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【研修医向け】買ってよかった本第3弾 - 小児科・感染症科編

第3弾にして「#今年買ってよかったもの」便乗記事最終編。大移動にかまけて気付けば大晦日! 最後は小児科と感染症科編です。どちらもなんだかんだ色んな科に跨がる分、なかなか教科書も多岐に渡ってしまったので、最後に回しました。筆者の専門がなまじこの辺というのもありますが……第1弾と第2弾はこちらから。

mice-cinemanami.hatenablog.com

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感染症科編

COVID-19の台頭以来何かと注目されている感染症科。意外に分野としては新興であり、いい本が沢山出ては話題になる分野です。COVID-19以来ウイルスがクロースアップされるところですが、臨床的には抗菌薬の使いどころで困ることも多く、やはり成書の1冊は必要だなと思わされます。

 

必携のベーシック本

持ち歩くのはもうプラチナで充分だと思ってます。当院の感染症科が言ってた。抗菌薬ヤクザも言ってた。因みに選ぶのは通常版でもGrandeでもどっちでも大丈夫です、あれは単に版の大きさだけなので(老眼ならばGrande、くらいでいいです)。

感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022

感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022

  • 作者:岡 秀昭
  • メディカルサイエンスインターナショナル
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カテゴリやら世代やら色々あって覚えるのがなかなか大変な抗菌薬ですが、これはもう実際の症例とにらめっこしながら勉強するしかありません。一世代上だといい成書がなくて大変だったという話ですが、いい本が沢山出てくるようになりました。大抵の本は「抗菌薬ごとにみた使いどころ、dose」というのと、「感染症の種類から見た、薬の選び方」という作りになっているので、診療でもそういった面を意識するとよいとは思います。たまたまプラチナを買ったのでプラチナを推していますが、別に自分に合う本ならば何でもよいとは思います。例えば岩田先生のこの辺とか、有名ですよね。1冊あればよいのです。

 

プラチナは使い込み始めると帯に短したすきに長しという気がしてくるのですが、知識の導入という点では丁度いいのかなと考えています。何より日本語で書かれた、日本にローカライズされた本というのがよいです。抗菌薬の分野は本当に添付文書が当てにならないし(大抵はdoseが少なすぎるというのが定評です)*1、体格も人種も違う海外のdoseはそれはそれで当てになりません。

もうひとつ名著として有名なのがサンフォードですが、これは抗菌薬の使い方とか種類とか少し理解してから手を伸ばした方がよいのかなという気がしています。サンフォードは細かく解説が書いてあるというよりは寧ろ表で淡々とdoseを書いていく感じなので…… 加えて、名著ではありますが、何分訳本なので日本では使えない薬も混じっており、そのdoseや期間も日本でのものと少し異なっているので*2、その辺りは差し引きが必要かとは思います。繰り返しますが名著ではありますわたしも欲しい……!

 

因みに日本のTDMガイドラインは日本化学療法学会に頼むと冊子版を注文できます!

www.chemotherapy.or.jp

こどもの感染症

こどもの感染症はもうトリセツ1冊持っとけばいいんじゃないかな、と思っています。何より小児用量は探すとなかなか見つからないので、体重あたり量が載っているのは本当にありがたい! 1日量で書かれていてちょっとめんどくさいのですが、そこは日本の添付文書がそういう書き方だからしょうがないことにします*3

トリセツのいいのは抗菌薬の使い方だけでなく、ウイルス性疾患も含めて、小児感染症を幅広くカバーしているところです。こどもは沢山風邪を引くけれど、意外に小児の感染症の成書は数少ないのです。そしてワクチンが行き届いた今、こどもの感染症の大半はウイルス性疾患なのです。

 

感染症診療と切っても切り離せないのが、ワクチン診療。国試の時に「おむすびフロマージュ……」と唱えていた記憶がある人も多いことでしょう。たまたま出会って分かりやすいなと思ったのが日本ワクチン産業協会の「予防接種に関するQ&A集」と「ワクチンの基礎」です。ワクチンスケジュールの表やうっかり打ち損ねた時のキャッチアップ、ワクチンの作られ方などなどが詳細に書かれています。冊子版は有料ですが、PDFの電子版ならばネットで無料で読めるので是非。

www.wakutin.or.jp

advanced編

ここからはもうオタクの世界のような気もしますが。

 

岩田先生が監訳した「医師のために論じた判断できない抗菌薬のいろは」*4、大変面白かったです。筆者はIE/抜けないカテーテルのCRBSI(=IEに準じて診療する)で困らされた時に愛読しました。抗菌薬の化学構造からみる耐性の付き方など、一般的な成書には無い切り口で最高です。訳本ならではの文章の癖と、日米の使用可能薬の違いがあるので、分かりやすい成書で一度学んでから手を出すのをお勧めします。

医師のために論じた判断できない抗菌薬のいろは 第3版

医師のために論じた判断できない抗菌薬のいろは 第3版

  • メディカルサイエンスインターナショナル
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もうひとつあると困らないのが「レジデントのための感染症診療マニュアル」ですが、この本は重いし高価なので、研修医室か医局に誰かひとり持っていてくれればいいかなとは思います(オタクなので買いましたが……!)。個人的にはCVC感染の時のサルベージ法のページに何度も助けられました。冒頭のグラム染色アトラスも意外にまとまったものがないので有用です。(ちなみにグラム染色の簡単なトレーニングとしては大阪市立大学の「グラム染色:Gram Stain」がお勧めです)*5

gram-stain.com

あとは基本に立ち返るのが医学書院の「標準微生物学」。研修医になると治療法の本ばかり手を出しがちですが、病原体そのものについて引ける教科書も、手元にあると便利です。基礎の時からお世話になっております。あとは今年寄生虫を勉強したくて「医学のあゆみ」寄生虫特集号を買ったのですが、こちらは例に漏れず積ん読に紛れています(ぱっと見はよかったので買いました、あと当直中に読むように持って行ったので許してください)。

 

小児科編

暑苦しくも感染症に多くを割いてしまいましたが、ここからが本文/本分です。

 

ベーシック(というより、救急外来)

こどもの何でも屋でもある小児科は対象疾患が多岐に渡っています。必然的に網羅しなければならない分野も多いのですが、サブスペシャリティの専門を決めた後だけでなく、一般小児科としても幅広い知識が求められてしまうのが小児科です。

 

その中で圧倒的な支持を集めているのが神奈川県立こどもの「小児科当直医マニュアル」だと思います。CPAから喘息などの救急疾患に加えて、他科コンサルトが必要な疾患、更に簡単な外来処方薬まで網羅した1冊。それでいてスクラブのポケットにすっと収まるポケットサイズなのが最高です。筆者は色んな知識をこの本に書き込んでつよつよな1冊に仕立て上げようとしています。

 

割と絶版気味なのですが、救外でやる簡単な処置については、診断と治療社の「子どもの救急手技マニュアル」がとてもよくまとまってよいです。成人にも活かせる上に、小児ならではの注意点もtipsとして含まれているのがよい。同じく日本医事新報社の「こどもの外科救急」も、小児の外傷がビジュアルよくさくさくと読めるような書き口で書かれていてよいです。前の記事で紹介した「マイナーエマージェンシー」と、「子どもの救急手技マニュアル」は、「こどもの外科救急」の典拠になっていたので、ますます信用する気が上がりました。

 

救外とは少し離れるかもしれませんが、羊土社の「浅井塾直伝! できる小児腹部エコー」はかなり良著だと思いました。著者らは定期的にエコーの勉強会をオンライン/オフラインで実施しているので、興味があれば受講してみるのもよいかもしれません。自分もエコーマスターできるようになろう〜。

 

ベーシック(本当の基礎知識)

いわゆるレジデントマニュアルみたいなのは自分でお好みのを買っていただくとして、臨床で割と困るのが、「小児のL/D正常値わかんない」と「小児の薬用量まじでわかんない」の2点だと思います。

 

前者に関しては日本の小児科のメッカ・国立成育医療研究センターからウェブ辞典も出ていますが(小児臨床検査基準値(国立成育医療研究センター))、じほうから出ている「小児の臨床検査基準値ポケットガイド」を愛用しています。実はM2PLUSでアプリ版が出ており、検索も楽ちんです。

 

小児薬用量は様々な計算式がありますが、カルボシステインとかアセトアミノフェンとか(ここまで来ると誰も計算しなそうだけど)、よく使う薬は換算するのも面倒な印象があります。あとは単に換算すると、設定されている小児量と異なる、という薬剤もあります。診断と治療社からも同様の書籍が出ていますが、筆者はビジュアルがきれいだったので、じほうの「実践 小児薬用量ガイド」を買いました。

 

あとは体格の小さい小児において、輸液も呼吸器も成人と同じようには扱えませんが、その辺りを補完してくれるのが京都府立医科大学編纂の「小児ICUマニュアル」だと思います。微量元素を含めたTPNなど、成人に活かせる分野もいくつかあって、これは本当に必携の1冊でしょう。

 

一般的な疾患に関しては、小児内科が3年ごとに編纂している「小児疾患診療のための病態生理」が、日本語でいてよくまとまっているのでよいと思います(と勧められた)。なかなか第3部の改訂が出ませんでしたがやっと出たんですね!!!年の瀬にさっきぽちりました。(本来はここでネルソン小児科学を勧めるべきなのでしょうが、原著にしろ訳本にしろ買うお金がない)。

 

健診関係

研修医ながら外来を垣間見ていて、やっぱり一番手強いのが健診だなあと思います。大抵は正常だけれど、「正常です」と言うことは本当に怖い……! 慣れた先生ならばぱっぱとやってしまいますが、若手はどうしても怖くて時間がかかりがちだなあと思わされます。

乳児検診に関しては福岡地区小児科医会の「乳幼児健診マニュアル」が分かりやすい1冊です。チェックポイントが表になっているのも個人的には好きなポイント。もうひとつ必携なのが「小児の検尿マニュアル」ですが、こちらは最早電子版で持ち歩いています。

 

新生児

堂々と章立てしておいてローテートの関係でNICUは回れていませんが、その分研修医中に読んでおいた方がよいのかなと思って買った本は何冊かあります。まずはNCPRと呼ばれる「新生児蘇生法テキスト」、この本は産婦人科中に読んでとても勉強になりました。BLS/ACLSとは違って、新生児の蘇生はroom air/CPAPで始めるなど、読まないと分からないことが沢山ありました。

NICUの分野は色んな意味で本が乱立している印象がありますが(小難しい本からナース向けの分かりやすい本まで)、神奈川こどもの当直医マニュアルを買ったので、ついぞ新版が出た東京医学社の「新生児診療マニュアル」を買ってみました。一般的には医学書院の「新生児学入門」が成書と言われているようなので買ってみましたがこちらは元気に積ん読になっています。

 

その他ぽろぽろと

内分泌疾患

その他ぽろぽろと、と言いつつ成人科でもがっつり使っている本を、、、「小児内分泌学」はほんと内分泌学のバイブルです。上級医には「この本はハンドブックだから」(=全部内容覚えといて)と言われてがくがくぶるぶるしていましたが、何かあったら必ず戻ってくる本になりました。成人の負荷試験も最早この本を引きにかかります。そのくらい丁寧に書かれている。

日本小児内分泌学会アウトリーチにかなり力を入れている印象がありますが、学会のウェブサイトで出している資料もとてもよいです。部分尿崩症の診療時には「小児がん経験者(CCS)のための医師向けフォローアップガイド(ver1.2)」が大変ためになりました。今見たらかつて無料提供だった成長曲線計算ファイルが会員オンリーになっていたのは大変残念ですが……

jspe.umin.jp

先天代謝疾患

代謝疾患のポケットガイドという点ではチョッケ&ホフマンの和訳本がサイズ的にとてもよいのですが、既に発刊から10年ほど経ち、一般の店では絶版扱いになっているのが至極残念です。

 

その代わりと言ってはなんですが、関連分野として「特殊ミルク治療ガイドブック」(疾患によっては特殊ミルクを飲み続ける子もいるため)、「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン」辺りが値段もお手頃で分かりやすい本でよいです。どちらもパブコメ段階のものですがネット上にPDFで転がっているので、初学にはよいかもしれません。

その他

前の記事の神経内科編で書き忘れてしまった本なのですが、小児分野でも症候群としてのてんかんが網羅されていて分かりやすい1冊です。これも小児内分泌学と同じくハンドブックとは思えない分量ですが、安心と信頼の1冊。

最後にお勧めする小児心身医学会ガイドラインは、ガイドラインの部分より、患者さんへのアプローチという点でお勧めです。ODの患者向け説明のページがとてもよいほか、精神的な問題として片付けられがちな摂食障害不登校へのアプローチが丁寧に書かれている本です。

 

おしまい

というわけで、ここ2年でちまちまと買いためてきた本を一気に紹介してみました。もしかしたら紹介し忘れがあるのでまた別記事を出すかもしれません(笑)。今年は映画ブログというより結構本分がメインのブログとなったような気がします。来年は映画も読書も、もっと自分の趣味に振り切れるような余裕を持った1年にしたいと思います。

 

関連:初期研修医 / 教科書 / 医学書

*1:そこら辺の穴を埋めるためにTDMのGLとかあるのですが、とあるコンサル症例でさっぱりVCMがfull doseにならないなと思っていたら、主治医が「添付文書のVCM量はこれだから!!!」と言っていた時は頭を抱えました※添付文書量のVCMはTDM-GLと比較するとまるでdose違う

*2:例えばアメリカだと入院を避けるためにガンガン経口移行するので、そのための本が出ていたりする→

Antibiotic Essentials: 2020

Antibiotic Essentials: 2020

  • Jaypee Brothers Medical Publishers
Amazon

*3:抗菌薬屋さんは"ABPC/SBT 3g q6h"と1回量+投与間隔で書くのが好きなので

*4:ちなみにこのタイトルは原題が"Antibiotic Basics for Clinicians"になっているのにかけているが少し分かりにくい

*5:筆者は自分でグラム染色まではしない病院で育ったのでこんなものですが、やりたい人には探せばグラム染色の成書もあります、どうぞ探してみてください

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