ちいさなねずみが映画を語る

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テリーJが亡くなりました - #モンティ・パイソン

年末に亡くなったニール・イネスに引き続き、テリーJがグレアム・チャップマンの元へ旅立ちました。2016年にFTLD*1を公表して以来(後述)、スケッチメイトのペイリンとの食事会も覚束ないほどだったという報道はあり、薄々覚悟はしていましたが大変悲しいです。温和な見た目とは裏腹に、テリーGとの共同監督では大喧嘩をして次作では単独監督になったり(これも後述)、ジョン・クリーズと反りが合わず電話*2まで投げつけたとかいう破天荒エピソードもあった彼でした。悲しいですね。ペイリンと名作スケッチをいくつも書いてくれてありがとう。ペイリンの気持ちを考えてしまいます(これも後述)。

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思えばテリーJがFTLDを公表したのは、久々の監督作品『ミラクル・ニール!』が日本で封切られた直後でした。この作品はあのロビン・ウィリアムズの遺作となった作品でもあります。わたしはロビン・ウィリアムズも大好きなので、それだけでも大分悲しかったのですが、「ああこれでこの作品はテリーJの遺作になってしまうのだな」と思って大変悲しい思いをしました。勿論認知症は本人の死ではないので、「遺作」という言い方は全く正しくありませんが、でもパイソンズであれだけ言葉巧みなスケッチを書いたテリーJにとって*3、どんどん言葉が失われていくFTLDを発症したことは、死にも値する悲しみだと思います。この作品で主演を務め、パイソンズの大ファンでもあったサイモン・ペグは、早速テリーJがスパムを持った写真を上げて追悼しています。

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長年の盟友、マイケル・ペイリン

2016年にテリーJがFTLDを公表した時、最もそばで温かく接したのは、パイソンズ唯一の良心にして長年のスケッチメイトだったマイケル・ペイリンでした。直後に出された談話で、彼は認知症の進行を見ているのが何よりも辛いと明かしていました。折に触れテリーJ一家と会食をしていたようなのですが、彼の気持ちはいかばかりかと思います。

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ペイリンとテリーJの関係は実に大学時代に遡ります。ふたりはオックスフォード大学時代からの学友で、当時からスケッチメイトとして活動していました。卒業後はエリック・アイドルらと共に "Do Not Adjust Your Set"というコメディ番組を作り、ここで知り合ったクソ(事実)アニメ作家テリーGも含め、パイソンズ結成へと至る道筋を作ることになります。そうなんです、今週末に『テリー・ギリアムドン・キホーテ』が公開されますが*4、あのおじさんのキャリアは、この番組で作ったクソアニメから始まってるんですよ。

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その後、ジョン・クリーズグレアム・チャップマンも合流し、1969年に結成/放送されたのがあの『空飛ぶモンティ・パイソン』"Monty Python's Flying Circus"です。テリーJは相変わらずペイリンをスケッチメイトとしてせこせことスケッチを作っていました。ここにも貼りましたが、『アンド・ナウ』は第1・第2シリーズの人気スケッチがざっとまとまっているのでパイソンズをざっと知りたい人には大変お勧めです。

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あのスケッチも彼らの作品

テリーJとペイリンと言えば、言葉遊びが大好きなふたりでしたし、このスケッチに触れずにはいられません。……第2シリーズ第12話に登場したあれです、『スパム』です

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このスケッチでは、ある夫婦が食堂を訪れると、全てのメニューにスパムが入っているという嫌がらせ(?)を受けます。スパムというのはホーメルの缶入りランチョンミートです。沖縄でめちゃめちゃ売ってるやつです。妻(チャップマン)の方はスパムが大嫌いで、スパム抜きのメニューを頼もうとしますが、食堂のキンキン声の女将(テリーJ)はあからさまに不快感を示して、結局そんなもの出してくれません。「スパム無しがいいのよ!!!!!」と奥さんが金切り声を上げると、突然バイキングが乱入してきて「スパム」と連呼し出す謎の歌を歌い出します。その後に続くこの回のエンドロールもスパムだらけです(笑)。

 

このスケッチにはいくつか側面があります。まず正直に言うと、この「スパム」というのは下ネタです(笑)。英語で「精子」を表す"sperm"と音が似ていて、キンキン声の"お姉さん"*5が叫ぶと容易にそう聞こえます。そしてスパムは肉不足に陥った戦後イギリスの配給品で、戦後生まれのパイソンズ年代では、「本物の肉を食わせろ」という気分で飽き飽きするものでした。そのせいなのか何なのか、このスケッチはいわゆる「スパムメール」(=迷惑メール)の語源とされています。商品イメージが下がるとかでホーメルはこのスケッチを当初嫌がっていたとかいう話すらあります。まあ、近年は開き直ってミュージカル『スパマロット』*6のスポンサーとかやってるわけですがね! ほんとこのスケッチのせいで、わたしはコストコでスパムが大量に並んでるのを見る度に笑ってしまいます。そしてテリーJとペイリンのコンビは、『人生狂騒曲』*7でこの「スパムがいっぱい」ネタを天丼しています。

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見え隠れしていた病気の影

ちなみにこのスケッチでジョーンズが演じているキンキン声の女装キャラクターは、「ペッパーポット」という名前で、パイソンズ各人の母親たちをモデルにした「典型的イギリス中年女」というキャラクターでした。パイソンズは各々女装が大変上手く(もっともジョン・クリーズだけは隠しきれない男の部分がだだ漏れでしたが)、女性キャラすら自分たちで演じてしまうくらいだったのですが、その中でもピカイチと言われたのがこのテリーJです。

しかしながら、2014年の復活ライブで『スパム』のスケッチを演じた時、テリーJの声に最早往時の切れはありませんでした。誰もがおかしいとは思っていましたが、パイソンズも年なので、「衰えなすったな」としか考えていなかったのです。その理由が明かされたのはテリーJがFTLDを公表した直後でした。アイドルのツイートから、復活ライブの時には既に発症していたのだと明かされたのです。

 

振り返ってみれば、『ミラクル・ニール!』の日本公開が決まった時、自身の監督作なのにもかかわらず、日本向けのコメントを出したのはペイリンでした。映画がいつ撮影されたのかスケジュールの話をわたしはよく知らないのですが、それでも製作の段階では既に発症していたのだと推測できます。『ミラクル・ニール!』自体は結構酷評されたのですが(Rotten Tomatoes)、その成績の影に彼の病気があったのかと思うと悲しい話です。思えばロビン・ウィリアムズの死もDLB; レビー小体型認知症を苦にしたゆえの自殺と言われてますし、復活ライブのBlu-ray化された公演で登場するはずだったのはロビン・ウィリアムズですし(代わりにマイク・マイヤーズが出演しました)、このふたりが認知症で苦しんでいたというのは悲しい一致だなと思います。認知症で分からなくなっていく分、幸せなこともあったのかもしれませんが。そしてここで彼の代役を務めるペイリンの献身ですよね……

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よくも悪くも我の強いふたりのテリー

話をテリーJの監督業に戻しますが、彼はパイソンズの映画化作品全4作のうち、3作の監督を担当しています。中でも第2作『ホーリー・グレイル』は、オックスフォードで歴史専攻だった彼が、時代考証まで担当し、「超低予算なのに世界一アーサー王時代の時代考証が正しい映画」とまで言われています。作品はスコットランドの小さな城を2つ借りて作られた超低予算映画なのですが、カルト的人気を誇るのも然もありなんです。この作品では(今や巨匠扱いの)テリー・G(テリー・ギリアム)と共同監督を務めました。しかしながら撮影中ふたりのテリーの小競り合いは絶えることがなく、第3作『ライフ・オブ・ブライアン』では、あの我の強いテリーGを美術監督に押し込めることに成功する有様でした。つくづく出来たものが素晴らしいから褒められるだけのエピソードです(笑)。

 

結成50年を越えられてよかった

グレアム・チャップマンが1989年に48歳で亡くなったのは、奇しくも『空飛ぶモンティ・パイソン』20周年記念日の前日でした。結成50年を迎えた昨年末にはエリック・アイドルのブレーンとしてパイソンズの歌曲を支えていたボンゾ・ドゥー・ダー・バンドのニール・イネスが亡くなり、そしてテリーJもこの世を去りました。テリーGが30年越しの企画(=『テリー・ギリアムドン・キホーテ』)を結実させたところで言うのも何ですが、これからパイソンズたちはひとりまたひとりと欠けていくのでしょう。2014年に行われた復活ライブの原題は "One down, five to go!"(ひとりが死んだが5人で行くぞ)です。テリーJの死で"Two down, four to go!"になりました。ヒトはいずれ死ぬものだとは強く意識していますが、それでもあの才能がこの世を去ったと思うと悲しみが広がります。どこかで悪友グレアムとクソスケッチを作っていますように。クリーズとペイリンを引っ張っていくなよ……!

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0206追記) 葬儀が営まれたようです

モンティ・パイソンの公式Twitterが更新され、現地時間の昨日(2月5日)に葬儀が営まれたことが報告されました。『ライフ・オブ・ブライアン』の一節を引いた素敵な花束の写真も添えられています(飽くまで素敵なのは花束です)。

 

関連:モンティ・パイソン / テリー・ジョーンズ / マイケル・ペイリン

*1:前頭側頭型認知症; 英語はfronto-temporal lobe dementiaだったかと思います

*2:電話だったかタイプライターだったか、いずれにしろ酷い

*3:テリーJとペイリンのスケッチの特徴は言葉遊びが多いことです

*4:製作地獄に陥るまでを観たければこちらです

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*5:実はこのキャラクターは「ペッパーポット」と言います、後述

*6:映画第2作『ホーリー・グレイル』をエリック・アイドルが勝手にミュージカルにしちゃったやつ。近年福田組が日本でも上演していました

*7:

 

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