突然だが皆さんはBrillia Shortsshorts Theater Onlineというサイトをご存じだろうか。毎年6月の短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」と連動して、月に数本の短編映画をコンスタントに配信しているサイトだ。
今回取り上げるのはそんなブリリアで配信中の『おもちゃの国』(独:"SPIELZEUGLAND"、英:"Toyland")。2007年に制作されたドイツの短編映画だ。
あらすじを読んだ段階でお分かりだと思うが、この映画はホロコーストを題材にしている。ドイツ映画の面白いのは、かなりコンスタントに、ホロコーストやレジスタンスをテーマにした良作映画が制作されているという点だろう。映画を通して負の歴史を振り返り続けるというスタンスがどこかにあるのだ*1。制作陣の考えは、ドイツ民族からユダヤ人への贖罪であることも、ユダヤ人自身としての「疑問」であることもあるが、やはりこういう映画が公開されていると、つい観てしまう自分がいる。
ところでここから下にはナチュラルにネタバレがあるので、読みたくない人は「最後に」まで飛んでほしい。
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ネタバレあらすじ
ダヴィット(David)*2とハインリヒ(Heinlich)は隣同士に住み、行き来しながらピアノの練習をする大親友だ。ところがダヴィットの家はユダヤ人で、ハインリヒはドイツ民族。ある朝ダヴィットの一家はナチに連行されてしまう。
この映画は巧妙に時系列が編み込まれている。ひとつは子どもたちのピアノ・レッスン。次にダヴィット一家がナチの連行を察する頃。そしてダヴィット一家が遂に連行される朝だ。
幼いハインリヒにはホロコーストのことが理解出来ない*3。連行を察したダヴィット一家は悲しみに包まれるが、ハインリヒはその悲しみだけを察する。そんな息子に、母マリアンは彼らが「おもちゃの国」(Spielzeugland)に行くのだと教える。何でもダヴィットと一緒にやってきたハインリヒは、自分も一緒に行くのだと言い出し、母の吐いた小さな嘘は裏目に出てしまう。
ダヴィット一家が連行された朝、マリアンはハインリヒがいないことに慌てふためく。きっと一家と共に連行されたのだ。そう思った彼女はSSへ駆け込んで息子を帰してくれと懇願する。彼女がドイツ民族であることを確認したSSは、連行用の列車へと彼女を連れて行く——この後の結末についてはご自身の目で確かめていただきたい。
結末について
マリアンはいつあの事実に気付いたのだろうか。
家を出た時?だとしたら名女優だ。但しこの映画は、連行の朝ですら時系列が入り組んでいるので、その可能性も否定できない。
列車でダヴィット一家の姿を見た時?だとしたら、彼女はどこかで現状に「おかしさ」を感じていたのかもしれない。そこで咄嗟にあの行動が出来たのだとしたら、大した勇気だ。
救出の後には、「母」マリアンも含めて苦難の時期が続いたに違いない。作品は1942年に設定されているから、少なくとも3年近く受難は続くのだ。
それでも彼らは生き延びた。スタッフロール直前に映る、老いた手の連弾が涙を誘う。13分の短編映画ながら、中身の無い長編映画よりももっともっと大きなものを、心にずしりと残す作品だった。
最後に
本記事でご紹介したブリリア・ショートショート・シアターだが、良作短編をコンスタントに配信しているので、この記事で興味を持たれた方は是非登録してほしい。この映画の配信期間は来年2019年2月1日までなので、それまでに鑑賞してほしい。
因みにこの作品は第81回アカデミー賞(2008年)で短編映画賞を受賞したとのこと。自分たちの負の歴史を振り返る作りや、ホロコースト作品はアカデミーの好みだとも言えるが、そういうことは関係無く受賞の価値があると思った。
関連:短編映画 / 別所哲也 / ブリリア・ショートショート・シアター / Jochen Alexander Freydank (ヨッヘン・アレクサンダー・フライダンク)