ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

チャーミングな永遠の名優、アラン・リックマン

オブザーバー(The Observer、「ガーディアン」The Guardianの日曜版)に載ったというアラン・リックマンの日記がウェブ公開されていたのでじっくり読んでしまった。代表作となったハリー・ポッターシリーズを中心に、彼が書き溜めていた日記の一部を紹介した記事である。

www.theguardian.com

 

スネイプ先生役があまりに有名なアラン・リックマンだが、素顔はとてもチャーミングで、HPシリーズの子役たちをまめに気に掛けるよき先輩であった。スネイプ先生のような水に濡れたワカメみたいな(こんなことジェームズ・ポッターに言われてなかったか?)陰湿な悪役から、冴えない中年男とかはたまた歯の妖精さんとか("Dust" - Vimeo)演技の幅は実に多彩であって、死して尚名優であり続ける存在である。イギリス人らしく私生活はあまり明かさない人物だったが*1、ひっそりと闘病し2016年に膵癌で亡くなった。この度、そんな彼が長年にわたって付けていた日記が出版されることになり、一部がウェブ公開されたという運びである。 

オブザーバーの記事はハリー・ポッターシリーズに主眼を当てていて、2000年から2011年までの日記を抜粋した形になっている。ハリー・ポッターシリーズのオファーを受けた時から、最終作が公開されるまで。オファーを受けた直後に知り合いの子どもから「スネイプなの?」(“Are you Snape?”)と聞かれた辺りとか本当に可愛らしい記述だった。ずっとリックマンはJKRから何か鍵を聞かされていたと言われていたが、その中身は「スネイプはリリーを愛してい」(※投稿後修正)という事実だった(オファー直後の2000年10月に会談したと記載がある)。

27 July [2007]
… I have finished reading the last Harry Potter book. Snape dies heroically, Potter describes him to his children as one of the bravest men he ever knew and calls his son Albus Severus. This was a genuine rite of passage. One small piece of information from Jo Rowling seven years ago – Snape loved Lily – gave me a cliff edge to hang on to.

——The Observer, 24 Sep 2022

 

最終巻を買おうと本屋に並んでいたら、「映画観た? 俺あのうちの1本に出てるんだぜ」と話しかけられた話も面白い(今のようなマスク社会じゃないのに)*2。個人的にはヘドウィグがニンバス2000を落っことすシーンでふくろうの調教師さんが上手く行くかめちゃめちゃ心配してた話が好きだった。あれはハリーにとっては世界が変わったことを示す1番のシーンなので。

 

ハリー・ポッターシリーズ以外では、丁度『ラブ・アクチュアリー』や『スウィーニー・トッド』の撮影時期と重なっているのだが、後者がBAFTAに無視されて憤慨しているのはちょっとした驚きだった。勿論名作なのだけど、彼がそこまで語気荒く日記に記すというのが不思議な感じがして。

mice-cinemanami.hatenablog.com - 合わせて読んで下さい

日記には時事問題もいくつか書かれていて、例えば2001年の911とか(リンジー・ダンカンとやっていた舞台の稽古中にニュースが流れてきて、全員が衝撃を受けたために稽古がお流れになったと書かれている)、2005年のロンドンテロの話が綴られている。ロンドン市長選でボリス・ジョンソンが当選したのに露骨に憤慨していたのはリックマンらしいなあと思った。妻のリマ・ホートンは労働党の地方議員だったので無理もない話だが、まあ、ボリスは保守党ということを差し置いても批判が多い人物なので……

 

リックマンの日記である"Madly, Deeply"は10月頭にハードカバー版が出るらしい。他のページも読みたくてうっかり注文してしまった。ハリー・ポッターシリーズの裏話が知りたい方は、HBOで放送された同窓会がディスクになったようなのでこちらもどうぞ。つくづくこの同窓会にいないのが惜しい名優である。

※投稿後追記:そう言えば世間的には評価の厳しい第3作『アズカバンの囚人』だが、リックマンはクアロンの監督作品であることを高く評価していてそうなのかと思った。その後クアロンは『ROMA/ローマ』でオスカー監督賞に輝くわけだが(2020年)、その栄光を彼は知らずに世を去ったのである。

mice-cinemanami.hatenablog.com

関連:アラン・リックマン / ハリー・ポッターシリーズ

*1:今回公開の日記でもドラコ・マルフォイ役のトム・フェルトンにパパラッチがひっついていて辟易する様が記録されていた。

2008

7 February
8.15am pick-up Car park. Paparazzi. Freezing cloister of Gloucester Cathedral. A whole new working relationship, this time with Tom Felton [playing Draco Malfoy]. The story of this so-far-six-part epic is one minute there were all these little kids … now? Found Maggie in her trailer vulnerable and fuck-it – all at once.

*2:ま、スネイプ先生は濡れたワカメみたいな黒髪だけど、素顔のリックマンは短髪のブロンドだからしょうがないか

Live Moon ブログパーツ