ちいさなねずみが映画を語る

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遅ればせながら、NT Liveの『フランケンシュタイン』を観た(BC怪物版)

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イギリス文化の書籍を数多く執筆・翻訳されている村上リコさんのツイートで、この話を知った。色々あってうかうかしていたらカンバーバッチ怪物版の配信最終日になっていて、慌てて夜に配信を観た……そういう話である。

 

 

カンバーバッチとミラーが役柄を交換して主演

今回配信された『フランケンシュタイン』は、ナショナル・シアター・ライヴの中でも最も良く知られた作品のひとつだ。前年に『SHERLOCK/シャーロック』を鮮烈に送り出したベネディクト・カンバーバッチと、『トレインスポッティング』シリーズで知られる*1ジョニー・リー・ミラーが、互いにフランケンシュタイン博士と彼の創り出した怪物を演じた作品である。上演は調べたところロイヤル・ナショナル・シアターで2011年に行われたようだが、翌年にはミラー主演の『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』がスタートしており(この作品でミラーはホームズを演じている)、さながらホームズ役対決となったことでも有名だ。

SHERLOCK/シャーロック シーズン1 Vol.1(字幕版)

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  • 発売日: 2016/02/22
  • メディア: Prime Video
 

 

 

「そんなに前だったか……?」と思って首を捻りつつ探してみたところ、日本での封切りは2014年だった。しかも、ナショナル・シアター・ライヴとして日本に初上陸した作品だったのである。日本での上映時には、『SHERLOCK/シャーロック』も第3シーズンまで放送されていた。カンバーバッチの人気は既に不動のもので、NT Liveでの上映もあちこちのメディアで取り上げられていたのだった(そしてその記憶が筆者にはあったのだった)。

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監督は『トレインスポッティング』のダニー・ボイル

メアリ・シェリーの作品を呼び戻したのはニック・ディア (Nick Dear)。そして監督を務めたのは、ミラーとも『トレインスポッティング』で縁深いダニー・ボイルであった。ボイルはこの翌年、あの有名なロンドン五輪の開会式を手掛けることになる。あれからそろそろ丸8年が経つけれど、今でも自分の中で1番心に残る開会式だ。(この話は後々回収する伏線である)

 

トレインスポッティング』でのミラーの役は、ユアン・マクレガー演じるレントンの悪友シック・ボーイ。個人的には主演陣の中で1番好きな役なので凄く嬉しい。ちなみに、『トレインスポッティング』関係としては、この作品で曲が使われていたアンダーワールドが舞台の音楽も手掛けている*2

 

カンバーバッチ怪物版を観た

今回NT Liveの公式YouTubeチャンネルでは、カンバーバッチ怪物版、ミラー怪物版の両方が公開されていた。カンバーバッチ怪物版の配信が1日早く、こちらを先に観たので、その話をつらつらと書いていく。

 

キャスティングリストはナショナルシアターのウェブサイトで公開されているフランケンシュタインの婚約者エリザベスを演じたのはナオミ・ハリスなんですねえ。

 

イギリス俳優は、舞台で基礎ができてるからいい

英国俳優ブームと言われて久しいが、イギリスの俳優たちにあってハリウッドの俳優たちに無いものと言ったら、下積み時代に舞台で叩き込まれた基礎なのではないかと思っている。イギリスが誇るシェイクスピアは勿論、優れた舞台作品を若い頃に演じていて、その上でのし上がってくるのが英国俳優な気がする。そして、どんな俳優も、キャリアのどこかで舞台に戻ってくるものなのだ。

 

ロンドン五輪開会式との共通点

今回上演が行われたロイヤル・ナショナル・シアターは、中央にせり上がりもある円形劇場だ(何だかNHKホールみたいな気もする)。冒頭、生まれ落ちた怪物の前に人々が行き交うシーンで、回転式の舞台が特に印象的に使われている。

  • 円形の回転式舞台である
  • 役者の演技の一環として舞台転換を手伝わせる(役者がはける時に一緒に小道具をはけさせる)
  • 円形舞台がぐるぐる回りつつ場が変わっていく
  • 頭上の照明は、シャンデリアのように思わせて実は様々な種類の家庭用電球をぶら下げたもの
  • 枠組みと紗幕で家を演出し、紗幕にプロジェクションマッピングで家具を映し出す(ド・レイシー家)

こういった演出を観ていて、正直ロンドン五輪開会式とめちゃめちゃ似ているなと思った。冒頭、肉体労働者たちが電車に乗って現れるシーンは、五輪の開会式で産業革命を表現しているところに似たような演出があった。せり上がりを含む回転式舞台というのは、サー・ケネス・ブラナーがイザムバード・キングダム・ブルネルを演じて、『テンペスト』の一節を高らかに読み上げるシーンと重なってくる。シャンデリアのような照明は、数多の花びらが立ち上がって中央に集まったあの聖火台と似ているような気がする。

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フランケンシュタイン』の上演は2011年で、ロンドン五輪の前年に当たる。東京五輪の例をとっても、開会式の準備は前のリオ大会の頃から始まっていたし、勿論ボイルとて同じ状況だったのだろう。アンダーワールドが音楽を手掛けたという共通点もあるし、ボイルの中では、もしかしたらふたつの作品は同じ軸の上にあったのかもしれないな、と感じた*3

 

ド・レイシー家にて

フランケンシュタインの産み落とした怪物は、多くの人に蔑まれながら逃げ惑い、盲目の老人と若い夫婦で暮らすド・レイシー家に辿り着く。老人は盲目で生活も不自由ながら心の豊かな人で、怪物に読み書きを教え、教養を身につけさせる。怪物は老人に与えられた書物を読み漁って知を得ていく。そして人間の中に巣食う「一貫性の無さ」に憤り、気付けば憎悪の念を抱くようになってしまうのである。

 

カンバーバッチ演じる怪物は老人に対してこのように嘆く。書物を読む度、自分以外の「人間」たちは何でも知っていて、自分は何も知らないのだ、ということを痛感させられるのだと。これは知の世界における普遍的な真理だと思う。学び取る度、己の至らなさ、容量の少なさを痛感させられてしまう。学べば学ぶほど、自分がちっぽけでみじめな人間に思えてしまう。全編しっかりと観たのだけれど、心を掴まれたのは、怪物がフランケンシュタインの周囲に脅威を及ぼす後半ではなくて、大分前半のこの部分だった。

 

カンバーバッチを不細工に描いたのはよい

怪物は自分でも述べる通り大変醜い人物である。フランケンシュタインが墓を盗掘して集めた遺体を継ぎ合わせて作られており、全身縫い目が露わになっている。確かこの特殊メイクは、1回施すのに3時間以上とかいう話だったはずだ。

 

変な見出しになってしまったが、カンバーバッチをそんな怪物として醜く描ききったことを賞賛したい。『SHERLOCK/シャーロック』のヒット以来、ハリウッドの人気作品にも出演してセックス・シンボル的存在にもなっている彼を、舞台でここまで醜く描いたのである。とてもよい。

 

ホームズ対決のキャスティングになったのでこの話にしつこく戻すが、シャーロック・ホームズという存在は、本来大変不細工なものとして描かれていた。原作者のドイル自身も、鷲鼻で高慢ちきな不細工として描いたはずなのに、シリーズの人気に伴って大変崇められるようになってしまったことに驚いていたとかいないとかいう話がある。カンバーバッチも本来そういう路線にあるべきではという気もする。その彼に、この頃こういう役が回ってきたのはいいキャスティングだなと思う。

 

しかし、カンバーバッチは早口でまくし立てる役結構苦手だと言っているのに(『SHERLOCK/シャーロック』のオーディオコメンタリーにて、自分の頭の回転より早く喋らなくちゃいけないから大変だと話している)、『SHERLOCK/シャーロック』以来そういう役ばっかり回ってくるのね。好きなんだろうけど。

 

怪物とフランケンシュタイン博士の対峙

もうひとつ心に残ったのは、怪物の求めで女性の怪物を作ったフランケンシュタイン博士が、怪物に「彼女がお前を愛さなかったなら?」と問い掛けるシーンだ。人造人間として、怪物は知力を持ち、教養と徳を備えた人物だったが、新たに作った女性の怪物はそうか分からないのだと……

 

嘆き悲しむ怪物の姿がとてもよい。全編にわたってあの不器用な歩き方をしているカンバーバッチもとてもよい。ミラー版早く観よう。

 

おしまい

というわけで、期限ギリギリではあったがカンバーバッチ怪物版を完走した。NT Live、ちゃんと映画館に観に行こう……とてもいい作品が沢山あるし、これはちゃんと観たい……ミラー版は日本時間本日27時までYouTubeで無料配信されている。英語字幕しかないけど、フランケンシュタインのあらすじをざっと読んでおけば話の筋は分かると思う。怪物は大分ゆっくり喋っているのでかなり聞き取れると思います。

www.timeout.jp

次の作品も配信中

次の配信作品はレイフ・ファインズ主演の『アントニークレオパトラ』だそう。こちらも1週間限定なので、筆者のように最終日に慌てて回さないように……!(笑)

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なお、この無料配信は、ナショナル・シアターへの寄付を呼びかけるためのもの。COVID-19の流行に伴い、ナショナル・シアターも閉鎖を余儀なくされている。日本からテキストメッセージでの寄付は出来ないようだが、公式ホームページにはPayPalならどこからでも寄付ができると書かれていた。終息した後に映画館でNT Liveを観るのは勿論だが、こういった支援の方法があるということもシェアしておきたい。

 

関連:フランケンシュタイン / ナショナル・シアター・ライヴ; NT Live / メアリ・シェリー / ニック・ディア (Nick Dear) / ダニー・ボイル / ジョニー・リー・ミラー / ベネディクト・カンバーバッチ / ナオミ・ハリス

*1:勿論ミラーの代表作は他にもあるが、後述する通りダニー・ボイル作品なので、これを挙げるのが正しいと思う

*2:調べたところロンドン五輪の開会式もアンダーワールドが曲を手掛けていたようだ。あのブリットポップ満載の開会式は、『トレインスポッティング』組だったなんて!

*3:観終わったときも「何か凄くボイルっぽいな」と思った

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