ちいさなねずみが映画を語る

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いい意味で、ドラマと全く変わらない - 映画『架空OL日記』

ドラマ版のファンとして、公開初日に映画『架空OL日記』('20)を観てきた。いい意味で、ドラマと全く変わらなかった。ドラマの映画化とあって観劇を躊躇している人がいるとしたら、主要人物のキャラクターだけ軽く押さえて行けばそれでいいので、気軽に足を運んでいただきたい。ところでこの記事にネタバレは無い(むしろしようがない)*1

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原作はバカリズムが密かに書きためていた偽日記

この作品は元々、バカリズムこと升野英知が2006年から密かに書きためていた偽日記を映像化したものである。原作となったブログは今でもアメブロに健在だが、ドラマと映画を観てから読むと、結構忠実にエピソードを再現していて面白い。2013年には1巻・2巻が合わせて待望の書籍化となり、『ビットワールド』で共演以来バカリズムが師匠と崇めるいとうせいこうが巻末文を寄せている。

架空OL日記 1 (小学館文庫)

架空OL日記 1 (小学館文庫)

 

nikkan-spa.jp - ブログ連載期間は実に3年

 

空気感も、登場人物も、ドラマ版と一切変わらない

この映画を上手く説明しようとしたけれど、予告編で明かされたものが全てで、それ以上でもそれ以下でもないので、全く説明できない。ずぼら女子はどこにでもいる。朝は誰しも憂鬱。女子更衣室では思いも寄らない話が飛び交っている。そういう作品である。

 

2017年にドラマ版が作られてから既に3年経つけれど、映画版になったからと言ってそういう空気感は一切変わらない。臼田あさ美は結婚して母になり、バカリズムだって結婚したのに*2、本当に何も変わらない。「私」は相変わらず朝に弱くてぐだらぐだらが大好きで(彼女の通勤路が憂鬱になるくらい見通しの良い一本道なのはいい演出だと思う)、同期の真紀ちゃんは笑い上戸だけどジム通いが性に合ってしまう人間で、後輩の紗英ちゃんは泣き虫(?)の天然だけど何か憎めなくて(だけど「私」と真紀ちゃんは普通にいらつく)、小峰さまは相変わらず策士の姉御様だし*3、ベテランの酒木さんは貼り紙を貼るのが大好きでちょっと風紀委員っぽい。かおりんはこの5人のグループとは少し離れたところにいるけれど、独特な感性を持っていて飄々としているのは変わりない。なーんにも変わっていないのである。

 

新しい登場人物も数人いるが、だからと言ってこの空気感が変わることもない。設定としては2年後になっているようだけど、元々時代設定のよく分からない作品なので、ドラマ版のすぐ後と言われてもおかしくない気がする。臼田あさ美が「私、みんなに会うまではちょっと照れくさかったんだよね。学生時代の夏休み明けな感じで」とまで言うのがよく分かる。

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見どころはない、当然ながらネタバレもない

この話に関しては、小峰様こと臼田あさ美がインタビューで語っていた言葉が丁度良いと思う。脚本を書いたバカリズム自身も、「ハラハラドキドキはないですが、見心地のいい映画になっています」と述べていたほどだった。この映画は本当に緩急が無い。ひたすら「ゆるい」の一辺倒である。

―以前ドラマ版のインタビューで「見どころがないところが見どころ」とおっしゃっていました。映画版の見どころはどこですか?

臼田:映画版も本当見どころがないんですよ…。普段映画に馴染みがない人からすると“映画館に行く”って結構ハードルが高いじゃないですか。そういう方には「かしこまって行かなくていいから、空いている時間に見てください」と伝えたいですね。

——PARIS mag「臼田あさ美さんの日々の暮らしと小さなしあわせ」2020年2月27日掲載

 

事実は小説よりも奇なりとは言うけれど、普通の人の普通の生活に、大事件など起こるわけがない。その一方で、人生には特定のコミュニティにしか分からないプチ事件が溢れている。そういう気付きを、人間観察が趣味なバカリズムらしく小さなドラマとして書き下ろしたのがこの作品なのである。

バカリズム:『架空OL日記』は、事件は起こらないほうが面白いし、どうやって今まで通りにするかを意識しました。

——Wotopi[ウートピ]「なんで私たちのことが分かるの? バカリズムに聞く『架空OL日記』のリアルさの秘密」2020年2月28日掲載

 

登場人物はOLだけれど、主題は人間の生活

バカリズムは脚本を書く上で、「女性っぽさ」をなるべく排除しようと考えた。フィクションにおける女言葉の不自然さについては最近やっと指摘され始めたような気がするが、今どき女子はああいう喋り方をしないのが常である。人付き合いはめんどくさいし、仲の良い友だちでも不満はあるし、当然ずぼらでいたい。敢えて女子の視点に立って書いたけれど、こういうことは、男性でも当然当てはまることだと思う。かっこ付きの"女性らしさ"を取り払うことで、OLを主題としつつも、普遍的な人間コメディというところに作品を落とし込んだのだ。

バカリズム:「一つ言っておきたいのは、僕はすごく女性を観察して描いたというわけではないんですよ。僕がOLさんだったらこう思うだろうってことを描いていて。ここで描かれることって性別は関係ないことばかりなんです。[後略]」

——ザ・テレビジョン「バカリズム×夏帆×臼田あさ美「インタビューとかで会うと変な感じ」なOLメンバーSP鼎談!<架空OL日記>」2頁。2020年2月28日掲載

 

ただ一人女装して銀行OLに扮しているバカリズムだが、普段がああいう髪型だということもあって、「何かスカートを履いて出て来た」くらいなのが面白い。実際、制服を着て薄化粧をしたくらいだが、何故かOLとして違和感無く受け入れてしまう。バカリズム普通の男が3年間OLに扮してブログをつけていたことの狂気を表現したかったはずなのに。キャストも普通に同僚女子として受け入れていたようなのが面白い。臼田あさ美の言う髭のエピソードがたまらなく好きである。

バカリズムさんが撮影後、私服に着替えるとすごく違和感があったとか?

臼田:そうなんですよ! たまーにヒゲが伸びてくることがあるんですけど、そんな時ヒゲを剃ってたりすると「あっそうだそうだ、男だった!」と、変な感じになりました(笑)。でも、そういうのも自然と慣れてきて「なんかちょっとすね毛生えてるよ」とか、女友達と指摘し合う感じで言ってたし…。男性であることを突っ込んでいたのは最初の方だけでしたね。

——PARIS mag「臼田あさ美さんの日々の暮らしと小さなしあわせ」2020年2月27日掲載

 

主題歌も、よりゆるくパワーアップ

「私」と真紀ちゃんが語り合う通り、この作品では月曜日の憂鬱さが何度も取り上げられる。主題歌としてエンドタイトルで流れるのは吉澤嘉代子の『月曜日戦争』だが、この曲は映画化に合わせて再録された。ドラマ版の主題歌はきらきらきらめくようなサウンドで、月曜日の憂鬱さを吹き飛ばすようなマジカルサウンドである。歌詞もよく聞くとドラマとよくリンクしている水金地火木土天海冥🌏

月曜日戦争

月曜日戦争

  • provided courtesy of iTunes
月曜日戦争

月曜日戦争

  • 発売日: 2018/11/07
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

今回エンドタイトルで公開された『月曜日戦争』は、これとは正反対の、アコースティックでどこか物憂げなバージョンだった。「私」と真紀ちゃんが言う、日曜日の午後の憂鬱さを的確に表現した素敵なアレンジだと思う。映画版も早く配信されないかな。ふたつ並べて聴いてみたい。

www.cinra.net

 

おしまい

というわけで、何だか鬱屈とした世の中だけれど(それも何もCOVID-19のせい)、日常の小事件を切り取った今作を是非観ていただきたい。今日は4年に1度の閏日(うるうび)。あったりなかったりする日にこの映画を紹介するのは、何だかとても正しい気がする。——今週のお題「うるう年」

www.kaku-ol.jp

ところでドラマ版のBlu-rayボックスは映画公開に合わせ先日発売されました。みんな前髪ぱっつんなの面白いね。

架空OL日記 Blu-ray BOX(特典なし)

架空OL日記 Blu-ray BOX(特典なし)

  • 発売日: 2020/02/19
  • メディア: Blu-ray
 

 

関連:架空OL日記 / バカリズム / 夏帆 / 佐藤玲 / 臼田あさ美 / 山田真歩 / 小松和重 / 三浦透子 / シム・ウンギョン / 石橋菜津美 / 志田未来 / 坂井真紀

*1:そもそも「ドラマと全く変わらない」というのが最大のネタバレな気がするが、どうせ細かいところはこれでは伝わらないのでセーフセーフ

*2:そう言えば昨日のあさイチで、結婚したのに相変わらず夜中の3時4時に高速道路を写した野外カメラ映像をぼんやり眺めていると明かしていたっけ☞

www.sponichi.co.jp

*3:予告編にも映ってたけど、勝利の舞をしている臼田あさ美が役者というか普通の姉御様で名シーンだと思う。彼女、殺陣は苦手だ(った)けどね……!(笑)

www.youtube.com - 久々にLIFE!でカッツ・アイの3人娘観たいですねえ……

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