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12人の優しい日本人、リモート配信 - 前編終了時点での雑記

12人の優しい日本人』という三谷幸喜の作品がある。言わずと知れた名作、『12人の怒れる男』の舞台を日本に移し、もしも日本に陪審員制度があったなら、という過程で紡がれる舞台劇だ。三谷がこの作品を世に送り出してから30年あまり、この作品がZoomを使ったリモート本読みという形で帰ってきた。

 

 

今日、この時代にリモート再演

発起人となったのは近藤芳正東京サンシャインボーイズの正規メンバーでこそないが、舞台、映画、ドラマを問わず三谷作品に出演し続けた人物である。何なら昔三谷が書いた本では(何となく当たりは付けられるが、どの本だったかは失念してしまった)、「近藤さんは毎回本当に呼んでないのに来る」とまで言われていたくらいの客演歴である*1。そんな近藤が、『12人の優しい日本人』を今だからこそ観たい、というような意見を身近で聞いて、じゃあやってみようじゃないか、と集めたのが今回のメンバーである。

12nin-online.jimdofree.com

メンバーは出来る限り初演通りで

配役は東京サンシャインボーイズで初演された時のメンバーをなるだけ集め、それ以外にはここ数年三谷作品の常連である吉田羊、近藤の親しいPrayers Studioの劇団員ふたり (妻鹿ありかと渡部朋彦) をキャスティングした(と前説で近藤が言っていた)。甲本雅裕相島一之小林隆阿南健治梶原善、西村まさ彦(旧芸名:西村雅彦)、宮地雅子、小原雅人と、サンシャインボーイズのメンバーが並ぶ*2。どの誰をとっても、三谷作品で見せた役柄が色々と浮かぶほど、三谷の勝手知ったるメンバーである。野仲イサオ(旧芸名:野仲功)は、サンシャインボーイズのメンバーではないが、舞台作品に何度も客演していた人物だ。今回演じる11号も、初演時に自ら演じた役であり、近藤と同じく「サンシャインボーイズではないが準劇団員のような存在」としてよいだろう*3

 

※ちなみに、近藤芳正は実は初演メンバーではない。近藤はかつて6号を舞台で演じたことがあるが、この6号を初演で演じたのは何を隠そう脚本を執筆した三谷自身であった。

 

三谷本人も登場、伊藤俊人に言及

 主宰として近藤が前口上を述べた後、画面上に登場したのは脚本を書いた当の本人、三谷幸喜であった。自粛生活で家に籠もりきりとなり、髭をもさっと生やしたのだと言っていたが、近藤の指摘する通りその姿はさながら宮崎駿である。本読みの準備に移る近藤に代わり、三谷は自ら前説を買って出て、開演まで暫く喋っていた。

筆者がこの記事を書いているのは、近藤の話を引き取った三谷が、さらっと伊藤俊人の名前を挙げたからだ。『ショムニ』などの出演で知られた伊藤俊人は、元々東京サンシャインボーイズのメンバーだった。三谷作品でも、古畑任三郎シリーズで西村雅彦(当時)演じる今泉くんと軽妙な掛け合いを繰り広げる桑原くんだとか、『王様のレストラン』で演じたちょこまか動くコミだとか、物語のスパイス的に使われていた人物である。三谷の片腕的存在として厚く信頼されておりながら、伊藤は2002年にくも膜下出血のため急逝した。没後そろそろ20年が経とうという彼のことを、やはり三谷は盟友にして名優と感じているのだなあと、さらりとした口ぶりながら感じることになった。

筆者は舞台上演された『12人の優しい日本人』を1回も観ていない。それでも、今回客演として出演したPrayers Studioの渡部朋彦の演技に、どこか伊藤の演技と似たようなスパイスを感じた(オリジナルで12号を演じていたのが伊藤である)。

——前編はこちらから

 

特に挙げるとすれば彼だろうか

今回特にいいなあと思ったのは西村まさ彦の演技である。勿論名優なのは言うまでもないし、怪優にも名優にもなれる幅の広さを持っている。当て書きを得意とする三谷によって、近年の西村には、古畑任三郎の今泉くん以来、比較的怪優と呼べるような役ばかりが当てられていた。しかしながら、今作の9号は、冷静で議論好きで、どこか本心の読めないようなキャラクターである。役者・西村まさ彦としてのいぶし銀的な魅力が光る役だった。その他のメンバーについても書きたいのだが、紙幅が長くなってきたので、この辺で切り上げたいと思う。

 

後編は18時より

1幕の脚本を前後編に分け、14時から「上演」された前編についてさらっと書いてみた。前後編とも、アーカイブとして5月末頃までYouTube上で観ることができる。後編はこちらで、18時より再開予定である。東京サンシャインボーイズ三谷幸喜の名作を自宅で、おまけに無料で観られてしまうというとんでもない機会だ。この機会に是非ご覧いただきたい。

 

なお三谷がインスピレーションを得た本家『十二人の怒れる男』も合わせて観ると、作品の面白さが倍増する。この舞台を91年に映画化した作品は、昨年Blu-rayで再販されているようだが、現在は品切れのようで残念だ。

12人の優しい日本人 [Blu-ray]

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【投稿後追記】後編について

後編も記事を書く気だったのだが、140字以内に収まってしまったので、こちらでご勘弁ください。5月末あたりまで見逃し配信されているようなので、未見の方はYouTubeへ……!

 

——お題「#おうち時間

関連:三谷幸喜 / 12人の優しい日本人 / 甲本雅裕 / 相島一之 / 小林隆 / 阿南健治 / 吉田羊 / 近藤芳正 / 梶原善 / 妻鹿ありか (Prayers Studio) / 西村まさ彦 / 宮地雅子 / 野仲イサオ / 渡部朋彦 (Prayers Studio) / 小原雅人 / 伊藤俊人

*1:とはいえ、三谷幸喜は当て書きで大変有名な人物なので、呼んでないのにというのは言葉の綾だろう……

*2:個人的には宮地雅子が大好きなのでとても嬉しい

*3:この枠組みの中に入る人物としては他にも白井晃がいる。白井は『オケピ!』再演で主演。

オケピ! The Orchestra Pit 2003 (PARCO劇場DVD)

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  • 作者:三谷幸喜
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