先日の当直中、上の先生が患者にこう声を掛けていた。
「大怪我してるんですよ!」
隣でふと思ったけれど、……「大怪我」って定義は何だろう?
こういうやつはさわりくらい考えられるようになったけれど(ほんのさわりだけれど)、一般の人に「大怪我なんですか? 重傷なんですか? 重体なんですか?」と言われても答えられる自信が無い。
ある日の救急隊
またある時は、運ばれてきた人の状態について、救急隊にやたら食い下がられた。救急隊は患者を搬送してきた後、諸々の状況について救急カードを書いて帰るのだが、結構真面目な救命士の方が多く、「後学のために」と搬送後の状況を聞いていく人もそれなりいる。
この時は運んできて即手術だったので、手術のために麻酔をかけることになった。かけ終わったくらいのタイミングでカードを書き終わった救命士の方が戻り、今はどういう状況ですか、と聞かれた。手術のために麻酔をかけたところです、と話した。
救命士「え、じゃあこの方の意識はどういう状況なんですか?」
わたし「え、手術のために麻酔をかけたところなので、鎮静していて、意識も何も……」
救命士「お話とかできる状況なんですか?」
わたし「(???)いや、鎮静をかけているので今はあれですが、最初運ばれてきた時は話していたと思いますけど、その辺は近くにいた人でないと正確なことは分からず……」
救命士「意識って、ちゃんと戻りますか……?」
わたし「???????」
これは麻酔の定義を学んでいる人なら分かると思うが、麻酔たるもの、薬を使って可逆性の鎮痛・鎮静・筋弛緩を行う行為を指すものである。勿論当直で診ているので、予定手術とはまるで状況が違うし、麻酔以外の理由で(例えば搬送理由となった疾患とか)救命できないこともあるが、でも患者を診ている間はこの人をきちんと救うのだという気持ちで診ている。集中治療して意識を戻すのは当たり前のことなのだが、どうもこの人の中では、意識が無い、それすなわち死にかけているということだったらしい。
実はこの話には後日談があって、翌日ふとニュースを見ていたら、「この方の意識は朦朧としております」との救急発表があったと報じられていた。やたら食い下がってくるなと思ったらそういうことだったのか。それなり医療知識があるはずの救急隊ですらこれなのだから、いわんや一般の方に医療の話をする時や……と思ってしまう。
※分かりにくい話なのでもうちょっと解説すると、運ばれてきた方の「意識が無い」のは当然で、それは麻酔をかけたためである。麻酔なので、薬が切れれば当然覚めるもので、全身状態が悪いから意識を無くしたというのとはまた違う話だ。
こないだもこんなニュースがあったが
そんなことを考えていたらこんなニュースがあって、また考えさせられてしまった。郵政民営化の辺りから色んな党を渡り歩いて、維新の重鎮としてかすがい的に動いていただけに残念な話だ。
これも見る人が見れば、心停止後の一般的な管理として色々と奔走していることが考えられて、例えば何故心停止したのかと考えたりとか、神経予後を考えたりとか、様々なことをやっているはずなのだが、そういうめんどくさいことは普通は書ききれない。結果として、「蘇生したものの今も重篤な状態が続いている」という文章に落とし込まれる。きっとそのように医療者側が説明しているのだろうと思う(説明としてはかなり誠実だと思う)。
筆者はこの「説明する側」なので、何をやっているのか患者家族たちに説明しなくてはならない、と考えてしまう。どこまで噛み砕いて喋るのがよいのだろう? やっていることを全て誠実に話すのも大事だが、分かりやすくするためにある程度取捨選択しなくてはならない。簡単なまとめを作ることも大事だ。はてどうしよう? 自分に出来るのだろうか?
コミュニケーションは難しい
医療というのは難しい世界で、医師と言えどもその全てを理解できるわけではない。何なら科が違えば常識が非常識というものだ。そんな中できちんと医療知識を分かりやすく説明するというのもなかなか難しい。この世にはびこるニセ医学も、医療界隈では叩かれているが、それっぽいことを言われたら信用してしまうのもしょうがないのかもしれない。
我々も誤解がないように気を付けて話をするものだが、相手がどのくらい理解してくれたのか推し量ることは難しいし、自分の話が分かりやすいのかどうか知ることも難しい。そもそもコミュニケーションは難しいものだが、こと医療となると余計厄介で、そういうスキルが必要なのだろうなあと思わされるばかりだ。
……やっぱりこの辺は第1段階として学んでおくべきなのかもなあ(救急隊が現場で何をしているのか知る必要はあるようで)。おしまい。
関連:JATEC / 救急 / 当直 / 研修医