ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

医療行為は医療者の判断で行うものです

先日救外で「ついでに点滴から薬投与してください、できますよね」と言い出す保護者がいて、それに後輩が安請け合いしていたので、注意した。患者側から色んなことをお願いされることはあるが、実際にやるかどうか判断するのは、基本的には医者側だ。診察の結果その薬は必要なさそうだったのと、待たせている間に有耶無耶になったので、結局薬は投与せずに終わった。

 

投与して下さいと頼まれたのは痛み止めで、いわゆるアセリオ(アセトアミノフェンの静注製剤)くらいなら気軽に使ってしまいがちだが、本当に必要なのか、考えてみるとよい。アセトアミノフェンは最も気軽に使える鎮痛薬である一方で、過量投与すると肝障害が起こる可能性があるということは忘れられがちだ(もっとも救外でそこまで大量に使うこともほとんどないが)。また、アセリオの添付文書には

経口製剤及び坐剤の投与が困難で静注剤による緊急の治療が必要である場合等、静注剤の投与が臨床的に妥当である場合に本剤の使用を考慮すること。経口製剤又は坐剤の投与が可能になれば速やかに投与を中止し、経口製剤又は坐剤の投与に切り替えること。——Kegg.jp/アセリオ添付文書

とあるにもかかわらず、実際には点滴を取った患者のファーストチョイスになってしまっている。

 

痛み止め繋がりでいうと世の中にはソセゴン中毒という不思議なものがあって、いやそんなに強くない麻薬なのだが、確実に中毒者がいてたまに救外へ現れることがある。何かをしてくれと懇願された時に毅然と断るのはなかなか骨が折れる作業だが、とはいえ医師である以上は自分の信念をもってそういうことをしなくてはならない。

実際気合いの入ったソセゴン中毒もいて、何と救急医の学会・日本救急医学会雑誌で堂々と取り上げられるような症例になっている(ペンタゾシンはソセゴンの一般名)。この症例報告の女は、驚くべきことに東北3県の病院を行脚してソセゴンを打てと騒ぎ立てまくった症例である。東北の病院事情を知っているとM県の病院はあそことあそこの分院かな、とか、秋田南部の病院なぞ1市町村に1つくらいしかでかい病院がないぞ、とか、湯沢から先どうやってどこに行ったんだという謎が残るのだが、そこまでしてでもソセゴンを打ってもらいたくてしょうがない、というのが、この筋金入りのソセゴン中毒なのだ。

www.jstage.jst.go.jp

まとめて言うと、若いお医者さんたちは色んな人にやいのやいの言われるかもしれないけれど、安請け合いしないで、自分が不要と思った物はきっぱり断る、逆に必要だと思った物はしっかり実施してね、という話。おしまい。

 

 

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