ちいさなねずみが映画を語る

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どう見ても再発てんかんの時にどんな検査をすればよいのか

当直中にどう見ても再発てんかんの患者が担ぎ込まれてきたことがある。自院かかりつけで、元のてんかんも意識消失発作(というより、GTCS; 全身強直間代性発作)だったので、当院に搬送されてきたのだが、

  • 頓挫済
  • 意識清明
  • 明らかな外傷歴なし
  • 本人が採血大嫌いで検査したくないとだだをこねている

という状況で、何の検査をすればええねんとほとほと困り果ててしまった。はっきり言って「大丈夫そうですね、帰りましょう、」でもよいと思うが、(病院の性質上)そうもいかなかった。結局もやもやしながらいくつか検査をオーダしたのだが、心の整理がてら色々と書いておく。正直言って、いいスライドがあったけど知らないことにします。

 

ちなみにこれは頓挫した後のてんかんであって、重積だった場合は全く対応が違います!!!!!

 

 

絶対にやるべきこと

問診

1に問診、2に問診。その後の検査を何もしないにしても、問診は絶対である。検査しなくてよくない? という直感を生んでくれるのも問診。問診is大事。

目撃者からの病歴聴取

1番重要。救急隊からの又聞きだと細かいところがもやもやになってしまうことがあるので、目撃者が救急車に同乗してくれば、目撃者本人から詳しく聞く。

ポイントとしてはいきなりGTCS; 全身強直間代性発作になる人はいなくて、大抵ぞわぞわとした始まり方がある(多くは全般発作ではなく二次性全般化である)。けいれんを見慣れていない目撃者は全身けいれんになってからのことばかり熱心に喋りがちだが、VEEG; ビデオ脳波モニタリングを熱心にやっている恩師の言葉を借りれば、「二次性全般化した後の話なんてどうでもいい」。どう始まったかが重要である。

 

その上で最も考えるのが、「lateralityを示すサインはあるか」という点である。例えば

  • 一方向を凝視した
  • 一方向性にぐるぐると回った ※てんかん原性側にぐるぐると回る
  • 片手のぴくつきから始まった
  • 急に喋れなくなった

などである。どちらか片方の症状から始まれば、てんかんの焦点がどちらの半球にあるか絞ることができる。脳卒中診療にあたる神経屋さんは「左右どちらかの症状というのは神経屋さんにとってキラーワードです!」と言うが、てんかん診療においても同じことが言えると思う。

 

あとは本人が意識を失う前に、「気持ち悪い感じがする!」などと言い残していることもある。aura(発作前兆)を伴う発作はそれだけで焦点が絞れたりするので、こういう情報も大事。

 

結局これだけ聞いて何を考えているかというと、「普段の発作と同じかどうか」という事実である*1。普段の発作と同じであれば精査は特に必要ないケースが多い。コントロール不良であっても、薬剤調整などは主治医マターであって、当直帯に非主治医が口を出すべき内容ではない普段の発作と違うならばそれはそれで精査が必要になる。

 

本人から聞くべきこと

てんかんにはいくつか誘因があることが知られているので、発作トリガーとなった事項がないか確認する。大抵は本人しか分からないので、本人から。分かる範囲であれば同居人からでもよい。

 

  1. 怠薬の有無 - 「また発作を起こしました!」と言って薬を飲んでないケースはそれなり多い。また、きちんと服用していてもコントロール不良で再発することはあり、それはそれで重要*2
  2. 睡眠不足・疲労など - VEEGでも発作誘発として行う手段のひとつ。てんかん発作を起こしやすくする誘因。最近何かストレスはありませんか、でもよい。
  3. 感染症の有無 - かぜを引いただけでも体が疲れててんかんを起こしたり。

筆者は怠薬の有無と疲労関係は必ず聞くようにしている。結果がnegativeでもそれはそれでOK。大事なのは諸々をrule outしていくことである。

 

これに関連し、てんかん薬として何をどれくらい飲んでいるかは必ず確認しておくとよい。発作のコントロールがどれくらいなのかも推察できるし、飲んでいる薬によっては血中濃度を測れることもある(後述)。

 

身体診察で分かること

Todd麻痺

よく知られているが意外に出ない。が、忘れた頃にやってくる。焦点の発火に運動野が巻き込まれてしまった時、焦点と対側の四肢が一過性に麻痺することがある。この症状が出ていて、予め知られている焦点と合っていれば、恐らくは同じ発作だろうと推察することができる。

 

とはいえTodd麻痺だけ狙うのは明らかに効率が悪いので、できれば脳神経から下肢までスクリーニング程度の神経診察はした方がよいと思う。筆者もTIA; 一過性脳虚血性発作疑いという触れ込みで来た人へ「何にもないでしょ」と思いながら一通りスクリーニングしたら、明らかな失調があって、画像を撮ってみたら脳転移ということがあった。「またどうせ同じてんかん発作でしょ〜」と思っても、めんどくさがらず検査をやるのは大事。

 

大体この辺はやるかなというスクリーニングを列挙しておく。

  • JCS or GCS:運ばれてきた段階で。見当識+従命くらいでよい。
  • (I嗅神経):スクリーニングとは関係無いが匂いをauraで感じる人もいるので、もしあれば聞いておく。
  • II視神経:視野
  • III動眼N/IV滑車N/VI外転N:眼球運動・眼振
  • V三叉N:顔面の知覚、左右差(V1〜3領域を意識して) ※ついでに四肢の知覚まで取ってしまってもよい。
  • VII顔面N:努力閉眼/睫毛徴候、口角引きの左右差
  • VIII聴神経:聴覚 ※スクリーニングならば耳こすり程度でよい。
  • IX舌咽N:軟口蓋挙上、カーテン徴候
  • (XI副神経:胸鎖乳突筋)
  • XII舌神経:舌運動左右差、挺舌
  • 言語:復唱/構音障害(ぱたかぱたかぱたか、パ行ガ行ラ行、瑠璃も玻璃も照らせば光る)
  • 小脳:小脳失調(指鼻指、踵膝試験)、回内回外運動
  • 四肢麻痺:Barré、Mingazzini
  • 失行:鳩の手などが簡単だが、本人の元の発作に合わせて

やりたければ四肢のMMTを取り始めてもよい。腱反射は病歴的に怪しければ取るくらいでよいと思う。ちなみに神経内科や小児神経の医師がチャートに則って神経診察をすると点数が取れるらしい! 当直帯の我々では一銭も取れないけども!

 

外傷がないか

発作後の患者が意識も回復してるのに搬送されてくるのはこれに尽きる。発作で意識消失した時に怪我を負っていないか。まず考えるのはこの一点である。いつもと同じ発作ならば、主治医に紹介状を書いて送ればオッケー。でも何か外傷があれば立派な介入の理由になるし、そのための検査が必要である。

 

大体問題になるのは、①舌咬傷など口部外傷がないか②意識消失時に頭部打撲していないか、の2点である。①は軟口蓋挙上や舌運動を見るついでに口の中をよく見回せばよい(できれば舌圧子を使うとよい)。ちなみに舌咬傷はあまりに有名だが、思ったよりいないし、見つけたところで活動性出血でなければ特段の処置は不要である*3

 

②で何か問題があれば頭部CTということになるが、被曝を伴う検査なので、そんなに気軽にはやるなという意識は持っておいた方がよいと思う。ポイントとしては、

  1. 目撃者の問診から、どう見ても高エネルギーでの頭部打撲はなさそう
  2. 頭部の視診/触診をして、明らかな頭部外傷がない

という状況ならば、CTは遠慮無くカットしてよい。頭部外傷に対して頭部CTが適応かどうか判断するには、(小児領域ではあるものの)、PECARN(USA)、CATCH(カナダ)、CHALICE(イギリス)などが参考になる。成人の場合でも頭部外傷GLには同じようなことが書いてあって、それなりに閾値は高い印象がある。

www.jstage.jst.go.jp

 

なお、頭部CTを撮った際に、てんかんの焦点を評価したいという人がたまにいるが、基本的にはそんなものは出来ないし不要と考えてほしい*4。CTで見ているのは、外傷に伴う頭蓋内出血があるかどうか、骨折があるかどうかだけである。焦点なんぞ専門家にMRIを見せたって見つからないことはざらだ。ここでの前提は頓挫した状態で運ばれてきた発作後症例であって、ictal PETとかそういう話にもならない。

 

追加でいくつか

GTCSの結果、全身倦怠感や筋疲労感を訴えていることがある。これは目撃者のいない発作の傍証になることがあるので、聞いておくとよい。

 

失禁や口角からの泡吹きはそれなり有名だが、GTCSの結果であって、その所見を拾ってもlateralityの判断には寄与しない。聞き忘れてしまってもよいと思う。

 

やってもいい検査

ここから先は「やってもいい」くらいなので、別にやらなくてもいい。ぶっちゃけ「結果分かりきってますよね?」というテンションでオーダすることもある。と言ってると足をすくわれることもあるのだが。

 

血液ガス検査

血ガスで見るのは2点、

  1. 乳酸値;lacの上昇 (全身痙攣の傍証)
  2. その他代謝疾患のr/o

である。1.はもうけいれんですよねそうですよね、という感じなので*5、お作法程度に見るでよい。ちなみにがっつりGTCSしててもそんなに上がってない人もいるし、逆もしかりだ。但し、Vガスで取ると、駆血の間にLacが上昇してしまうので*6、本当に評価したいのならば、Aガスが望ましい*7。加えてうっかり敗血症などが絡むと、違う原因で乳酸値が上昇していることもあるので、その程度のものだと考えておいた方がよい。

 

大事なのは2.の「その他代謝疾患の除外」。

  • pH(アシドーシス)→けいれんの原因になり得る。
  • 低血糖/高血糖→けいれんの原因になり得る。
  • 電解質異常→けいれんの原因になり得る。

ので、大きく狂っていないか見ておくのが重要。特にCaの異常はけいれんによく関与するが、血ガスの機械によっては出たり出なかったりなので、もし病歴的に怪しければ血液検査項目に入れておく。

 

血ガスを取るのは第一に「速い」!!!!!!一般検査ならば1時間程度待ちが必要なところ、血ガスならば4-5分もあれば検査が終了する。予めスクリーニング的に結果を見ておいて中検を待つというのも手である。

 

血液検査

もう「検査しなくてよくないですか〜」のテンションなのでオーダしないこともままあるが、オーダするとしたらこの辺を考えておきましょうの辺り。

  • 血算:炎症反応がないか(感染は発作の誘因であることがある)
  • 生化学:TP/Albは電解質補正のために取っておく。その他は明らかな肝障害などがないか。病歴的に疑わしければアンモニアを取っておくのもよいかもしれない*8。BUNなどを入れておいて脱水をスクリーニングするのもあり。筋痙攣の結果Creが上昇していて見かけの腎機能が下がっていることもある。
  • 電解質:血ガスで分かるNa/K/Clあたりの他に、Mg、Caあたりも
  • 凝固:年頃の若い女の子でピルを飲んでいたりしたら入れてもいいかもしれない*9。PT/APTTよりD-dimer/Fbgなど「本当に血栓があるかどうか」の結果をより見ておく。

血糖はわざわざ出す人もいるが、ぶっちゃけ血ガスで取ってるならよくない?と思う。身体所見的に新規発症のDMが疑われるならば入れても良いが。

 

色々書いたが、焦点性発作ならば、これらの検査は概ね陰性であることが多い。除外診断として諸検査を行う、という考えもあるが、医療経済的にこれらの検査は不要と考えてもそれはそれでよいと思う。この辺は医師側の判断でよいだろう。

 

なお、加えて抗てんかん薬; AEDの薬物濃度を測ることもあるが、多く夜間帯に測定できる抗てんかん薬は古典薬(バルプロ酸;VPA、カルバマゼピン;CBZ、フェニトイン;PHTなど)であることが多く、先に本人の常用薬を確認しておく必要がある。

 

頭部CT

先程の項でも少し書いたが、CTを取るのは意識消失に伴う頭部外傷が推察される時であって、評価すべきは頭蓋内出血/骨折に他ならない。間違っても焦点の評価ではない。撮像してみたら脳腫瘍が大きくなっていた、ということはあるかもしれないが、当直帯での対応としては決して主眼ではない。

 

日本は本当にどこの施設にもCTがあるので検査へのハードルが低いが、被曝を伴っている検査ということ、そして上記の検査意義は踏まえた上でオーダすべきだと思う。最近(とはいえ2年くらい経っているが)放射線に関する法律が変わり、被曝を伴う検査について患者に説明が必要になったが、その際にもそういうことはしっかり話すべきである。

 

どう考えてもやらなくていいもの

当直帯で考えるべきことは、発作に伴って本人の命を脅かす重篤な病態がないか?という1点である。頭蓋内出血ならば、そのまま帰すと突然死に至る可能性がある。酸塩基平衡や電解質の異常ならば、補液治療で改善することができる。それ以外の部分は飽くまで主治医マターだ。色々突っ込みたいことはあっても、特に何も無いのならば、「こういうことがあったと主治医の先生にお伝えください」と紹介状を持たせて帰すのがベター。イキって無駄な介入はしない。

 

脳波検査; EEG

休日できない病院が多いのであんまり関係無いと思うけど、専門科でもないのに脳波検査に手を出さない。これ常識。

 

小児科、神経内科、救急とか、日常的に脳波を見慣れている人たちなら、脳波検査を出してもきちんと評価はできると思う。しかしながら、発作中ならまだしも、非発作時に脳波変化が出るとは限らず、しかもその読みにも熟練が必要である。こんなものは当直帯に抱えず、主治医にお任せする。

 

頭部MRI

焦点を評価したい! という人もいるが、個人的にはあんまり意味はないと思う。特に特発性発作の場合、脳波上焦点は分かっていても、画像上は全く分からないこともままある。敢えて言うなら発作直後にDWI highが出ることは知られているが、30〜40分かかる検査をさせて「前と同じ所ですね。」というのはちとかっこ悪い印象がある。

www.jstage.jst.go.jp

autonomicな症状が遷延してすわ重積か? と思うことがあったとしても、画像の検査が必要かどうかは微妙なところである。先程の論文ではDWI highについて「けいれん発作後 18 分から 24 時間以内に出現し,2 日から数カ月後に消失する」としている。単に跡地を見る結果になる可能性が高い。ictal PETという手段もあるが、RIが必要で時間もかかるし、当直帯に気軽にやる検査ではない(念入りな準備が必要である)。重積かと思うのならば画像を撮るのではなくロラゼパムジアゼパムなどの鎮静薬を打つのが正しいだろう。この辺は神経学会のてんかん治療GL(てんかん重積の項)を確認いただきたい。

 

診察終了後、やるべきこと

様々な問診・検査を経て、さてこれは以前と同じ発作だな、と思ったら、最後にやるべきは主治医への紹介状である(勿論諸検査で介入点が見つかれば、治療する)。主治医は専門家なのでその辺も加味しつつ書く。

 

ポイントとしては、

  1. 発作の性状:始まり方、二次性全般化したならそのこと、意識消失の有無
  2. 関連した外傷の有無
  3. 発作誘発因子の有無:怠薬や疲労など。怠薬に関しては主治医サイドの指導事項になるので、書き連ねておくとよい。
  4. 実施した検査の内容:特段何も無かった場合は「血液検査、頭部CT検査などを実施しましたが特段異常はありませんでした」でよい。

といったところだろうか。発作を繰り返している場合、発作自体が慣れっこになってしまっていて、次回の外来診察でも発作があったことを言わないことがある。そういう意味でも、医療機関に運ばれたのならば、その旨は主治医へ送っておくべきだ。いつもと同じ発作でも、頻度が高ければ薬剤調整の対象になるので、お手紙を出しておくと望ましいと思う。

 

おしまい

取り敢えず沢山書いたけれど、1に問診2に問診であって、頓挫して意識も清明ならばそんなに検査要らなくない?というのが筆者の意見である。とはいえ若輩者の適当な意見なので、もし「これは絶対やるべき!!!」というのがあれば是非コメントでご教示いただきたい。匿名でコメントも書けるので教えていただけると凄く喜びます。

 

 

関連:研修医 / 当直 / てんかん発作

*1:てんかんは定義上慢性的に同じ発作を繰り返していることを意味している

*2:こういう場合は主治医に対して発作の詳細を書いて紹介状を出すのがベター

*3:もっとも口腔内用の軟膏くらい出すかもしれないが

*4:但し、脳出血/脳梗塞や脳腫瘍後の焦点性発作ならば、前回CTと比べて焦点部位がどうなっているか比較することはできるが、にしてもその辺のコントロールは主治医がやるべきである

*5:全身痙攣により全身の酸素需要が上がり、賄いきれない分を嫌気性代謝で補うため、乳酸値が上昇する

*6:といってこの辺はほんと人それぞれなのだが

*7:とはいえ筆者も「ルート採血でいっか、どうせLacなんて治療方針に大きく関与しないし」と思ってルート採血のついでにガスを出すことがある

*8:個人的にはアミチェックが全ての救外に備えられればよいのに!と思っている→

www.info.pmda.go.jp

*9:静脈洞血栓症などでけいれん発作を起こす患者もいる。しかしながら、ピルを飲んで上がる血栓症のリスクはほんのわずかである

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