ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

ガーデニングが繋ぐささやかな幸せ - 映画『マイ ビューティフル ガーデン』

前記事でやっと延々書いてきた『ボヘミアン・ラプソディ』の話が終わった。ところで次は何を書こう?と考えたのだが、頭を抱えてしまった。映画ブログを始めるのは長年温めてきた構想だったのだが、温めすぎてその間に観た映画が溜まってしまったのだ。ルーシーちゃん繋がりで『シング・ストリート』か?スケート繋がりで『アメリ』でも書くか?はたまたゲテモノでイギリスコメディでも書くか?

 

どれもしっくり来ない中、鑑賞記録を繰っていてひとつの映画に思い至った。それが今回紹介する映画『マイ ビューティフル ガーデン』"This Beautiful Fantastic"(2016年制作)である。

my-beautiful-garden.com

 

 

ネタバレ無しあらすじ

図書館で働くベラ・ブラウン(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は、元々公園に捨てられていた孤児だ。彼女はいつか物書きになりたいと夢見ているものの、その夢はただの夢のままで放置されている。毎日決まった時間に起き、決まった歯ブラシを使って、決まった服を着て、決まったディストピア飯を食べる生活……植物は秩序が無くて大っ嫌いなので庭は荒れ放題、唯一室内で育てる植物には瓶を被せてある始末だった。

ところがそんな無精が祟り、彼女は庭を元通りにしなければ1ヶ月後に退去だと宣言される。どうしていいか困り果てるベラ。そんな彼女の様子を、隣の偏屈じじい、アルフィー(トム・ウィルキンソン)が影から覗いていた。実はこのじじい、引退した造園家で、ベラの庭造りに手を貸すことになる。毎日飯を作ってくれるヴァーノン(アンドリュー・スコット)を人質に取られては仕方が無かったのだ。

庭造りを通じて活き活き生きることを知ったベラの前に、変わり者の発明家ビリー(ジェレミー・アーヴァイン)が現れる。彼女の人生は輝き始め、紋切り型だった生活もどんどん変わっていくのだったが——

 

ところでネタバレありのあらすじが欲しければどこかのWikipediaさんに転がっている。☞ マイ ビューティフル ガーデン - Wikipedia

映画の背景

映画を監督したサイモン・アバウドはポール・マッカートニーの娘婿だ。そんな彼がこの映画で目指したのは「現代の『アメリ』」。こちらは犯罪すれすれアウトを繰り広げながらささやかなおかしみを追求していく話だったが、この映画ではもっと可愛らしく、ガーデニングを通じてささやかな幸せを追っている。暫くUKブリット・リストに載っていたようだが、約10年をかけてやっと当初の構想通り完成したという感じである。

www.indiewire.com

混迷を極めた各地での公開

各地の映画祭で公開された後、アメリカで限定公開され、日本では2017年4月から公開となった。配給はココロヲ・動かす・映画社◯。ところがこの会社がトンデモだったというお話はTwitterあたりで「ココマル」と検索してほしい。

france-chebunbun.com

eiga.com

公開終了後もなかなかディスクが発売されず、気付いたらレンタルは出てるのにセルは無し、よく分かんないけど大本の劇場が炎上してるらしい?という感じだったが、そう言えば先日やっとセルが出た。

 

 

マイビューティフルガーデン [DVD]

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でも日本は劇場公開に漕ぎ着けて、小規模ながら全国公開したのでいい方である。問題は本国イギリスだ。筆者が観に行った昨年GWの辺りでまだ公開未定。映画祭で上映された記録はぽろぽろ出てくるのだが、公開日はTBAのままだった。そんなことしてたら先にディスク発売が決まっていたように思う。

 

BBFC(イギリスの映倫みたいな等級を決める機関)によると、アドレス末尾に"vod"とあるので、配信での公開となったようだ(公開日は2018年2月19日/THIS BEAUTIFUL FANTASTIC | British Board of Film Classification )。さっき調べたらBBC Twoで9月に放送されたらしい。取り敢えずアクセスできるようにはなっていたようで安心した。

www.bbc.co.uk

稀代の泥沼映画みたいになりかけていたので、まあ良かったかなと思う*1

 

キャストのお話

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主人公ベラ・ブラウンを演じるジェシカ・ブラウン・フィンドレイは、『ダウントン・アビー』のシビル役でも知られる(と言いつつ筆者は未見なのであるが)1989年生まれ。そう言えばヴァーノン役のアンドリュー・スコットとは、前年の映画『ヴィクター・フランケンシュタイン』でも共演していた。地味な服装ばかり着ていた当初のベラも、庭造りや人との交流で生まれ変わっていくベラも、彼女だからこそ説得力がある気がする。

 

偏屈じじいアルフィー役を演じるトム・ウィルキンソンは、当初から名前が挙がり続けていたキャストだった。『フル・モンティ』でアカデミー助演男優賞を獲った人物でもある。ベラとヴァーノンがゲール語で話し始めて、露骨に苛立つところなんか何ともコミカルだ。そう言えばアンスコさんとは『否定と肯定』"Denial"でも弁護士役同士で共演していた。そう言えばベラ役にはキャリー・マリガンの名前も挙がっていたというが分からないでもない。

www.firstshowing.net

ベラが惹かれる変人発明家ビリーには『戦火の馬』主役のジェレミー・アーヴァイン。どっからどう見ても変人にしか見えないし流石の化けっぷりというところだろう。オフショットは全然雰囲気違うけど。

www.instagram.com

調理師ヴァーノン - アンスコさんにはこういう役こそ来てほしい

アルフィー専属のコック・ヴァーノンを演じるアンドリュー・スコットは、『SHERLOCK』のジム・モリアーティ役で大ブレイクしたアイリッシュ俳優。劇中ゲール語で喋るシーンなんかもあって、素の彼という感じがしてとても好きな役だ。友達を誘ってこの映画を観に行ったのも、こんなアンスコさんが観られるという理由だった。

www.instagram.com

元々本人も悪役が好きなのだと思うが、『SHERLOCK』ジムモリでのブレイクもあって、舞台や映像でも、悪役や狂人が続いていたように思う(さっき言った『ヴィクター・フランケンシュタイン』なんかもそうだ)。『007 スペクター』"Spectre"に登場すると聞いていて随分期待していたら、何かこんな顔の役だった(ネタバレになるので濁しときます)。

via GIPHY

今作では、男やもめで双子の娘を育てながら、口うるさいアルフィーの望みを叶える腕利きシェフを演じている。もっともっとこういう役が観たいなあと思わせる作品だった*2

 

映画評

元々イギリス映画はアメリカでは評価が低めになりがちだ*3。この映画も、イギリス公開が決まらないままアメリカで限定公開されたので、当初はかなり低めに付けられていたように思う。ところがさっきトマトメーターを覗いたら、支持率64%・観客満足率73%(2018年12月9日現在)となっていた。このくらいならいい出来だろう。

www.rottentomatoes.com

個人的には、イギリス人のガーデニングにかける思いを、日常のささやかな幸せという視点で上手くまとめた作品だと思う。紋切り型の生活しか出来なかったベラが、自分の殻を破っていく流れの描き方もいい。確かにビリーと出会ったことはひとつのきっかけだが、単に恋をして変わっていくのではなく、庭造りというある意味内省的な作業を通して変わっていくのだ。

 

登場人物がそこまで多くないのもいい。ずっと殻にこもりきっていたベラなのだから、急に沢山の人と出会うよりは、ひとりひとりと濃密な付き合いをした方が話の流れとしては適切だろうと思う。そしてそのキャストが、みんなイギリス/アイルランドの実力派俳優というのも評価のポイントだ。疲れた時にふっと観てほっこりできる作品だったと思う。

最後に

トレイラーはこちら。ここでは英語版を載せたが日本語版もどこかに転がっていると思う。ブラウン・フィンドレイの緑色の眼がとても綺麗な一作だ。☞

www.youtube.com

 

 

This Beautiful Fantastic (Original Motion Picture Soundtrack)

This Beautiful Fantastic (Original Motion Picture Soundtrack)

 

 ところでサントラも、小粒ながら素敵な曲が沢山詰まっているので、ちょっとチェックしていただきたい。

関連:ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ / トム・ウィルキンソン / アンドリュー・スコット / ジェレミー・アーヴァイン / アナ・チャンセラー / ガーデニング / サイモン・アバウド

*1:稀代の泥沼映画と言えばテリーGの『ドン・キホーテを殺した男』"The Man Who Killed Don Quixote"はどこが日本配給になるのかなあ(鼻ほじ)。

*2:因みにこういうほっこり系アンスコさんが観たい人には、『パレードへようこそ』"Pride"がお勧め。こちらでは自身もゲイであるアンスコさんが、炭鉱ストの際に救いの手を差し伸べるLGBT団体に事務所として店の一角を貸し出す書店主を演じている。

*3:イギリス映画はアメリカから「辛気臭い」だの「無駄に入り組んでて意味が分からない」だの言われがちな印象があるのだが、まああの気候だったらイギリス人がああなるのもしょうがないし、個人的には、ハリウッドで一時期乱発されていた「大味だけどこれでオッケー!」みたいな"適当"映画よりは「辛気臭い」映画の方が好きである。

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