ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

祝!金ロー初放送記念—今更『ラ・ラ・ランド』を語る—

2月8日が迫っている。何の日付かって、金曜ロードショーで『ラ・ラ・ランド"La La Land"('16)が地上波初放送される日程だ。

2017年2月に公開されたこの映画は、天才監督ともてはやされたデイミアン・チャゼルの長編第2作にして、ゴールデン・グローブ賞ノミネート全7部門を総なめしたモンスター作品。辛口批評蓄積サイトのRotten Tomatoesで91%支持metacriticで93点という好成績を残しながら、何故か日本では賛否両論が渦巻いた記憶のある一作である。筆者が褒め専ブログを開設しようと思った糸口の作品でもあるので、完全「今更」なのだが、少し「とはずがたり」してみたい。

news.yahoo.co.jp

 

 

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
新鮮な気持ちでラ・ラ・ランド』を観たい人は読まないで下さい〜

 

まず最初に述べておくが、筆者は『ラ・ラ・ランド』大好き人間という立場なので、そこはご了承いただきたい。そして一応「ネタバレ考察」に分類しているが、飽くまで微ネタバレに留めるのでご安心を。読んだ方が作品を楽しめるはず……!


賛否両論の日本、嫌いなら黙っときゃいいのに

この映画はつくづく不思議な映画だと思う。RottenTomatoesで批評家91%・観衆81%の支持Metacriticでメタスコア93・ユーザースコア8.3(いずれも2019年1月16日現在)を叩き出しながら、日本での反応は絶賛と酷評の真っ二つであった印象が強い。以下の書き起こしでも少し触れられている。

www.tbsradio.jp

鑑賞後、色々な意味でぐわんぐわんの頭のまま読んで、思い切り殴りつけられた気分になったレビューをいくつか並べてみる。

originalnews.nico - 菊地氏の批評には別の影があったのではないかという話もあるが

 

明らかに異様なのは、何というか、心が抉られる酷評記事が異様に多いことだ。「何でお前はこの映画いいって言うの?!」とか「そう言うお前頭おかしいんちゃう?」みたいなスタンスの記事が多くて、ぐさぐさ胸を刺された気分になって暫くしんどかった記憶がある。これも何も、そういう記事の多くが「この映画、大したもんじゃないね」という立場に立って、マウンティングしているからに他ならない。

 

筆者も過激派ファンではないし、この作品を嫌いな人がいても当然だと思う。みんなが同じ反応だとしたら洗脳めいていて少し怖いし、元々万人受けする作りでもないので(特にラストが)、苦手な人は一定数いるだろうと思う。

でも、それとこれとは別の話だ。「今話題の映画嫌いな俺かっこいい〜〜〜〜〜」みたいな態度が透けて見えて逆に格好悪い。それを隠すために熱量を上げると、当時の筆者の心が死んだような、超・ハイトーンマウンティング記事になる。こういう記事、書き手の自己満足になるだけで、本当に好きな人の心を殺すし、観に行ってたかもしれない人を劇場から遠ざけるのでほんとに良くない。

 

そもそも、嫌いだったり合わなかったりしたら、「ごめんなさい、わたしには合いませんでした」とか「ちょっと好かんかったわー」程度でいいのであって、何も好きな人をめためたにこき下ろす必要まではない。それでも、こういう映画評が割とまかり通ってしまうのが今の日本のメディアであって、ちょっと残念なところではある。

 

そういうわけで、純粋に好きな映画を紹介するブログが書きたいな、と思っていて開設したのがこのブログだ。スタンスについては最初の記事が詳しいのでこちらをどうぞ。

mice-cinemanami.hatenablog.com

そして問題のトンデモ論評については次の記事で、誰かが指摘していた「曲がジャズじゃない」問題については次の次の記事でちょっとだけ触れる予定である。

 

ここだけは押さえてほしい!—密かな作品のポイント

この作品だけは観てくれ - 前作『セッション』

ラ・ラ・ランド』評が真っ二つに割れる原因になったのは、恐らくあの終わり方だろうな、という気がしている。純粋なラブストーリーを求めて観に行ったら怒濤の流れに間違いなくお口ぽかんだし、きらめくLAを求めたら延々ともどかしい鬱シーンを見せられるし、何か途中ベタ甘が入ってるし、色々調子っ外れに終わると思う。「クソ映画見せられた!」と憤る人もいるだろうとは思う*2

 

でも、そういった文句を言う前に是非チャゼルの前作『セッション』"Whiplash"を観てほしい。四の五の言わずに観てほしい。これを観るだけでも、『ラ・ラ・ランド』のラストに対するワンクッションになるはずだ。何より似たようなテーマの映画であることはチャゼルも認めている*3

セッション(字幕版)
 

ラ・ラ・ランド』以上に、鬱シーンに次ぐ鬱シーンの連続である。これを観れば、何故『ラ・ラ・ランド』があんな筋書きになったのか少し理解出来る気がする。チャゼルは鬱エンドがお好きなのだ。

 

ところでチャゼルの新作『ファースト・マン』の公開が控えているが、この予告編もド鬱である。IMAXで予告編を観たが(映像と音がいいだけに)やっぱりド鬱だった。ああなるのはチャゼル映画としては当然なのである。

www.youtube.com

www.youtube.com

 

同じ役者を繰り返し使いたい男、デイミアン・チャゼル

エマ・ストーンをオスカーに導き、ライアン・ゴズリングゴールデン・グローブを授けたこの作品だが、元々はエマ・ワトスンとマイルズ・テラー主演予定で話が進められていた。ワトスンは『美女と野獣』実写映画の撮影が入ったことが理由として語られていたが*4、テラーの方はギャラで揉めたとか言われてざわついていた記憶がある。

www.vogue.co.jp - ゴスリングがオファーに飛び付いたとかいう話のソースはここか……

ギャラ騒動は結局テラー自身から根も葉もない話だと否定されたが、こんな話がまことしやかに出てくるのも、チャゼルの前作『セッション』"Whiplash"で、テラーが壮絶な役作りをしているからだ。彼はチャゼルの要求を呑んで、全編自らドラム演奏をしている。そのために数ヶ月の練習を重ねたというし、「あんな体験2度としたくない」という発言がそれっぽく聞こえてしまうのもしょうがないだろう。なお、『ラ・ラ・ランド』のプリプロでも、ゴスリングが数カ月間ピアノとダンスの練習漬けという生活を送っている。

チャゼルが同じ役者を繰り返し使いたがるというのは、2月公開の新作『ファースト・マン』でも分かる。主演はまたもライアン・ゴスリングだ。

firstman.jp - テラーが噂を否定してくれなかったら、わたしは推しがただのドMだと思ってましたよ

 

テラーのキャスティングこそ実現しなかったが、実は『セッション』から引き続き登場している人物がいる。『セッション』で鬼軍曹教官フレッチャーを演じていたJ・K・シモンズだ。役どころとしてはセブが勤めるバーのオーナーで、カメオにも近い分数なので是非目を凝らして注目を!

シネマブレンドの記事によると、シモンズはミアの父親とこの役を提示されてこっちを選んだらしい。前作の演技も目に浮かぶのでこちらの方が正解だと思う(笑)。

www.cinemablend.com

www.elle.com - エマ嬢もゴズリングとは3度目の競演だが、この言葉を聞いて是非4度目も観てみたいなと思った

 

あの終わり方で無ければあんなに評価されなかった

1番あちこちで批判されていたのはエンドのあり方だったと思う(私感)。至極ご都合主義だとか、「え、◯◯オチ?」とか色々言われていたし、受け入れきれなかった人も多かったのだとは思う。

 

でも、やっぱりあの終わり方で無ければハリウッドであれだけ評価されなかった。筆者はそう思う。

 

仮にあのラストが多くの観客が望んでいた(であろう)形だったとしたら、ただのベタ甘なラブロマンスで終わってしまっていたと思う。まあまあヒットはしていたと思うが、映画賞を賑わす作品にはなっていなかっただろう。

実はあのラスト、『巴里のアメリカ人』のダンスシークエンスを上手く消化した形にもなっている。この辺りが演出上の妙として評価されたのではないだろうか。

blog.livedoor.jp - ※ネタバレ注意※ネタバレありだけどラストの説明の仕方が素敵なので……

興味が湧いた人向け

後ほど特集するが、作曲はチャゼルの大学の同期でもあったジャスティン・ハーウィッツ、作詞は『グレイテスト・ショーマン』も手掛けたパセク&ホールが手掛けている。歌詞も素敵なので、ミュージカル部分だけでもちょっと目を通してほしい……! いやほら、こないだ言ったみたいに石田訳にはちょこちょこっと問題があるから…… (主に意訳とか意訳とか意訳とか)(小声)

genius.com

——サントラは予習用にどうぞ!

Another Day of Sun

Another Day of Sun

  • provided courtesy of iTunes
Audition (The Fools Who Dream)

Audition (The Fools Who Dream)

  • provided courtesy of iTunes

 

190209放送後追記)ラストネタバレ解説

安心と信頼のTHE RIVERさんからラストの解説とチャゼルのインタビューを引いたネタバレ記事が出ていたのでシェア。ネタバレ大ありなので視聴後にご一読を!

theriver.jp

 

関連:ラ・ラ・ランド / エマ・ストーン / ライアン・ゴズリング / J・K・シモンズ / デイミアン・チャゼル / ジャスティン・ハーウィッツ / ジョン・レジェンド

*1:今でこそ安心と信頼のTHE RIVERさんなんですけども、旧称のORIVERcinemaだった時はこういう熱量の高い記事も散見されたように思う

*2:但しマウント記事を書くのはまた別の話で(無限ループ)。

*3:EW誌より引用☞

"『セッション』が音楽表現上の苦痛やサドマゾヒズムを題材にしていた一方で、『ラ・ラ・ランド』は音楽を奏でるという行為に内在されている、くらくらするようなロマンスに焦点を当てている——少なくとも、2作のために作られたティーザー・トレイラーを観る限り。「ふたつの映画の調子は、そう大きく違っているわけじゃない」今年のはじめ、EW誌に対してチャゼルはそう語っている。「だけど、両方ともアーティストであることと、人として必要なものと夢の追求とを上手く調和[/両立]させること、その2つへの葛藤を題材にしている。『ラ・ラ・ランド』はその辺りに対する怒りを抑えめにしたってだけなんだ」"

"While Whiplash was about the torment and sadomasochism of music expression, La La Land focuses on the woozy romance inherent in carrying a tune — at least based on the two teaser trailers (see below) that have been released for the film. “Tonally the two movies couldn’t be more different,” Chazelle told EW earlier this year, “but they’re both about the struggle of being an artist and reconciling your dreams with the need to be human. La La Land is just much less angry about it.”"

Ryan Gosling & Emma Stone, La La Land costars, discussed by director | EW.com

*4:そう言えば『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが送る新作『若草物語』から、エマ・ストーンが降板してエマ・ワトスンに変わったという話があったが、これも奇妙な偶然だ……

variety.com - 今度は逆

 

それにゴスリングの方は『美女と野獣』の野獣役にオファーされていたというし(海外サイトで報道あり)、色々偶然が重なり過ぎである(笑)。

ryukyushimpo.jp

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