あなたのその言葉、気を付けて
あまりこういう記事を書くつもりはないのだが、あまりに立て続けにこういう話が繰り返されてしまったので。自分に力があるわけでもないのに、誰かがどこかで引き戻せなかったのかと考えてしまってならない。勿論、誰もが無力だったからこそ、なのだが、いや、これ以上は止めておこう。
この記事は既に出したツイートの補足記事だ。Twitterだと文字数に制限があるので、もう少しだけ深掘りしておく。
著名人の自殺に関してメディアにはこのような通達がありますが、一般人には及ばないので、皆さんが個々に呟くのも注意された方が宜しいです。ウェルテル効果は古くゲーテの時代から知られています。悲しみはありますが、良かったことを思い出し、心の中でそっと祈りましょう https://t.co/ySZguI6sRt
— ふぁじっこあなみ (@mice_fuz_anami) 2020年9月27日
「それほどでも」という人でもこちらを向くのだから
著名人の死というのは影響力が大きい。生前ほとんど興味を持っていなかった人でも、あの人が亡くなったなんて、と反応するものだ。それが突然のものなら尚更で、わたしたちは3月に亡くなった志村けんで既に同じ体験をしている。奇しくも昨日は彼の冠番組だった『天才! 志村どうぶつ園』の最終回が放送されたのだった(番組公式Twitter)。
www.youtube.com - この動画は2021年4月17日まで公開予定だそうです、収益は赤十字に寄付されるとか
ましてやその死に、自らその道を選んだ、という話が付けば、余計センセーショナルになるのは誰でも分かることだと思う。我々は2ヶ月前に同じ悲しみを味わい、9月に入ってからも、同じような悲しみを繰り返し感じてしまった(分からない方はこちらへ)。筆者はどうしてあの時アイネの感想をしっかり残しておかなかったのだろうと後悔している。大切な作品だからこそ、安易な言葉に落とし込まず、大切に言葉を紡ぎたいと思っていたのだが、ああいうことがあった今では、映画を観終わった時と同じようには到底できない。結果としてこの作品は彼のキャリアで最終盤のものとなってしまい、そういったことも悲しみに追い討ちをかける。
ウェルテル効果は古くから知られている
こういった話が後追いを生むという事実は古くから知られている。古くはゲーテが書いた『若きウェルテルの悩み』が "後追い自殺" を呼び、この現象に「ウェルテル効果」という名前が与えられたほどだった。勿論日本も例外ではなく、歴史上何回も同じような事例が繰り返されてきたが、最も有名なのは岡田有希子の事例であろう。以来著名人の自殺とメディアの報道は深く考えられるようになり、現在では報道のあり方について、国などから指針が提示されている状態である。
9/20(日【報道関係各位:厚労省との連名文書】センセーショナルな自殺関連報道は、とりわけ子どもや若者の自殺を誘発しかねないことから、WHOが『自殺報道ガイドライン』を公表。報道において「やるべきこと」と「やるべきでないこと」を列記しています。これを踏まえた報道をお願い致します。 pic.twitter.com/pVG69mP3VL
— いのち支える自殺対策推進センター (JSCP) (@JSCP_press) 2020年9月20日
「自分だけは大丈夫」と思っていても、案外他人事ではないかもしれない。筆者は4年前の1月、アラン・リックマンが急逝した時に胸の中に湧き上がった感情を覚えている。リックマンの死は決して自殺ではなく、人知れず末期の膵臓癌と闘っていた故の急逝だったが、それでも筆者の中には穏やかならざる感情が渦巻いた。どうして彼がこんなにも早く? この世は何て残酷な運命なのか? 勿論自分たちにどうこう出来る話ではないが、そういう考え方をしてしまうのが人間の性なのである。
mice-cinemanami.hatenablog.com
わたしたちにできること
反応するまでに、どうか一呼吸置いて
この記事で切に伝えたいのは、こういった報道に触れる際にはくれぐれも細心の注意を払ってほしい、ということである。メディアの報道に関してはある程度の指針が提示されているが(それがしっかりと守られているかどうかはさておき)、個人のSNSでの拡散に関しては抑止力を持たない。あなたは大丈夫と思って、悲しい心の内を赤裸々に綴るかもしれない。その投稿は書き込まれた瞬間にインターネットの世界に飛んでいく。いずれどこかの誰かの目に触れて、その人の中の悲しさを揺さぶり、もしかしたら「"最悪"の連鎖」という結果を巻き起こすかもしれない。あなたがそっと飲み込んで心の中で祈るだけで、この連鎖は止めることができる。筆者だって悲しいし、何故だかとても悔しいけれど、その気持ちはぐっと抑えてこの記事を書いているのだ。
著名人の自殺に関してメディアにはこのような通達がありますが、一般人には及ばないので、皆さんが個々に呟くのも注意された方が宜しいです。ウェルテル効果は古くゲーテの時代から知られています。悲しみはありますが、良かったことを思い出し、心の中でそっと祈りましょう https://t.co/ySZguI6sRt
— ふぁじっこあなみ (@mice_fuz_anami) 2020年9月27日
こういう反応もしてはダメ。著名人のWikipedia記事を更新しては喜ぶ馬鹿をつけあがらせるだけである。マザー・テレサの言う通り、「愛の反対は憎しみではなく無関心」だ。興味を示さない方が相手には効く。
また、「Wikipediaもう変わってる!」なども見受けますが、あれは「俺変えてやったぜ」という馬鹿が自己顕示のためにやっていることなので、反応せずそっとしましょう。反応すると相手が調子に乗って助長するだけです #jawp #Wikipedia
— ふぁじっこあなみ (@mice_fuz_anami) 2020年9月27日
あなたが辛い気持ちを抱えているなら
そしてもうひとつ、いまこの記事を読んでいるあなたが途轍もなく辛い気持ちを抱えているのなら、全てをかなぐり捨ててちゃんとした相談窓口に声を掛けてほしい。全国的なもので言えば、こころの健康相談統一ダイヤルというのがあって、どこから電話を掛けても、近くの相談窓口に繋いでくれることになっている。番号は0570-064-556だ。他人に打ち明けることで軽くなる気持ちもある。そうでないのなら、きっちりとした手段を持つ人の元へ紹介してもらえるだろう。
- いのち支える相談窓口一覧|JSSC (いのち支える自殺総合対策推進センター)
- 厚生労働省:電話相談
悲しみはあるけれど
それぞれの心の中に悲しみはある。しかしながら、これまでに貰った喜びだってある。大きな喜びを貰っていたからこそ、ひしひしと悲しみを感じるのだ。輝かしい過去を思い返し、心の中でそっと祈りを捧げよう。
こういう時だからこそ、結びはエリックの名曲にしたい。
Some things in life are bad
They can really make you mad
Other things just make you swear and curse
When you're chewing on life's gristle
Don't grumble, give a whistle
And this'll help things turn out for the best
([拙訳]人生ついてないことだってあるさ
そのせいで気狂いだってする 罵りしか出ないことだって
人生の "すじ"*1を噛み当てちまったら 文句言うより口笛鳴らしな
その方が物事いい方に向かうぜ……)
関連:ウェルテル効果 / 著名人の自殺 / 三浦春馬 / 芦名星 / 藤木孝 / 竹内結子
*1:"gristle"という単語は噛み切りにくいあのすじ肉の「すじ」を指す単語。要するに「人生の障壁にぶち当たったら」ということなのだが、chew(噛む)、grumble(不平を言う)、whistle(口笛を吹く)と「口」に関する動作が3連続するので、敢えて意訳せずにそのまま訳してみた