ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

分かっていたが、それでも悔しい - WEAVER解散ライブ@東京

WEAVERの解散ライブ、WEAVER LAST LIVE「Piano Trio 〜2004→2023〜」に行ってきた(2023年2月11日、LINE CUBE SHIBUYA/渋谷公会堂)。昨年4月に解散が発表されて10ヶ月、10月にラストアルバムが出て4ヶ月。じわじわと終わりに向かう中で、気持ちを整理して足を運んだつもりだったが、やっぱり随所で泣いてしまった。

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※ふとしたところでセトリに触れる可能性があります。神戸公演を楽しみにしている方は読まないで下さい

 

 

バンドのあゆみ(と自分語り)

WEAVERは高校時代の同級生3人が集まって2004年に結成されたバンドだ。メンバーはメインボーカルでピアノの杉くん(杉本雄治)、ベースのおっくん(奥野翔太)、ドラムスのべーちゃん(河邉徹)の3人。ギターレスのスリーピース・ピアノロックバンドである。3人とも神戸高校出身、そしてA-Sketch*1に所属したこともあり、同じ関西出身であるflumpool*2の弟分のような位置付けで売り出されていた。実際、メジャーデビュー曲の『白朝夢』は、flumpoolのCD『フレイム』のカップリングとして世に出されている(2009年/その後、改めてシングルカット)。元々flumpoolファンだった筆者と、WEAVERの出会いもこのCDである*3

 

最初はカップリングだし折角だから聴いてみるか、という気分だったが、『白朝夢』の冒頭、杉くんが弾くピアノのベースパートで一気に持って行かれた。『トキドキセカイ』のきらめくようなピアノ、それに被さるガンガンなドラムス(べーちゃん)とベース(おっくん)に、余計引き込まれた。今回の解散ライブでもこの2曲は演奏されていたが、丁度その頃が多感でガンガンに好きな音楽を聴いていた時期だったこともあり、当時の気持ちも一緒に蘇ったものである。

 

ピアノピースバンドだったので、月刊ピアノで度々特集されていたのも懐かしい。ディスコグラフィを遡りながら、『新世界創造記』の頃のビジュアル(アー写)が月ピでばーんと載っていて衝撃を受けたのを思いだした。楽譜が載っていた曲はやっぱり指が先に動いてしまう(勿論杉くんのような才能は無いわけだが)*4

natalie.mu - サムネになっているこれ

 

会場前の花で、初期のアルバムを中心に、東京事変Ba.でもある亀田誠治がプロデュースしていたことを思い出した。事変の曲も亀田師匠のベースが光る編曲が多いが、同じくベースのおっくんを活かす編曲が多いのも、師匠プロデュースの流れを汲んでいるのかもしれない。2014年にはバンド全員でイギリスへ音楽留学に行っており*5、自分の好きなものと度々重なってくるのも、WEAVERを好きだった所以だと思う。

2023年2月11日、会場前にて


背伸びしない、「愛のカタチ」

バンドのサウンド感も元々好きではあったが、WEAVERを好きだったのは、主にべーちゃんが書く歌詞の世界観も大きい。「等身大」「ありのまま」という言葉では何だか違う気がする。どちらかというと、背伸びしていなくて、ささやかな幸せを愛でている、そんな世界観だと思う。物静かなべーちゃんらしい(ドラムは決して物静かじゃないが)。

 

WEAVERを好きになった頃、初めて聴いた曲のひとつが、章立てにも使った『愛のカタチ』(2010年、アルバム「新世界創造記・後編」)だった。歌詞は自己嫌悪に苛まれる自分と、それを静かに肯定してくれる恋人とのやりとりで始まり、段々と自分らしく素直に気持ちを伝えればいいんだね、という話になる。ささやかな気持ちの積み重ねで成長していく様が、杉くんの高らかで伸びやかな歌声で紡がれるのがとても心地よい。自己嫌悪しがち人間の筆者にとってもお気に入りの1曲で、できるなら全文貼り付けたいくらいだ(著作権法に引っかかるのでやらないけれども)。

きっとこの地球からはみ出す程 誰にも負けない思いだから
見えたならいいんだけど
悲しい時涙へと変わるだけの 小さな形だったんだよ

 

伝えたいってもがいても 上手くいかなくて
辛いのは僕だけと思って
「それくらいが丁度いいんだよ」と 笑って言った君の手
触れるだけで 優しい気持ちに変わった——『愛のカタチ』、河邉徹作詞、杉本雄治作曲

 

次回作『ジュビレーション』に入っている「『あ』『い』をあつめて」(2011年)の歌詞もとてもよい。タイトルの理由は曲の後半で明らかになるが、べーちゃんのこの感性、とても素敵じゃないか?????

50個しかない言葉から暖かい色が生まれる
最初に並ぶのが『あ』『い』だったその意味は 君に出会ってわかったよ

——「『あ』『い』をあつめて」、河邉徹作詞、奧野翔太作曲

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古い曲ばかり流して申し訳ないのだが、解散ライブに行ったPerfumeのあーちゃんが書いていた(後でも引用します)、「手を繋ぎたいだけの愛だからと優しく多くを語ることなく音楽を発信し続けてきた人たちはやっぱり最後まで優しかったです。」という言葉が妙にしっくりきた。アミューズ所属になってタイアップ第1弾となった曲が『Hard to say I love you〜言い出せなくて〜』、そして第2弾がこの『僕らの永遠〜何度生まれ変わっても、手を繋ぎたいだけの愛だから〜』というのが、WEAVERの全てを表している気がする。ひどく内向的で、自己嫌悪もあるからこそ、そばにそっと寄り添っていてほしい。そんなべーちゃんの歌詞は、自分と同じ思いの人がいるという支えになっていた気がする。WEAVERに出会ったのが多感な時期だったというのもとてもよかったし、そういうささやかな幸せを追い求めたいと思わせてくれた。

www.youtube.com - (1番大切な人に寝ながら囁いてもらいたい歌第1位……)

 

結論として見えてはいたのだが

はっきりしたことを言うと、WEAVERはもっと売れてもよかった。初期作品はその多くを亀田誠治が手掛けたし、所属事務所も大手のアミューズである。曲も申し分ないし、メンバーとしても粒揃いの3人だ。しかしながら、いい曲なのに、いまひとつ爆発力がなかった。2014年のイギリス留学も、いまいちプロモーションとして活用できなかった(これは割と事務所が悪い気もする)。筆者としてはどの曲も好きだし、もっともっと売れてよかったと思うけれど、そこは巡り合わせが悪かったとしか言えないのかもしれない。

 

正直なところ、COVID-19の前後くらいから、3人があまり一緒にいないな、という感じは薄々感じ取っていた。杉くんは元々ひとりだけTHE TURTLES JAPAN*6に参加したり、事務所の先輩flumpoolがNコン課題曲『証』を出した時にピアノでPV参加したり*7と個の活動もなかなか多かった。歌詞の大半を手掛けたべーちゃんは次第に小説を書くようになり(現在までに5冊を上梓)、2019年には彼の小説を下敷きにした同名アルバムが出された。また、ベースのおっくんはサポートメンバーとしてあちこちのライブに引っ張りだこだ。

 

こう書くとおっくんだけひどくさっくりになってしまうのできちんと補足する:筆者は元々FUZZY CONTROLというバンド、それもDr.のSATOKOの大ファンである*8。ずっとフォローしている彼女のSNSへ、おっくんは度々登場しており、一緒にライブやサポートメンバーをやっているのだなあ、とは思っていた*9。最初の内は自分の好きなふたりが一緒に音楽をやっていると嬉しく観ていたが、SATOKOと音楽活動するおっくんを見ながら、ああこれはWEAVERはもう一緒にいないのだな、と薄々勘付いていた。そんな矢先、WEAVERが解散を発表して、ラストアルバムを出すという話になったのである(2022年4月)。

www.instagram.com - おっくんと一緒にいるさとにゃん

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ラストアルバムを手に取って〜いざ解散ライブへ

WEAVERの解散が発表された時、1番に感じたのは大きな衝撃で、次に感じたのは悟っていたけれども否定したい、そんな気持ちだった。仕事柄ひとの生き死にを扱うことが多いのだが、家族の死を前に泣きじゃくる人たちはこういう気持ちなのかな、と思わされた。10月に発売されたラストアルバム『WEAVER』は予約して買って、その日のうちにiPhoneに入れて何度も繰り返し聴いた。

ラストアルバムが届いた日、中に解散ライブの先行受付があるのに気付いて、急いで応募した。ファジコンの前例があったので*10、遠出だったけれど、行けるときに行かなくちゃ、と思って応募した。心の支えになっていた3人の音楽を聴けるのはもう今しかない*11

 

2023年2月11日、筆者はLINE CUBE SHIBUYA、もとい渋谷公会堂にいた。そもそも生で彼らの音楽を聴くことが初めてだったし、遠出でもあったので、心許ない感じで物販の列に並んだ。物販会場で流れる曲に、早くも涙腺が緩む。杉くんの声は元々心を揺さぶるのに、これが最初で最後の生ライブなんだ、という気持ちが余計に心を揺さぶってきた。

開場前、物販会場入口にて 今回のライブは声だしOK

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
※この先は多分ライブのネタバレがあります!※

 

 

2000人規模の会場なので、割とゆっくりめに列に並び、17時半くらいに席に着いた。客層としては本当に様々で、WEAVERというバンドが色々な人に愛されているのを強く感じた。開演前、CSテレ朝で放送されるという特集番組の宣伝で、デビュー当時から今までのライブ映像がダイジェストで流されていたのだが、みんなが口々に「わっかいなあ!」「わっけえ!」と言っていたのが面白かった。杉くんは今でも充分若いがデビュー当時はひどく学生らしい。おっくんはパーマをかけて垢抜けた。1番髪型が変化したはずのべーちゃんが1番変わらない(笑)。

 

ライブの前半(敢えて曲順はぼかしているので悪しからず)、『トキドキセカイ』のイントロが始まったところで、ああ、これだよこれ、わたしが好きだったのはこのエネルギーだったんだよ、という気持ちになった。10年経った今も鮮やかで、ずっと好きでいるWEAVERの音楽。口ずさむのも可能だったけれど、歌詞を覚えているはずの懐かしい曲はどれも涙腺を刺激してしまって、結局はあまり口ずさめずに終わった。

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中盤、(これは最大のネタバレだと思うが)、最終アルバムに収録された"on the rail (seeing the scenary)"/"——(arriving at the terminal)"でサンドイッチされる形で、メドレーが歌われた。"(seeing the scenary)"をイントロに、過去のライブ映像がバックに流れ始め、それに合わせてバンドが演奏する*12。 "on the rail (seeing the scenary)"/"——(arriving at the terminal)"には、これまでの道のりを表すようにアニメーションが付けられていた。真っ直ぐ延びる道の脇に、標識として今までのライブのバナーが立っている。全てを辿った後に、かつてのライブ映像が流れながら、生演奏メドレーになる。最後の曲は会場で生撮影の映像と共に送られ、再び"——(arriving at the terminal)"が流れながら冒頭と同じようなアニメーションで締められる。

正直なところ、アルバムで"on the rail"を聴いた時、いい曲だとは思いながら、これで終わりなんだとひどく寂しい気持ちにさせられた。一方で、ライブでは、これまでの道のりを辿りつつ、3人とも新たな道に旅立っていくのだ、という前向きな気持ちにさせられた。「窓から顔を出して/辿ってきたレールの向こうを見た/いくつも顔が浮かぶ/愛しい荷物も増えたな」という歌詞が、余計に響いた。——"on the rail (arriving at the terminal)"、河邉徹作詞、奧野翔太作曲

 

杉くんもMCで全曲歌いたいくらいだったが難しい、ファンからしたらあの曲は何で入っていないの?というのもあると思う、とは話していた。その通り、タイアップとしてかなり売れた曲でも演奏されなかったし、メドレーに組み込まれてフルで演奏されなかった曲もある*13。でも、メジャーデビュー曲の『白朝夢』を取っておいたのは明らかにわざとで、アンコールの最後にぐしゅぐしゅになりながら聴いた。過去のライブでもこの曲をアンコールの最後に持ってきたことはあったようだが、今回は明らかに意味が違う。

 

MCとして回しの大半を行った杉くんは、どう見ても「湿っぽくならないようにしたい」、という意図で回していた。べーちゃんも、ここまで来た道のりは確かなものとして残るのだから、解散した後も僕らの音楽を心の隅に住まわせておいてください、と文学人らしいことを言っていた。でもおっくんのコメントは、様々配慮していたところがあったけれど、やっぱり心の奥底では解散に納得していないような気がした。

高校生からずっと一緒にいて、バンドとしてこれだけの年数を重ねられたのは幸せ、とは話していたが、解散を決めた今ではいまいち裏腹に聞こえてしまう。長く一緒にいる故の軋轢もあるとは思うが、乗り越えられるための糧は足りなかったのか。彼らがもっともっと売れていれば、こういう結末はなかったのだろうか。COVID-19による制約がなければ、彼らはもっとのびのびと音楽ができたのだろうか?

解散ライブなのでアンコールはなかなかの長さで(笑、沢山聴きたかったので贅沢だったが)*14、ぎりぎりの電車時間を気にしつつ、いたく複雑な気持ちを抱えて渋谷の町を走った。息せき切って電車に滑り込んだ後も、地元に着いて家路を辿る間も、物凄く複雑な気持ちのままだった。深夜だったけれど、寝る前に神戸ライブのディスクを予約した。それと同時に、自分はWEAVERの音楽を、これからもずっとずっと聴いていくのだろうな、と思った。今まで3人で素敵な曲を沢山届けてくれてありがとう。進む道はばらばらだろうけれど、それぞれに才があるので、きっとみんな活躍するのだろうと思う。3人の未来に幸あれと願う。

www.asmart.jp

 

同じ事務所で同い年、Perfumeあーちゃんの投稿がよかったのでシェアしておくね。因みにあーちゃんの「心のすみっこにいっしょに同居してこ」というのは、アンコールでべーちゃんが言った「WEAVERをどうか心のすみっこでいいので、一緒に同居させてください」という発言を引いたものです。

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おしまい

最終アルバム『WEAVER』は好評発売中。アミューズ公式グッズサイトA!SMART(アスマート)では、2月26日に行われる神戸での解散ライブを収録したBlu-ray Diskと、バンドのあゆみを綴った書籍『WITNESS OF WEAVER』の予約受付中。

WEAVER

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バンドのライブはもう来週の神戸公演を残すのみだが、神戸に行く皆さんはどうか楽しみに!

 

関連:WEAVER / 杉本雄治 / 奧野翔太 / 河邉徹

*1:芸能事務所・アミューズのレーベル

*2:Dr.小倉以外の3人が大阪府松原市出身の幼馴染みである

*3:投稿後追記:WEAVERにとっても最も大切な先輩であったことが分かる杉くんの神戸ライブ後ツイートはこちら☞Twitter

*4:杉くんのようになりたい人向けにピアノ・ソロもあったりします。筆者はこの記事を書きながら欲しくなって買った、ちょろい……

*5:個人的にはこの留学がバンド史の中でいまいち飛躍に繋がらなかったのが辛いところだと思う。勿論本人たちとしては得るものが大きかったのだと思うが、留学中の間広報的に盛り上げるなど、事務所としてももう少しできただろうに、

*6:亀田誠治flumpool山村隆太(Vo.)/阪井一生(Gt.)で作る音楽ユニット。杉くんが参加した作品はこれ☞

*7:flumpoolのファンとしてA-Sketch(flumpoolとWEAVERが所属しているアミューズ内のレーベル)の本当によくないところだと思うのだが、この頃、A-Sketchではバンドの中のひとりだけメインで売り出すというクソプロモーションがまかり通っていた。例えば『証』はVo.山村作詞、Gt.阪井作曲という普段の組み合わせなのに、シングルのジャケットは山村ひとりがフィーチャーされたものになった。Nコン課題曲という、ファンでない人も沢山聞くタイミングでこれ?と思わされた記憶がある。おまけに、当時もうWEAVERのファンだったのだが、レーベルにあんまりいい思いをしていないタイミングで、杉くんだけ呼ばれるのか、、、と思ったような☞

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*8:FUZZY CONTROL、通称ファジコン2015年に活動休止したバンド。事務所の先輩であるDREAMS COME TRUEのサポートメンバーも度々務めており、Vo. JUONは吉田美和の結婚相手でもある。Dr.SATOKOの父は「手数王」の愛称で知られたドラマー菅沼孝三

*9:投稿後追記:優しいさとにゃんとそれに反応するおっくんの図☞Twitter

*10:ずっと前からライブに行ける日を楽しみにしていたのだが、筆者が自分のお金で遠出できるようになる直前、ファジコンは突然活動休止し、筆者の夢は叶わなかったのである

*11:……と思って応募したのだが、後からラストツアーで自分の地元に回ってくることが決まり、ちょっと苦笑いした

*12:ライブ前の特番予告と少しリンクしていて、まさか本編で過去映像が観られるとは思わなかったので、大勢が歓声を上げていた

*13:杉くん曰く、解散を決めた後の昨年夏から、ずっとメドレーばかり作っていたそうだ

*14:今確認したらCSテレ朝の特番も最初から3時間枠になっていて、最初からそれを見越して旅程を組んでおけばよかったと思った(笑)。

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