ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

偏向視聴歴で『アベンジャーズ/エンドゲーム』を語らせろ - おまけ編(?)

遂に5月6日月曜日、10連休最終日にしてルッソ兄弟の言う『アベンジャーズ/エンドゲーム』ネタバレ解禁日である。今まで3記事でアントマンとGotGについて深掘りしてきたが、最後の4記事目では、「小ネタにして王道キャラ編」ということで、今まで敢えて触れてこなかったメインキャラの話をしたいと思う。(と言ってドクター・ストレンジ語りを用意する顔)

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ドクター・ストレンジ (字幕版)
 

 

!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT!  !!!

※この記事には『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『ドクター・ストレンジ』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のネタバレを含みます※

 

略称整理 

MCU○=MCUの○作品目、『ドクター・ストレンジ』は'16年公開のMCU14

今日からはネタバレオッケーだからちょっとこの辺すっきりさせますね。……と言った矢先にこの人はまあ……

「マーベル・ユニバースの22作品中18作品観てないから、インターネットが6年くらいネタバレ回避してくれると本当にうれしいなあ。どうもね」(逆に4作何を観たんだよ!笑)

 

 

ドクター・ストレンジのお話

※『ドクター・ストレンジ』/EGのネタバレ注意※

主要キャラやると宣ってのっけからこれかよと思われた皆さんごめんなさい。筆者の本拠地は元々英国俳優、それも『SHERLOCK』組なので、この話を置いてはいけないのである*1

 

サノスが前作IWまでかけて追い求めた6つのインフィニティ・ストーン。そのうち緑色のタイム・ストーンを所有しているのは、カトマンズにある「カマー・タージ」の主にして、「至高の魔術師」エンシェント・ワン(演:ティルダ・スウィントン)であった。カマー・タージはカトマンズにありながら、魔術師たちの魔術によってニューヨークやロンドンに繋がる扉を持っているのだ。

カンバーバッチ演じるスティーヴン・ストレンジは、アメリカ出身の(ここ大事)脳外科医。手術の腕は確かながら、高慢ちきで他の人間は大抵見下している。ところがある日運転中の自損事故により手の神経を損傷し、脳外科医に必要不可欠である指先の精緻さを失ってしまう。暫く自暴自棄の生活を送ったストレンジだが、カマー・タージの魔術と出会って、魔術師としての第2の人生を歩み始めることになるのである。

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勿論この作品でもカンバーバッチは『SHERLOCK』ばりの早口台詞を披露しているし(『SHERLOCK』では「自分の頭の処理速度を超えて話さなくちゃいけないからしんどい」と嘆いていたのに本当に可哀想)、シャーロックばりの高慢ちきだし、向かうヒマラヤは実際にギャップ・イヤーで英語を教えに行ったところだし(実話!)、悪役カエシリウスを演じるのが『SHERLOCK』S3の悪役ラース・ミケルセンの弟マッツ・ミケルセンだという密かな縁も*2。また、カマー・タージの魔術師モルド役には『それでも夜は明ける』で共演済かつ仲良しのチュイテル・イジョフォーが配置されているし、ウォン役として登場するベネディクト・ウォンも、『オデッセイ』でイジョフォーと共演していた。カンバーバッチ、スウィントン、イジョフォー、ウォンがいずれもイギリス出身というのもちょっと面白いキャスティングである。

 

エンシェント・ワンを再登場させてくれてありがとう

コミック版のエンシェント・ワンは実際の所、ヒマラヤで生まれた仙人のような男性である。だからこそティルダ・スウィントンがこの役を演じると分かった時、「ホワイトウォッシング」という批判が吹き荒れた(詳しいことはギズモードBuzzFeedにて)。それでもわたしはティルダ様の演じるエンシェント・ワンが大好きである。確かにこの役がアジア人に渡らなかったのは少し悔しいことだが、それは彼女の演技そのものとは関係無い。正直、『ドクター・ストレンジ』でのエンシェント・ワンの運命にはかなり勿体ないものを感じていた。

 

そんな筆者がEGで歓喜したのは、「タイム泥棒作戦」においてこのエンシェント・ワンがMCUに再登場したことである。それもただ再登場しただけでなく、バナーのアストラル体を分離してしまったり(訳分からんと思った人は是非本編を観てほしい)、『アベンジャーズ』第1作('12、MCU6)と同じ頃、カマー・タージの人々も地球を守るべく戦っていたことが分かったりと、『ドクター・ストレンジ』で見せたエンシェント・ワンの強さが満載のシーンだったのだ。アガモットの目を開くシーンのティルダ様の手つきは本当に美しい。対極にいるのがネタバレ帝王マーク・ラファロなのもあってちょっとファニーさが残っているが。

 

隠しきれないカンバーバッチの育ち

EGはMCU22作品の総まとめにして、オリジナルのアベンジャーズメンバー数人の卒業作でもある。例えばキャプテン・アメリカを演じていたクリス・エヴァンスは、IWで切れていた契約を延長してEGに臨み、今作で晴れてキャップ役を卒業する。そう言えばその種は昨日放送の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で蒔かれていたとの考察があってわくわくしてしまった。

 

そして、キャップと共にMCUを引っ張ってきたアイアンマンにも、ユニバースを去る時が訪れた。ペッパー・ポッツの「もう休んでいいのよ」"You can rest now."という言葉通り、トニーは静かにこの世を去って、RDJはMCUから勇退するのである。そんなトニーのために開かれた葬儀は、ヒーローたちが勢揃いという見事な絵面ながら、ささやかでひっそりとしたものだった。そしてこのシーンが、前作IWの公開時にうっかりセバスチャン・スタンが漏らしてしまった、「全員大集合」の瞬間である。セバスタは「EGに自分が出てるかよく分からない」と述べているし(加藤浩次によればアフレコ用すら未完成映像だったという)、このシーンの撮影はIW公開前には済んでいたようなので、やはりIWとEGは一続きの映画なのだなあと思わされる。

theriver.jp - セバスタはミシェル・ファイファーの出演について触れているが、ジャネットは最終決戦に登場していないのでこのシーンで決まり

 

当然トニーの葬儀は、MCUのフロントランナーだったRDJの退場シーンだし、ファンには耐えがたい苦しみを伴うものだろうと思う。でも筆者にとっては、カンバーバッチ演じるドクター・ストレンジのスーツ姿がどうしても気になってしまう。先述の通りストレンジはアメリカ人という設定なのに、スーツ姿の彼の立ち姿はどう見てもイギリス人なのである。これには元々カンバーバッチの首が長いとか顔立ちがそうとか色々な理由があるのかもしれないが、やはりスーツを着て神妙な状況に据えてしまうとイギリス人というアイデンティティは隠せないのかなあ。決して彼の演技が悪いわけではないし、むしろ育ちが出てしまっただけなのだと思うが……

www.youtube.com - これ今見返すとCA/CWのシーンを使っているのか……

箸休めに小ネタの話

分かる分かる。わたしも今どれくらい経ってるんだろうと思って時計見たらこれでびっくりした。

 

ぬまがさワタリさんの「置き換えアベンジャーズ」はIWのおでんジャーズ版もなかなか面白い。僕は一寸大好きです!

 

このツイートで言ったキャップの台詞は、CA/WSを見返すと、CA/WSとEGでセットの感じまで似せていることが分かる。場所はちょっと違うのに細かいところまでこだわっていて結構面白い。

 

これは勿論BTTF; 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの話。アントマンにこの台詞を言わせるのが結構面白かった。脚本家陣はBTTFのように過去を改変するネタを避け、バナーの言うように「過去に戻ってもそれが自分の未来になる」説を採用した。上記の通り、アベンジャーズのテーマを作曲したアラン・シルヴェストリはBTTFの音楽も手掛けた作曲家である。ここのシーンの台詞は、EGの題材がタイムトラベルだっただけでなく、シルヴェストリに対する目配せなのだと勝手に思っている(じゃなかったらライバル・ユニバーサル配給の映画にわざわざ言及する意味が無い)。

The Avengers

The Avengers

  • provided courtesy of iTunes

 

最後にもうひとつ。トニーの娘モーガンが言う「3,000回愛してる」"I love you 3,000."という台詞は、元々RDJの娘が彼に伝えたものなのだという(なかなかエモいTHE RIVERさんの特集記事より)。ホームジアンの筆者としては、2009年のガイ・リッチー版『シャーロック・ホームズ』公開時も薬物問題での批判がまだまだ残っていたRDJが、自身の家庭とMCUによってキャリアを完璧に立て直し、世界で最も出演料の高い俳優のひとりになったことは感慨深いものがある。

news.yahoo.co.jp - MCU第1作である『アイアンマン』公開はガイリチ版ホームズ公開前年の2008年

 

ブラック・ウィドウは「冷蔵庫の女」なのか?

恐らくEGで1、2を争う論争の種となったであろう問題が、このブラック・ウィドウの運命に纏わるものである。スカーレット・ヨハンソン演じるブラック・ウィドウは、元々オリジナルの『アベンジャーズ』('12)における紅一点であった。その彼女がソウル・ストーンのために落命したという筋書きは、結構な衝撃をもって受け止められたようである。そしてこの筋書きがいわゆる「冷蔵庫の女」"Women in Refrigerators" なのではないかという指摘も駆け巡った。「冷蔵庫の女」の概念に関してはさえぼーさんのブログに詳しい。

saebou.hatenablog.com

MCUはここ数作で主役級の女性キャラクターを格段に増やしてきた。初めてタイトルロールになったのは『アントマン&ワスプ』('18/MCU20)のホープヴァン・ダイン(演:エヴァンジェリン・リリー)、そして次作『キャプテン・マーベル』('19/MCU21)のキャロル・ダンヴァース(演:ブリー・ラーソン)。GotGも5人で主演みたいなものなので、ガモーラ演じるゾーイ・サルダナをここに加えるのもいいだろう。その総まとめが最終決戦でインフィニティ・ガントレットを運ぶシーンの「女性版アベンジャーズ」だったが、先駆者としてシリーズを引っ張ってきていたはずのブラック・ウィドウは姿を現さない。

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(ちなみにこのシーンについては面白い考察があったのでシェア。EGを観ていて1番チープだなと思ったのがこのシーンの演出だったが、どう見てもとってつけた感が否めなかったからだろうと思う。また字幕版だとスパイディの台詞の訳出方向が何だか微妙で、ちょっと「君に出来るの?」感が入っていた気もするが、それも原因のひとつか……?)

 

EGのヴォーミアで落命したブラック・ウィドウには、長年の盟友であるホークアイと死闘を繰り広げ、誇り高く死ぬという筋書きが与えられた。下記のTHE RIVERの記事によれば、実際にはホークアイ死亡という脚本も執筆されていたという。結局選ばれたのはブラック・ウィドウの死だったわけだが、EGの筋書きを考えれば、筆者はこちらの方が良い選択だったのではないかと思う。

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EGで、ブラック・ウィドウとホークアイの戦闘能力はほぼ互角であるという描かれ方をしている。それゆえふたりは死闘を繰り広げることになり、最終的にはブラック・ウィドウが優位を取って自死を選ぶのだ。ここでのふたりは、男女の性差を超越し*3、互角な人間同士として戦闘しているように思う。確かにブラック・ウィドウは女性で、ホークアイは男性だが、この戦いの末に彼女が落命したからといって、それを「都合の良い死」と言ってしまっては……という気がする。確かにトニーと違って葬儀は描かれなかったが、葬儀のシーンが2回あるのはおかしな話だし、MCUの歴史から考えたらトニーの死が前面に出るべきだろうし、もしかしたら将来的な復活のために敢えて描かなかったのかもしれない。

仮にヴォーミアでホークアイが落命していた場合、量子世界を通って帰還した後にひざまずくのはブラック・ウィドウということになる。そして彼女は、妻子持ちのホークアイをみすみす死なせたことについて深い悔恨の念を抱くことになるだろう。彼女が静かに唇を噛むシーンになるのか、それとも悔し涙を流すシーンになるのかは分からないが、それこそ女性キャラの都合良い使い方なのではないかと思う。

 

振り返ってIWでのガモーラの死を考えたい。惑星ヴォーミアでのブラック・ウィドウの死を論じる際に、筆者はこの筋書きを考えずにいられない。筆者にしてみればこちらの方がよほど「冷蔵庫の女」である。勿論そういう批判は去年の段階で噴出しているが。

www.cbr.com

サノスの養女にしてひとりだけソウル・ストーンの在処を知っていたガモーラは、彼がストーンに辿り着けないよう、何度か自死を試みている。ある時は気心の知れたスター・ロードに頼んで。またある時は、ヴォーミアでサノスを目の前にしながら。しかしながらその試みは全てサノスに邪魔され、彼女はストーンを得るためだけにサノスに放り投げられて死亡する。彼女の願いを聞き入れたスター・ロードのブラスターからはあぶくしか出ないし、ヴォーミアで自殺しようとしたガモーラの手からはナイフが消え去るし、彼女に誇り高い死は全く与えられていない。だからこそクィルは最終局面でサノスを殴りつけるのである*4

 

先述の通り、ブラック・ウィドウにはフェイズ4以降での単独映画制作が決定している。最終決戦で女性版アベンジャーズとして集結した中にも、次回作が決定しているキャラクターが数多く存在した。10年の歴史で、密かに、しかしながら大きく変容してきたMCUは、これから「強い男/女」ではなく、「強い人物」を描くシリーズに変化するのだと思う。その中で、女性陣やアジア人、またラティーノなどの描き方についてももっともっとステップアップしてほしいなと思うばかりである。

www.instagram.com - RDJが公開した楽しげなランチシーン

これにておしまい

ついでに今回紹介した作品をどうぞ。

アベンジャーズ / エンドゲーム (オリジナル・サウンドトラック)

アベンジャーズ / エンドゲーム (オリジナル・サウンドトラック)

 

 

関連:アベンジャーズ/エンドゲーム / ルッソ兄弟 / ドクター・ストレンジ / ブラック・ウィドウ / ナターシャ・ロマノフ / ホークアイ / クリント・バートン / ベネディクト・カンバーバッチ / スカーレット・ヨハンソン / ジェレミー・レナー / キャプテン・アメリカ / スティーヴ・ロジャーズ / クリス・エヴァンス / アイアンマン / トニー・スターク / ロバート・ダウニー・Jr. / ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー / ガモーラ / ゾーイ・サルダナ / スター・ロード / ピーター・クィル / クリス・プラット / アラン・シルヴェストリ / バック・トゥ・ザ・フューチャー

*1:語る場所が無いのでついでに語っとくと、筆者が大好きなのは『SHERLOCK』でジョン・ワトスン役を演じたマーティン・フリーマンであって、更にドイツ俳優ではダニエル・ブリュールが大好きなので(ふたりとも色んな意味で多彩すぎる)、CA/CW終盤のエヴェレット・ロスとヘルムート・ジモが向き合うシーンは誰得状態である

*2:シャーロックシャーロック言って可哀想な感じはあるが代表作なので仕方がない。と思ったら『パトリック・メルローズ』と『グリンチ』で新境地を開いてくれたようでちょっと嬉しい。

パトリック・メルローズ1: ネヴァー・マインド

パトリック・メルローズ1: ネヴァー・マインド

 
グリンチ (字幕版)

グリンチ (字幕版)

 

 

*3:色々角の立たない表現を探したのだが、「ジェンダーレス」だと何か違う気がするし、「アセクシャル」はそもそも意味が違うので、ううむ

*4:前の記事でクィルが戦犯扱いされたことを取り上げたが、筆者にしてみればあれだからスター・ロードは愛すべきヤツである

mice-cinemanami.hatenablog.com

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