ちいさなねずみが映画を語る

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この吹替だけはチェックしてほしい - 映画『メリー・ポピンズ リターンズ』

いよいよ今日で5月も最終日。『メリー・ポピンズ リターンズ』の日本公開から4ヶ月近くが経ち、6月5日のMovieNEX版発売も間近となってきた。これまで3回に分けてこの映画を取り上げてきたが(うだうだしていたので実に1ヶ月半……!)、今回は第4弾にして最終編として、日本語吹替版のキャストについて触れたいと思う。今回はネタバレフリー!(——多分!)

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※以下登場する方々は敬称略とします※

 

サントラは迷ったらデラックス盤を買え

映画『メリー・ポピンズ リターンズ』に対しては4種類のサウンドトラックが発売されている。歌曲のみを集めた通常版が英語版と日本語版の2種類、また英語版歌曲にスコア曲(いわゆるBGMのインストゥルメンタル)を収録した英語デラックス盤、それに加えて日本語版歌曲も収録した日本語デラックス盤(以下デラックス盤)である。

ひとつだけ言えることがある。迷ったらデラックス盤のMP3ダウンロードを買え!!!!!(MP3DLなら物理的に日本語通常版を買うのと同じくらいの価格でアルバムが手に入るぞ!!!!!)

メリー・ポピンズ リターンズ(オリジナル・サウンドトラック)(デラックス盤)

メリー・ポピンズ リターンズ(オリジナル・サウンドトラック)(デラックス盤)

 
メリー・ポピンズ リターンズ(オリジナル・サウンドトラック)(英語盤)

メリー・ポピンズ リターンズ(オリジナル・サウンドトラック)(英語盤)

 
Mary Poppins Returns-Ltd-

Mary Poppins Returns-Ltd-

 

 

筆者がデラックス盤をオススメするのにはいくつか理由がある。まずリン=マヌエル・ミランダとメリル・ストリープの歌は是非原語で聴いていただきたい。スコア盤には前作『メリー・ポピンズ』の歌曲からモチーフを採録した素晴らしいインストゥルメンタル曲がいくつも収められている。そして……今回の日本語吹替版キャストの歌を是非聴いていただきたい! おまけに日本語吹替を聴いてから原語版のカラオケに挑戦すると英語が上手くなるぞ!*1

 

日本語完全吹替版キャスト陣をご覧あれ

今回の吹替版には、正直ディズニー・ジャパンの本気が詰まっている。ミュージカル映画は台詞のみ吹き替えるのが洋画界の常識であるにもかかわらず(例えば『ラ・ラ・ランド』は歌になるとえまごずの生歌に音声が切り替わる)、ディズニーは毎回歌曲まで吹替を作ることにこだわっている。その証拠がアルバム『ディズニー スーパー・ベスト DELUXE』であるが、今回の吹替はそういったディズニーアニメの吹替に勝るとも劣らない。前置きはこれくらいにして早速実際のキャスト陣を見ていこう。

ディズニー スーパー・ベスト DELUXE(日本語版)

ディズニー スーパー・ベスト DELUXE(日本語版)

 

www.cinematoday.jp

実力・経験充分のメリー・ポピンズ平原綾香

洋画は原語で観る派の筆者にとって、今回の作品をどちらで観るか最後まで悩ませたのが彼女の存在だ。実は筆者はデビュー当時からの平原綾香ファンであり、ミュージカル作品でキャリアを掴んだことも*2、古今のミュージカルの吹替版で輝かしい経歴を残していることも勿論知っていた。結局は(何故か)コリン・ファースの声が決め手となって字幕版を観に行ったのだが、諦めきれない筆者は日本語デラックス盤を購入したほどだった(前の節を見れば筆者の熱量は分かると思う)。

www.youtube.com - 『幸せのありか』日本語吹替版

 

今回彼女が吹替を担当すると聞いた時、筆者の感想は「あーもうこれ大正解ですわ」の一言だった。何故なら彼女はこの吹替キャストが発表される直前の2018年3月から6月にかけて、日本で初演されたミュージカル舞台『メリー・ポピンズ』で濱田めぐみと共にタイトルロールを演じていたのである(余談だが濱田と平原は2014年に日本初演となった『オペラ座の怪人』続編の『ラブ・ネバー・ダイ』でもダブルキャストでクリスティーヌを演じている)。おまけに2015年には、制作50周年を記念して初制作された『サウンド・オブ・ミュージック』の日本語吹替版でジュリー・アンドリュースの声を吹き替えている(この時のトラップ大佐役は石丸幹二であった)。

www.youtube.com

今回の日本語版制作に当たって、吹替版の監修も行う本国ディズニーのリック・デンプシーは、「英語版でメリー・ポピンズを演じるエミリー・ブラントと同じレベルで演技ができる女優を見つけること」を条件に課したという(cinemacafe.net)。デンプシーは平原の吹替について、メリー・ポピンズの持つ厳しさと温かい心のバランスを上手く表現したと絶賛し、「平原さんはそのニュアンスを上手く表現しながら、エミリーが演じたメリー・ポピンズのレベルに達していて、本当に素晴らしい女優だと思ったよ」とまで述べている(cinemacafe.net)。確かに『想像できる?』の吹替版では彼女のバランス感覚がよく見える気がするし*3、『本は表紙じゃ分からない』でブラントが見せただみ声ちっくな表現まで再現していたのは素晴らしかったと思う。

www.cinemacafe.net

そんな平原が愛して止まないディズニー・ソング・プレイリストがSpotifyで公開されているので合わせてどうぞ。

open.spotify.com

ベン・ウィショーも素晴らしいけどあなたも素晴らしいの?:谷原章介

読者の皆さんは筆者が前の記事でベン・ウィショーの歌声について大絶賛していたことを覚えているかもしれないが、日本語吹替版だって決して負けていない。日本版マイケル・バンクスを演じたのは谷原章介だが、何なら筆者は谷原が素晴らし過ぎて日本語版を推しているくらいである。ねえ、ほんとに洋画吹替初挑戦で初歌唱なの?

www.youtube.com

マイケルがメインとなって歌うのは冒頭のソロ曲『君はどこへ』と終盤の『舞い上がるしかない』の2曲。前者では妻を亡くして子どもを思いながら歌う父親をよく演じているし、後者では風船で空へ舞い上がって晴れやかなマイケルをほどよくはっちゃけながら歌っている。実際に子だくさんで子煩悩な彼の歌や台詞は、父親らしい慈愛が溢れた素晴らしい演技だと思う。

君はどこへ

君はどこへ

  • provided courtesy of iTunes

 

ミランダとはまた別の軽妙さ:岸祐二

ジャック役を吹き替えたのは舞台俳優だけでなくミュージカル俳優としても活動する岸祐二。リン=マヌエル・ミランダは本国版キャスト中で明らかに当て書きされている人物であり、本領発揮と言わんばかりに言葉遊びちっくな曲をいくつもこなしているのでなかなか大変な役だと思う。そんなジャックを日本語版に上手くローカライズしたのが岸の吹替である。

正直ミランダと岸は声の質が全く違う。原語版と日本語版を聞き比べたって、ふたりの声は明らかにかけ離れたものだと思う。しかしながら、岸は原詩の軽妙さを読み取って上手く日本語の歌詞に載せている。それがよく分かるのは『本は表紙じゃわからない』後半のラップシーンだろう。

本は表紙じゃわからない

本は表紙じゃわからない

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また筆者が好きなのは、ジャックによるオープニングナンバー『愛しのロンドンの空』。勿論ミランダ版も素敵なのだが、岸による吹替版も「これから物語が始まる!」というわくわく感を増幅してくれる素晴らしい歌声なので、是非合わせて聴いていただきたい。

愛しのロンドンの空

愛しのロンドンの空

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『ひっくりカメ』は新旧マリア・フォン・トラップ対決:島田歌穂

メリル・ストリープが素晴らしい演技を見せた『ひっくりカメ』で彼女の吹替を担当したのは島田歌穂。子役や歌手としても活動歴がある島田だが、日本を代表するミュージカル女優のひとりでもある。先程『サウンド・オブ・ミュージック』の50周年記念版の話に触れたが、40周年記念版でマリアを演じていたのが島田で、『ひっくりカメ』での共演はさながら新旧マリア・フォン・トラップ対決である。 

ひっくりカメ

ひっくりカメ

  • provided courtesy of iTunes

 

そんな島田の代表作と言えば、日本語版『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役日本語版のキャストながら世界的にも高く評価され、英国王室の前で歌った過去まで持つ人物である。ストリープ同様、『ひっくりカメ』1曲の登場なのが何とも勿体なく、また大変贅沢!

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この人が四季出身って知ってた?:堀内敬子

エミリー・モーティマー演じるジェーンを可憐に吹き替えているのは、脇役女優として確固たる地位を築いている堀内敬子。可愛らしさも狂気も演じられる名女優で筆者も大好きだが、実は劇団四季出身ということを皆さんはご存じだろうか?

yomidr.yomiuri.co.jp

1990年に四季へ入団した堀内は、95年の『美女と野獣』初演でベル役を射止めるなど、四季の中心女優として10年ほどのキャリアを築く。同期入団には石丸幹二がおり、2017年には退団以来舞台で初共演したこともニュースとなった。今作ではジェーンの歌が無いので堀内の歌声が聴けず、残念でならないほど……

☞(※190713追記:堀内の歌声は『舞い上がるしかない』でジャックとジェーンが見せる掛け合い部分でほんの少しだけ聞くことができる。せっかくならばジェーンのソロ曲も欲しかったけれど、そこは役柄の関係なのでしょうがない。彼女の歌声が今後のディズニー吹替で聴けるといいな……)

www.oricon.co.jp

コリン・ファースの吹替と言えばこの人でしょ:森田順平

冒頭で「コリン・ファースの声が決め手となって」字幕版を観に行ったとか抜かす割には、と思われるかもしれないが、森田さんのことだけはちゃんと書いておきたい。

 

森田順平と言えば、ヒュー・グラントコリン・ファースファンにとって避けては通れない名前である。誕生日が1日違いの英国俳優たち*4の吹替を専属で担当しているのが森田氏なのだ。そのせいでグラントとファースが共演した『ラブ・アクチュアリー』、『ブリジット・ジョーンズの日記』では若干ややこしいことになったくらいだ。専属吹替と言っても様々な人がいるが、彼の吹替は、グラント・ファース双方が持つ声の渋みをよく再現している気がする。渋い声大好きでコリン・ファースの声は原語で聴きたい筆者も、彼の吹替だけはもう1度再生してでも観たいと思うくらいなので、是非6月発売のMovieNEX版でお試しいただきたい……!

 

MovieNEX版は6月5日発売!

というわけで今回は映画『メリー・ポピンズ リターンズ』の日本語吹替版キャストについて語ってみた。原語版にも日本語版にもそれぞれの良さがあるので、是非両方を聞き比べていただきたいと思う。

最後に大事なので一言……メリー・ポピンズ リターンズ』はいいぞ!

 

関連:エミリー・ブラント / リン=マヌエル・ミランダ / ベン・ウィショー / エミリー・モーティマー / ディック・ヴァン・ダイク / アンジェラ・ランズベリー / ジュリー・ウォルターズ / メリル・ストリープ / コリン・ファース / ピクシー・デイヴィーズ / ナサニエル・サレー / ジョエル・ドーソン / 平原綾香 / 谷原章介 / 岸祐二 / 堀内敬子 / 森田順平 / 島田歌穂 / ロブ・マーシャル / メリー・ポピンズ

*1:ミュージカル映画のサントラをひたすら聴き続けてカラオケできるようにするとそこそこ英語が上手くなる(割と実話)。

*2:平原のデビューのきっかけは、高校時代に学祭で演じたミュージカル作品のビデオである(実話)。

*3:筆者は前の記事でも匂わせた通りブラント版の"Off we go!"という台詞の言い方が大好きなのだが、平原版の「さあ出発……!」もわくわくするくらい素晴らしい。因みにこのシーンはこうやって撮影している。

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*4:おヒュー様の誕生日は1960年9月9日、コリンの誕生日は同年9月10日。おヒュー様は昔からコリンについて「あんなシワシワなヤツ」とか言っていたが、年取って両方シワシワになったのは何とも微笑ましい(笑)。

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