墓荒らしでしょ」とひどく揶揄されている。

 

テルマエロマエ』ばりに時をかけるおじいちゃん

不思議な魔力から毎度毎度際どく脱出してきたインディが、遂に時をかけてしまった。海に潜ってウナギで悲鳴を上げているのだけでも前作からのパワーアップなのに(インディはあんなに勇敢なのにヘビがどうしても嫌いという設定である)、もう時をかけて歴史の目撃者になるなど設定がぶっ飛んでいる。ハリソンのインディ引退作に相応しいほどのモリモリ設定だ。正直あの瞬間『ストームライダー』のアトラクション音楽ユーミンの『時をかける少女』が頭の中で交互に流れていた。

 

インディたちはシラクサ戦争の真っ只中に辿り着くわけであるが、インディが「ローマ人たちの戦争をこの目で見ている……!」と感動する中で、ハリウッドが本気でやるとこんなスペクタクルになるんだなと思いつつ*8、なんかもうこれ『テルマエ・ロマエ』じゃんという気持ちが過ぎってならないのだった。「元の世に戻るのよ!」というヘレナの叱咤も相まって。

 

おしまい

というわけでとりとめのない記事もおしまい。なんだかんだ1時間半くらいかけて書いてしまった。冒頭、Disney100(ディズニー創業100周年を記念して2023年に出る映画には全てこのアバンタイトルが付く)を見ながら、そうかパラマウントも最早ディズニーなんだな、第1作から長い年月が経ったもんだと思わされた。SW新新・三部作でセットの落ち扉に挟まれたり自分で操縦する飛行機が墜落してみんなを心配させたりもしたが、結局は元気な80歳がスクリーン上を駆け回っていて安心した。荒唐無稽な作品ではあるものの、その荒唐無稽さを40年保ち続けたのは流石であると思う。皆さんも是非夏の1本として是非劇場でご覧下さい。

 

そう言えばGotG3の記事、2ヶ月ほっといてすみません。そのうち出します(誰も待ってないけど)。

 

関連:インディ・ジョーンズと運命のダイヤル / ハリソン・フォード / フィービー・ウォーラー=ブリッジ / アントニオ・バンデラス / トビー・ジョーンズ / マッツ・ミケルセン

*1:ハリソン・フォードは1942年7月12日生まれ

*2:Prof. Jürgen Voller. 戸田奈津子字幕では「ファーラー」になっていたがそもそも彼女の転記はやや耳に頼りすぎている

*3:デンマーク人のマッツは悪役を演じる前にこういう役の中身に何か思うところがあったりしないのか?という意味

*4:SHERLOCK』シーズン3の悪役を演じたラース・ミケルセンはマッツの実兄。何で『SHERLOCK』の話をするかは後述

*5:ラース・ミケルセンはシーズン3の悪役:チャールズ・オーガスタス・マグヌッセン;CAMを、トビー・ジョーンズはシーズン4の悪役カルヴァートン・スミスを演じていた

*6:作中では「戦争」としか言われていないが、アポロ11号の月面探査と並行して行われていた戦争はベトナム戦争くらいなので、その辺は明白である(シラクサ戦争を教えるジョーンズ博士ではないが)。☞

*7:原爆/水爆実験のシーンがあること自体、今でも広島長崎を正当化している人がそれなりにいるアメリカらしい印象はある

*8:とはいえ『グラディエーター』とかで証明済ではあるが、あとはまあ低予算で馬鹿馬鹿しいがある意味正しいと言えば幾度となく紹介しているホーリーグレイル、☞

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