ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

ねえクリス、早過ぎるよ - クリス・リードが亡くなりました

世の中はホワイトデーが過ぎたばかり、今週のお題も「ホワイトデー」だというのに、悲しいニュースが飛び込んできた。カンファの前にふとスマホを開いたらこんなニュースが飛び込んできて、正直信じられないでいる。

 

クリスは間違い無く、日本のアイスダンスを牽引した立役者だった。カップル競技の練習場が限られている日本において、そもそもカップル数自体が極端に少ないのだが、それでも全日本選手権10度優勝という成績は素晴らしいものだと思う。

競技生活からは引退し、これからコーチとしてセカンドキャリアを歩むのだと思っていたのに。かなちゃんがアイスダンスに戻ってきたのを喜んでいたばかりだったのに、あなたがこの世を去ってしまうなんて。どうしようもない気持ちを出力させてください。

 

 

 

キャシーと組んでいたころ

クリスは元々姉のキャシーとカップルを組んでいた。実のことを言うと妹のアリソンもジョージア代表などとして出場しているアイスダンス選手である。父はアメリカ人だし本人もアメリカ生まれだが、母が日本人であったことから、日本所属のカップルとして競技を続けることになる。クリスだけでなくキャシーも長身なので、彼女の長いスカートがひらひらとまたたくのはとても見栄えのする演技だった。

 

ちなみにアイスダンスは純粋にスケートとリフトの美しさを競う部門である。ダイナミックなスロージャンプがあるペアも素敵だが、個人的にはツイズルが大好きなので、やっぱりアイスダンスの方が好みである。ステマのように個人的に大好きなテサモエ*1ムーラン・ルージュを貼り付ける。

 

これはキャシーとのカップル時代の話である。実際の映像がこれ。いつもの元気はつらつなクリスの演技で、怪我していたなんて全く信じられない。2007年から10度の優勝を重ねた全日本を、唯一欠場したのがこの年である。

www.nicovideo.jp - こうやって見返すと、キャシーが長身で物凄く映えるから素敵だなあ……

正直なところ、リード組の頃はわたしも熱心にアイスダンスを追っていなくて、大好きなプログラムというのがぱっとは浮かばない。それでも、エキゾチックな魅力を持つ顔の姉キャシーと、反対に若々しさを前面に出した弟クリスというカップルがとても素敵であったことだけはよく覚えている。

クリスは後述する村元とのカップル時代も含めて長年国別対抗戦に出続けた。シングルにいくら強い選手がいても、カップル選手がいなければ団体戦には出場できないのである。クリスはその事実をよく分かっていて、いつも他の選手を励ましつつチームを引っ張るアイスダンサーとして踊り続けていた……ように思う。これは2013年のフリーダンス。(ちなみにリード組では2010年のバンクーバーと2014年のソチの2回、オリンピックに出場している)

www.youtube.com

キャシーの引退、それでも

キャシーは2014年シーズンで現役を引退し、クリスのみが日本チームに残ることになる。その後キャシーはコーチとしてセカンドキャリアを歩み始めるが(彼女のInstagramでは彼女が指導するカップルの練習風景や試合結果などが報告されている)、ふたりはその後も仲の良い姉弟であり続けた。クリスが正式に引退を発表する前からも、キャシーの指導するカップルにクリスがお手本を見せに来たりと、氷上でのコラボレーションは綿々と続いていたのである。

www.instagram.com

今年の1月には、正式にリード姉弟でコーチカップルを組むことが公表されていた。実際ふたりが滑りながらお手本を見せる動画もあったように思うし、ふたりに指導を受けたならどれだけ素晴らしい経験だったかと思う。

ameblo.jp

 

クリスの訃報が発表されたのと同時に、キャシーは彼との写真をそっと公開している。クリスが引退して、共に後進の育成にも当たっていただけに、彼女の心中はいかばかりかと思う。正直キャシーが1番心配だ。

www.instagram.com

一方妹のアリソンはInstagramで追悼文を公開している。

www.instagram.com

 

かなクリになってから

キャシーの引退後、クリスは村元哉中(かな)とカップルを組んで再始動することになる。村元は元々シングル選手だったが、アイスダンスへ転向し、1つ目のカップルを解散して相手を探していたタイミングだった。ふたりのタイミングがぴったり合い、平昌へ向かうこのカップルが結成されたのだ。

 

元々村元は平昌五輪出場を目指してアイスダンスに転向した選手だが、その宣言通り、ふたりのキャリアのクライマックスはこの五輪シーズンにあった。かなクリの結成以来、クリスは姉キャシーとカップルを組んでいた頃から少しイメチェンし、ダンディな年上男性といった雰囲気になる。どこかベネディクト・カンバーバッチアダム・ドライヴァーを思わせるような感じで、それがまた元気はつらつとした村元の演技と相性が良い。この演技を続けて観てくださいよ。わたしはオリンピックの時、FDで普通に泣いたよ。日本のアイスダンスがここまで上がってきたということに対して泣いたよ。今も見たけど、違う意味で泣けてしまうのが悲しくてならない。

 

平昌はフィギュアに団体戦が導入された最初のオリンピックだった。この大会で主将の役割を務めたのはクリスの相手・村元であった。チームのムードメーカーで、周りより少し年上のお姉さんという立場で全員を引っ張る村元を、陰からそっと支えていたクリスが印象深い。また村元は帰国子女ということもあって英語が堪能なので、日本語でのインタビュー時に、村元がクリスのインタビューの手助けをしていたのも印象深かった(例えば難しい質問を訳してあげたり、逆に言葉に詰まるクリスを「こういうことだよね?」とそっと手助けしたり)。

この年かなクリは、直前の四大陸で日本カップル最高位となる3位入賞を飾る(五輪との関係で出場しなかった組も多い(はずだ)が、にしても快挙だ)。五輪の15位、世界選手権の11位もそれぞれ日本カップル最高位だ。この年の8月、方向性の違いから突然カップルを解消してしまったが(正直この時は本当にパニックになって泣いた)、日本のアイスダンスを最後まで牽引してくれたのが、クリス・リードという男だったのである。

 

これはかなちゃんの追悼文。大好きなかなちゃんが髙橋大輔と組んでアイスダンスに戻ってきてくれるのを喜んでいたのに、クリスの訃報を聞くなんて、かなクリがとても大好きだったわたしには大変辛い話だ……

www.instagram.com

ameblo.jp

コーチとしてのセカンドキャリア

クリスは昨年末に正式に引退を発表した。村元とのカップル解消後も相手については聞こえてこず、30という大台に乗ったところだったので(近年は怪我の話もちらほらあったし)、そろそろ退く時期ではあったのかもしれない。それでも、全日本優勝10度の彼が退くというのはなかなかに大きなニュースであった。丁度Team CoCoKoKo*2の小松原が脳震盪で休養を余儀なくされていたところだったし。

既に各種報道でも触れられているけれど、クリスはアイスダンスの指導のために日本にやってくる予定でいた。彼にはコーチとして素晴らしいセカンドキャリアがあってしかるべきだと思っていたし、姉キャシーと実際に滑りながらコーチングする動画も上がっていたので、楽しみにしていたのだけれどなあ。つくづくつらい。

ameblo.jp

スケート界からの追悼

同じくアイスダンスから、Team CoCoKoKoのコレトさん。どれだけ悲しいか表す言葉も無いよ、って、その通りだよね。優しい兄貴として付き合ってくれてたことがよく分かる写真たち。

 

わかばちゃん。仲の良い池江が久々プールに入ったことリツイートしてるけど、発表直後は驚きで疑問符しか打ってなかった。

 

小塚さん。

 荒川さん。

無良さん。

織田さん。織田さんが一緒に行ったのは2010年のバンクーバー

村主さん。

他にもインスタのストーリーで何人かのスケーターが反応していた。ストーリーを転載するのは趣旨に合わないと思うのでやらないけれど、多くのスケーターが早過ぎる死を悼んでいる。

 

オーストリア代表だったケルシュティン・フランク。クリスの交際相手だったんですね。1月には仲睦まじそうな写真と共に交際記念日を祝っていただけに、とてもしんどい。

www.instagram.com

 

そういえばクリスの死は「12時20分」とやたら正確な時間が伝わっているのが気になる。もしかしたらVFとか致死的不整脈を起こして、1回ROSCして、それでも救命しきれなかったのかもしれない。ねえ何で。早過ぎるよ。キャシーが心配だよ。Instagramがもう更新されないのが悲しい。でも彼のアカウントのフォローは外さない気がする。

 

200319追記

※小松原美里・ティム・コレト組の愛称をミスタイプしていました。正しくは "Team KoKo"です。訂正いたしました。

 

日が明けて追悼文を寄せる人も何人か増えていたので、個人的な記録がてらまとめておく。まずは元りくしょーで現在は木原龍一とペアを組むペアダンスのりくちゃん。

 

チェコのシングル代表でチェコいきいき30歳のブジェジナさん(ミハル・ブジェジナ)。一緒にXboxで遊んで、ホッケーの試合を沢山見て、リード家で暮らしていたこともあるからとても仲が良かったんだよ、と。

www.instagram.com

これはハビ(=ハビエル・フェルナンデス)。色んな人の追悼文を読んだけれど、いつも笑わせてくれるジョークセンスのある人だったよ、とあちこちで言われていますね。

www.instagram.com

スケート情報サイト、ゴールデン・スケートから。ヴィクトリア・ブルースの詩を添えて。

www.instagram.com

こちらはランディ・ストロング。振付師として働く彼女は、かなクリ時代のプログラムを載せて彼の死を悼んでいる。

www.instagram.com

ISU; 国際スケート連盟から。Twitterでも追悼として四大陸選手権銅メダルを勝ち取ったFDの動画が公開されている。

isu.org

関連:フィギュアスケート / アイスダンス / クリス・リード

*1:スコットは「モイヤー」なんだから「テサモヤ」じゃね?とか思うのだが、そこは邪推のようである

*2:小松原美里・ティム・コレト組。かなクリの次に来る日本のアイスダンスカップルの2番手だった。ふたりは夫婦。

どうでもいいひとりごと - 200308

COVID-19について。

 

実演講座でもやってみたら

まだPCR全例に実施したい人たちがいるみたいだから、この際昼の情報番組で「MCが挑戦する! PCR検査の実際」みたいなタイトルでPCR検査やってみたらいいんじゃないか。病原性のあるものとか遺伝子組み換え大腸菌とか使うと面倒だから、何をターゲットにしたらいいかなあ。鼻咽頭ぬぐい液取るところから全て自前でやってほしい。あるはずなのに増幅できないとか試料の調製ミスで大失敗とか、実験系あるあるを是非体験してほしい。そして最後の最後に「生放送の時間に収まりませんでした」とかやってほしい。「一家に一台PCR!」みたいなテンションで話すからにはそれくらい、ねえ?

 

韓国の甲状腺癌検診を思い出す

この話を考えていて、ふと韓国で起こった甲状腺癌の過剰診断の話を思い出した。頚部エコーで簡単に診察できるようになったことから、韓国は若年者の甲状腺癌のエコー検診を無料にして広く普及させることにした。甲状腺癌は若年者の癌死亡でそこそこの割合を占めているので、早期診断できれば死亡率が減らせるのではないかと考えたのだ。実際この検診を導入したところ、韓国国内での罹患者数は急増した。癌なのに診断されていない人たちが沢山見つかったのである。

しかしながら数年経って論文が出て、この検診は死亡率を全く下げていないことが分かった。普通は早期診断が出来れば早めに治療に移れて、その後の転移や死亡などをリスクを下げるものだと思う。しかしながら、甲状腺癌は全身各臓器の癌の中で、比較的ゆっくり進み、予後の良いものとされている。死亡率を全く下げなかった、ということは、この時点で診断する必要は全く無かったということなのだ。要するに、見つける必要の無い癌を見つけて、数が増えた*1、と言っていたのである。この話は韓国国内のメディアにすっぱ抜かれ、若年者の検診受診者は下降の一途を辿った。罹患率はエコー検診の導入で一次爆上がりしたが、現在は諸外国と同じ程度の割合にまで下がったという話だったように思う(ソースは探すのが面倒なので各自お調べ下さい)。

synodos.jp

医者が必要だから必要……?

テレビでは医者が必要だと言っている検査なのに出来ないじゃないか、みたいなことを言う人もいる。勿論必要な検査が必要な場所に届かないというのは問題だと思う。

でも、こないだテレビで見たとある医者の診察なんて酷いものだった。70代のおじいちゃんで胸部レントゲンを撮ったら肺炎像があった。接触歴を訊ねたかどうかは定かではない(この時はまだクルーズ船の乗客たちが降り始めたかどうかという時期だったので、市中での接触歴は大分限られていたと思う)。レントゲン自体はちらっとしか見えなかったが、年などを考えれば、先に出てくるのは肺炎球菌とかインフルエンザ桿菌とか、そういう市中肺炎の起因菌だと思う。それに対してこの医者、何と言ったかって、「あー肺炎像がありますね。コロナの検査がしたいからコールセンターに電話しようかな」。電話は結局繋がらず、パンクしてますね、という結論になっていたが、そりゃこういうじいさんがいっぱいならコールセンターもパンクするわと思う。

 

残念なことに、このブログでも何回か取り上げたように、医療資源は有限だ。「OKバブリー☆彡」と言っていた時期はとうに過ぎ去って、今は有限の医療資源をどう回すかということに社会が躍起になっている。そういった観点からよく言われるのが、「問診と身体診察で多くの病気は診断できる」という言葉だ。「肺炎かな? じゃあコロナ」みたいな短絡的思考は許されない*2

安易な検査を踏みとどまらせるために、「検査をしたからには判断が必要、その検査でその後の行動は変わりますか?」ということもよく言われる。検査してもしなくても、どうせ点滴繋いで酸素吸わせてひどくなったら呼吸器繋いで、というような状況なら、その検査は多分意味が無い。

 

これだけ書いて何が言いたいかって、「医者が判断したから」と言っても、その医者の臨床力が著しく低かったら、その判断は当てにならない。そういう一部の偏った例を取り上げて、検査してほしいのにしてもらえない、と騒ぐのはフェアじゃない。

 

おしまい

段々とりとめのない話になってきたので強制終了しようと思う。そう言えば本当に関係無いけれど、この本が面白そうだったのでさっき買った。

関連:COVID-19 / PCR検査

*1:ちなみに罹患者数は検出能のよい検査が開発されれば上がる。「罹患者」の定義が「ある期間に見つかった患者の数」なので

*2:ただ、市中肺炎とCOVID-19を身体診察でどう見分けるかというとそれは無理だと思うので、やはり問診力なのかなあ

いい意味で、ドラマと全く変わらない - 映画『架空OL日記』

ドラマ版のファンとして、公開初日に映画『架空OL日記』('20)を観てきた。いい意味で、ドラマと全く変わらなかった。ドラマの映画化とあって観劇を躊躇している人がいるとしたら、主要人物のキャラクターだけ軽く押さえて行けばそれでいいので、気軽に足を運んでいただきたい。ところでこの記事にネタバレは無い(むしろしようがない)*1

www.youtube.com

  • 原作はバカリズムが密かに書きためていた偽日記
  • 空気感も、登場人物も、ドラマ版と一切変わらない
  • 見どころはない、当然ながらネタバレもない
  • 登場人物はOLだけれど、主題は人間の生活
  • 主題歌も、よりゆるくパワーアップ
  • おしまい

 

原作はバカリズムが密かに書きためていた偽日記

この作品は元々、バカリズムこと升野英知が2006年から密かに書きためていた偽日記を映像化したものである。原作となったブログは今でもアメブロに健在だが、ドラマと映画を観てから読むと、結構忠実にエピソードを再現していて面白い。2013年には1巻・2巻が合わせて待望の書籍化となり、『ビットワールド』で共演以来バカリズムが師匠と崇めるいとうせいこうが巻末文を寄せている。

架空OL日記 1 (小学館文庫)

架空OL日記 1 (小学館文庫)

 

nikkan-spa.jp - ブログ連載期間は実に3年

*1:そもそも「ドラマと全く変わらない」というのが最大のネタバレな気がするが、どうせ細かいところはこれでは伝わらないのでセーフセーフ

続きを読む

天気予報と医療情報の違いは何なのだ

COVID-19を巡る一連の報道に食傷気味な筆者である。否、正確に言えば、それを巡る情報番組の作り方に、だ。

 

2003年に起こったSARS、2009年の新型インフルエンザと大きく異なるのは、このウイルスの流行が運悪く春節に重なったということ、世界中での人の移動が昔とは段違いであること、そして、人々がすべからく何らかのSNSにアクセスしている、という事実である。2009年だってTwitterはあったが、その利用者数は今ほどではなかった。街ゆく人々が全てスマートフォンを持って、思い思いに情報を発信する世の中ではなかったのである。

 

  • 果たして何人いるのだろうか
  • 言うは勝手、行うは難儀
    • PCRの話
    • 後医は名医
  • 天気予報と医療情報の違いは何なのだ
  • おしまい

 

果たして何人いるのだろうか

残念ながら人類は歴史から学ばない。オイルショック時に主婦たちがこぞってトイレットペーパーに群がった姿、東北を冷夏が襲った時に米を求めて奔走した姿、そういうものは当然歴史の時間に習っているはずである。しかしながら、今回のCOVID-19流行に伴い、多くの人がマスクや消毒用アルコールを求めて右往左往している。「備えあれば憂いなし」とはよく言ったものだ。

多くの人がマスクや消毒用アルコールを買い求め、特殊マスクのN95*1や業務用アルコールに手を出した人々もそれなりにいるという。それでも、N95を付けてリークテストまでしっかりやれる人がどれくらいいるだろうか。アルコールによる手指消毒をしっかりできる人がどれくらいいるだろうか(どうせハンドクリームのように手の平にだけ塗る人だって多いに違いない)。そもそも通常の手洗いがきちんとできている人が何人くらいいるだろう。接触感染・糞口感染と言うけれど、それなら食卓の消毒は毎日しているのだろうか。消毒液と言えば、アルコール以外にもクロルヘキシジンとかグルタルアルデヒドだってあるけれど、何故みんなアルコールばかりに走るのだろう?*2 医療系の勉強をかじったものがこうやって考え込んでいるうちにも、多くの人が右倣えと言わんばかりに買い占め行動の一翼をになうこととなる。そしてその先には転売ヤーがおり、彼らのニーズを悪用して大儲けしているという構図がある。(実際メルカリなどのフリマサイトで、明らかに医療用のアルコールが転売されていたという話もあるし……)

 

言うは勝手、行うは難儀

そしてそういった消費行動を煽っているとも言えるのが、マスコミの報道姿勢である。連日のように報道される「PCRができない」「マスクが無い」「欲しい人の元に届かない」と言った言葉たち。それを煽っているのは自分たちなのに、その姿は棚上げだ。実に見事である。

*1:「最も捕集しにくいと言われる0.3μmの微粒子を95%以上捕集できる」(3Mウェブサイトより)保証が成されている特殊マスク。医療現場では結核菌予防のために使われることが多い。

*2:勿論この文章では、意図的に人体に使えるものと使えないものを混ぜています

続きを読む

初潮が来てもバービーちゃんねるのこの動画観れば大丈夫

是非シェアさせてください。

 

最近フォーリンラブのバービーちゃんがYouTuberとして活動しています。あばた面だったのをどうやって治したかとか結構赤裸々な動画を作ってるのですが(チャンネルはこちら)、自分の美をとことん追求しているのを包み隠さず喋っていて面白いです。そんな彼女が先日公開したのがこちらの動画です。

www.youtube.com

いやこれいいなあ……ほんといいなあ……

 

だってこういうのきちんと教えてくれる人、普通は誰もいないんですよ。女子だったらいずれ月経が来るのは当たり前なのに、どうやって付けたらいいかとか、何を選べばいいかとか、教えてくれる人はいないわけです。なんかよくわかんないうちに初潮が来て、近くに母親とか姉がいれば教えてくれるかもしれないけど、そうもいかない子だって多いわけで。彼女だって動画の中で1ヶ月隠したって言ってましたもんね。そんなもんです。

今どきだとよく小学校高学年の集団旅行の前に、女子だけ集められて生理用品会社からサンプルとパンフレット貰ったりするけど、その前に初潮が来る子だっているだろうし。保健の時間だと言っても、そういうところは何か包み隠して終わっちゃうもんね。そんな中で彼女が実際こうやるんだよと実物を見せつつ動画を作ってくれたのは凄く良いなあと思いました。

 

これもこないだ読んで面白かった。料理が好きなのは自分のためであって、男を落とすためじゃないわい! という檄文。

gendai.ismedia.jp

実は筆者もちょっと関係あるような記事を書いてるので良かったら読んで下さい。

mice-cinemanami.hatenablog.com

関連:生理 / 初潮 / 月経 / 生理用ナプキン / タンポン

好きも突き詰めれば解剖に行き着く……? - 『キリン解剖記』書評

ある日何となくTwitterを眺めていたら、こんなツイートを見かけた。

 ——解剖? それもキリンの? しかも新しい構造を見つけたってどういうこと?

そうやって思ったら数分後にはこの本を予約発注してほくほくな気分になっていた。今日ご紹介するのは郡司芽久さんの『キリン解剖記』である。

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

 

 

 

好きも突き詰めれば解剖に行き着くらしい

現在国立科学博物館*1で研究員として働く郡司さんだが、キリンの解剖を始めたのは東京大学在学中のことである。出来るなら大好きなものを仕事にしたいと思った彼女は、そう言えば昔はキリンが大好きだったな、と気付き、キリン研究を主軸に据えることにする。そこで出会ったのが恩師・遠藤秀紀教授であり、彼との出会いをきっかけに、テーマはキリンの解剖へと移っていく。

 

遠藤教授の書いた本。『キリン解剖記』があまりに面白くて、完全にノリで買ってしまった(笑)。

東大夢教授

東大夢教授

 

 

献体を無駄にした不甲斐なさは次へのエネルギーに

とは言うものの、解剖男を自称する遠藤教授の研究室にいても、キリンを解剖する機会は非常に限られていた。それも何も、動物園で亡くなったキリンの献体に依拠していたためである。思うように解剖する遺体は手に入らないし、そうかと思えば盆も正月も関係無く解剖の日程が入るし、やっと手に入れたと思っても参考に出来る成書などほとんど無くて手探りの解剖になってしまう。1体1体が大変貴重なことは分かっていても、理想と現実はかけ離れている。

 

第3章では、対になって解剖した2例が象徴的に取り上げられている。1つ目は初めての「解剖」になったニーナ。2つ目は、後追いするように亡くなったパートナーキリンのシロ。ニーナの解剖では、勢い余って腱まで外してしまったり、自信を持って同定できた筋肉が皆無だったりという有様だった。70頁でこの時の感情を振り返った言葉には、なまじこの感情が分かるがゆえの苦しさを感じた。人体解剖でも全く同じことを感じる。献体を無駄にしてはならないと思いつつも、自分の至らなさ、根気の続かなさを痛感させられる作業なのである。それでも人体の系統解剖なら周りに沢山同級生もいるし、別の班へ観に行くこともできるけれど、キリンは基本的に目の前のひとつしかない。

 「無力感」。その一言に尽きる。キリンの遺体に、解剖という名の破壊行為をし、何の新知見にもたどり着けなかった。知識の向上にも至れなかった。命を弄んでしまったかのような後味の悪さと罪悪感が、胸に重くのしかかってきたのを、今でもよく覚えている。

 装置を通して得られた数字やアルファベットの羅列データではなく、生身の体を扱うことが、解剖の魅力でもあり、恐ろしさでもある。

——『キリン解剖記』70頁

 

リベンジのチャンスは意外に早く訪れた。後追いするように亡くなったシロも解剖できることになったのである。この時彼女は気持ちを入れ替え、ただ名前を追うのではなく、筋肉がどことどこに付着しているかをよく観察するように方針転換した。分からないなりにベストを尽くすことで、解剖数が少ないというハンディを乗り越えることにしたのである。……3ヶ月の系統解剖でんひーんひー言っていた昔の自分に読んで聞かせたい。

 

首の骨の解剖をするには解体が邪魔をした

この本でも大きく取り上げられている「8番目の"首の骨"」の発見。詳しい話は著作の中でも丁寧に扱われているし、何より先日ろんぶ〜んで取り上げられていたので敢えてさくさくめでお送りしたい。

www4.nhk.or.jp

哺乳類の首の骨、いわゆる頸椎は7個というのが一般常識である。しかしながらキリンはヒトやその他の哺乳類では考えにくいほどしなやかな首の動きを持つ。その動きを生み出す構造について知りたいというのはキリン解剖学者なら誰でも抱く疑問だろう。わたしもキリン解剖学者だったらそう思うに違いない。

ところがこの謎の解明には大きな障壁があった。キリンは背の高い動物なので、そのまま解剖室に運び込むことが難しい。何パーツかに解体されて搬入され、それから解剖作業が始まるのが常だった。そしてこの解体時に、最も解剖したい首の付け根の部分は解体線として利用されてしまうのだった。

 

この問題に、解体線をずらした遺体を準備することと、扱いやすい子供の遺体をCTスキャンすることで挑む。「8番目の"首の骨"」とは果たして何なのか? 本書いちばんの読みどころなので、敢えて結末はお知らせせずにおく。

 

解剖学という学問だからこそ

「8番目の"首の骨"」問題のミソとなった論文は1999年のものだという。112頁からのコラムでも、リチャード・オーウェン1839年に発表した論文を読みながら、その内容に深く共感したことを記している。こういうのは研究対象も使う道具もそうそう変わらない解剖学だからこそできることかもしれない。こういう古い論文を読んでときめく作業には憧れてしまう*2

 

本書の冒頭、18頁あたりからは、解剖の流れをざっくり紹介する中で、用具がさらりと紹介されている。丁寧な挿絵まで付けられていたが、使っている道具がヒトの解剖とそう変わりないので笑ってしまった。とげ抜きピンセット、先端を上手く使うとものも切れるので重宝だよねえ。解剖の経験があるとこういう細かいところまで手に取るように分かって楽しいかもしれない。勿論そんな経験がなくても物凄く面白い本である。むしろ「解剖始めちゃうかな〜」と思うくらい。全然過言じゃない。

 

百聞は一見にしかず……!

というわけで百聞は一見にしかず、是非『キリン解剖記』をお読みください! 解剖学だけでなく、化学的思考の面白さも伝わってくる良書です。ついでに師匠である遠藤教授の本もご紹介。

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

キリン解剖記 (ナツメ社サイエンス)

 
東大夢教授

東大夢教授

 

 

うっかり人体解剖が気になってしまった方には、スケッチが大変美しいFeneisの解剖学事典をオススメしたい。人体の構造ひとつひとつにちゃんと名前があるんだなあと思って惚れ惚れする。

図解 解剖学事典 第3版

図解 解剖学事典 第3版

 

 

著者である郡司さんに迫ったインタビューも秋に公開されているので合わせてどうぞ。

 

ちなみに普段でもこんな面白いTwitterをされている方なので、是非是非フォローしてみてください。

2月20日までご本人が出演されたテレ東の「探求の階段」がアーカイブ視聴できます!

video.tv-tokyo.co.jp

【投稿後追記】200621

ニュースイッチで郡司さんの楽しいインタビューが出ていた。飾らなくて明るい人柄が伺える素敵なインタビューなので是非お読みくださいませ……!

newswitch.jp

関連:キリン解剖記 / 郡司芽久 / 国立科学博物館 / キリン

*1:何を隠そう、日本で1番好きな博物館です……!

*2:医学の場合、日進月歩過ぎて、数年前の論文ですら内容が古いことはままなので

刑のあり方さえ考えさせる現場ルポ - 宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』

宮口幸治氏が新潮新書から出した『ケーキの切れない非行少年たち』を読んだ。発達障害という言葉が単なる精神科的トピックスに留まらず、メディアや一般人の間で人口に膾炙するものとなって久しい。この本はそんな問題に対して、いわゆる少年院で「非行少年たち」と接してきた筆者が独自の視点で切り込むものである。

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書
 

 

  • 認知行動療法が通用しない非行少年たち
  • "理解"が出来なければ、乗れない船は沢山ある
  • 画一的教育からこぼれ落ちる者
    • 数字で切ってしまったがゆえの悲劇
    • 発達の歪みが生む問題
  • この本は刑のあり方さえ考えさせる
  • おしまい

 

認知行動療法が通用しない非行少年たち

筆者が少年院に送られる「非行少年たち」の治療に専念するようになったのは、認知行動療法が通用しないある少年との出会いだった。認知行動療法; CBTというのは精神科的治療法のひとつで、心理療法の中ではある種パラダイムシフトと言ってもよいかもしれない。誤った思考回路に陥っている患者自身を、一定時間のセッションを何回も繰り返す方式で救い出し、新たな考え方を与えて、問題行動に至らないようにしよう、というものである。筆者は性的問題行動を抱える少年にCBTを試した*1が、どんなにセッションを重ねても彼の問題行動は治らなかった。

 

その後、筆者はこういった少年たちの治療に関するヒントを求めて医療少年院への入職を決意する。そこで筆者が出会ったのが、タイトルにもなっている『ケーキの切れない非行少年たち』である。彼らが"切った"ケーキの図は、Amazonリンクで見える本書の帯でご覧いただきたい。この結果に驚いた筆者は、少年たちにRey-Osterrieth複雑図形検査と呼ばれる図形写し問題をさせることにした。その結果がこちらの図だ。

https://president.jp/mwimgs/1/3/-/img_13eecb1f58cd1004889f7b95dcda4f88204411.jpg

*1:「試した」というのは勿論言葉のあやで、こういった少年に行う治療としてはCBTは恐らく第1選択である

続きを読む
Live Moon ブログパーツ