ちいさなねずみが映画を語る

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年の瀬にお寒いのはいかが - 映画『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』

年の瀬にお寒いのはいかが? そういうわけで本日ご紹介したいのは、今年7月に日本で封切られたブリッツ・ホラー、『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談"Ghost Stories"('17)だ。大好きなマーティン・フリーマンの主演作であることは言わずもがな、共同監督がブラック・コメディの名作『リーグ・オブ・ジェントルマン』(TLoG)を手掛けたジェレミー・ダイソンだったことも相まって、日本公開を渇望していた作品でもある。何と本日、日本語吹替版を含めたディスクが発売ということで、それに合わせて鑑賞当時の個人的レビューを公開したいと思う。(だから時間が無いので過去作を引っ張り出したとかではありませんから! 当時の新鮮な感情を振り返りたいだけです!)

 

因みに今回のレビューはネタバレ無しなので、安心して「続きを読む>>>」をクリックしてほしい。

 

www.transformer.co.jp

 

 

"Ghost Stories," not just a British horror

Dyson and Nyman’s elaborate script made me "locked-in" this darkness

本国でこの映画が公開されたのは今年の4月。それから4ヶ月、日本公開から更に1ヶ月待って*1、ついにこの映画を観てきた。上映が終わってシアターを出る前、薄暗い廊下でこう独り言ちた。
 "Just, 'Wow'…"
なんというか、もうそれしか言えなかった。『モーリス』の「なんて結末だ、なんて結末だ……」という台詞*2が急に蘇ってきた。そのくらい、凄かった。

 

脚本は、実によく練られている

ジェレミー・ダイソンアンディ・ナイマンの脚本は、実によく練られている。元が同名の演劇というのもあるのだが、随所に張られていた伏線は驚くべきラストに繋がる。この作品はただのホラーじゃない。勿論このふたりだから*3、ホラーシーンはまともには観られないくらい怖い。それでも、観終わった後に残るのは、恐怖ではなく悲しみだ。そして、主人公の後悔は、わたしの後悔でもある。


この作品はサウンドも凄い。ひたひたと走る音だったり、ちょっとした物音に至るまで、本当に自分のそばで立った音のように聞こえる録音だった*4。それだけならありがちなホラー映画かもしれないが、この映画はそうではない。美しい旋律のオリジナル・サウンドトラックが余計に悲しみをそそってくる。何より、終盤で流れるストリングスの効いたテーマが最高だった。日本でもサントラが発売されたらしいが、本当に正解だと思う( http://www.rambling.ne.jp/catalog/catalog-6041/ )。実は、これを書いている今も、そのテーマが頭に流れ続けて、映画の世界から抜け出させてくれないでいる*5

 

ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談

ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談

 

 

open.spotify.com - 筆者を物語の世界に「閉じ込め」て("Rocked-in")いたのはこの曲

この作品は、マーティン・フリーマンの真骨頂

マーティン・フリーマンは、本当に美味しいところを全て取っていった。彼は元々普通の人の中に巣食う狂気を演じるのが非常に上手いのだが、この作品ではその魅力を存分に発揮している*6*7。出るなり胡散臭そうな雰囲気を醸し出すのも、予告編に登場した沈黙を求めるシーンで鳥肌を立たせるのも、彼だからこそだと思う。彼にぴったりの役であるばかりか、いかにも彼の好きな役、というのも面白い。誰しもが持つ仄暗い影を上手く演じる役者で、だからこそ好きになったのだと思う。


ところで『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』に出た時こそ、「いぇーい僕ブルックス・ブラザーズ・マン🙌」と自虐していたマーティンだが、今作で見せるスーツ姿には単純に見惚れてしまう。ファッションは彼の趣味でもあるので、その辺りも注目して観ていただきたい(どの衣装をとっても、イギリス風味を感じさせるセンスである)。

 

www.youtube.com - こないだも紹介したけれど本当に仕草がいちいち可愛らしい

ネタバレ無しで鑑賞すべき映画

作品は、超常現象を否定する番組の主催者、グッドマン教授の元に封筒が届けられたところから始まる。差出人は彼がかつて憧れていた心霊現象ハンターのチャールズ・キャメロンで*8、自分が解けなかった謎を3つ追ってほしいと頼まれるのだ。頼みに応じて事件の謎を解き始めるグッドマンは、不可解な現象を前に、自らを見つめ直すようになる。グッドマンが主催するドキュメンタリーの撮り方、また8mmフィルム風のタイトルカードの出し方がいちいち本物らしくて憎い。この作品は物の見せ方だってピカイチだ。


監督ふたりの言う通り、ネタバレ無しで観てもらいたいので*9、中身について多くは触れないことにする。是非劇場のように、いい音響付きで真っ暗にした部屋の中でこの作品を堪能してほしい。

 

——そう、「脳は見たいように物を見る」のだ。

 

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関連:ジェレミー・ダイソン / アンディ・ナイマン / マーティン・フリーマン / ホラー映画

*1:鑑賞日は今年の8月。杜の都での公開は丁度お盆時だった☞ 作品紹介 <ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談> | フォーラム仙台 / チネ・ラヴィータ

*2:予告編にも収められているこのシーン☞『モーリス 4K』予告編 - YouTube

*3:ダイソンは元々BBCの人気シリーズ『リーグ・オブ・ジェントルマン 奇人同盟!』The League of Gentlemen!; TLoGのメイン・ライターのひとりである。イギリスの片田舎ロイストン・ヴェイジーを舞台にしたブラック・コメディだが、筋書きはなかなかに(エロ)グロ&タブー万歳で、流石のBBC Twoも太っ腹過ぎると思わせられる。因みにこの番組でスケッチメイトを務めていたのが、『SHERLOCK』『ドクター・フー』で知られるマーク・ゲイティス。"SHERLOCK"S4は「ダークすぎる」との文句がついて回ったが、これを観る限りモファティスの脚本がああなるのもしょうがない。

 

リーグ・オブ・ジェントルマン 奇人同盟! first series vol.1 [DVD]

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——こっちも面白いので観てください、ヤフオクで時々レンタル落ちが転がってます

*4:iPhoneのリマインダーの音が実に綺麗に録られていたので、思わず「携帯ちゃんとオフにしたっけ?!」と焦ったくらいでもあった

*5:かなり我慢していたのだが、筆者はつい先日遂にAmazonさんでサントラをぽちってしまった

*6:実はホラーがあまり得意でないわたしが、「マーティンが出るまで我慢……出るまで我慢……」と唱えつつ、暑いふりをして扇子を使っていたのは公然の秘密(実際冷房が弱かったけれど)。

*7:マーティン自身にも『サイコ』に縮み上がった過去があるというのも面白い話だ。時々顔を見せる末っ子らしい一面が可愛らしくもある☞

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*8:ところでキャメロンを演じる役者の正体だが、最初の持ち番組の段階で声に気付いてしまっていたので、ほーん彼か、やりおるな、と思っていた。オタクは怖いね……

*9:ひとつだけ言うとすれば、冒頭登場するバル・ミツワーが、ユダヤ教の成人式であることを理解しておくとよいかもしれない。ダイソンもナイマンもユダヤ人であり(そこそこ多いとはいえまあまあのマイノリティである)、マーティン起用のきっかけになったのは、マーティンとナイマンが共演した『アイヒマン・ショー』(2015年)であった。

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