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ネタバレ全開! 悪カワ隊のコンテクストを読み解くぞ - 映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』

マーゴ・ロビーが『スーサイド・スクワッド』より覚醒して戻ってきた『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』"Birds of Prey (and the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn)"('19)を観てきた。前作を観ていなくても、冒頭の5分くらいでハーリーがさくっと解説してくれちゃうので大丈夫*1。それよりも、本作の中にふんだんに取り入れられた過去作への言及の方が深掘りするに面白そうな気がしたので、今回はそちらを取り上げたい。ネタバレは一応付けとくけど、あんまり本編の筋書きについては切り込まない気がする。

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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!
新鮮な気持ちで本編を鑑賞したい方は読まないでください※

 

一番のネタバレ

  • 悪カワちゃんは笑うくらい街のみんなに恨まれてる
  • 悪カワちゃんは結構浅慮だけど自分の求める悪に忠実でサイコー

 

 

 

ネタバレする前にだけど、アメリカ版予告、日本版と違った演出で良かった。お粉吸い込んで覚醒するところはちょっとした伏線になってるのかな、と思ったけど、そこは深読みしすぎなのかもしれない*2

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タイトルはあの映画からの引用

本作の原題は "Birds of Prey (and the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn)"。直訳すると「獲物の鳥ちゃんたち (と唯一無二のハーリー・クインさまのサイコーな解放)」といったところである。"Birds of Prey" というタイトルは、ブラックマスクのバーで歌っていたダイナ・ランスが「小鳥ちゃん」"Little bird"と呼ばれていたり、ジョーカーと別れたハーリーが彼女に恨みを持つ街中の人物から追われたり、悪カワ隊になる面々がそれぞれブラックマスクに追われる原因を持っていたり、そういうことを引っくるめてのネーミングなのだろうと思う。関係無いけど筆者は最初祈りを意味する "pray" と見間違えててちょっと意味を取り違えていたよ。

 

かっこ内に長大な副題まで付いたこのタイトルだが、実はある映画の引用だ。そう、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』"Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)" である(THE RIVER)。マイケル・キートン演じる主人公のリーガンは、スーパーヒーロー・バードマンを演じて人気を博したものの、完全な一発屋に終わってしまっていまはしがない三文俳優である。再起をかけてある舞台に臨むが、助手として迎えた娘のサムは薬物依存から立ち直る途中だし、俳優たちの仲は険悪で散々な出来のまま……キートンティム・バートンバットマンを演じていてDCコミックスにも縁浅からぬ人物。またバットマン役以来主演作品に恵まれない不遇の時代を過ごしていたことも、リーガンという人物に重なる名キャスティングである。

 

また、『バードマン』は全編ワンカット風に撮影されているのも特徴のひとつ。『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』にも、彼女が冒頭ローマン・サイオニス / ブラックマスクの店でしこたま呑むシーンで長回しが使われているので、ご注目……!

 

別れちゃったけど、勿論『ジョーカー』にも言及するよ

色々あって、ジョーカーに上手いように使われちゃって、結局別れちゃったハーリー・クイン。予告編でも本編でも、「あたし、彼と別れちゃっても平気だも〜ん」と強がっている彼女だが、その言葉とは裏腹に、ぐだぐだに引き摺ってぐしゃぐしゃでめそめそな様子が映し出されるのも面白い。ジョーカーとの破局を公にした直後から追われ始めるハーリーだが、勿論元カレが主人公のこの映画にもちょいちょい言及している。

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まずは、鏡を前にハーリーが長い髪の毛を落としてミディアム丈のツインテールにするシーン。このシーンは鏡に映る彼女をカメラで撮った構図になっている。映画『ジョーカー』でも、アーサーがクラウンの化粧をするシーンで使われていた演出である。

www.youtube.com - 予告編のテーマは『愛の賛歌』……!*3

 

その後、ハーリーはカサンドラ・"キャス"を救うため警察の留置所に向かうが、スプリンクラーを故障させて留置所内をびしゃびしゃにしてしまう。雨(?)も物ともせずカサンドラの元に向かう彼女は、どこかホアキン版のジョーカーでの演出を思わせるところがある。

 

さりげなく挿入される『アメリ

……と言っておきながら、どんなに調べても誰も言及していないのでほんとにそうなのか怪しくなってきた。本作のサウンドトラックとして、さりげなくアメリ』のテーマが挿入されている。曲は平昌五輪シーズンに坂本花織も使用した "La valse d'Amélie"。2回ほど有名なグロッケンのメロディがモチーフになっていたので、どこか探していただきたい。そう言えばブービートラップで待ち合わせするシーンもアメリぽいと言えばアメリぽい(これは大分こじつけだけど)。

La valse d'Amélie

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La valse d'Amélie (Version originale)

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ローラースケートシーンに一役買ったロビーの主演作

終盤ハーリーの見せ場となるのは、ローラースケートを履いてぐいぐいと追跡していくあのシーン。ロビーはくるくると見事なローラースケート捌きを披露しているが、このシーンの撮影にはトーニャ・ハーディングを演じた『アイ, トーニャ』での経験が活かされたそう。

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ちなみにロビーはこの作品でアカデミー主演女優賞にノミネートされてるよ(おまけにこの年の助演女優賞は共演のアリソン・ジャニーが獲りました)。ジャニーには製作も買って出る姿勢が絶賛されていた

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル(字幕版)

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そう言えばブービートラップでは鏡の部屋での戦闘がちらっと出てくるけれど、あれは古今東西の映画で繰り返されているお馴染みの演出ですね。

 

『ダイアモンドは女子の大親友』実はユアンの代表作にも目配せ

"A kiss on a hand may be quite continental, but diamonds are a girl's best friend..."

——手にキスなんて大陸的かもしれないけど、でもダイアモンドは女の子の大親友なのよ (from Genius.com)

カサンドラがかっさらったダイアモンドを追うことになり、ハーリーの脳内で流れ出すのが "Diamonds are a girl's best friend"。マリリン・モンローが映画『紳士は金髪がお好き』"Gentlemen Prefer Blondes"('53)で見せたパフォーマンスが有名で、劇中でもロビーがモンローそっくりの格好をして歌い上げている。ロビーが大好きなのは、モンローの衣装をスラックスに替えたこの曲の衣装なんだって……!

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Diamonds Are A Girls Best Friend

Diamonds Are A Girls Best Friend

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実はこの曲、単に「ダイアモンドを追いかける女の子」という中身がストーリーと合致しているだけではない。ブラックマスクを演じたユアン・マクレガーの代表作、『ムーラン・ルージュ』"Moulin Rouge!" にも目配せしているのである。ニコール・キッドマン演じるムーラン・ルージュのトップ高級娼婦サティーンは、初登場で大観衆を前にこの曲をなまめかしく歌い上げ、観客の前に颯爽と登場する。そう言えばマーゴ・ロビーとも『スキャンダル』"Bombshell" ('19)で共演したばかりだし、同じオーストラリア出身なので、想起してしまうのも当然かもしれない。この作品はエルトン・ジョンの "Your Song" やクイーンの "The Show Must Go On" など、古今の名曲を集めたジュークボックス・ミュージカル的になっているので、是非ご覧いただきたい。

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ムーラン・ルージュ (字幕版)

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そう言えばこちらの登場曲全曲解説が大変勉強になりましたよ……! サントラは既に好評発売中。

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おまけ:あの美味しそうなエッグサンドは

筆者が記事を書こうとしていたら、ナイスタイミングである動画が解き放たれた。アメリカの芸能雑誌『バラエティ』の公式YouTubeで、ハーリーの愛するサイコーのエッグサンドのレシピが公開された。サルを演じたブルーノ・オリヴァーが実際に作り方を覚えて撮影に臨んだという。んん〜、このメニュー、ハーリーじゃないけどとってもサイコーで今すぐ食べたい!*4

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もうちょい続くよ

せっかくなので小ネタ記事だけじゃなくて、軽めのレビュー記事も書いてみようかなという気分になったのでもうちょい続きます。ロビーのハーリー・クイン初登場の『スーサイド・スクワッド』も合わせて観てね! それと映画の公開に合わせて原作コミックの『バーズ・オブ・プレイ』紹介編が日本版としてまとめて刊行されたようなので、こちらで原作の世界を深掘りするのもよいかもしれない。

スーサイド・スクワッド(字幕版)

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  • 発売日: 2016/11/23
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ハーレイ・クイン&バーズ・オブ・プレイ (ShoPro Books)

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関連:マーゴット・ロビー (マーゴ・ロビー) / ユアン・マクレガー / ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY / メアリー・エリザベス・ウィンステッド / ジャーニー・スモレット=ベル / ロージー・ペレス / クリス・メッシーナ / エラ・ジェイ・バスコ / アリ・ウォン / キャシー・ヤン / DCコミックス

*1:ハーリー側の見立てで大分偏ってるけど、真実は画面の中で映っているので問題なし(笑)。

*2:ブービートラップのシーン、ザーズはハーリーに麻酔銃なのか筋弛緩剤なのかを打ち込むが、その効きは何となく弱くて、ハーリーは即席悪カワ隊の時間稼ぎ中に回復してしまう。警察倉庫の乱闘シーンでお粉を吸い込んで覚醒するところから見て、彼女はドラッグ常習者であることは間違い無いだろう。これらを勘案すると、ドラッグのせいで閾値が上がっていて麻酔薬の効きが弱いとかそういう話になっているのかな、と思ったが、普通に深読みしすぎな気もする

*3:ジョーカーのテーマはチャップリンの名曲『スマイル』だが、これを『愛の賛歌』に差し替えたファンメイドの予告編も→"JOKER | hymne à l'amour"

*4:そう言えばちょっとずれてるけどTwitterで話題になってたホットサンドメーカーでジョンソンヴィル焼く動画思い出してしまった

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