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言うまでもないけれど、ダコタ・ファニングはやはり名優 - 映画『500ページの夢の束』

2017年のアメリカ映画500ページの夢の束』"Please Stand By" を観た。ダコタ・ファニング演じる主人公は、自閉症スペクトラム障害を抱える21歳。オタク的知識を持つスター・トレックの、二次創作脚本を書くのが何よりの楽しみだ。しかしながら、母の死後姉とはちょっとした確執を抱えている。そんな彼女の人間関係が、スター・トレックの脚本を届ける旅路を通して、ほんのちょっとだけ変わるというお話である。

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ただそれだけと言えば、それだけの話

ファニング演じるウェンディは、スター・トレックオタクだ。自閉症スペクトラム障害を抱えており、実家を出て施設で暮らしている。ある日彼女は、スター・トレックの脚本コンテストが開かれることを知り、せっせと脚本を仕上げる。しかしながら、満足いくまで読み直した脚本は、郵便で届けるには間に合わない大ピンチに。焦った彼女は、サンフランシスコからロサンゼルスにあるパラマウントの本社まで自分の足で届けに行くことを決意するのだった。それだけの話である。

 

しかしながら、ウェンディが住むサンフランシスコから、LAまでは700km近く。悪いヤツに引っかかったり、彼女の自閉症スペクトラム障害も災いして、その道中は一筋縄ではいかないものであった。

 

ダコタ・ファニングの演技は、よく表現されている

ファニングは元からアメリカの天才子役と言われてきた人物なので、今更こういうことを指摘するのは失礼なのかもしれない。しかしながら、今作での彼女の演技は、ASD; 自閉症スペクトラム障害というものをよく捉えているものだなと感じた。

 

ウェンディが抱えているのは、今までアスペルガー症候群と呼ばれていたものである(現在のDSM-Vでは自閉症スペクトラム障害というものに再分類されている)。彼女はコミュニケーションに障害を抱えており、他人と上手く目を合わせることができない(トニ・コレット演じるスコッティが、彼女と他人の表情に関するトレーニングをするシーンが出てくる)。また、毎日同じ服を着て、セーターの色で曜日を判別している。スコッティと話す日課も、紋切り型の行動でそこから外れることはない。おまけに彼女は聴覚過敏も抱えている(このエピソードは物語の後半に行くにつれ完全に忘れられるが)。聴覚過敏も発達障害に随伴しやすい障害のひとつである。

 

また、姉オードリーと確執を抱えるきっかけになったのも、ウェンディの病的なこだわりが原因のようだった。オードリーはオードリーなりに妹を心配しているのだが、ウェンディの考えと姉の考えはどこかすれ違ってしまっている。ウェンディは自分の思い通りにならないと癇癪を起こしてしまい、オードリーとの溝を埋めることが出来ないでいる。癇癪は施設にいるうちに大分抑えられるようになってきたのだが、その訓練のためスコッティがかける言葉が、原題の "Please stand by"(字幕では「そのまま待機」)であった。

 

ファニングの演技は、抑制的だが、ASDについてよく勉強した上に成り立ったものなのだなと思わされる。彼女の視線は絶対に他人と合わない。いつもどこか不安げな、眉根を潜めた表情を見せている。『エイリアニスト』で見せた冷静で行動的なサラ・ハワードもとても好きなのだが、本作も観て、余計名優だなと思わされることになった。

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クリンゴン語はオタクのマストアイテム

本作でキィとなっているのは、ウェンディの突き抜けたスター・トレック愛だ。というかその知識は最早オタク的領域である。彼女がASDを抱えているのもあって、『ビッグバン★セオリー』のシェルドンが頭に浮かんでしまうのはしょうがない。というかウェンディの話し方はシェルドンそっくりである。

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そう言えば作中でもクリンゴン語が大事になる場面があったが、やっぱりクリンゴン語はオタクのマストアイテムなんですね。『ビッグバン★セオリー』でも、ギーク4人*1クリンゴン語で喋ってるシーンとかあったけれど……それと『スター・トレック イントゥ・ダークネス』に出演していたアリス・イヴが、ウェンディの姉オードリーを演じているのもちょっとした目配せである。

 

おしまい

そう言えば4月9日はダコタの妹エルファの誕生日なんですね。何かタイムリーなのかそうなのかよく分からない感じになってしまった。そう言えば邦題は『500ページの夢の束』だけど、ウェンディの原稿は427ページしかなくて笑ってしまった。そういう細かな話はあるけれど、ダコタ・ファニングが素晴らしいので是非観てみてください。既にDVDが発売されています。

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【投稿後追記】エンドタイトルの曲も、またいい

エンドタイトルで流れる曲はラヴェンダー・ダイアモンドが歌う "Open Your Heart"。ウェンディの旅路に捧げるに相応しい曲だったので、こちらにもご注目を……!

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Open Your Heart

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  • ラベンダー・ダイアモンド
  • ポップ
  • provided courtesy of iTunes

 

 

関連:ダコタ・ファニング / トニ・コレット / アリス・イヴ / 500ページの夢の束 / ベン・リューイン / マイケル・ゴラムコ / スター・トレック

*1:シェルドン、レナード、ハワード、ラージ

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