世の中はホワイトデーが過ぎたばかり、今週のお題も「ホワイトデー」だというのに、悲しいニュースが飛び込んできた。カンファの前にふとスマホを開いたらこんなニュースが飛び込んできて、正直信じられないでいる。
クリスは間違い無く、日本のアイスダンスを牽引した立役者だった。カップル競技の練習場が限られている日本において、そもそもカップル数自体が極端に少ないのだが、それでも全日本選手権10度優勝という成績は素晴らしいものだと思う。
競技生活からは引退し、これからコーチとしてセカンドキャリアを歩むのだと思っていたのに。かなちゃんがアイスダンスに戻ってきたのを喜んでいたばかりだったのに、あなたがこの世を去ってしまうなんて。どうしようもない気持ちを出力させてください。
キャシーと組んでいたころ
クリスは元々姉のキャシーとカップルを組んでいた。実のことを言うと妹のアリソンもジョージア代表などとして出場しているアイスダンス選手である。父はアメリカ人だし本人もアメリカ生まれだが、母が日本人であったことから、日本所属のカップルとして競技を続けることになる。クリスだけでなくキャシーも長身なので、彼女の長いスカートがひらひらとまたたくのはとても見栄えのする演技だった。
ちなみにアイスダンスは純粋にスケートとリフトの美しさを競う部門である。ダイナミックなスロージャンプがあるペアも素敵だが、個人的にはツイズルが大好きなので、やっぱりアイスダンスの方が好みである。ステマのように個人的に大好きなテサモエ*1のムーラン・ルージュを貼り付ける。
クリスは3度の五輪出場だけでなく国別対抗戦の第1回から2017年大会まで出続けてくれた
— Stella (@ste_mari) 2020年3月17日
足の怪我で棄権をすすめられても「自分たちが出ないと日本がポイント取れない」と出場
2011年N杯のウォームアップで他のカップルと激突し靴の中が血だらけになっても最後まで演技した
本当に強く優しいひと
これはキャシーとのカップル時代の話である。実際の映像がこれ。いつもの元気はつらつなクリスの演技で、怪我していたなんて全く信じられない。2007年から10度の優勝を重ねた全日本を、唯一欠場したのがこの年である。
www.nicovideo.jp - こうやって見返すと、キャシーが長身で物凄く映えるから素敵だなあ……
正直なところ、リード組の頃はわたしも熱心にアイスダンスを追っていなくて、大好きなプログラムというのがぱっとは浮かばない。それでも、エキゾチックな魅力を持つ顔の姉キャシーと、反対に若々しさを前面に出した弟クリスというカップルがとても素敵であったことだけはよく覚えている。
クリスは後述する村元とのカップル時代も含めて長年国別対抗戦に出続けた。シングルにいくら強い選手がいても、カップル選手がいなければ団体戦には出場できないのである。クリスはその事実をよく分かっていて、いつも他の選手を励ましつつチームを引っ張るアイスダンサーとして踊り続けていた……ように思う。これは2013年のフリーダンス。(ちなみにリード組では2010年のバンクーバーと2014年のソチの2回、オリンピックに出場している)
キャシーの引退、それでも
キャシーは2014年シーズンで現役を引退し、クリスのみが日本チームに残ることになる。その後キャシーはコーチとしてセカンドキャリアを歩み始めるが(彼女のInstagramでは彼女が指導するカップルの練習風景や試合結果などが報告されている)、ふたりはその後も仲の良い姉弟であり続けた。クリスが正式に引退を発表する前からも、キャシーの指導するカップルにクリスがお手本を見せに来たりと、氷上でのコラボレーションは綿々と続いていたのである。
今年の1月には、正式にリード姉弟でコーチカップルを組むことが公表されていた。実際ふたりが滑りながらお手本を見せる動画もあったように思うし、ふたりに指導を受けたならどれだけ素晴らしい経験だったかと思う。
クリスの訃報が発表されたのと同時に、キャシーは彼との写真をそっと公開している。クリスが引退して、共に後進の育成にも当たっていただけに、彼女の心中はいかばかりかと思う。正直キャシーが1番心配だ。
一方妹のアリソンはInstagramで追悼文を公開している。
かなクリになってから
キャシーの引退後、クリスは村元哉中(かな)とカップルを組んで再始動することになる。村元は元々シングル選手だったが、アイスダンスへ転向し、1つ目のカップルを解散して相手を探していたタイミングだった。ふたりのタイミングがぴったり合い、平昌へ向かうこのカップルが結成されたのだ。
元々村元は平昌五輪出場を目指してアイスダンスに転向した選手だが、その宣言通り、ふたりのキャリアのクライマックスはこの五輪シーズンにあった。かなクリの結成以来、クリスは姉キャシーとカップルを組んでいた頃から少しイメチェンし、ダンディな年上男性といった雰囲気になる。どこかベネディクト・カンバーバッチやアダム・ドライヴァーを思わせるような感じで、それがまた元気はつらつとした村元の演技と相性が良い。この演技を続けて観てくださいよ。わたしはオリンピックの時、FDで普通に泣いたよ。日本のアイスダンスがここまで上がってきたということに対して泣いたよ。今も見たけど、違う意味で泣けてしまうのが悲しくてならない。
平昌はフィギュアに団体戦が導入された最初のオリンピックだった。この大会で主将の役割を務めたのはクリスの相手・村元であった。チームのムードメーカーで、周りより少し年上のお姉さんという立場で全員を引っ張る村元を、陰からそっと支えていたクリスが印象深い。また村元は帰国子女ということもあって英語が堪能なので、日本語でのインタビュー時に、村元がクリスのインタビューの手助けをしていたのも印象深かった(例えば難しい質問を訳してあげたり、逆に言葉に詰まるクリスを「こういうことだよね?」とそっと手助けしたり)。
この年かなクリは、直前の四大陸で日本カップル最高位となる3位入賞を飾る(五輪との関係で出場しなかった組も多い(はずだ)が、にしても快挙だ)。五輪の15位、世界選手権の11位もそれぞれ日本カップル最高位だ。この年の8月、方向性の違いから突然カップルを解消してしまったが(正直この時は本当にパニックになって泣いた)、日本のアイスダンスを最後まで牽引してくれたのが、クリス・リードという男だったのである。
これはかなちゃんの追悼文。大好きなかなちゃんが髙橋大輔と組んでアイスダンスに戻ってきてくれるのを喜んでいたのに、クリスの訃報を聞くなんて、かなクリがとても大好きだったわたしには大変辛い話だ……
コーチとしてのセカンドキャリア
クリスは昨年末に正式に引退を発表した。村元とのカップル解消後も相手については聞こえてこず、30という大台に乗ったところだったので(近年は怪我の話もちらほらあったし)、そろそろ退く時期ではあったのかもしれない。それでも、全日本優勝10度の彼が退くというのはなかなかに大きなニュースであった。丁度Team CoCoKoKo*2の小松原が脳震盪で休養を余儀なくされていたところだったし。
既に各種報道でも触れられているけれど、クリスはアイスダンスの指導のために日本にやってくる予定でいた。彼にはコーチとして素晴らしいセカンドキャリアがあってしかるべきだと思っていたし、姉キャシーと実際に滑りながらコーチングする動画も上がっていたので、楽しみにしていたのだけれどなあ。つくづくつらい。
スケート界からの追悼
同じくアイスダンスから、Team CoCoKoKoのコレトさん。どれだけ悲しいか表す言葉も無いよ、って、その通りだよね。優しい兄貴として付き合ってくれてたことがよく分かる写真たち。
クリス... 言葉出ない... 寝れない.
— Tim Koleto ティム コレト (@Timkoleto) 2020年3月17日
I’m in shock. Can’t find the words to express how terribly sad I am. So much love to the Reed family. Thank you for all the moments we shared together in the quiet moments between performances. I’ll never forget your kind smile. pic.twitter.com/CMNInFgGZ9
— Tim Koleto ティム コレト (@Timkoleto) 2020年3月17日
わかばちゃん。仲の良い池江が久々プールに入ったこともリツイートしてるけど、発表直後は驚きで疑問符しか打ってなかった。
?????
— 樋口新葉 Wakaba Higuchi (@wakawakaskate) 2020年3月17日
信じられません。早すぎます。
— 樋口新葉 Wakaba Higuchi (@wakawakaskate) 2020年3月17日
デトロイトに振り付けに行った時や試合で一緒になった時にいつも声をかけてくれてとても楽しい記憶が沢山あります。
ご冥福をお祈りします。
小塚さん。
え????え??????
— 小塚崇彦(Taka KOZUKA,OLY) (@takakozuka) 2020年3月17日
え??クリス???え??https://t.co/tXJWfuUYLY
荒川さん。
クリス…突然のことで信じられず、言葉も見つかりません… 心よりご冥福お祈りいたします
— Shizuka Arakawa (@tiramisu11) 2020年3月17日
無良さん。
え、、クリス。。何かの間違いだよね??
— 無良 崇人 (@takahito3211) 2020年3月17日
織田さん。織田さんが一緒に行ったのは2010年のバンクーバー。
クリスの訃報に、とてもショックで未だ信じられません。アメリカで一緒に練習していた時、クリスはスケーティングやトレーニング方法についていつも優しくアドバイスをくれました。一緒にオリンピックに行く事が出来たのは僕の誇りです。安らかな眠りにつかれますよう心よりお祈りいたします。
— 織田信成 nobunari oda (@nobutaro1001) 2020年3月17日
村主さん。
クリスが…信じられないです。選手時代、アメリカ、ニュージャージーのリンクで練習してきた日の事は、今でもずっと心に残っています。ご冥福をお祈りしています。
— 村主 章枝 Fumie Suguri (@fumiesuguri) 2020年3月17日
他にもインスタのストーリーで何人かのスケーターが反応していた。ストーリーを転載するのは趣旨に合わないと思うのでやらないけれど、多くのスケーターが早過ぎる死を悼んでいる。
オーストリア代表だったケルシュティン・フランク。クリスの交際相手だったんですね。1月には仲睦まじそうな写真と共に交際記念日を祝っていただけに、とてもしんどい。
そういえばクリスの死は「12時20分」とやたら正確な時間が伝わっているのが気になる。もしかしたらVFとか致死的不整脈を起こして、1回ROSCして、それでも救命しきれなかったのかもしれない。ねえ何で。早過ぎるよ。キャシーが心配だよ。Instagramがもう更新されないのが悲しい。でも彼のアカウントのフォローは外さない気がする。
フィギュアアイスダンス五輪選手 クリス・リードさんが急逝 30歳 心臓突然死で#フィギュアスケート #figureskatehttps://t.co/Jth16ds86k
— スポーツナビ フィギュアスケート編集部 (@sn_figure) 2020年3月17日
200319追記
※小松原美里・ティム・コレト組の愛称をミスタイプしていました。正しくは "Team KoKo"です。訂正いたしました。
日が明けて追悼文を寄せる人も何人か増えていたので、個人的な記録がてらまとめておく。まずは元りくしょーで現在は木原龍一とペアを組むペアダンスのりくちゃん。
クリス、、
— Riku Miura 三浦璃来 (@miurariku1217) 2020年3月18日
トルン杯、DOIでご一緒した時、声をかけて下さったり、明るく接して下さった事、絶対に忘れません。
心からご冥福をお祈りいたします。
チェコのシングル代表でチェコいきいき30歳のブジェジナさん(ミハル・ブジェジナ)。一緒にXboxで遊んで、ホッケーの試合を沢山見て、リード家で暮らしていたこともあるからとても仲が良かったんだよ、と。
これはハビ(=ハビエル・フェルナンデス)。色んな人の追悼文を読んだけれど、いつも笑わせてくれるジョークセンスのある人だったよ、とあちこちで言われていますね。
スケート情報サイト、ゴールデン・スケートから。ヴィクトリア・ブルースの詩を添えて。
こちらはランディ・ストロング。振付師として働く彼女は、かなクリ時代のプログラムを載せて彼の死を悼んでいる。
ISU; 国際スケート連盟から。Twitterでも追悼として四大陸選手権銅メダルを勝ち取ったFDの動画が公開されている。