ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

紫斑と死斑

大したことではないのだが、つい気になってしまったことを。

 

CPA症例のカルテで、こう書かれていた(※実際のカルテだと問題があるのでかなり改変しています)。

背面に紫斑あり、かなりの時間経過と推察される。

問題ありませんね。

 

救急隊の送り書で、こう書かれていた(救急隊と書いたけれど、実際には医師でもこう書く人がいます)。

既に背面に死斑ありも、体幹に温感あり……(後略)

これはまずいんじゃないでしょうか。

 

どうでもいい解説

救急外来で当番をしていると、CPA症例はよく診る疾患のひとつである。目の前でばたっと倒れまして……という救命可能なパターンも中にはあるが、実際には「いつ倒れたのか分からないが、家に帰ってみたら倒れて息もしていないので119番通報した」という例も多く、当然ながら救命不可能な例もそれなりに経験する。受ける方も「聞いてる限りなかなか厳しいな……」と思いながら動いているが、医療の建前上、死者に医療行為はできないことになっているので、患者は生きている、すなわち蘇生対象であるとして診療を行うのである。

 

ところで前段の話なのだが、人間が死ぬと、体内の血液が身体の下側に移動して、「死斑」というあざを作る。死んでから暫くの間は体位を変えると死斑の位置も移動するが、ある程度の時間を越えると移動はしなくなり、おまけに押しても退色しなくなる。というわけで、死亡時刻推定に使われる身体所見のひとつでもある。

 

「紫斑」は健常人でも起こることがあるが、毛細血管拡張や紅斑などと違い、硝子板で圧迫しても消退しないという特徴を持っている。これは血管が拡張しているのではなく、血管外に赤血球が出てしまっているためだ。死斑も原理から考えれば紫斑のひとつだとは思う。何ともややこしいが。

 

答え合わせ

先程ちらっと答えを書いてしまったが、もし「死斑」が出ているのだとすれば、それはいわゆる「死の確徴」のひとつなので、搬送対象ではなくなってしまう。やるべきは警察を呼んで、検死してもらって、解剖に回すかどうか判断してもらうという行為だ。死者に医行為はできない。少なくともそういうことになっている。

搬送するならば蘇生の見込みがなくてはならず(建前であっても)、その場合は、「紫斑」と書かなくてはならない。だから上の文章は合っていて、下の文章は間違っているのである。

 

死の確徴や法医学的所見に関しては、医学部でも教えられる内容であるし、恐らくは救急隊/救急救命士の授業の際にも取り上げられる内容なのだろう。しかしながら、実際に法医学に関わることが少ないせいか、誤用されている例も多い気がする。法医学的用語に関しては使いたがりなんだろうなあと感じることも多いが、できれば正しく使っていただきたいなと思う。

 

というわけで法医の教科書でも買って下さい。意外に安いもんですよ(医学書にしては)。……待って! 新しいの出てた!!!!!

法医学

法医学

  • 南山堂
Amazon

 

関連:救急 / 当直 / 研修医

Live Moon ブログパーツ